運命の番

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狼狩り

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野生の本能だった。
後方からの、それも近距離での刃物をどうして避けられたのか、自分でもわからない。

首元に来た細いナイフをまさに首の皮一枚でギリギリでかわし、身体を反転させた。

なぜ、と考える暇はなく、セーカは顔色一つ変えずにまた首元に切りかかってきた。

速い。あまりの速さに避けるのがやっとで体勢が整わない。一瞬で間合いを詰め頸動脈を狙ってくる。

音もなく何度も切りつけられるナイフを、かろうじて避け続ける。

この静かだが刀筋の見えないほど速さのある攻撃ができるのは、おそらく長年に渡り厳しく苦しい訓練を極めた者だけだ。

この竜人はまるで・・・。




辺境では力任せの戦いが多く、暗殺や毒殺未遂は数えるほどだった。
しかし母マデリーンが即位し帝都に来て間もない頃は、家族が全員その道の専門家に頻繁に狙われた。
護衛も何人も殺された。

母は荒れた帝国の元皇女、父は危険地帯の辺境伯だったので、着々と悪の元を絶ち、冷静に城内の治安を改善していったので今はいなくなったが、当時の暗殺者達の動きはよく覚えている。

辺境での戦いの多くは、例えるなら犬だった。
唸り声をあげ、顔を歪め、攻撃の意志を伝えてから戦闘に入る。弱肉強食の単純な勝負だった。

帝都で襲ってきた者達は、まるで野生の狼だ。
身を潜めて獲物を観察し、静かに近づき、一瞬で喉元にかぶりつく。苦しませず絶命させる。

余計なことは言わず行わず、短時間で汚さず仕留めるのが一流の暗殺者の流儀だ。

この竜人のように。

セーカの風を切る音も聞こえない、滑らかな速さのナイフを何度かかわしたが、途中頬と肩を切られた。
毒でも塗られていたのか切られた場所が即座に痺れてくる。

レイドも若くして戦術には天賦の才を発揮し、刺客を幾人も討ち倒してきたが、セーカは今までの暗殺者達とは次元が違う。
この竜人には勝てないと狼の本能が悟っていた。

戦闘の技術も経験値も相手の方が桁違いに上だ。
こんな強い闇の手練れにイシス国で遭遇してしまうとは。

狼は獣人の中では最強の部類に入るが、例え獣化したとしても竜には歯が立たないのは、国境の森で竜に前脚をえぐられた時に痛感している。

竜も竜人も絶滅寸前と言われており、数こそ少ないが史上最大にして最強の生命体だ。
竜は怒らない限りは、自然の中に大人しく生息している害のない生き物でよほどの事がない限り暴れないが、万が一逆鱗に触れたりすると凶暴化して手がつけられない。

竜人も同じ性質を持つはずだ。
とすれば、セーカはレイドに怒り狂っていることになる。

お互いに会って間もない。
恨みを買うようなことをした覚えもない。
何故ここまで執拗に命を狙ってくるんだ?

世界に数人しかいないと言われる竜人が竜になれば、強靭な鱗を持つ巨体に変化する。
竜人のままでも超一流の暗殺者だ。さらに竜化までされたら、まず持ってして狼に勝ち目はない。

喰い殺されるかもしれない。

アーシェンと初めて出会った森でも、巨大な竜の槍のような鋭い爪で投げ飛ばされて死にかけたが、そのおかげで運命の番に巡り会うことができた。
しかし今度はその番の父竜人に殺されかけている。

皮肉だ。

避けるのが精一杯で反撃できないまま、痺れだけが広がってきた。毒には一通りの耐性をつけたつもりだったが、きっとこれは即効性のある強力な物だ。未知の成分なのだろう。



感情のない目でセーカが再度、レイドに向かって切りかかろうとした時だった。

突如、雷が落ちた。

セーカの真上に青色の光が落ち、竜人は倒れた。
ノア女王の怒り、イシスの天罰である。
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