バスルームの雫

ななし

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本編

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掴めないのに放せない でも確かにここにある
そんなものが この世界には三つあると思った
一つは気体 一つは液体 一つは…───






今日も一日、つまらない学校生活を終えて、夜を迎えた。
服を脱ぎ、足を踏み入れる。
ドアを閉ざして、小さな空間に閉じこもる。しかし感じるのは解放感。
ハンドルに手をかけ、激しく降り注ぐお湯の嵐を頭から被ると、身の周りに付いていた鉛のような毒が、排水溝へと流れ落ちていくような感じがした。
ここは若干にも酸素が薄いし、あるものといったら、シャンプーにリンス、ボディーソープに石鹸、ボディータオルの他には、鏡と剃刀くらいだ。
当然こんなところでは生きていけない。
しかし、一番自分が生きていられる場所であった。
自分には、周りの人間のように、ずば抜けた才能も、自慢できる特技もなかった。
努力は誰にも負けない。負けていないはずだ。
それなのに。
どうして自分には、こんなにも何もないんだろうか。
みんなにはあって、なぜこの自分には。
自分の見えている世界は、なんとも愚かで、小さくて、狭こましい。だけどそれが、私が自分の瞳に、脳に映しこんでいるもの。まるで世界は周囲ここだけのようだ。

胸を張れない自分へ追い打ちをかけるように他人の自己アピールは止まらない。
シャボン玉のようにふわふわと、私の方へと飛んでくる。それを避けることはできない。
胸に当たっては、その度弾けた。
誰かの自慢話を聞いて、その度に自分を掘り下げて、他人をもち上げる。
そんなことを続けて生きてきた。
一体いつまで。
誰も悪くないからこそたちが悪い。
また一日、嫉み、妬んだ。
胸のあたりに、ぽっかり穴が開いたような感じがして、脳内がぼーっとする。
それなのに、歯車は妙に調子がいい。
息をして、雫を待つ。
気体と液体がこの狭い空間いっぱいになっていて、混じりあう。
それにつられて心も混じるから。

外の世界は嫌いだ、みんな自分さえ良ければよくて、自分よりも霞む人間を捕まえては利用しようとする。
家にも居場所がなくて、両親に気を使って、迷惑にならぬように。


ここを出たらまた、〘日常〙へ
大丈夫。また時間がくれば、こうして癒してくれる。大丈夫だ。
あぁ、辛いな。
いや、もういっそ、このまま、








   ──────────激しい水の音とともに目を覚ました。
湯船で寝てしまっていたらしい。なんだか嫌な夢を見ていた気がする。
既に乾ききった頬に、そつ雫が滴る。
口元にとどくと、僅かにしょっぱい味がした。

透明ななみだ、時々真っ赤な

バスルーム。
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