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23 ナナバ王国へ
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ゆっくり飛びながら、ときに寄り道をしながら南下すること十数日。
ベラとルノフェーリは、ナナバ王国の首都、ベキュンディッシャに到着した。
逆鱗の欠片は、博物館に保管・展示されていると聞いていた。
まずは現状どうなっているのか、本物かどうか視察しよう、ということで人型になったルノフェーリとベラは、冒険者としてベキュンディッシャに入った。
宿を決め、博物館の場所を聞いて訪れた。
「うわぁ、大きな建物だねぇ」
「ほかの建物とは頑丈さが違うわね」
涼しさを求めてか、基本的に木造の建物が多い中にあって、博物館だけは石造りであった。
「二人お願いします」
「はい、銀貨二枚です」
銀貨一枚で一日三食外食できるくらいなので、それなりにお高い。
料金表の横には、『※寄付は随時お受けいたします。』と書いてあった。
きっと、見栄っ張りな貴族などからはどんどん寄付を受け付けるということだろう。
中は、外と違って少しひんやりとしていた。
「ベラ、これすごいよ。魔石を使って部屋の中を冷やしてる」
「ほんとね」
展示品を暑さから守るのが主な目的だろうが、来訪者としては非常にありがたい。
ベラもルノフェーリも、暑すぎてローブは宿に置いてきたし、服も薄いものに替えていた。
「ねぇ、帰りに服を買っていこうよ」
「賛成。こっちの人が着てる袖のない服、すごく涼しそうだったし」
「うん」
話しながら通路を歩き、目的のものを探す。
奥に進むと広い場所があり、その中央に豪華が台座があった。
上からランプが光の筋を落としていて、小さなものを煌めかせる。
「あ、俺の逆鱗だ」
「当たりね」
それは、本物のルノフェーリの逆鱗の欠片だった。
その横には書見台のようなものがあり、解説の紙が置いてあった。
曰く、貴族の何某が拾ったこの逆鱗の欠片は、魔石と同様の働きがあると目されている。
そのため国が引き取り、魔力を込める実験を行った。
実験場(街はずれにある巨大な建物)は、塵も残さず吹き飛んだ。
逆鱗の欠片だけが、その場に残っていた。
実験を行うことは王族や貴族が知っていたので、憶測になるがまず間違いない。
おかげでナナバ王国は優秀な研究者たちを一度に亡くし、魔法研究が20年は遅れることになった。
これを教訓として、逆鱗の欠片には触れないよう、展示するにとどめている。
長寿や不老の妙薬になるという逸話もあるが、人の魔力に反応して亡くなるだけだと推測されている。
「大体合ってる」
「ていうか、実験場が吹っ飛ぶだけで済んだのね」
「まぁ、ちょっと小さめの欠片だから規模が小さかったんだろ」
「国が無事で良かったわね」
「それ。間接的とはいえ、もう少しで傾国の竜になるところだった」
「破滅の間違いでしょ」
「あれ、傾国ってなんか国を滅亡させるやつじゃなかったっけ」
「“傾国の美女”とかよ。権力者が強欲美女とかに夢中になった結果国政をほったらかして国がダメになる系のやつ」
「いやでも、俺の逆鱗の欠片にこだわった結果だから合ってない?」
「合ってる……?いや違くない?」
「違くないことないよ」
「えぇー」
こそこそと話し合う二人はこの日、とりあえず何もせずに宿に帰ることにした。
どうやって交渉するかと話したが、ルノフェーリの選択は一つ。
『俺の逆鱗を返してもらいに来た』
竜になって力技で攻めることだった。
「もうちょっと何とかならないの」
『早い方がいい』
博物館を預かっているらしい貴族がルノフェーリの前に立ち、真っ青になって震えながら答えた。
「もっも、申し訳ございません、わ、私はただ、この、博物館を、管理しているだけでしてっ!展示物については、持ち主に、聞か、なくては!!」
『では聞いてくれ』
「はっ!!はい、き、聞きます!しかし、その、逆鱗の、持ち主は、わが国……ひいては、国王陛下でございます!今聞いてすぐ返事、というわけにも」
「ルノ、さすがに時間がいるよ。帝国でも一応時間が必要だったし」
『それもそうか』
「その、りゅ、竜様のお色味から間違いはない、かと、思われますが!国王陛下のみならず、ぎ、議会の貴族からも、了承が、ひ、つようになる、か!と。ですので、その、どう頑張っても、数日は猶予が必要になりましてっ!」
貴族は、震えつつもしっかりと説明してくれた。
議会の貴族は基本的に王都にいるらしいので、集めて会議をすればいい。
しかしそれぞれ仕事をしていて、全員と連絡が取れるかは今はわからない。
そのため、しばらく待ってほしいということだった。
