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はじめてのモフモフ

第20話 柔人、アンナ姫にモフモフ

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 柔人は、アンナ姫の、立派なモフモフに飛びついた。

「な……なにをするのですか?」

 体を、大きなシッポに埋め、むさぼるようにしがみつく。

「もっふもふ~! もっふもふ~!」

 ──こ……これは……!!

「やめて……ください……」

「もっふもふ~! もっふもふ~!」

「でないと…………(アンナ姫の目が赤く輝く)…………あれ……なぜ私の力が……」

 アンナ姫が、今、何かしたようだった。今の目の光は、アンナ姫の洗脳能力なのだろうか。だが、僕にはたいして効果はないようだ。能力を使ってまで嫌がるアンナ姫を、僕はモフり続ける。

「もっふもふ~! もっふもふ~!」

「ああ、尻尾を……そんなに強く……しないで……」

 ──やっぱりだ! このフサフサ感! や、やめられないっ!

 僕は、その尻尾を、力いっぱいモフらずにはいられなかった。スベスベのツルツルでフサフサのフッカフカな、それでいて上品な香りと、手入れの手入れの行き届いた毛並みは、他を圧倒する。僕は、この瞬間のために、この世界に転生したのだと、心の底から思える瞬間だった。

「もっふもふ~! もっふもふ~!」

「もう……だめ……ふにぃ……」

 アンナ姫は、モフモフショックで倒れた。

「ふぅ……」

 今までで最高のモフモフだった。モフモフチャージで、僕の耳は今、この狐っ娘の耳に変化した。あとは、問題の能力だが……いったいどんな能力なのだろうか。

 もし、狐は化けるというので変身能力だとしたら、その場合は、ペレイにでも変身してこの場をうまくごまかす。もし、幻覚を見せる能力なら、何事もなかったように、ジッポーを欺けることができる。……と、そんな予想をするよりも、実際にステータスを見た方が早い。

 僕は、そっとステータスを開いた。


[
SRA 狐 LV 1
HP --(110)
MFP --(1100)
+AP 1(7)
+DP 1(7)
+SP 1(7)
SK 無敵

▼(点滅中)
]


「む……無敵……だと!?」

 ──あり得るのか! いや、もし仮にそうだとしたら……。効果時間は? 消費は? 被弾回数などの縛りは?

 僕はこのステータスを疑った。だが、どこからどうみても、無敵としか書いてない。なら、ありがたく使わせてもらうしかないだろう。

「柔人~、いけそうかニャ?」

「ああ、大丈夫! 僕にまかせて!」

 追手が、僕たちのいる倉庫の前まできた。ゆっくりとジッポーが近づいてくる。

「この中にいるんだな! もう逃げ場はない! ここで丸焼きになるか、それとも、全員毛を剃って我々に忠誠を誓うか、選べ!」

「そんなもの、決まってるじゃないか! 僕がお前を倒して、アンナ姫を助けるんだ!」

「ふん……そうか……ならば! ここで、丸焼きになれ!」

 ジッポーは大きく息を吸い込んだ。それと同時に僕はスキルを叫ぶ。

「【無敵】! 発動!」

 すると、僕の体は光り輝き、その光は激しく点滅を始めた。

 ──よくわからないが……これなら、いける!

 ジッポーは、炎を吐き出す。だが、僕はそれにひるまず、そのままその炎に突っ込んだ。炎は体を焼くことも、熱さを感じることもなかった。そのままジッポーに向かって体当たりをする。

 体がジッポーに触れる。その瞬間、ジッポーの体の質量を感じることなく、数倍の威力でジッポーが吹き飛んだ。

「ば……ばかなああああ! おまえ、いったい何をしたああああ!」

 ジッポーの体は、叫びながら勢いよく天井にぶつかり、そのまま床に落下する。ジッポーは気を失った。

 ──む……無敵だ!

