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物語
2話 識別番号A-01
しおりを挟む光は、音もなく収束していった。
夜道の真ん中に立っていたのは――ひとりの少女だった。
いや、少女と呼ぶにはどこか整いすぎている。
長い銀色の髪。月光を受けて淡く光るそれは、背中の中ほどまで伸びている。黒と白を基調としたメイド服。しかし装飾は簡素で、どこか軍服のように無駄がない。腰には見慣れない金属製の装置が固定されている。
そして、その瞳。
透き通るような蒼。
感情の揺れがほとんど見えない、静かな視線がまっすぐに俺を捉えていた。
数秒、言葉が出なかった。
頭では理解している。俺が生成した。スキルで呼び出した存在だ。
それでも。
「……え、完成度高すぎない?」
思わず漏れた。
少女は一歩、正確に距離を測るように前に出る。
「システム起動確認。環境スキャン完了。敵性反応なし」
落ち着いた声だった。
澄んでいて、無機質ではないが感情は薄い。
「個体識別番号A-01。基本戦闘プロトコル正常。マスター、命令を」
マスター。
俺のこと、だよな。
「え、あ、俺?」
「はい。戦術構築サポートAIとのリンクを確認。あなたが統括権限保持者です」
頭の奥で、微かな同期感覚が走る。
視界の端に小さな情報ウィンドウが表示された。
【ユニット:A-01】
【状態:正常】
【感情学習レベル:初期】
本当に出た。
しかも、完璧なメイド仕様。
いや、違う。冷静になれ。
まず確認だ。
「……その、A-01ってのは仮名みたいなものか?」
「識別番号です。命名は未実施」
少しだけ間があった。
ほんの僅かに、視線が揺れた気がしたのは気のせいだろうか。
「名称付与は、マスターの権限です」
ああ、そういうことか。
識別番号だけじゃ味気ない。
それに――
なんだろう。
このまま“番号”で呼ぶのは、妙に落ち着かない。
俺はゆっくりと彼女を見た。
整った立ち姿。無駄のない姿勢。どこか軍人のような雰囲気。
クールだ。
理想の軍人メイド。
口元がほんの僅かに緩む。
「今日からお前の名前は――レイナだ」
静かな夜に、俺の声が溶ける。
少女は瞬きを一つ。
「……名称、レイナ。登録します」
数秒の沈黙。
「以後、私はレイナとして稼働します」
声のトーンは変わらない。
だが。
「マスター、良い名です」
ほんの、ほんの少しだけ。
声が柔らかくなった気がした。
気のせいかもしれない。
けれど、胸の奥が妙にくすぐったい。
「そうか。気に入ったならよかった」
「はい」
短い返答。
だがその瞳は、まっすぐ俺を見ていた。
不思議と、安心感があった。
異世界に放り出された不安が、少しだけ薄れる。
俺には、戦力がある。
それも――かなり強そうな。
「レイナ、戦闘能力はどのくらいある?」
「基本性能は本世界基準の上位騎士相当。戦術共有ネットワーク稼働時、複数戦闘にて優位性を発揮します」
上位騎士。
王国でさっき見た、あの鎧連中か。
「武装は?」
彼女は腰の装置に触れた。
次の瞬間、光が収束し、黒い金属製の武器が形成される。
銃だ。
どう見ても銃。
この世界には存在しないはずの、現代兵器。
「標準支給型魔力弾投射機。内部で弾体を生成可能」
さらっと言うな。
「弾薬消費は?」
「兵站生成モジュールより補給可能。ポイント消費は軽微」
俺の心臓が跳ねた。
これ、普通にヤバいのでは。
この世界は剣と魔法だ。
遠距離攻撃は弓か魔法。
そこに、連射可能な銃。
しかも弾薬無限供給に近い。
「……レイナ、ちょっと試せるか?」
「了解」
彼女は周囲を見渡す。
街道脇の岩へ照準を合わせる。
構えが美しい。
引き金を引いた。
乾いた音。
岩が弾け飛んだ。
粉砕。
破片が散る。
威力、やばくないか?
魔法みたいな派手さはない。
だが、速い。正確。無駄がない。
レイナは銃を下ろす。
「命中確認。問題なし」
淡々としている。
俺は思わず笑った。
「……最高かよ」
追放された直後なのに、テンションが上がっている自分がいる。
怖さよりも、可能性が勝っていた。
「マスター」
レイナが一歩近づく。
「当面の目標を提示してください」
目標。
そうだな。
王国に復讐?
いや。
そんな大層なことじゃない。
俺はただ――
「まずは生き延びる。冒険者になる」
「冒険者、ですか」
「ああ。この世界で普通に暮らす。そのための金と拠点を手に入れる」
軍事国家を作るとか、そんな大それたことじゃない。
まずは生活だ。
レイナはわずかに頷いた。
「了解。マスターの生活確保を最優先目標とします」
その言葉に、妙な安心感があった。
ひとりじゃない。
俺にはレイナがいる。
「……とりあえず、王都に戻るか」
「追放されましたが」
「門の中に入るなとは言われてない。たぶん」
楽観的かもしれない。
でも、やるしかない。
俺は一歩踏み出す。
レイナが隣に並ぶ。
夜の街道を、並んで歩く。
月明かりに照らされたメイド姿の戦闘兵器。
客観的に見たら、かなり異様だ。
「マスター」
「ん?」
「私は兵器です。ですが」
少し間があった。
「あなたの隣に立つことを、優先事項とします」
心臓が一瞬止まりかけた。
さらっと言うな。
「……ありがとな」
「当然です。私はあなたのものですから」
クールな顔。
でも、耳がほんの少し赤い気がした。
気のせいか?
いや、多分、気のせいじゃない。
こうして俺は――
勇者ではない男として。
メイド型アンドロイド、レイナと共に。
異世界での冒険者生活を始めることになった。
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