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物語
1話 役立たずのスキル
しおりを挟む残業終わりの夜だった。
時計は二十三時を回っていた。一般事務とは名ばかりで、雑務も雑用も全部押しつけられる日々。書類の山と上司の無茶振りに追われて、気づけば今日も終電間際だ。
それでも今日は少しだけ気分が良かった。
昼間、有休を半日だけ使って自衛隊の広報イベントに行ってきたからだ。装備展示、車両解説、隊員のトークショー。ネットやゲームでしか知らなかった知識が、現実の金属と音を伴って目の前にあった。
やっぱり機械ってかっこいいよな。
そんなことを考えながら夜道を歩いていた、その時だった。
視界が白く弾けた。
強烈な光。
反射的に目を閉じたはずなのに、瞼の裏まで焼けつくような輝き。
「……は?」
足元の感覚が消える。
落ちる。
浮く。
分からない。
次の瞬間、俺は石造りの床に膝をついていた。
冷たい。
硬い。
周囲からどよめきが上がる。
「成功だ! 勇者召喚は成功したぞ!」
荘厳な声が高らかに響いた。
顔を上げると、そこは巨大な広間だった。高い天井、色鮮やかなステンドグラス、豪奢な装飾。いかにも“王城”という雰囲気だ。
俺の他にも、数人の男女が床に座り込んでいた。みんな混乱した顔をしている。
「ここ……どこだ?」
隣の男子大学生風の青年が呟く。
正面の玉座には、金色の装飾をまとった壮年の男が座っていた。王冠。豪奢なマント。
その隣にはローブ姿の老人。魔術師、だろうか。
「勇者よ! よくぞ我が王国に来てくれた!」
王が立ち上がる。
「ここはアストリア王国。魔王の脅威に晒されし我らを救うため、異世界より勇者を召喚したのだ!」
……いやいやいや。
ちょっと待て。
勇者召喚?
テンプレかよ。
広間が歓声に包まれる。
俺たちは順番に前へ出され、水晶のような球体に手を触れさせられた。
スキル判定らしい。
最初の少女が触れた瞬間、水晶が眩く輝いた。
「おお……! 聖女の加護!」
歓声。
次の青年。
「剣聖の資質あり!」
さらに歓声。
魔導師、賢者、聖騎士――
次々と派手な称号が飛び出す。
俺の番が来た。
正直、期待はしていない。
どうせなら帰らせてくれ。
そう思いながら水晶に触れた。
光は、淡かった。
そして頭の中に直接、文字が流れ込んでくる。
【戦術構築サポートAI】
【アンドロイド工廠】
【兵器保管庫】
【兵站生成モジュール】
【拠点構築システム】
【個体強化カスタマイズ】
……なんだこれ。
聞いたこともない。
広間は静まり返っていた。
「……機械……? あんどろいど……?」
魔術師風の老人が眉をひそめる。
王が顔をしかめた。
「それは……戦闘系か?」
「不明です。聞いたこともない単語ばかりで……」
ざわざわと貴族らしき連中が囁き合う。
「役立たずではないか?」
「魔力も低いぞ」
正直、胸がちくりと痛んだ。
分かってる。
俺は勇者向きじゃない。
派手な力もない。
会社でもそうだった。目立たない、便利屋ポジション。
ここでもかよ。
王がため息をついた。
「勇者と呼べる者は三名。その他は補佐として働いてもらう」
俺の方を見る。
「……お前の力は未知数だが、我が国に不要であれば処遇を考える」
その言葉の意味は、嫌でも分かった。
数時間後。
俺は王城の裏門に立っていた。
手の中には、小さな革袋。
中には金貨が数枚。
「以上だ。王国の慈悲と思え」
衛兵が無表情に言う。
「……まじか」
門が閉じる。
重たい音が夜に響いた。
俺は、異世界に来て一日も経たずに追放されたらしい。
夜風が冷たい。
王都の灯りが遠くに見える。
これからどうする。
金貨数枚で何日持つ?
仕事は? 言葉は通じるのか? そもそも戸籍は?
現実的な不安が一気に押し寄せる。
「……落ち着け、俺」
深呼吸。
その時、再び頭の中に文字が浮かんだ。
【戦術構築サポートAI 起動可能】
【初期ポイント:500】
ポイント?
意識を向けた瞬間、視界の端に半透明のウィンドウが展開された。
ゲームみたいだ。
だがこれは現実。
【アンドロイド工廠:起動可能】
【基本ユニット生成コスト:300】
鼓動が早くなる。
機械。
兵器。
俺のスキル。
王国には理解されなかった力。
「……もしかして」
使えるのか?
この世界にない“何か”を。
胸の奥が熱くなる。
不安の奥に、別の感情が芽生える。
興奮だ。
俺はゆっくりと呟いた。
「アンドロイド工廠、起動」
空気が震えた。
目の前に、淡い光の粒子が集まり始める。
何もないはずの空間に、立体的な設計図のようなホログラムが浮かび上がる。
【基本フレーム選択】
【カスタマイズ可能】
心臓が跳ねる。
俺は、にやけそうになるのを必死で抑えながら、表示された項目を見つめた。
「……メイド仕様、あるじゃん」
誰もいない夜道で、小さく笑う。
追放された。
勇者じゃなかった。
でも。
俺のスキルは――
もしかしたら、とんでもないかもしれない。
光が、さらに強くなった。
俺は画面に手を伸ばす。
カスタマイズ項目を選択する。
クール。
軍人タイプ。
感情学習型。
「……よし」
生成、実行。
夜空の下、眩い光が弾けた。
そして――
人影が、ゆっくりと形を成していく。
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