5 / 31
第五話 魔法使い
しおりを挟む
──彼女を見つけたのは、昨日のことだった──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は、エミリアに対人戦闘の極意を教えるため、盗賊退治のクエストを受けた。
最近、魔法の書を盗難される事件が起こった。
それらは、厳重に管理されているものなのだが、書庫の不手際があり、高度な魔法の書を何本か流出してしまった。
私たちは、それの回収、もしくは使用者の断罪の任務を受けている。
使用者の断罪というのは、場合によっては命を奪っても構わないというものだ。
魔法の書を使用された場合、それは消失してしまうので回収は不可能。
それと、盗賊団のような心未熟な人間が高度な魔法を習得した場合、悪用される確率が高い。
そのため、クエスト受注者にそういった権利が与えられるわけだ。
……殺さずに捕獲できるなら、それに越したことはないのだが……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
渓谷沿いの山道を超えた先にある、怪しげなロッジ。そこが盗賊団のアジトだった。
「エミリア、ミュートとステルスを使え」
「はい、教官! ミュート! アンド、ステルス!」
エミリアは、補助魔法を唱える。
ミュートは足音を消す魔法。そして、ステルスは気配を断つ魔法。
これらは、隠密行動における基礎中の基礎だ。
相手に高度な魔力感知、及び、魔法結界さえなければ、これらは機能する。
もちろん、盗賊団ごときがそんな高度な魔法結界を使えるわけもない。
だが、油断はできない。もし、奴等がその魔法の書を手に入れていれば、それを発動していてもおかしくはないからだ。
もちろん、高度な魔法結界を破る魔法もある。だが、エミリアではまだ習得できない。
その時は、ノーバフでクエストを遂行することになる。
私たちはロッジ付近に侵入した。盗賊団の反応はない。
これは、盗賊団が私たちの侵入に気づけるスキルを所持していないことを意味する。
「よし、うまくいったぞ。突入は任せろ」
「教官! 待ってください! あそこに人が」
「なんだ?」
エミリアが指を差した。私はその先を確認する。
すると、ロッジの奥の広場付近に赤髪の魔法使いの姿を見つけた。
よく見ると、その周囲に盗賊団らしき人影がある。
そして、その盗賊団は、その赤髪の魔法使いに魔法攻撃を仕掛けていた。
魔法使いは、攻撃を必死によけるが、全て攻撃を食らっている。
「あいつら……寄ってたかって魔法使いを……くそう……私が変わりたいぐらいだ」
「教官……「助けたい」の間違いですよね」
「あ、ああ……その通りだ……この状況を見過ごすわけにはいかない」
私たちは、赤髪の魔法使いを助けるべく、裏手から盗賊団に近づいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
盗賊団は、魔法の書で手に入れたであろう高度な攻撃魔法で赤髪の魔女をいたぶっている。
「くそう……もういいだろ……早くここから消えてくれ……」
「あら、何か言いました? もっと私に魔法を撃ってくれないと……殺しますよ……」
「お願いだから……もうマジックポイントが……」
「もっと私を楽しませて欲しいわ。あなたたちの方から遊びたいと言ってきたんですから……」
「こうなったら……全力で倒してやる! 食らえ! バーニングサイクロン」
炎の竜巻が、赤髪の魔法使いを包み込む。だが、なぜか赤髪の魔法使いは嬉しそうだ。
「ああ、この熱が……ああ、ここちいい……私を熱くしてくれますのよ……さあ、もっとくださいまし!」
「くそう……倒れるか帰るか、どっちかにしてくれえ!」
「あら、もう終わりですの? まだ若いのに……」
「ふざけるな! 食らえ! ニードルダスト!」
今度は若い盗賊団員が広範囲に氷の弾丸をまき散らす。
「あああ……もったいないですわ! 本当にもったいない!」
赤髪の魔法使いは範囲に散らばる氷の弾丸を、俊敏な動きで全て受け止めた。
一体何を考えているのだろうか。
「あああ、満たされていきます……でも、もっとあるんでしょう……魔力が……早く出さないと……殺しますよ……」
「お、お願いだ……助けてくれ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一連の戦いを眺めていたエミリアが口を開く。
「教官、これは一体……」
「ああ、おそらく、あの魔法使い……」
