PK以外に興味なし

えるだ~

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奇妙戦術

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「くっ!」
 ジャックの攻撃がかわされて、エベラの拳が確実にジャックのHPを削っていく。
「まずいわねぇ」
 それを観戦していたミラが呟いた。
「なんでジャックさん、スキル使わないんですか?」
「相手が自分より速いのに、当たるかどうかも分からない血術を使って体力を削りたくないのよ」
「血術の弱い所が全面に押し出されてるなぁ」
 リコの問いにミラが答え、トゲが呟く。
「動きからして速度と魔法防御、格闘家なら物理攻撃にもステータスを振ってるだろうし・・・クラス相性的にも、一発攻撃を当てれたら状況変わるでしょうけど・・・それをさせないからプロって呼ばれてるのよねぇ」
「さぁて、ジャックはどうするのかなぁ」


(調べた通り、彼は血術がメインなんだろうな。でも確実にダメージを与えられている今彼はその血術を使えない!このまま押しきる!)
「〈ブーストスピード〉!」
 エベラが自身にバフ魔法も掛けて速度を上昇せ、先程までより速度の乗った拳がジャックに叩き込まれる。
「ちっ、〈衝撃波〉!」
 再びジャックが衝撃波を放ち、エベラから離れる。
「逃がさん!」
 エベラが地を蹴りジャックに接近するが、その時ジャックの手に赤い液体の塊が現れた。
「〈赤煙〉!」
 そしてその塊を地面に叩き付けると、その塊が弾けて赤い煙幕が広がった。
「うおっ!」
 煙幕が二人を包み込み、エベラはジャックを見失う。のだが、
「隠れたつもりか?〈エネミーライフ〉」
 エベラが今使った魔法は敵のHPを見えるようにするという魔法だが、副次効果として煙幕などに隠れた相手の位置をある程度絞り込むことができる。
「そこか!〈縮地・極〉!」
 ジャックの位置を見破ったエベラは、スキルを使用してジャックに接近する。そして魔法陣で固めた拳をジャックの顔面に振り下ろした。
 エベラの拳をジャックは避けきれず、左頬に拳がブチ当たる。が、
(あれ?なんか・・・軽い──)
 そんな事を考えていると、ジャックがエベラの右腕を掴んだ。
「しまった!」
 焦ったエベラが左手でジャックを殴るがやはり軽く、HPは大して減っていない。
「はぁ?」
「〈赤煙〉の効果が煙幕だけだと思ったか?」
 HPを削って使用する血術である〈赤煙〉の効果。それは相手に付与されているスキルや魔法の効果を無くすというものだ。
 結果〈赤煙〉に入ったエベラが自身に掛けていた術、〈スイッチガード〉と〈ブーストスピード〉の効果は無くなり、今〈マジックシールド〉による殴打の攻撃力は格段に下がってしまっている。
「〈切断〉!」
 ジャックのブレードがエベラの胴体を切り裂く。即死への耐性を有していたようで肉体はくっついたままだが、確実に相当なダメージが入っただろう。
「うぉっ、いってー」
 切られて片膝をついていたエベラが立ち上がる。
「もう一発喰らったら終わりだなぁ」
「何だ?降参じゃないだろ?」
「当たり前じゃん。次がないから──」
 エベラが両手をスッと構える。そして、
「──これで終わらせる」
 両手をパンッと打ち鳴らした。
「《隕拳いんけん》!」
「おいおいおい」

 ミラは空を見上げて口を開けた。
「えぇ・・・」
 空からステージを覆うほど巨大な岩の拳が落下していた。しかもエベラの拳同様魔法陣を纏っている。
 ガブとは比較にならないほど強力な奥義だ。
「本当は決勝戦に取っておこうと思ってたが・・・お前に使わせてもらう!」
「おいおいマジかよ」
 拳はゆっくりと落ちてくる。デカ過ぎて逃げ場がないし、エベラに近付いて奴を仕留める時間もない。
「一か八かだ!」
 そう声を上げ、ジャックは降ってくる拳に向かって右手を突き上げた。
「〈フルカウ──」
 そして巨大な拳がステージに落ち、大爆発を引き起こした。
「うわぁっ!」
 爆風が会場を包み、瓦礫が飛んでいく。
 しばらくしてようやく爆風が収まった。

「ハハッ!吹き飛んだぜ!」
 エベラがご機嫌に笑い、地面に座ろうとした。が、
「!?」
 爆煙の中からジャックが姿を現した。
「・・・流石に冷や汗かいたぞ」
「なっ!?おまっ!何で生きてる!絶対に当たった!」
「ああ当たった。だが防いだ。カウンター技でな」
 カウンターは相手の攻撃をほぼノーダメージで受け、倍の力で弾き返すことのできる技だ。だが、
「カウンターって、強力な攻撃には通用しないばず!」
「それは間違いだ。相手の攻撃が強いほど成功させるのが難しいだけ。俺なら出来る」
 ジャックがブレードを出してエベラに近付く。
「・・・ちっ!」
 エベラは舌打ちすると、その場にストンと座り込んだ。
「俺の敗けだな」
「潔し」
 ジャックはブレードを振り下ろした。


「よぉ!お疲れ様だな!」
 控室に戻ろうとしたジャックに誰かが声を掛ける。振り返ると、そこに居たのはテイラだった。
「お前は・・・久しぶりだな」
「おぉ久しぶり!再開できて嬉しいぞ!」
「あぁ。・・・じゃ」
 ジャックが控室の扉を開けるが、テイラが止めた。
「おいおい待った待った!決勝戦の話だよ」
「相手の事を聞くつもりはねぇぞ」
「いや、決勝戦で当たるのはうちのリーダーだからさ、よろしくって言いたくて」
「・・・もう決まったのか?まだ準決勝始まってないだろ?」
「いや、絶対リーダーが勝つ。『ニホンバレ』のリーダー、コノハさんがね」
「・・・へぇ。お前あのクランメンバーなのか」
 コノハ。ヒャクアシ騒動以来会っていないが、まさかこんな形で再開するとは。
「それはちょっと・・・楽しみだな」

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