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はじめてのモフモフ

第10話 盗賊団

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 日は落ちた。だが、炎が周囲を照らし、明るさが保たれている。屋敷の燃える音だけが辺りに響いていた。フィオラは、懐から国王からの依頼書をメリルに見せ、問いかける。

「なぜ、盗賊団の真似事をするニャ」

「その依頼書は……まさか、本当に……、じゃあ、こいつはそのために毛を剃ったのか!」

 メリルは、びっくりしたように、依頼書を覗き込んだ。そして、ペスの方を見る。ペスは依頼の為に剃ったわけじゃなく、ケゾールに刈られたわけだが、ここはそう思われていたほうが良さそうだ。

「話をちゃんと聞くのニャ。質問の答えになってないニャ」

「ああ、そうだったな。真似事でも、わたしたちは盗賊団だ。だから、この村とは関係ない」

「だから盗賊団を名乗ったニャか」

「そうだ」

 メリルは素直にフィオラの問いに答えた。

「つまり……どういうことだ?」

 僕は、そっとフィオラに問いかける。

「ハエール盗賊団は、ケゾールソサエティーの奴等をやっつけるためにクラウド村の住人が組織したってことニャ。クラウド村の住人がケゾールに抵抗すれば、子供たちが危うくなるニャ。けれども、盗賊団に襲われたっていうのなら、話は別ニャ」

「あ、なーるほど!」

 ──じゃあ、このハエール盗賊団は、僕たちの敵にならずに済むってことか。

 メリルは、その場で膝を落とし、落胆し、ペスを連れている男に一言声をかけた。

「その男を放せ。彼を問い詰めても何も得るものはない。計画は失敗だ」

「お頭!」

 盗賊団は、動揺していた。それに気づいたメリルは、「構わん。全ては私の責任だ」と、仲間たちに声をかけ、僕たちの方を向き、語った。

「ケゾールに扮した冒険者よ、我々はケゾールに反旗を翻すために盗賊団を装った。だが、元はこの村の住人であることに変わりはない。それと、全てはわたしの責任だ! 
この男のように、わたしをボコボコにしてくれても構わない。だが、仲間には手を出さないでくれ」

「なら話は早いのニャ。けれども、目的を知った以上は、お互い、良い方向で解決するのニャ」

「良い方法?」

「まず、わたしたちは、ハエール盗賊団がケゾールを付け狙う村人たちということを忘れるニャ。だから、あなたたちはこちらが冒険者ということを忘れてくれればいいニャ」

「わかった」

「どのみち柔人が本気だったら、あなたたちは無事では済まなかったのニャ。早めに気付いてよかったのニャ」

「しかし、それでは……おまえたちの仲間をあんな目に遭わせてしてしまった償いが……」

「そうだニャ。やられ損はもったいないニャ。ここは一つ貸しということでいいかニャ?」

 確かに、簡単に和解してはペスの立場がない。それにしても、このメリル。よく見ると、毛並みがふっわふわのもっふもふだ。

「もふもふ」

 ──ああ、さっきのメイミーだけじゃ、物足りない。そうか、もうもふが足りなかったんだ!

「柔人、どうしたニャ?」

「足りない」

「ま……まさか……だ、ダメなのニャ!」

 僕は、無意識にメリルの背中に飛びついた。

「ふっわふわーのもっふもふーのふっかふかぁ! 羊毛! ウール! 羊の毛! 最高~!」

 ──ウール100%! ほんのり暖かくて優しい肌触り。それでいて蒸れてない。最高の毛並み! モフるなら、まず、これだよなぁ……ああ、ウール最高!

「や、やめてくれ……」

「もっふもふ~もっふもふ~」

 思ったより毛が深い。体は痩せているのか。だが、そんなことはどうでもいい!

「ああ、そんなにされたら……」

 背中からお腹のあたり手を回す。どこもかしこもフワフワだ。

「もっふもふ~もっふもふ~」

「も……もう……」

「もっふもふ~もっふもふ~」

「もふぅ……モフゥ……モフゥ(エコーがかかったような声)」

 メリルはモフモフショックで倒れた。

「はっ……やってしまった……」

 耳を確認した。案の定、狼耳ではなくなっていた。羊耳だ! これでは、モヒカンになった意味がない!

