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本編
第二話 少女
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──そして────
────目が覚めた──
「あれ……俺……今……寝てたのか……」
嫌な夢だった。よく思い出せないが、とてつもなく嫌な死に方をした。
それはともあれ、俺たちは、潮風が心地よい孤島に来ていた。
暑い日差しの照る夏の午後。
車の助手席から、海の景色を眺め、その景色の美しさに感動する。
「おい隆司、もうすぐ林道だ。窓しめとけ。蚊が入る」
「ああ、そうだな」
ドアに付いているハンドルを回し、窓を閉めた。
それにしても、さっきの夢はやけに怖かった。
その夢で一つだけ鮮明に覚えていることがあった。覚えていたのは、金色の鮫人間の置物だ。なぜか、それだけがはっきり脳裏に焼き付いていた。あれはいったい何だったのだろう。
俺たちの乗る車は、しばらくして林道に入る。わだちがひどく、荒れ地のような道だ。
車は上下左右に激しく揺れ、頭が天井にぶつかり舌をかみそうになる。
そんなひどい走行が祟ったのか、車は突然止まった。また、どこか故障したのだろう。こんな車でわだちの深い道を走破しようとすること自体に無理がある。
京谷は、あまりの悔しさに悲鳴を上げるように叫んだ。
「あーもう……エンストかよっ!」
「厳しいな……やっぱり、歩いて行った方がよかったんじゃないか(あれ、このシーン……どこかで……デジャヴ!?)」
「あーいらいらしてきた」
京谷は車から飛び出し、後部のドアを開けて工具を取り出した。
車のこととなると京谷はムキになる。この時だけは、触らぬ神に祟りなしだ。
疲れているのだろうか。
このエンストと京谷の一連の動作を一度見ているような、そんな不思議な感覚に襲われた。
京谷は車のボンネットを開け、黙々と修理を始める。
慣れた手つきでプラグコードを外し、プラグレンチで点火プラグを引っこ抜く。
「あ~あ、プラグがかぶっちまってるよ……ハハハ、しょうがねえな」
京谷は、故障の原因がわかって嬉しそうにしている。
もし、原因がわからなかったら、もっと荒れていただろう。
京谷は、胸のポケットからタバコを取り出した。
「ちょっと一服するか……」
「ここで吸うなよ。俺はタバコが嫌いだからな」
「わかってるよ! 上で吸ってくる」
京谷は近くにあった石段を上り、広い所で煙を吹かし始めた。
俺は車に寄りかかり、缶コーヒーを飲む。
やはり、何かがおかしい。このシーンも夢の中で経験している。やっぱり疲れているのだろうか。
こういった症状は疲れている時に起こりやすい脳のエラーだと誰かが言っていた。
あとで、精密検査でも受けたほうが良さそうだ。
しばらくすると、京谷がせかすような声で、俺を呼んだ。
「おい、隆司! ちょっと来てくれ。ここに蔵みたいのがある」
「蔵?」
「なんか、お宝あるかもな」
「おいおい」
俺はため息をついた。
ただでさえ、車の激しい揺れのせいで疲れているのに、つまらない事で呼ばれるといらっとする。
車の中で頭を打ち付けたせいでデジャヴが多発してるんじゃないか。
もし、頭がおかしくなったら、絶対に京谷のせいだ。
俺は、ゆっくりと、京谷の元へ向かった。
蔵は、外壁が傷んでいる。すぐにつぶれそうだ。
俺は、ゆっくりと空いている扉から中を覗くするとそこには奇妙な形をした金の像が飾ってある神棚があった。
「これといって、いい物はないな。変な鮫と首と腕のない金の像があるだけだ」
「なんか、祟られそうだ。俺は車の修理に戻るぜ」
「ああ、わかった」
夢で見た神棚と一緒だ。けれども、金の像が違う。
鮫と体は別々においてあり、体は夢でみたポーズと違っている。
「たしか、この鮫がこの体の首に……」
鮫と体の像をつかみ上げ、合わせてみる。
けれども、差込口が合わず、ハマらない。
「夢のようにはいかないか……」
何の収穫もなかった。像を元の場所にもどし、蔵を出た。
すると、蔵の外に女子中学生と思われる人物が立っていた。
黒のロングヘアで、わりと古風な雰囲気の少女だ。
少女は、ゆっくりと俺に近づく。
そして、ポケットから、ジャラジャラとした腕輪を取り出した。
それは、虹色に光る綺麗な魚の鱗と、勾玉がついた腕輪だった。
「これ……魔除け。腕に付けて」
少女は、そう言うと、腕輪を俺に差し出した。
「なんだこれ……何に使うんだ……」
俺はとっさにその腕輪を手に取る。
「おい、これ……俺にくれるつもりか?」
「綺麗な色のうちは大丈夫。全部黒くなったら……もう……」
「黒くなる……?」
「それと……の髪飾りを……探して……」
「髪飾り? 一体どういうことだ?」