『きちんと返してもらえるなら、別にそこまで急がなくてもいい』
「じゃあ暇になるわね。どっか観光でもしとく?」
『え、でも説明しないといけないんじゃない?』
「い、いえ、その、最後の確認、など、お付き合いいた、だけ、れば!」
貴族は、慌てるように首を左右に振った。
竜に驚いているだけではなく、じわじわとルノフェーリから距離を取っている。
「あ、生きてるルノの鱗には触っても爆発しないから大丈夫よ?」
「はっ!そ、そうなの、ですね。いえ、しかしその、畏れ多く」
『どういうこと?』
「この国の人は、ルノの逆鱗の欠片が研究所を吹き飛ばしたっていうのを忘れてないのよ。そりゃ、目の前に本体がいたらめちゃくちゃ怖いでしょ」
『あー……。じゃあ、もしかして話し合いの間もどっかに行ってた方が落ち着ける感じ?』
「そうかも」
『なら出かけよっか。五日くらいあればいい?』
ルノフェーリは、貴族に向かって聞いた。
「は、はい!!五日もいただければ、十分にございます!こ、国王陛下も、貴族も、きちんと説得いたしますれば!!」
『それならお願い。また五日後に来るね』
「かしこまりましてござります!!」
貴族は深々と頭を下げた。
「あ、引き換えに魔石を渡すから。強奪じゃなくて交換だから!」
上空へと飛び去る背中から、ベラは貴族に向かって叫んだ。
聞こえたのだろう、彼はガクガクとうなずいていた。
そしてすぐに戻ってきた。
『この近くで、観光地って言ったらどこ?』
感覚がマヒしてきたらしい貴族は、顔色は戻らないものの普通に回答した。
「観光地でしたら、南端の海でもいいですが、おすすめなら東のリッキンドです。山の上なので涼しく、温泉が湧いています。景色もなかなかのものです」
「じゃあ、リッキンドに行こうか」
『わかった』
今度こそ、藍色の竜は空の向こうに消えた。
「もうちょっとこっち向き」
『うん』
ベラは、ルノフェーリの操縦方法を身につけた。
行ってほしい方向の首元に手を引っ付けるだけである。
付けている間は回転し、離したら直進。
シンプルだ。
そして夕方、リッキンドに到着した。
『なんか臭い』
「温泉の香りね。ほら、人型になって。ここからは歩くから」
『わかった』
山の中に、段を作りながら宿や家が並び、町が形成されていた。
空いている宿を探して、少し値は張るが離れの温泉付きの部屋を取ることができた。
「おんせーん!」
ベラは機嫌よく部屋の温泉に入りに行き、ルノフェーリはのんびりと部屋から庭を眺めた。
ベラとルノフェーリは、ナナバ王国の首都、ベキュンディッシャに到着した。
逆鱗の欠片は、博物館に保管・展示されていると聞いていた。
まずは現状どうなっているのか、本物かどうか視察しよう、ということで人型になったルノフェーリとベラは、冒険者としてベキュンディッシャに入った。
宿を決め、博物館の場所を聞いて訪れた。
「うわぁ、大きな建物だねぇ」
「ほかの建物とは頑丈さが違うわね」
涼しさを求めてか、基本的に木造の建物が多い中にあって、博物館だけは石造りであった。
「二人お願いします」
「はい、銀貨二枚です」
銀貨一枚で一日三食外食できるくらいなので、それなりにお高い。
料金表の横には、『※寄付は随時お受けいたします。』と書いてあった。
きっと、見栄っ張りな貴族などからはどんどん寄付を受け付けるということだろう。
中は、外と違って少しひんやりとしていた。
「ベラ、これすごいよ。魔石を使って部屋の中を冷やしてる」
「ほんとね」
展示品を暑さから守るのが主な目的だろうが、来訪者としては非常にありがたい。
ベラもルノフェーリも、暑すぎてローブは宿に置いてきたし、服も薄いものに替えていた。
「ねぇ、帰りに服を買っていこうよ」
「賛成。こっちの人が着てる袖のない服、すごく涼しそうだったし」
「うん」
話しながら通路を歩き、目的のものを探す。
奥に進むと広い場所があり、その中央に豪華が台座があった。
上からランプが光の筋を落としていて、小さなものを煌めかせる。
「あ、俺の逆鱗だ」
「当たりね」
それは、本物のルノフェーリの逆鱗の欠片だった。
その横には書見台のようなものがあり、解説の紙が置いてあった。
曰く、貴族の何某が拾ったこの逆鱗の欠片は、魔石と同様の働きがあると目されている。
そのため国が引き取り、魔力を込める実験を行った。
実験場(街はずれにある巨大な建物)は、塵も残さず吹き飛んだ。
逆鱗の欠片だけが、その場に残っていた。
実験を行うことは王族や貴族が知っていたので、憶測になるがまず間違いない。
おかげでナナバ王国は優秀な研究者たちを一度に亡くし、魔法研究が20年は遅れることになった。
