運命の番

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仕事中毒

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グラーツに帰国後、レイドは昼も夜も仕事に取り組んだ。

神殿建設が始まり、イシスからセトと技術者達と、追加で依頼した服飾師が数名やって来た。

アーシェンの心労がたたって離婚されないように、徹底してイシスに近い生活環境を作り出そうと協力してもらう。

番の少女は使用人からの世話を重苦しく感じるはずなので、最小限の接触にしてあげたい。
警備は結界を張るイングリッドとイシスの護衛シャルカが担当するから、侍女はグラーツ側からは一人にしよう。

それには、一人でも簡単に脱ぎ着ができる服が必要だ。着ていても軽くて楽なイシスの国民服に近い秋冬用の服を、イシスから連れて来た服飾師に作成依頼し、大量発注した。
これは城の使用人達にも一斉配布する。

古くて重いグラーツの制服を、軽くて機能的な物に一新したのだ。これにはマデリーンがいたく喜んだ。

「お前がこんな、気のきくことをするとは!」

マデリーンは皇女育ちだが、狼獣人の血が濃いのか、自然の中でのんびり過ごすのが好きだった。
無駄に装飾の多い華美なだけで重いドレスのせいで思うように動けず、小さな頃から時間を取られてうんざりしていたのだ。

イシスの服飾師達は至って合理的で装飾を好まず、その分、生地に良い物を使った。試作品はどれも好評だった。

「一部だけ変えると、そこに難癖をつける者がいる。変えるならば全てだ」

イシスから帰ってから、馬車馬のように働き出した皇太子。会議でもまともな事を言い、無駄のない仕事に分かりやすい指示。
彼の評価は少しずつだが上がっていった。

誰も彼も側近のマティアスも安心していた。
近年、稀に見る速さで仕事が片付いていく。
荒々しさもなくなり、横暴なことも言わなくなり、随分落ち着いてきた。結婚が近づき、ようやく平和的な性格になってきたのだろう。実によか・・・

「ぐうっ」

着々と業務が進んでいたはずの執務室で、いきなり妙な声を上げ、机にガンッ!と突っ伏した皇太子に、マティアスは声をかける。
さすがに頑丈な狼獣人でも、昼夜働き過ぎだ。
過労だろうと思った。

「レイド様、どこか具合で、」
「アーシェンに、アーシェンが、手紙が」
手には先ほど届けられた手紙が握られている。おそらく番さまからの。

「番さまに何かございましたか?」
婚約破棄の手紙だったら一大事だ。

「アーシェンが子供が産める体になった」
「・・・・・・は」
「早く俺との子供が欲しいと、子供が欲しいと書いてある」

男所帯で育ったマティアスには女性の体質については、よくわからない。
しかし、子供が産めるようになったということは、今までレイドは初潮も来ていない少女に恋をして、追いかけ回していたということだ。

「それは変質的な・・・」
マティアスのつぶやきは声に出てしまった。

レイドはギラつく目で耐えるように唸っている。
平和な日常に野生の獣が戻ってきてしまった。

「俺は婿でもよかったのに。何で番と離れて、こんな国にいるんだっ。アーシェンの胸に触りたい、全身舐めまわしたい、乱れた可愛い顔が見たい、あの柔らかい体で処理してほしい」

とんでもないことを言い出した。
そしてもしや、この人はとんでもないことをしでかしている?

「まさかイシス国でそんな犯罪行為を?」

「犯罪ではない。相思相愛だ!ぐううう、ダメだ。耐えられん。走り回って訓練してくる」

部屋から出て行ったレイドが、風のごとく全速力で軍の訓練所まで走って行くのが窓から見えた。大柄でもあんなに速く走れるのは狼獣人ならではだ。

グラーツ軍の訓練所は元は騎士だけだったが、今では一般の優秀な兵士達も多く雇用され、身分が入り混ざっている。獣人も多い精鋭部隊だ。

辺境出身の荒々しい猛者達は、久々のレイドの登場に歓声を上げて手合わせを願い出た。
しかし元々いた騎士団員達は、馬鹿力の野獣皇太子の相手をする羽目になり、吹っ飛ばされたり、投げ飛ばされたりと散々体力を消耗させられた。

「誰だっ!皇太子が仕事一筋のまとも獣人になったと言ったヤツ!」
「嘘だと思ったんだよっ、そんなに簡単に野獣の性格が変わるもんか!」
「レイド殿下は暴れてこそなんぼだろ!こうでなくちゃいけねーよ!」

ワーワー、ギャーギャーと訓練所の方が、一気に騒がしくなった。
マティアスは少し開いていた窓を閉め、レイドが出て行く時に散らかした書類を黙々と片付けていった。



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