「ああ、まずい……もう……」
少女は、慌てた様子でこの場を立ち去った。
「おい、待てよ……あれ、いない……」
少女を追うつもりだったが、見失ってしまった。
話の内容が途切れ途切れでよくわからない。
この腕輪が魔除けということと、髪飾りを探してということだけは理解できた。
(魔除けっていってたな……どうしてこんなものを俺に……それに彼女はいったい……)
腕輪を確認する。
不思議な輝きを見せる鱗。それと、2つだけ黒くなった鱗。
ちょっとざらついた感触の勾玉。
何の魚の鱗かはわからないが、高価なものであることは確かだ。
せっかくなので、左腕の時計の奥に腕輪をはめる。
でも、なぜ髪飾りを探さなければならないのだろう。
おまけに、どんな髪飾りかは聞いていない。
その髪飾りは、彼女にとって大事なものなのだろうか。
しかし、こんな綺麗な腕輪を俺に預けてまで探そうとしている髪飾りを俺は見てみたいと思った。
なので、一応頭の中にそのメッセージを入れておくことにした。
ゆっくりと車の所へ戻る。
すると、車に近づくにつれ、生臭い臭いが鼻を突いてくる。
「なんだこの臭い……魚か!?」
魚の腐ったような臭いだ。それでいて血生臭さもある。
なにか嫌な予感がした。
すぐに京谷の元へと向かう。
京谷は、車のボンネットに首を突っ込み、抱えるような姿をしていた。
「おい、車、治ったか?」
ボンネットの影から京谷の体が見えた。
だが……そこから先は首がなく、視界に入るのは首から流れ落ちる血と、赤く染まったエンジンルームだった。
「京……谷……!?」
俺は恐怖に我を忘れた……。
とっさに車の運転席の横に置いてある工具ボックスから、スパナを握りしめた。
(何か……いる……)
そう。何かだ。
その何かとは、人間かもしれない。
だが、この殺され方を見て、そうじゃない場合を考えた。
首が何かに食いちぎられたような、そんな切り口だ。斧や刀でできる切り口じゃない。
俺は、周囲を見渡す。だが、いくら探しても、京谷の頭が見つからない。
切断して持ち去ったなら、血が滴って、逃げた場所を教えてくれるはずだ。
だが、それがない。
ということは、何かが近くにいる。
生臭さが強くなる。
そして、荒い息遣いが聞こえてくる。
──クワセロ──
声がした。俺の真後ろからだ。
だが、その声に気付いた時、俺の視界は真っ暗な闇に飲まれていた。
首元に激痛が走る。
首から下の感覚がない。
そう……俺は……。
────目が覚めた──
「あれ……俺……今……寝てたのか……」
嫌な夢だった。よく思い出せないが、とてつもなく嫌な死に方をした。
それはともあれ、俺たちは、潮風が心地よい孤島に来ていた。
暑い日差しの照る夏の午後。
車の助手席から、海の景色を眺め、その景色の美しさに感動する。
「おい隆司、もうすぐ林道だ。窓しめとけ。蚊が入る」
「ああ、そうだな」
ドアに付いているハンドルを回し、窓を閉めた。
それにしても、さっきの夢はやけに怖かった。
その夢で一つだけ鮮明に覚えていることがあった。覚えていたのは、金色の鮫人間の置物だ。なぜか、それだけがはっきり脳裏に焼き付いていた。あれはいったい何だったのだろう。
俺たちの乗る車は、しばらくして林道に入る。わだちがひどく、荒れ地のような道だ。
車は上下左右に激しく揺れ、頭が天井にぶつかり舌をかみそうになる。
そんなひどい走行が祟ったのか、車は突然止まった。また、どこか故障したのだろう。こんな車でわだちの深い道を走破しようとすること自体に無理がある。
京谷は、あまりの悔しさに悲鳴を上げるように叫んだ。
「あーもう……エンストかよっ!」
「厳しいな……やっぱり、歩いて行った方がよかったんじゃないか(あれ、このシーン……どこかで……デジャヴ!?)」
「あーいらいらしてきた」
京谷は車から飛び出し、後部のドアを開けて工具を取り出した。
車のこととなると京谷はムキになる。この時だけは、触らぬ神に祟りなしだ。
疲れているのだろうか。
このエンストと京谷の一連の動作を一度見ているような、そんな不思議な感覚に襲われた。
京谷は車のボンネットを開け、黙々と修理を始める。
慣れた手つきでプラグコードを外し、プラグレンチで点火プラグを引っこ抜く。
「あ~あ、プラグがかぶっちまってるよ……ハハハ、しょうがねえな」
京谷は、故障の原因がわかって嬉しそうにしている。
もし、原因がわからなかったら、もっと荒れていただろう。
京谷は、胸のポケットからタバコを取り出した。
「ちょっと一服するか……」
「ここで吸うなよ。俺はタバコが嫌いだからな」
「わかってるよ! 上で吸ってくる」
京谷は近くにあった石段を上り、広い所で煙を吹かし始めた。
俺は車に寄りかかり、缶コーヒーを飲む。