これを教訓として、逆鱗の欠片には触れないよう、展示するにとどめている。
長寿や不老の妙薬になるという逸話もあるが、人の魔力に反応して亡くなるだけだと推測されている。
「大体合ってる」
「ていうか、実験場が吹っ飛ぶだけで済んだのね」
「まぁ、ちょっと小さめの欠片だから規模が小さかったんだろ」
「国が無事で良かったわね」
「それ。間接的とはいえ、もう少しで傾国の竜になるところだった」
「破滅の間違いでしょ」
「あれ、傾国ってなんか国を滅亡させるやつじゃなかったっけ」
「“傾国の美女”とかよ。権力者が強欲美女とかに夢中になった結果国政をほったらかして国がダメになる系のやつ」
「いやでも、俺の逆鱗の欠片にこだわった結果だから合ってない?」
「合ってる……?いや違くない?」
「違くないことないよ」
「えぇー」
こそこそと話し合う二人はこの日、とりあえず何もせずに宿に帰ることにした。
どうやって交渉するかと話したが、ルノフェーリの選択は一つ。
『俺の逆鱗を返してもらいに来た』
竜になって力技で攻めることだった。
「もうちょっと何とかならないの」
『早い方がいい』
博物館を預かっているらしい貴族がルノフェーリの前に立ち、真っ青になって震えながら答えた。
「もっも、申し訳ございません、わ、私はただ、この、博物館を、管理しているだけでしてっ!展示物については、持ち主に、聞か、なくては!!」
『では聞いてくれ』
「はっ!!はい、き、聞きます!しかし、その、逆鱗の、持ち主は、わが国……ひいては、国王陛下でございます!今聞いてすぐ返事、というわけにも」
「ルノ、さすがに時間がいるよ。帝国でも一応時間が必要だったし」
『それもそうか』
「その、りゅ、竜様のお色味から間違いはない、かと、思われますが!国王陛下のみならず、ぎ、議会の貴族からも、了承が、ひ、つようになる、か!と。ですので、その、どう頑張っても、数日は猶予が必要になりましてっ!」
貴族は、震えつつもしっかりと説明してくれた。
議会の貴族は基本的に王都にいるらしいので、集めて会議をすればいい。
しかしそれぞれ仕事をしていて、全員と連絡が取れるかは今はわからない。
そのため、しばらく待ってほしいということだった。
『きちんと返してもらえるなら、別にそこまで急がなくてもいい』
「じゃあ暇になるわね。どっか観光でもしとく?」
『え、でも説明しないといけないんじゃない?』
「い、いえ、その、最後の確認、など、お付き合いいた、だけ、れば!」
貴族は、慌てるように首を左右に振った。
竜に驚いているだけではなく、じわじわとルノフェーリから距離を取っている。
「あ、生きてるルノの鱗には触っても爆発しないから大丈夫よ?」
「はっ!そ、そうなの、ですね。いえ、しかしその、畏れ多く」
『どういうこと?』
「この国の人は、ルノの逆鱗の欠片が研究所を吹き飛ばしたっていうのを忘れてないのよ。そりゃ、目の前に本体がいたらめちゃくちゃ怖いでしょ」
『あー……。じゃあ、もしかして話し合いの間もどっかに行ってた方が落ち着ける感じ?』
「そうかも」
『なら出かけよっか。五日くらいあればいい?』
ルノフェーリは、貴族に向かって聞いた。
「は、はい!!五日もいただければ、十分にございます!こ、国王陛下も、貴族も、きちんと説得いたしますれば!!」
『それならお願い。また五日後に来るね』
「かしこまりましてござります!!」
貴族は深々と頭を下げた。
「あ、引き換えに魔石を渡すから。強奪じゃなくて交換だから!」
上空へと飛び去る背中から、ベラは貴族に向かって叫んだ。
聞こえたのだろう、彼はガクガクとうなずいていた。
そしてすぐに戻ってきた。
『この近くで、観光地って言ったらどこ?』
感覚がマヒしてきたらしい貴族は、顔色は戻らないものの普通に回答した。
「観光地でしたら、南端の海でもいいですが、おすすめなら東のリッキンドです。山の上なので涼しく、温泉が湧いています。景色もなかなかのものです」
「じゃあ、リッキンドに行こうか」
『わかった』
今度こそ、藍色の竜は空の向こうに消えた。
「もうちょっとこっち向き」
『うん』
ベラは、ルノフェーリの操縦方法を身につけた。
行ってほしい方向の首元に手を引っ付けるだけである。
付けている間は回転し、離したら直進。
シンプルだ。
そして夕方、リッキンドに到着した。
『なんか臭い』
「温泉の香りね。ほら、人型になって。ここからは歩くから」
『わかった』
山の中に、段を作りながら宿や家が並び、町が形成されていた。
空いている宿を探して、少し値は張るが離れの温泉付きの部屋を取ることができた。
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