 残りの黒装束のザコも始末しなければならない。いそいで、黒装束のやつらにも体当たりをする。軽く触れただけで黒装束の男たちは吹き飛び、ジッポーと同じ運命をたどった。

「【無敵】……なんて無敵な力なんだ……」

「さっすが柔人ニャ!」

「ああ、あなたたちって、かなりつよかったのね」

 フィオラとラビィもびっくりしていた。それもそのはずだ。余裕の勝利を収めたのだから。

 MFPゲージは、ものすごい速度で減り続け、0になる。体の点滅は止まり、ものすごい脱力感に襲われた。だが、この脱力感はすでに経験済みだったので、今回は気を失わずに済んだ。耳も消え、通常の状態へと戻る。
 たしかに、無敵は便利だが、持続時間と通常時の戦闘力を考えると、使いどころが限られてしまう。今回は倒せたからいいが、もっと相手が強かったら、どうなるかはわからない。

 しばらくして、アンナ姫が正気をとりもどした。

「わたしはいったい、どうなっていたのでしょうか……」

「き……気にしなくていいのニャ」

 アンナ姫は、モフモフショックが強すぎたせいで、さっきの記憶が飛んでいるようだ。思い出さないうちにここを抜け出したほうがよさそうだ。

「アンナ姫、脱出しましょう!」

「わかりました。よろしくお願いします」

 僕たちはいそいで宝物庫の通路を走り抜けた。フィオラはいろいろ物色しているようだが、危ない連中は、ほとんど倒したので、大丈夫だろう。

 宝物庫の階段を上る。あとは、大きな門を抜けるだけ……のはずだった。そこには複数の黒装束の信者たちと、教祖のペレイが待ち受けていた。

「な……見つかった……!?」

 ペレイは、金色の髪をギラつかせながら、話す。

「そこのあなた、何者ですか?」

「ぺ……ぺれい様!?」

 ラビィは、びっくりしてその場にへたり込む。

「何者かと聞いています。その肌、私のものと同質のもの。そして、色は違えど、同質の髪の毛。もしや、あなたは、わたしの…………」

 ──どうする……もうMFPも使い切った。再チャージには時間がかかる……。

「わたしの、婿になる方?」

 その言葉で、周囲のざわめきは一瞬静まり返る。ペレイは、顔を赤らめて目をそらした。思わず、僕はたじろぎ、びっくりしたような声を上げてしまう。

「な……なんだってえ!」

 ──これは……ペレイはなにか勘違いしている。なら、これを利用しない手はない。適当なことを言えば……。

「そ、そうなんだ。だけど、ここへ来たのはまだ早すぎた。なので、この子たちを連れて一度……」

「ペレイ様、騙されてはなりません! 今度の儀式の信者とアンナ・F・コンチェルトを逃がそうとしています! その証拠に、あの猫人を見てください! 怠惰な毛をたんまりつけた、ただの財宝泥棒です!」

「呼んだかニャ?」

 僕の後ろには、お宝を抱えて泥棒猫状態のフィオラの姿があった。おそらく、こいつのせいで今の苦労が台無しになった。

 ──終わった……このバカネコ……。

 頭を抱えて悩むしかなかった。すでにチャンスはピンチ状態だ。

「これは……どういうことなのですか、柔人さん」

 アンナ姫が、不安そうに小声で話しかける。

「ごめん! もう一度だけ、モフらせて」

 僕はこの時、本能でモフったのか、この後のためにモフったのか、よくわからない状態で、アンナ姫の尻尾にモフりついた。

「もっふもふ~! もっふもふ~!」

「な、なにをしているのだ! こやつは!」

 ペレイが怒鳴る。だが、僕にその声は届かない。

「もっふもふ~! もっふもふ~!」

「お願いですから、尻尾を強く握るのは……」

 アンナ姫の声も届かない。焦りと絶望感から逃れたい、その気持ちにまかせて尻尾をモフりつくす。

「もっふもふ~! もっふもふ~!」

「こんなところで……いやぁ!」

「ええい、怠惰なものを見せおって……」

 ペレイはその時、目を赤く光らせた。それは、アンナ姫が目を光らせた時と同じものだった。

「もっふもふ~! もっふもふ~!」

「なぜ……効かない! ならば!」

 ペレイは、視線をフィオラとラビィに向けた。その瞬間、視線を向けられた2人の目はうつろになる。その後2人は、アンナ姫をモフり倒してスッキリしていた僕を抑えつける。

 僕らは、その後、ケゾールソサエティーの黒装束たちに取り押さえられ、捕まってしまった。
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