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ゲオルグは、我が身の異変に耐えられずに歯を食いしばる。
三十八年も男として……その半分以上の年月を、人並み以上に頑強な身体を誇る戦士として生きてきた自分が、『少女』に変わってしまったなんて、信じたくない。対・魔蟲対策班長として、国内でも指折りの戦士として、この状況を受け入れるなんてできない。
女になった自分を抱こうとしている青年を睨みつけ、ゲオルグは腹の底から思う。
――お前は俺の一番買ってる部下なんだ。誰よりも強くて、才能がある。だから……自分を破滅させるような真似はやめてくれ。
ゲオルグは、桜色の爪の生えた真っ白な手で、のしかかる青年の身体を押しのけようとした。
しかししなやかな体は、絡みつくようにゲオルグから離れない。
――俺はお前がやけっぱちな戦い方を止めて、命を大事にしてくれればよかったんだ……なのにお前はいつだって生き急ぎやがって……何なんだよ!
ゲオルグは、小さな拳で青年の肩を叩く。だがその一撃は、今までのゲオルグの一打の、十分の一ほどの威力もなかった。
「離せ……馬鹿野郎……っ」
無理矢理女の子に変化させられた身体から、甘く澄んだ声が漏れる。
必死に訴える声は、聞き惚れてしまうくらいに愛らしい、可憐な声だ。
自分の体の異変を受け入れられないまま、ゲオルグは青年の体の下で必死にもがく。
いつの間にか、短く刈り込んだはずの髪は波打つ長い黒髪に、血液の病で痩せてたるみ始めていた皮膚は、つややかで張りのある、絹のような質感に変わっていた。
「女体化の禁呪なんか使ったら、他の女を抱けなくなるんだぞ。これからお前には結婚とか、子供とか、未来があるだろうがっ! どうすんだよ……ッ」
「いりません」
「いりませんじゃねえよ、リージェンス! 考え直せ! 俺には禁呪に手を出してまで助けるような価値はねえ!」
ゲオルグの上で、リージェンスと呼ばれた男が薄く笑った。
忘れな草を溶かしたような青い瞳が、まるで恋する男のように一瞬だけ緩み、美しい少女に変貌したゲオルグの姿を映す。
「俺の命の価値は、俺が決めます。俺の命は、貴方に使います……さあ、ゲオルグ班長、これが貴方の新しい体、新しい命です。今度は俺が、班長を助けます」
「バカ……野郎……ッ!」
女体化禁呪の噂はゲオルグも聞いたことがある。
力ある魔導師でも、生涯に一度しか使えない程の大技で、使える術士は男性に限定されるらしい。
しかも、この術を用いた術士は、術を施し、女体に変えた相手としか肉体関係を持つことができなくなるという。
その禁を破れば、術士の体は爆散すると言われているのだ。
冗談のような話だし、ゲオルグも半分は噂話だろうと思っていた。
――だが俺は女になっちまってる……夢でなければ、いや、夢じゃねえ、夢じゃねえよ、これは。
「お、おい、挿れんな……」
足の間に、熱く昂ったものが押し当てられている。重たく揺れる乳房を片手で抑え、ゲオルグは白く細い足を必死で閉じようとした。
「やめろ、ばか、ここでやめれば引き返せるんだろう? な?」
「嫌です。術を完成させて、貴方の身体を『病のない健康な女の子』のものに変えます。だって、俺を生かしたのは貴方ですよ。あなたが好きだったのに。だから、ずっとずっと苦しかったのに……俺を一人で置いて行かないで下さい。俺を未練がましく生きながらえさせた責任を取ってください。ゲオルグ班長……」
リージェンスが、笑った。
その笑顔はどこまでも透き通っていて清らかで……誰の話も受け付けない。そんな笑顔だった。
三十八年も男として……その半分以上の年月を、人並み以上に頑強な身体を誇る戦士として生きてきた自分が、『少女』に変わってしまったなんて、信じたくない。対・魔蟲対策班長として、国内でも指折りの戦士として、この状況を受け入れるなんてできない。
女になった自分を抱こうとしている青年を睨みつけ、ゲオルグは腹の底から思う。
――お前は俺の一番買ってる部下なんだ。誰よりも強くて、才能がある。だから……自分を破滅させるような真似はやめてくれ。
ゲオルグは、桜色の爪の生えた真っ白な手で、のしかかる青年の身体を押しのけようとした。
しかししなやかな体は、絡みつくようにゲオルグから離れない。
――俺はお前がやけっぱちな戦い方を止めて、命を大事にしてくれればよかったんだ……なのにお前はいつだって生き急ぎやがって……何なんだよ!
ゲオルグは、小さな拳で青年の肩を叩く。だがその一撃は、今までのゲオルグの一打の、十分の一ほどの威力もなかった。
「離せ……馬鹿野郎……っ」
無理矢理女の子に変化させられた身体から、甘く澄んだ声が漏れる。
必死に訴える声は、聞き惚れてしまうくらいに愛らしい、可憐な声だ。
自分の体の異変を受け入れられないまま、ゲオルグは青年の体の下で必死にもがく。
いつの間にか、短く刈り込んだはずの髪は波打つ長い黒髪に、血液の病で痩せてたるみ始めていた皮膚は、つややかで張りのある、絹のような質感に変わっていた。
「女体化の禁呪なんか使ったら、他の女を抱けなくなるんだぞ。これからお前には結婚とか、子供とか、未来があるだろうがっ! どうすんだよ……ッ」
「いりません」
「いりませんじゃねえよ、リージェンス! 考え直せ! 俺には禁呪に手を出してまで助けるような価値はねえ!」
ゲオルグの上で、リージェンスと呼ばれた男が薄く笑った。
忘れな草を溶かしたような青い瞳が、まるで恋する男のように一瞬だけ緩み、美しい少女に変貌したゲオルグの姿を映す。
「俺の命の価値は、俺が決めます。俺の命は、貴方に使います……さあ、ゲオルグ班長、これが貴方の新しい体、新しい命です。今度は俺が、班長を助けます」
「バカ……野郎……ッ!」
女体化禁呪の噂はゲオルグも聞いたことがある。
力ある魔導師でも、生涯に一度しか使えない程の大技で、使える術士は男性に限定されるらしい。
しかも、この術を用いた術士は、術を施し、女体に変えた相手としか肉体関係を持つことができなくなるという。
その禁を破れば、術士の体は爆散すると言われているのだ。
冗談のような話だし、ゲオルグも半分は噂話だろうと思っていた。
――だが俺は女になっちまってる……夢でなければ、いや、夢じゃねえ、夢じゃねえよ、これは。
「お、おい、挿れんな……」
足の間に、熱く昂ったものが押し当てられている。重たく揺れる乳房を片手で抑え、ゲオルグは白く細い足を必死で閉じようとした。
「やめろ、ばか、ここでやめれば引き返せるんだろう? な?」
「嫌です。術を完成させて、貴方の身体を『病のない健康な女の子』のものに変えます。だって、俺を生かしたのは貴方ですよ。あなたが好きだったのに。だから、ずっとずっと苦しかったのに……俺を一人で置いて行かないで下さい。俺を未練がましく生きながらえさせた責任を取ってください。ゲオルグ班長……」
リージェンスが、笑った。
その笑顔はどこまでも透き通っていて清らかで……誰の話も受け付けない。そんな笑顔だった。
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