運命の番

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悶絶

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シャルカの独断で、帰城までの馬車もアーシェンをレイドから引き離し、そのままイングリッド医師の元に運んだ。
イングリッドは事の次第を聞くと静かに了承をし、連続勤務が続いたシャルカへ休暇を出した。



一方、マティアスから視察の報告を受けたマデリーン女帝は、執務机をトントンと指で叩いていた。

「・・・なるほど」

レイドはシャルカの後を追ったが、イングリッドの医務室の前で待つように言われ、医務室近辺を冬眠前の熊のようにうろついている。そのためマティアスが代わりにとばっちりを受けている。

「マティアス、お前がついていながら。あの馬鹿を止めるには、お前のデカい図体を張るしかないだろうに」

そんな止め方できませんし、やりたくありませんが。
マッチョなのに文官志望のマティアスは、己の言葉を胸の内にしまう。

「グラーツに来て一週間で手を出すとは。署名式の前にイシス側から苦情が来たら面倒極まりないな。わかった下がれ」

マティアスをしっしっと手で追い払うと、隣にいたエナンが苦笑いをした。

「番に狂って、抑えが効かなかったんだろうね」
「いや、教会まで予約しての計画的犯行だ。ああ、今日は酒が飲みたいな」




夕食時。相変わらず無表情ながら、お酒の匂いをプンプンさせて話すマデリーンの、いつもの寡黙さがない姿にエスメラルダは驚いた。
「母上、もしやお疲れですか?お帰りなさい兄上、アーシェン様は?」
「ああ、先ほど帰った。そうだな寒かったな」
レイドはイングリッド医師に、時間をおいてまた来いと言われ番を取られてしまい、心ここにあらずの適当返答だ。

そんな不安定な銀髪母子の代わりに、エナンが答える。
「マデリーンは最近細かい業務調整や苦情が続いてね。疲れているんだ。アーシェンはレイドのせいで寝込んでいるよ」
「そうでしたか。アーシェン様には後ほどお見舞いにい、」
エスメラルダの言葉をマデリーンが遮った。
「レイドは結婚の三ヶ月前に嫁に手を出すし、エナンは結婚しても私に三ヶ月以上触りもしなかった。お前達は足して二で割るとちょうどいい」

普段は毒舌攻撃以外は無口なマデリーンの爆弾発言に3人は「ん?」と声の主に顔を向ける。
すぐに会話の筋を読んだエナンは焦った。

「マデリーンけっこう酔っているね。そういう夫婦のの話題は食事時には相応しくな、」
今度はエナンの味方であるはずの愛娘が遮った。
「兄上がお済みなのは想定内ですが、父上は何故三ヶ月以上も?母上と政略結婚だったからですか?」
「いや、それは」
「私の家族があまりにもひどかったからだ。極悪非道の皇帝一家の一人娘を押し付けられたからだ」
「マデリーンそれは違うよ。君があまりにも若くてどうしたらいいのか、わからなかったんだよ。レイドと二で割られたらこっちが大損だよ。さあ、この話しは部屋に戻ってからにしよう」
レイドのせいで、エナンもとばっちりを食らった。




レイドは夕食後にアーシェンのいない部屋に戻るのが嫌で、早速イングリッドの医務室に向かった。
「せめて様子だけ見させてください。すぐに帰ります」
「では私が夕食を済ませて帰るまで、アーシェンの看病をお願いします。起きたらこのスープを飲ませてください」

番から長時間隔離されて堪えていたレイドは、意外にもすんなり入れてもらえてほっとしたが、真っ赤な顔で額に濡れタオルを乗せて、厚い布団を何枚もかけられているアーシェンに顔を歪めた。
タオルを変えて首もとの汗を拭いていると、うっすらと目が開いた。

「アーシェン、すまなかった」

アーシェンは何かを言いかけたが声が出ないのか、にこっと笑った。その笑顔の可愛さに心臓を射抜かれたレイドが少年のようにドキドキしながら世話を焼く。

「水を飲むか?スープは飲めるか?」
「おみず」
「水だな。少し身体を起こすぞ」

枕を重ねて上体を起こし、水杯を口に持っていくも、むせてしまった。背中をさすって落ち着かせ、汗とこぼれた水を拭く。

「俺のせいでこんなに苦しませて、本当に申し訳ない」

レイドは水を口に含むと、アーシェンに口移しで少しずつ飲ませた。ふ、ふっと小さく呼吸をしている。

「う、うつり」
「獣人は風邪を引かないから大丈夫だ。もっといるか?」
「もっと」
口を半分開けた番の舌がチラリと見え、ついそこに食らいつくように吸いつく。

違う、お水・・・。

んむんむと口の中で訴えるアーシェンに、レイドもこっちじゃなくて水だと我に返り、またゆっくりと口から口へ飲ませた。
スープはいらないと首を振る番を布団に戻して、頭を撫でる。

「眠るまで撫でていていいか?」
「ん」

ウトウトしながらもふわっと笑ってくれた番の、あまりの可愛さに再度心臓をやられて悶絶していた。



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