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第4章 ダンジョン

第12話 色々やり直し

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ダンジョン前兵舎の会議室に連れ込まれたのは、私とクレアの2人だった。

会議室にはハロルド様と3番隊の隊長のカービンさん、それと4番隊の隊長のレイダンさんを紹介された。

「まずはこの建物はどういう事かのぉ?」

ハロルド様はいつものと変わらない様子で質問してきた。

説教モードじゃないみたいだ。

ホッとしながら質問に答える。

「う~ん、怪我人もいたし、少しでも危険が少なくなれば良いかと思って、ついでに建ててしまいました。それに酷い臭いで耐えられなかったのも理由ですかねぇ」

「そうか、それはありがたい話じゃが、領都の兵舎の立て直しを頼んだら断ったのはアタルではないか。こんなに簡単に建てられるなら断らなくても良かったんじゃないのか?」

あれ、もしかして説教へゴー!

「それは優先度の問題じゃないですか。この場所は危険で早急に対応したほうが良いと考えました。それに、この場所は魔力が領都より多くて、魔道具などの設備を設置して稼働できるみたいだったので、建てちゃいました」

なぜか大きな溜息をハロルド様にされてしまう。

「ふう~、確かにこれほどの兵舎が出来上がれば格段に効率は良くなるのぉ」

そのとおり!

「じゃが使い方を説明しなければ宝の持ち腐れじゃ!」

うっ、それはクレアの指摘で気が付いたよぉ。

涙目で目の下に隈のあるカービンさんが俺を睨んでいる。

「そ、それは申し訳ありません。ダンジョンの調査を急いだので、少し大雑把にしたと反省しています」

「少しじゃねぇ! 俺はあれから一睡もしてないんだぞ。やっと少し使えるようになったら急遽4番隊が来て、一般兵でも領都で同じ魔道具を使ったことがあると言われるし、全員が公的ギルドカードを持っていやがる。俺のあの努力はなんだったんだぁ!」

さすがに申し訳ない。自分基準でやってしまった気がする。

俺は収納から健康ドリンクを出してカービンさんの前に置く。

「すみませんでした。お疲れみたいですからこれをお飲みください」

謝罪したが、未だに納得がいかない様子で、ブツブツと文句を言いながら健康ドリンクを一気に飲んだ。

飲み終わったカービンさんは目の下の隈がなくなり、驚いた顔でカップを見ながら呟く。

「なんじゃこれぇ~!」

元気になって良かったとホッとして説明する。

「それは疲れを取る健康ドリンクです。それも魔道具で取り寄せられますよ」

「くぅ~!」

折角なので教えてあげたのだが、何か悔しそうにしている。

「カービン、アタルはこういう奴じゃ。文句を言っても気にせん奴だからのぉ。お前も気にせず領都に戻って公的ギルドカードの発行と使い方を覚えておけ」

「わかりました……」

なんか凄く悪い事をした感じになっている?

少しだよねぇ? それほど悪くないよね!?

何故かハロルド様が気の毒そうにカービンさんを見つめている。クレアも咎めるような目で見てくる。

ハロルド様は改めて私の方を見ると、真剣な顔で話し始める。

「アタルよ、兵士たちの事を考えてしてくれたことは感謝する。しかし、何かする前に報告か相談をしてくれ」

「はい、気を付けます」

そうだよなぁ、報連相はビジネスの基本だったのに、この世界に来てから舞い上がって基本的な事が疎かになっている。

動作確認や検証、運用も含めて考えないとダメだ!

ボッチを卒業して、これまでにない開発や生産が楽しくて、初めてパソコンを使い始めた中学生に戻ってしまった感じだ。

報連相に役立つ魔道具を作れば便利かもしれないかぁ。

「アタルよ、その顔はまた何か思いついたのじゃろう。頼むから報告だけはしてくれよ」

「わ、わかりました」

なぜか全員が信用できないといった顔で俺を見てくる。

クレアだけでも味方になってくれぇ~!