──私と同類の臭いがする──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は、エミリアに対人戦闘の極意を教えるため、盗賊退治のクエストを受けた。
最近、魔法の書を盗難される事件が起こった。
それらは、厳重に管理されているものなのだが、書庫の不手際があり、高度な魔法の書を何本か流出してしまった。
私たちは、それの回収、もしくは使用者の断罪の任務を受けている。
使用者の断罪というのは、場合によっては命を奪っても構わないというものだ。
魔法の書を使用された場合、それは消失してしまうので回収は不可能。
それと、盗賊団のような心未熟な人間が高度な魔法を習得した場合、悪用される確率が高い。
そのため、クエスト受注者にそういった権利が与えられるわけだ。
……殺さずに捕獲できるなら、それに越したことはないのだが……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
渓谷沿いの山道を超えた先にある、怪しげなロッジ。そこが盗賊団のアジトだった。
「エミリア、ミュートとステルスを使え」
「はい、教官! ミュート! アンド、ステルス!」
エミリアは、補助魔法を唱える。
ミュートは足音を消す魔法。そして、ステルスは気配を断つ魔法。
これらは、隠密行動における基礎中の基礎だ。
相手に高度な魔力感知、及び、魔法結界さえなければ、これらは機能する。
もちろん、盗賊団ごときがそんな高度な魔法結界を使えるわけもない。
だが、油断はできない。もし、奴等がその魔法の書を手に入れていれば、それを発動していてもおかしくはないからだ。
もちろん、高度な魔法結界を破る魔法もある。だが、エミリアではまだ習得できない。
その時は、ノーバフでクエストを遂行することになる。
私たちはロッジ付近に侵入した。盗賊団の反応はない。
これは、盗賊団が私たちの侵入に気づけるスキルを所持していないことを意味する。
「よし、うまくいったぞ。突入は任せろ」
「教官! 待ってください! あそこに人が」
「なんだ?」
エミリアが指を差した。私はその先を確認する。
すると、ロッジの奥の広場付近に赤髪の魔法使いの姿を見つけた。
よく見ると、その周囲に盗賊団らしき人影がある。
そして、その盗賊団は、その赤髪の魔法使いに魔法攻撃を仕掛けていた。
魔法使いは、攻撃を必死によけるが、全て攻撃を食らっている。
「あいつら……寄ってたかって魔法使いを……くそう……私が変わりたいぐらいだ」
「教官……「助けたい」の間違いですよね」
「あ、ああ……その通りだ……この状況を見過ごすわけにはいかない」
私たちは、赤髪の魔法使いを助けるべく、裏手から盗賊団に近づいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
盗賊団は、魔法の書で手に入れたであろう高度な攻撃魔法で赤髪の魔女をいたぶっている。
「くそう……もういいだろ……早くここから消えてくれ……」
「あら、何か言いました? もっと私に魔法を撃ってくれないと……殺しますよ……」
「お願いだから……もうマジックポイントが……」
「もっと私を楽しませて欲しいわ。あなたたちの方から遊びたいと言ってきたんですから……」
「こうなったら……全力で倒してやる! 食らえ! バーニングサイクロン」
炎の竜巻が、赤髪の魔法使いを包み込む。だが、なぜか赤髪の魔法使いは嬉しそうだ。
「ああ、この熱が……ああ、ここちいい……私を熱くしてくれますのよ……さあ、もっとくださいまし!」
「くそう……倒れるか帰るか、どっちかにしてくれえ!」
「あら、もう終わりですの? まだ若いのに……」
「ふざけるな! 食らえ! ニードルダスト!」
今度は若い盗賊団員が広範囲に氷の弾丸をまき散らす。
「あああ……もったいないですわ! 本当にもったいない!」
赤髪の魔法使いは範囲に散らばる氷の弾丸を、俊敏な動きで全て受け止めた。
一体何を考えているのだろうか。
「あああ、満たされていきます……でも、もっとあるんでしょう……魔力が……早く出さないと……殺しますよ……」
「お、お願いだ……助けてくれ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一連の戦いを眺めていたエミリアが口を開く。
「教官、これは一体……」
「ああ、おそらく、あの魔法使い……」
──私と同類の臭いがする──
0
あなたにおすすめの小説
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる