神様に加護2人分貰いました

琳太

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8巻

8-3

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 第二章 街の封鎖と幽霊屋敷



 俺、天坂風舞輝は幼馴染おさななじみの雪音たちを探して、この世界の二級管理神であるフェスティリカ神にもらったアドバイスから、ラシアナ大陸の南東にあるスーレリア王国を目指している。
 ラシアナ大陸の北西に位置するヴァレンシ共和連合の港に渡り、その後、断絶の山脈を迂回うかいして二つ目の国であるロモン公国へ行った。そこから中央山脈に沿って、ロモン公国の南東の端にある魔道具の町シャールを訪れた。
 シャールは鍛冶と錬金が盛んな町だった。なんとそこで召喚された異世界人で、しかも日本人だと思われるダーレンさんと出会ったのだ。
 彼は召喚される前の記憶を失っていたが、俺たち同様スーレリア王国によって召喚されたと思われる。だけどダーレンさんが召喚されたのは〝二十年前のこと〟だった。それは何を意味するのか全然見当もつかない。ただ、今そのことを考えたところで答えが得られるものでもないだろう。
 シャールを出発した翌日、アビハルの町を最後に国境を越えカーバシデ王国へと入った。これで、スーレリア王国までは残すところニーチェスとセバーニャの二国のみとなった。


 ロモン=カーバシデ間の国境の検問を通過する前に、箱車を収納して身軽に移動できるようにしておいた。ここから一番近い町は街道を東に進むのだが、道を無視してオロチマルに乗って南東へ向かう。

「どこかの町に入る?」

 ルーナの質問に対し、考えていたことを告げた。

「フェスカの間者と間違われても困るし、早めに冒険者ギルドで移動手続きをした方がいいだろう」

 とは言ったが、国境から一番近い町ゼトから離れる方角に進んでいる。
 アビハルの門番が「車で東に一日のところにゼトの町、南東に三日のところにホラレの町がある」と教えてくれた。俺たちが本気を出せば車で三日の距離も半日かからないだろうけどな。
 そうして昼過ぎに到着したカーバシデ王国最初の町ホラレは、そこそこ大きかった。
 カーバシデ王国は商業で栄えている国らしい。
 自国の特産品は少ないが、中央山脈のドワーフの金物、ロモンの魔道具、シアリチェスの海産物、オーランの穀物、ニーチェスの宝飾品、セバーニャの魔石やダンジョン品などなど様々なものを扱っているとか。東のものは西、北のものは南へと流通というか、商品取引で栄えているようだ。
 中央山脈のドワーフとロモンのシャールに近い――といっても車で六日ほどかかるが――このホラレの町は移動の拠点や、店舗より倉庫を置く場所の役割をになっているんだと、門の兵士が教えてくれた。
 そういえば、ヴァレンシの端っこにあるスクの町で会った行商人も、カーバシデ出身とか言ってたな。
 ホラレの町に入るとあちこちに荷が積まれた車が停まっていたが、どれもどこかに移動する商隊のもののようだ。そして、町の大通りには商店より宿が並んでいる。門兵の言う通り、ここはハブ的な町なので、メインストリートは商隊向けなんだろう。

『店はあんまりないようやな』

 ツナデは、俺が買い物に走るのを警戒しての言葉かな。

「この町はあっちこっちに行く商隊の中継地点みたいだからな」
「残念です。何かいい食材が手に入るかと思ったのですが」

 チャチャが残念そうだ。
 昼過ぎだが、今から出発するのか、せっせと荷物を積み込んでいる車がそこかしこで見受けられる。
 町の人が利用する市場は別にあるのだろう。チャチャは買い物を楽しみにしていたようだが、今から行っても時間的に売れ残りしかないはずだ。

「これだけ大きな町だし、地元民のための市場とかは、大通りからは外れた場所にあるんだと思う。でもシャールと同じ中央山脈沿いにあるから、このあたりの農作物は似たようなものじゃあないかな。ここよりももっと先の町で買い物した方が、見たことのない野菜とか売ってるかも」
「早く冒険者ギルドに行こうよ」

 ルーナがじれったいとばかりにオロチマルを急かした。けれどオロチマルはジライヤに乗る俺をかえりみて、歩く速度を合わせる。先に行かないことを覚えたのだ。よしよし、あとででてやろう。とりあえず移動手続きを済ませるか。
 冒険者ギルドの中はいていた。獣族は全くおらず、人族ばかり。あ、一人だけドワーフがいた。
 中の雰囲気ふんいきはどこも同じ……と言いたいが、ここは酒場が併設されていない。
 入ってすぐ横の壁にある依頼ボードを見ると、商隊の護衛依頼ばかりが並んでいた。行き先は千差万別のようだが。
 あたりをチラ見しつつカウンターへ向かう。時間的にカウンターはいていて、待つこともなく移動手続きができそうだ。

「ロモン公国の町アビハルから、ニーチェスへ向かう途中ですか。護衛依頼中ですか?」
「いや、依頼は受けていない」

 ここは通過するだけだと、受付職員に返答する。

「なら、ニーチェス方面へ向かう商隊の護衛依頼もありますよ」

 パーティーと言っても、メンバーは俺とルーナの二人。護衛するための戦力はオトモズもいるので十二分どころか過剰気味だが、普通は二、三台の荷車を護衛するのに五、六人はいる。俺たちだと、どうしても他のパーティーと合同受注になるんだよな。
 以前に受けたバルックさんの依頼も、赤のケルターニアとの合同だった。そもそも、ケルタさんの旦那さんと息子さんが一時的に抜けたための穴めだったしな。

「そうですか、残念です。このところフェスカの徴用部隊という名の盗賊のせいで、護衛の必要度が増してまして不足気味なんですよ。王都から北側に比ベると、こちらはまだマシなんですけどね」

 フェスカって、カーバシデでもそんなことやってるのか。

「もういっそ、三国同盟を組んで攻め込んでしまえばいいのに」

 受付職員がボソッと物騒なことを言っている。どうもフェスカが原因で物価が上昇しているらしい。
 それだけではなく、護衛依頼の増加と人員不足で、仕事の量も増えてるようだ。そりゃあ愚痴ぐちも言いたくなるよな。
 ちなみに、三国とはロモン、カーバシデ、オーランの三国を指す。フェスカの東側と国境を接しているシアリチェスはすでにフェスカに取り込まれ、遠からず国名が地図から消えるか、国土が半分以下になるかもしれないらしい。
 あれ……やっぱり物騒すぎる国だぞ。
 職員からそんな愚痴ぐちとともに情報を得つつ、移動手続きが終わったのでさっさと出ていくことにする。
 そんな俺たちに、最後とばかりに、職員は去り際に声をかけてきた。

「あ、道中フェスカの連中が現れたら、思いっきりやっちゃってくださいね。手加減しなくていいですよ」

 あの受付職員、かなりご立腹のようだ。

「お待たせ」

 外で待たせていたジライヤたちをちょっともふってから、大通りを東に進み、そっちの門から町を出ると、ちょうど同じ方向に向かって出発する商隊とかち合った。
 ペリシュリンホースに二台の車を引かせている。ペリシュリンホースはカーバシデではポピュラーな輓獣ばんじゅうなのかもしれない。
 しばらく普通に歩いてから、ジライヤに騎乗しようとしたところで御者ぎょしゃに声をかけられた。

「兄さんたち冒険者かい? どこまで行くんだ」
「ああ、ニーチェスの方に」
「随分と強そうな従魔を連れてるねえ。そんな狼、このあたりじゃ見かけないよ」

 御者ぎょしゃはちらりとジライヤの従魔のしるしを見て、安堵あんどするように息をく。
 ペリシュリンホースについている従魔のしるしを見ると、随分魔石部分が小さい。
 いや待て、なんかおかしい。


 =従魔のしるしもどき・赤 状態・劣化
 従魔のしるしに似せてあるが、中央の魔石には何も付与されておらず、ただの飾りである。アリバが作成した装飾品=


 ……装飾品って、それいいのか。

『イエス、マスター。ペリシュリンホースは気性が穏やかで、従魔のしるしが義務化される以前から、輓獣ばんじゅうとされてきた種です』

 必要がないのに義務だから〝もどき〟で誤魔化ごまかしているのか。

『なんら、おらになんかようけ?』

 じっと見ていたせいか、ペリシュリンホースがヒヒンヒンといななく。

「いや特に用はないよ」
「ん、なんか言いました?」

 ペリシュリンホースへの返事を、自分に語りかけられたと思った御者ぎょしゃが聞いてきた。

「あ、別に、それじゃあ先を急ぐので」

 ジライヤには先にルーナが乗っていたため、その後ろにまたがると駆け足をお願いする。
 ツナデはオロチマルに乗って、飛びねない走りをするように注意していた。オロチマルが困り顔で俺たちのあとをついてきているのを見つつ、商隊の荷車を引き離す。


 中央山脈に近いカーバシデ王国南端の街道に沿って移動する。
 ホラレの町を出た時点で午後も遅い時間だったせいか、すぐに日が暮れてきた。
 街道をそれて人目につかない場所で一泊。翌朝は全員でオロチマルに乗り、街道を無視して東へ進んだ。空を飛ぶなら道を無視した方が速いからな。
 カーバシデを一気に横断し、ニーチェス側の国境まであと半分というところで、大きな湖の隣に石壁に囲まれた街が見えてきた。
 中央山脈に近いからか、石材が豊富なのかも。その街はしっかりした城壁に囲まれていた。山脈側からいくつも川が流れていて、合流して一本の本流となったものが大きな湖に流れ込んでいた。

『イエス、マスター。石材もそうですが、山や森はモンスターの生息地です。山脈に近いということは、その分モンスターの被害もあると思われます』

 大きな街はしっかりモンスター対策がされている。というか、なかったら生活しづらいよな。
 街まであと二キロメートルというあたりで、箱車を出しジライヤとオロチマルの二頭引きにする。実際の重さは減重の魔道具を使っているから軽いけど、箱車の見た目を考えて二頭引きである。
 今日はこの街で一泊して、明日買い物をしてから出発するかな。
 門ではいつものごとくギルドカードを見せて、やっぱり水晶玉チェックもされたが、獣族誘拐団の〝女教皇の使徒〟の影響はないようで「子供の獣族云々うんぬん」との注意はなかった。「珍しい従魔をつれてるんだな」と、そっちについては言われたが。

「領都エンテスへようこそ」

 手続きが終わり、門番さんがそう言って通してくれた。
 ……あー、ここ領都だったかあ。領都は避けたかったんだけど、今さらやっぱり入るのやめますって言うわけにいかないよな。
 ロモンじゃあなくカーバシデだし、国が違えば状況も違うかも。うん、そう思っておこう。
 門番さんに冒険者ギルドの場所を聞き、箱車を進めようとしたとき、通りの向こうからいかつい馬が走ってきた。

「伝令! 閉門しろ。今すぐ閉門して誰も外に出すな! 領主様の命令だ。今すぐ閉門しろ」

 いかつい馬に乗っていたのは、上等な服を着た、三十がらみの男性だった。お役人か貴族っぽい。
 幸いというか、入門のために並んでいたのは俺たちだけ。昼前の中途半端な時間だったせいなのかはわからない。だが、外に出ようとしていた団体さんがいた。
 門兵たちが言われるまま門を閉じはじめたのを見て、並んでいた人たちが騒ぎ出す。

「どういうことだ? 俺たちは依頼を受けて、これからベシューまで行かなきゃならねえんだ」

 最後尾に並んでいたグループは、これから依頼に出る冒険者だったようだ。馬上の男性に向かって大声を張る。
 役人っぽい男性が口を開こうとしたとき、門の横の待機所のようなところから、兵士が数人あわただしくやってきた。

「ヘンレイ様、何事ですか」

 兵士の一人――他より上等っぽい鎧をつけているところを見て、隊長とかかな――が、馬上の男に声をかけた。様呼びだし、やっぱりお偉いさんのようだ。
 ヘンレイ様と呼ばれた男はふところから丸めた紙を取り出し、隊長らしき兵士に差し出す。

「賊が領主邸に入った。閉門して誰も外に出すなとの領主様のご命令だ。すぐに門を閉鎖しろ」

 すでに閉じかけていた門扉もんぴは、ヘンレイ様と呼ばれた男の言葉が終わる前に、かんぬきが下ろされた。
 ヘンレイ様とやらは馬上から冒険者をめつける。

「冒険者どもよ。領主様から各ギルドに布令ふれが出される。依頼は取り消しできるだろう」

 門に集まっていたものは口々に不満や不安を漏らすも、領主命令ということで、それ以上お偉いさんに直接文句を言うものはいない。

「あの、すみません」
「なんだ」

 俺は御者ぎょしゃ台から降りて、ヘンレイ様とやらに声をかける。

「俺も冒険者です。あの、いつ頃門が開きますか」
「そんなことは賊に聞け。やつらが捕まるまでは当分開門できん」

 なんですと!
 そしてヘンレイ様はいかつい馬の手綱たづなを引き、走り去っていった。

「『フブキ?』」

 箱車の中にいたルーナとツナデが、御者ぎょしゃ台から顔をのぞかせ、俺の名を呼んだ。

「えーっと」
『どうしたの、まま?』

 顔を向けてきたオロチマルの首元をでてみる。

「なんか、当分この街から出られそうにないみたいだ」
「そ、そんな……」

 ショックを受けているのはチャチャだった。
 街から外に出られないってことは、その間ログハウスを出せないってことだもんな。
 どうしよう、これから……

「とりあえず冒険者ギルドに行くか」

 再び御者ぎょしゃ台に上がり、ジライヤたちに進むように言う。とにかく移動の手続きでもするか。やっぱり領都とか王都とかは避けるベきだったな。
 辿たどり着いた冒険者ギルドはごった返していた。
 閉められた門は俺たちが入ってきた西門だけではない。東西南北全ての大門に加えて、他にいくつかある小門も全てが閉められたようだ。
 依頼で外に出るはずだった冒険者が戻ってきて、依頼取り消しの手続きをしているようだ。
 しばらく待ったが、一つ一つの手続きに時間がかかってるらしく、なかなか順番が回ってこない。

「後回しにして先に宿を取るか」
「そうだね」

 ルーナと二人、冒険者ギルドの中で一時間以上待っていたが列の進みは悪く、あきらめた。けれどその間に街の様子が変わっていた。街中まちなかから人の姿が激減していたのだ。

「なんか人間が、ものすごい勢いで移動していったで」
『みんな、巣に帰っていった』

 街の様子を眺めていたツナデとジライヤが言うように、街の人は家に急いで帰ったのだろう。今も少ないが急ぎ足で移動する人がいる。

「もしかして、閉門だけでなく、戒厳令的なものも出たのかな」
「何それ?」
「外に出ないで家の中にいなさいって偉い人が命令するんだ」
「ふーん。そんで人おらんようになってしもたんか」

 本当のところはわからないが。とりあえず厩舎きゅうしゃのある宿を探すか。


「え、いてないんですか」
「ああ、領主様のお布令ふれが出て、街の外に出られなくなった行商人とかが戻ってきてるんだ。厩舎きゅうしゃも部屋もまっちまったよ」

 これでお断りされた宿は三軒目。冒険者ギルドで時間を食ってる間に、宿がまってしまったようだ。先に宿をとっておけばよかった。
 そして箱車が何気なにげに足を引っ張っている。
 でも街で泊まるときもキッチンカーでチャチャに食事作ってもらってるから、必要だったんだよ。
 宿屋で他の宿を紹介してもらうも、すでに満室というパターンだ。初めての街ということで宿屋の場所を探しつつ移動しているため、時間もかかってしまう。

「何日くらい引き留められるかわからないし、いっそゲートで外に出るか? いや入った記録があるのに出た記録がなかったら、問題の賊に認定されかねない。賊本人じゃなくても盗んだものを持って逃げる運び屋とか」

 残念なことに、ジライヤとオロチマルの二頭引きは目立っていた。
 門兵にも「珍しい従魔だな」って言われたし。

『まま、お腹すいたの』
「ごめん、オロチマル。もうちょっと待ってて」

 街をぐるぐる回っているうちに昼を回ってしまった。どこかに駐車できそうな場所はないかな。調理はできないけど、食ベ物ならあるから、昼食にしたいな。
 いつの間にかちょっとうらぶれた感じの場所に来た。
 少し離れたところには立派な家が立っているのだが、そこだけくたびれたというか、全く手入れのされていないお屋敷があった。

「ナビゲーター、マップ見せて」

 視界に現れたマップを見ると、人はおらず空き家のようだ。この家の裏側に広い庭があった。
 周囲は塀に囲まれており視界はさえぎられている。ちかけの植物があるのは庭園の跡だからだろうか、広さはかなりあり、ログハウスも十分出せるな。植物は枯れてるので、更地にしてもいいんじゃないか?
 表側は鉄柵で、門扉もんぴには〝売り、貸しについては商業ギルドまで〟と書かれていた。

「いっそ借りるか」

 いくらくらいかかるかわからないけど、お金が足らなかったらワイバーンの素材や魔道具を売ればいいし。

「空き家みたいだから、車を停めても文句言われないかな」

 屋敷の裏に回ってとりあえず昼食にすることにした。お昼をここで食ベてから商業ギルドに行って家を借りられるか聞いてみよう。
 商業ギルドは冒険者ギルドの向かいにあったから、随分戻ることになるな。


「家を借りたいんだが」

 商業ギルドは冒険者ギルドほどではないにしろ、やはりごった返していた。
 街から出られなくなったのは商人も同じで、職員が右往左往してあわただしく動き回っていた。
 そんな中、担当が違うのか、思ったよりも早く対応窓口に辿たどり着いた。

「広い庭があるとありがたいんだが。建物はぼろくてもいい。最悪テントを張って寝泊まりするし」

 大型従魔がいるが街から出られないため、運動させられる場所が必要だと理由をつけた。

「そうですね、ご希望に沿う物件が三軒ほどありますが、期間はいかほどでしょう?」
「領主様次第だな。開門がいつになるか見当がつくか?」
「今のところは情報不足で」

 商業ギルドにもまだ情報は入ってきていないようだ。

「宿がいっぱいで取れないんだ。できれば庭だけでもいいので、今日から利用したいと思っている」
「でしたら一軒、ご希望に添える物件がございます」

 職員は手元の資料を仕分けしながら答えた。

「ちょっと特殊な作りでして、そのせいで借り手も買い手もつかず、空き家になってかれこれ五年。いっそ取り壊すかとの案も出てまして。けれど屋敷の方は頑丈がんじょうで、大型従魔が走り回っても大丈夫ながあります」

 おすすめの物件があるとプッシュしてきた。

「まあ、あれな場所ですけど。いえあの、ほこりを気になさらないなら、庭にテントを張らずとも大丈夫ですよ。内見に行きましょうか、そう遠くはありませんからすぐ行きましょう」

 という感じで、すごく乗り気だった。こちらとしてはありがたいのだが、外に出るときの他の職員の目が怖かった。
 たぶん、閉門の関係で忙しいのに、一人抜けるのがうらやましいのだろう。
 近いと言ったが、商業ギルドよりも街の中心に近い、そこそこ高級住宅地に目的の屋敷はあった。昼食をとった空き家とは別の方向だったので、違う物件のようだ。
 うちの車に職員も乗せてガタゴトと街中まちなかを移動することになった。
 職員はハッシュと名乗り、俺と並んで御者ぎょしゃ台に座った。道案内をしつつ目的の物件について説明を受けた。
 そこは、領主に仕える騎士の一族が住んでいた屋敷だったそうだ。
 何代か前には騎士団長を務めたこともある家系だったが、十年前一人息子が亡くなり後継がとだえたという。
 そのくだんの騎士団長が、中庭を囲む形で敷地いっぱいに建物を建てた。そして自宅で鍛錬たんれんができるよう中庭を鍛錬たんれん場にしたそうだ。
 一階には玄関を入るとエントランスと階段、鍛練場を囲む回廊だけで、部屋がないのだとか。
 厨房などの設備系は地下、住居部分は二階と三階という造りになっている。
 そして目的のお屋敷に到着する。
 周囲のお屋敷と違って前庭がほとんどなく、車回しのためのスペースと丸い花壇、そして車庫と厩舎きゅうしゃがあるくらいだった。一応鉄柵は前庭部分にだけある。
 屋敷は敷地ギリギリだが、地下は半地下のような感じで、膝のあたりに明かり取り用の小さな窓がついていた。鉄格子付きなので出入りはできない。
 一階の上の方にも同じような鉄格子付きの窓があるが、半地下があるせいで一階の窓の高さはかなり上についている。
 先に降りたハッシュさんが門扉もんぴの鍵を開けてくれたので、箱車を前庭に停めた。
 普通貴族のお屋敷というのは、表を綺麗きれいに見せるため、車庫や厩舎きゅうしゃは裏に作るっぽいが、ここは表にあった。
 騎士団長は質実剛健な人だったようだ。
 ハッシュさんが玄関の鍵を開けている間に、ジライヤとオロチマルの牽引具を外す。

「ちょっとほこりっぽいですが、状態はいいですよ」

 床が抜けたり、壁に穴があいたりとかはないってことらしい。借り手がいないというか、需要のないタイプの屋敷なだけで、建物自体は丈夫で壊れてもいない。
 一階は住居ではないから、従魔も入っていいみたいなので、ジライヤとオロチマルも一緒に中に入ることにする。


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