   ◇   ◇   ◇   ◇


クレアは襲撃された事の報告と、犯罪者たちの取り扱いについて報告を始める。私は会議室から逃げ出して、カルアさん達が休憩している食堂に向かうのだった。

食堂ではカルアさん達は大人気で、沢山の男性兵士に囲まれていた。様子を窺っていると、どうやら公的ギルドカードの利用方法を教えていたようだ。

相談しているのは公的ギルドカードを持ってきた第4部隊の兵士のようで、多少は大賢者区画の兵舎で説明を聞いて利用経験はあるが、まだ最低限しか使えないようだ。

「食事は1日3食、基本メニューの2種類から選ぶことができるのよ。それは無料で食べられるけど物足りないなら、パンやおかずも追加で買えるわよ」

「そうよねぇ~、お金をギルドカードにチャージしとかないと、追加も買えないわよ」

「俺金持ってきてねぇ!」

「そうだよ、任務中に金なんか必要ねえと思ったから、持ってきてねえよぉ~」

「俺は領都でチャージしてきたから問題ないね」

「おいおい、本当かよ!」

兵士たちは大騒ぎを始める。

「あと絶対に忘れていけないのが『健康ドリンク』よ。今は味の種類も増えたけど、朝飲むとスッキリして疲れがとれるのよ。だけど夜飲むと寝れなくなるから気を付けてね」

それからはお金を持っている兵士に、お金を借りようと大騒ぎを始めるのだった。

私はカルアさんに声を掛け、みんな一緒に外に向かうのだった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


兵舎の横にテントを3個出して説明をする。

「テントには三種類の結界が張られている。ひとつは消音結界で、中の音が外に漏れないようになっています。しかし、外の音は聞こえるはずなので、外から声を掛ければ聞こえるはずです。順番で交代して効果を確認してください」

みんな楽しそうに入れ替わっては、結界の効果を確認している。

「だから隊長とアタルさんのテントから音が聞こえなかったんだ……」

全員が頷いている。

絶対にみんなで様子を窺っていたな!

油断できない連中だ。

ちょうどクレアも合流したので一緒に説明と検証を続ける。

「次は対人結界です。登録者以外はテントに入れないだけでなく、テントから1メル以内に入ることは出来ません。
班長は中に入って自分以外の登録を一度消してください。それ以外は入れない事や攻撃できない事を確認してくださいね。
班長は攻撃でどの程度、魔石の魔力が減るかも確認してください」

消音結界は周辺の漂う魔力で足りるが、対人結界は結界の維持は問題無い。しかし、登録者以外の侵入を防御したり、攻撃を防御したりすると、魔石から魔力を消費するのだ。

検証が終わると対人結界の強固さに全員が感心したが、次々と攻撃されると予想以上に魔力を消耗したようだ。

「あとは対魔物結界がテントから1メルぐらいに張られています。魔物が近づくとスタンの魔法で魔物を気絶させるはずです。それは、明日からのダンジョン調査で、階層ごとに効果を確認してみましょう」

そうだ、魔導銃でスタンを使えないか考えてみよう!

テントを片付けようとすると、今晩もテントで寝るとみんなが言い出したので、自分のテントも出して全員がテントに泊まることにした。

良く考えてみると兵舎より快適なのかもしれない。

他の人は入ってこないし、自分達専用のトイレや食堂がある部屋で音が外に漏れない。

うん、兵舎より快適な気がする。

クレアは班で一緒に寝ると言い出したが、それならダンジョン内で頑張ると言うと、素直に一緒に寝てくれたのである。

翌朝早い時間からダンジョンに入り。新しい魔物を見付けるたびにテントの結界を確認したが、問題なく魔物を気絶させることができた。

テントで気絶させて魔物を倒すのは非常に楽だが、魔物が近づいてこない場合もある。

でも同じ結界の魔道具で、ずっと自分に結界を張っていたんだけどね。

魔導銃も何度か練習させて貰い、問題なく魔物を討伐できることが確認できた。

検証作業も含めてダンジョン調査のやり直しは順調に進み、結局3層と4層の間の階段まで、その日のうちに戻って来れたのである。
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