PK以外に興味なし

えるだ~

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公式大会

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 一月後、運営が用意したゲーム内の闘技場に、多くのプレイヤーが押し掛けていた。
『さぁ皆さんよくお越し下さいました。第十一回、ゴッドワールドトーナメント!間も無く開始致します!』
 実況者の声がスピーカーから響き渡る。中世が舞台なのでスピーカーはちょっと浮いている気がするが、そんな物を気にする者は誰もいない。
『今回はルールが変更され、敗北したプレイヤーは全てを失うガチゲームとなっております!』
「・・・うるせぇな」
 控室で出番を待つジャックが呟いた。
「ねぇ、外で色々見なくていいの?闘技場の床の材質とか見といた方がいいんじゃない?それに誰が出場するのかも分かるかもだし」
 何故か控室にいるトゲが言った。
 このゲームの公式大会では誰が出場しているのかは知らされない。誰と戦うことになるのか分かるのは戦う直前だ。故にどんな奴が出場しているのか調べることは大切なのだが。
「参戦者は俺含め八人。優勝するには三回戦う。それだけ知ってれば十分だ」
「ふーん」
「・・・お前は出ないよな?」
「出ない出ない。全ロスしない為にここ1ヶ月頑張ったんだよ?」
(じゃあ俺の控室に来るなよ・・・)
 そんな事を思っていると、部屋に放送が入る。
『もうすぐ試合開始です。ステージ入り口まで御越しください』
 ジャックは立ち上がり、ステージに向かった。


 ステージへ入る為の大きな扉がゆっくり開き、ジャックがステージへ入っていく。地面は土で、闘技場の形状は現実のコロッセオとほとんど同じだ。
 そして向かいの扉も開き、胴着を着たムキムキな男が出てきた。
『さあ西扉から出てきたのはサーバー1のPK数を誇る狂人!呼び名はたくさんありますが、今回はジャックとお呼びします!』
「狂人て・・・」
『そして東扉から現れましたのは、大型クラン、クロオビのリーダー!テッケンだぁ!』
(クロオビのリーダー?・・・こんな奴だったのか)
 ジャックをしばらく睨んだテッケンは、ニヤりと笑って口を開いた。
「よぉ、ジャックだっけか?お前が出るって聞いたからエントリーしたが、一回戦で当たるとはラッキーだ。部下の復讐をさせてもらう」
「俺が出るって聞いた?誰から聞いたんだ?」
「知らねぇのか?結構噂になってたんだぜ、運営がお前を大会に出すためルールを変えたってな」
「へぇ」
『それでは第一回戦──』
「お前を殺して、今大会の話題をかっさらってやる」
『──スタートです!』
「やってみろよ」
 そしてゴングが会場中に響き渡る。
「〈靭脚〉!」
 テッケンがスキルを使って強化した脚で地を蹴り、ジャックに接近する。
「〈豪・鉄拳〉!」
 そしてその拳を振り下ろした。が、
「ブッ!」
 拳がジャックの頭を割る前に、ジャックの蹴りがテッケンの腹部を凹ました。
 大柄なテッケンが宙に浮き、ズシンと地面に落下する。
「残念ながらお前は──」
「ちょっ、待っ──」
 立ち上がろうとするテッケンに、ジャックは容赦なくブレードで切り掛かる。
「──何の障害にもならねぇよ」
 ブレードがテッケンを切り裂き、血のエフェクトが噴き出す。
「ぐぁっ!?」
 そしてテッケンは消えて行った。
 残ったレッドバッグも、地に落ちると同時に消滅した。
『圧勝ーー!!圧倒的だぁー!ジャック選手、大型クランのリーダーに、各の違いを見せ付けたぁ!』
 会場を観客プレイヤーの歓声が包み込む。ジャックはそれを尻目に、ステージを出て行った。