やはり、何かがおかしい。このシーンも夢の中で経験している。やっぱり疲れているのだろうか。
こういった症状は疲れている時に起こりやすい脳のエラーだと誰かが言っていた。
あとで、精密検査でも受けたほうが良さそうだ。
しばらくすると、京谷がせかすような声で、俺を呼んだ。
「おい、隆司! ちょっと来てくれ。ここに蔵みたいのがある」
「蔵?」
「なんか、お宝あるかもな」
「おいおい」
俺はため息をついた。
ただでさえ、車の激しい揺れのせいで疲れているのに、つまらない事で呼ばれるといらっとする。
車の中で頭を打ち付けたせいでデジャヴが多発してるんじゃないか。
もし、頭がおかしくなったら、絶対に京谷のせいだ。
俺は、ゆっくりと、京谷の元へ向かった。
蔵は、外壁が傷んでいる。すぐにつぶれそうだ。
俺は、ゆっくりと空いている扉から中を覗くするとそこには奇妙な形をした金の像が飾ってある神棚があった。
「これといって、いい物はないな。変な鮫と首と腕のない金の像があるだけだ」
「なんか、祟られそうだ。俺は車の修理に戻るぜ」
「ああ、わかった」
夢で見た神棚と一緒だ。けれども、金の像が違う。
鮫と体は別々においてあり、体は夢でみたポーズと違っている。
「たしか、この鮫がこの体の首に……」
鮫と体の像をつかみ上げ、合わせてみる。
けれども、差込口が合わず、ハマらない。
「夢のようにはいかないか……」
何の収穫もなかった。像を元の場所にもどし、蔵を出た。
すると、蔵の外に女子中学生と思われる人物が立っていた。
黒のロングヘアで、わりと古風な雰囲気の少女だ。
少女は、ゆっくりと俺に近づく。
そして、ポケットから、ジャラジャラとした腕輪を取り出した。
それは、虹色に光る綺麗な魚の鱗と、勾玉がついた腕輪だった。
「これ……魔除け。腕に付けて」
少女は、そう言うと、腕輪を俺に差し出した。
「なんだこれ……何に使うんだ……」
俺はとっさにその腕輪を手に取る。
「おい、これ……俺にくれるつもりか?」
「綺麗な色のうちは大丈夫。全部黒くなったら……もう……」
「黒くなる……?」
「それと……の髪飾りを……探して……」
「髪飾り? 一体どういうことだ?」
「ああ、まずい……もう……」
少女は、慌てた様子でこの場を立ち去った。
「おい、待てよ……あれ、いない……」
少女を追うつもりだったが、見失ってしまった。
話の内容が途切れ途切れでよくわからない。
この腕輪が魔除けということと、髪飾りを探してということだけは理解できた。
(魔除けっていってたな……どうしてこんなものを俺に……それに彼女はいったい……)
腕輪を確認する。
不思議な輝きを見せる鱗。それと、2つだけ黒くなった鱗。
ちょっとざらついた感触の勾玉。
何の魚の鱗かはわからないが、高価なものであることは確かだ。
せっかくなので、左腕の時計の奥に腕輪をはめる。
でも、なぜ髪飾りを探さなければならないのだろう。
おまけに、どんな髪飾りかは聞いていない。
その髪飾りは、彼女にとって大事なものなのだろうか。
しかし、こんな綺麗な腕輪を俺に預けてまで探そうとしている髪飾りを俺は見てみたいと思った。
なので、一応頭の中にそのメッセージを入れておくことにした。
ゆっくりと車の所へ戻る。
すると、車に近づくにつれ、生臭い臭いが鼻を突いてくる。
「なんだこの臭い……魚か!?」
魚の腐ったような臭いだ。それでいて血生臭さもある。
なにか嫌な予感がした。
すぐに京谷の元へと向かう。
京谷は、車のボンネットに首を突っ込み、抱えるような姿をしていた。
「おい、車、治ったか?」
ボンネットの影から京谷の体が見えた。
だが……そこから先は首がなく、視界に入るのは首から流れ落ちる血と、赤く染まったエンジンルームだった。
「京……谷……!?」
俺は恐怖に我を忘れた……。
とっさに車の運転席の横に置いてある工具ボックスから、スパナを握りしめた。
(何か……いる……)
そう。何かだ。
その何かとは、人間かもしれない。
だが、この殺され方を見て、そうじゃない場合を考えた。
首が何かに食いちぎられたような、そんな切り口だ。斧や刀でできる切り口じゃない。
俺は、周囲を見渡す。だが、いくら探しても、京谷の頭が見つからない。
切断して持ち去ったなら、血が滴って、逃げた場所を教えてくれるはずだ。
だが、それがない。
ということは、何かが近くにいる。
生臭さが強くなる。
そして、荒い息遣いが聞こえてくる。
──クワセロ──
声がした。俺の真後ろからだ。
だが、その声に気付いた時、俺の視界は真っ暗な闇に飲まれていた。
首元に激痛が走る。
首から下の感覚がない。
そう……俺は……。
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