 ステータスを確認する。


[
SRA 羊 LV 8
HP 100(210)
MFP --(1100)
+AP 15(21)
+DP 25(31)
+SP 12(18)
SK 突進 回復

▼(点滅中)
]


 今度は数値が変化して、スキルが2つになってる。今回は、やけに防御特化しているような感じだ。種族によってステータスがかなり変わるのか! 後で、フィオラのも確認しておかなきゃいけないな。

「「「お、お頭あぁ!」」」

 メリルの仲間が騒ぎ立てる。だが、戦闘の意思はないようだ。やはり、草食動物は戦いを好まないものなのだろうか。それと、耳についてのことをフィオラに話す。

「フィオラ、つい、やっちゃったんだけど……耳、大丈夫かな……狼耳じゃなくなっちゃった」

「心配ないのニャ。狼じゃなくても毛なしモヒカンなら信者なのニャ」

「な、なんだ……そんなに心配することでもなかったのか」

 ──それならそうと、先に言え! と言いたい気分だった。

 とにかく、大丈夫なら問題ない。ひとまず、新しく入手した回復スキルを使ってみることにした。もちろん、使う相手はペスだ。僕はペスの側に立ち、手をかざした。

「ペス、ちょっといいか」

「なんですか、柔人さん」

「ふんっ!」

 手に力を集中してみた。すると、毛玉のような白い光が手からいくつもこぼれ落ち、ペスの体を覆い始めた。ペスの体はみるみるうちに回復していく。

「すごいのニャ! 回復魔法かニャ?」

「これは……スキルかな」

「た、助かりました、柔人さん! すごいですね!」

「ま……まあね!」

 僕がすごいのか、それともスキルがすごいのか、まあ、あまり気にしない方がよさそうだが、なんであれ、無事回復してくれた。スキルに感謝しなくてはならない。

「お前たち! こんなところで何してる!」

 突然、大声を出して現れたのは、先程の村の屋敷の老人だった。彼は、メリルに近づき、彼女の顔を平手で叩いて叩き起こした。メリルは正気に戻る。

「メリル! まだこんなことを……このうつけ者め!」

「ああ、叔父上!」

「馬鹿なことをして、もしものことがあったらどうする!」

「叔父上、残念ながら、もう事は起こっているのです! 我々が動かなければ、子孫たちは帰ってきません。それに、今も地獄の責め苦を受けているやもしれません! このままほおっておくつもりなのですか!」

「うるさい! 村を出て行ったやつに言われる筋合いはない! (ゆっくりと柔人の方を向く)ケゾールの方々、ワシ等はこの輩とは、縁もゆかりもない赤の他人。どうか、怒りをお沈めになってください」

 老人は、こびへつらうような態度で僕に話しかけてきた。そんな態度を見かねてか、フィオラが話に割り込む。

「もういい、このことは本部に報告しておくニャ。沙汰を待つがよいのニャ!」

「なにとぞ! なにとぞぉ! ニャって何?」

「うるさいニャ! さっさと立ち去れニャ」

「は……はいぃぃっ」

 老人は、元来た道を去る。おそらく、フィオラはこの老人を場違いと判断したのだろう。老人が帰るのを見届けたメリルは、気まずそうな顔で言葉を発した。

「見苦しいものをお見せした。叔父上は叔父上なりに考えた結果、これ以上被害を増やさぬようにケゾールに従う決断をした。だが、そんな事では何の解決にもならない。だから……わたしたちは行動に移ったのだ!」

「だいたいの事情はわかったニャ。で、これからどうするのニャ?」

「わたしたちにも、何か、手伝わせてはくれないだろうか……」

「「「俺たちからも、お願いするっス!」」」

 盗賊団の団員も、その場で全員頭を下げた。

「さあ、大将……どうするニャ?」

 ──ここで僕に振るのか……このモフ猫め!

 ひとまず、メリルに言葉を返す。

「手伝ってくれるのは、ありがたいんだけど……大勢は……」

 さすがに複数となると、行動しずらくなりそうだ。だが、そんな僕の気持ちをよそに、メリルは声を上げた。

「報酬は要らない! 団員がダメなら、わたしだけでも、お願いする!」

 ──そこまで言われちゃ……断る理由がない。だが、この村の子供たちを救うというクエストが、おまけでついてくるのは言うまでもない。だが、それでも……この毛並みをないがしろにするなんて、僕にはできなかった……。

「わかった! じゃあ、仲間になってくれ!」

「ありがとう、よろしく頼む」

 こうして、メリルが僕たちの仲間になった。
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