「お疲れ」
 控室へ帰ろうとしたジャックにミラが話し掛けた。トゲとリコもいっしょだ。
「疲れるような事してないがな」
「いやぁ、テッケンはあんたと同じ位強いと思ってたんだけど・・・1ヶ月やり込むだけでそんなに強くなるのか」
「まぁゲームなんてそんなもんだろ」
「で、次は誰と当たるのかな?」
「知らん。しばらく俺は休憩だ」
 ジャックが控室の扉を開ける。
「え、観戦しないんですか?」
「観戦したら相手の戦術が分かっちまうだろ」
「その為に観るんでしょ」
「それじゃ殺す意味がねぇ」
 ジャックは控室に入って行った。
「えぇ・・・」
「やれやれね」
「ジャックさんらしいです」


 ジャックは宣言通り観戦をせず、次の試合に向かった。
『さぁ!続きまして準決勝第一試合!東扉から出てくるのは第一回戦でテッケン選手相手に圧勝して見せたジャック選手!そして西扉から出てくるのは──』
 西扉から出て来たのは、鬼の仮面を着けた男だった。
『プロゲーマーチーム、「マウンダ」のリーダー!エベラ選手だぁ!』
(プロゲーマー・・・)
「よぉ骨顔、うちの仲間が世話になったみてぇだな」
 ジャックは最近PKをしたプロゲーマーっぽいプレイヤーを思い出す。
「・・・どれだ?ここ1ヶ月、今までよりPKしまくっててな」
「ほら、お前が配信で倒した奴だよ」
 ジャックはフジのことを思い出す。
「・・・あぁあいつか。中々強かったぞ。さすがプロといったところだな」
「あいつのレベル戻すの大変だったんだぞぉ。しかもあいつこの大会にお前が出るって聞いて勝手にエントリーしやがったんだよ。でもあいつまだクラス構成まで完成してなかったから、俺が代わりに来たって訳」
『さぁそれでは準決勝第一試合!』
「へぇ。仲が良いんだな」
「まぁね。そんで約束してんだよ」
『スタートです!』
「絶対お前はブッ殺すって」
 ゴングが鳴る。その瞬間、
「〈縮地・極〉!」
 エベラがスキルで急接近する。が、ジャックはそれを予測していた。
「しっ!」
 エベラの接近とほぼ同時にジャックの回し蹴りが放たれる。そしてエベラの頭を蹴り飛ばすかと思われたが、
「!」
 エベラは一瞬にしてしゃがんで蹴りを避けた。そして、
「〈マジックシールド〉」
(防御魔法?)
 魔法を使ったが、それは防御魔法だった。攻撃には大して使えないはず。だが、
「〈スイッチガード〉!」
「ぐっ!」
 そしてジャックの横腹をエベラが殴る。プロのボクサーのような綺麗な動きだ。
「あぁ?」
 しかもHPが思ったよりも減っていた。ただのパンチじゃない。
 見ると、エベラの拳には防御魔法の魔法陣が纏われていた。

 エベラの使用したスキル、〈スイッチガード〉は、自身の防御力と攻撃力を入れ換えるという効果も持つ。つまり防御魔法である〈マジックシールド〉の魔法陣は、そのまま攻撃魔法の武器に変化したということだ。
 それに彼のクラスは、

「〈衝撃波〉!」
 ジャックがスキルを放ち、エベラを突き放す。スキル自体の攻撃力が低いため大したダメージは入らなかった。
「・・・」
 ジャックはブレードを構えつつエベラを観察する。
 ボクサーのように腕を構え、ピョンピョン小さく飛んでこちらを睨んでいる。そしてその拳には本来盾として使うはずの魔法陣。
「・・・なるほど、格闘魔術師か」
「ご名答!」
 エベラが接近し、ジャックがブレードを振るう。が、ジャックの攻撃はかわされてエベラのカウンターを喰らう。
「くっ!」(俺より速い!速度で回避して確実に殴って来やがる。攻撃力が低いのは救いだが)
 攻撃を当てられ、速度で負けている現状で自身のHPを消費する血術を使うのは愚策だ。つまりジャックは自身のスキルの大半を使用せずにエベラを攻略しなくてはならない。
「さてどうするかな」 
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