黒柴犬召喚

第一章 増える黒柴犬

28話 冒険者協定

　遠征を開始して、10日ほどが経った。

　突然だが、アメリカを含まない、欧州、中国、日本を含む18カ国が、国際的な協定を結んだことを発表した。
　同時に、他人の祝福を視る祝福の存在と、それによって判明したレアリティ分布も公表された。

　祝福のレアリティは、6段階。
　LR（虹）、UR（黒）、SR（金）、R（銀）、UC（銅）、C（灰）
　これ以外の存在が否定された。
　SSR名乗ってた著名人、ざまぁ。

　大半の人がR、UC、Cを授かっていて、SRは2000人に一人。
　URは30万人に一人。LRは500万人に一人程度。

　思った以上に、SR、UR、LRの人数が少なかった。
　自称している人の比率で考えると、これの10倍でも少ないイメージだったんだけどな。

　あってもおかしくなかったけど、あっちゃったかぁ。
　他者の祝福を見れる祝福。
　会見を聞く限りでは、希少ではあるけど日本国内だけでも数人は居るようだ。
　気軽に町歩けないな。特に都心。
　黒柴犬たちもまだ都心には派遣してないけど、先々も避けたほうが良いかもな。能力持ちの多そうな地域は。

　で、終結した協定だが。
　日本では国際冒険者協定、という名称になっていた。
　冒険者とはなんぞやって感じだが、要は祝福を授かった者たちの呼称だ。
　もちろん、日本限定。
　それぞれの国で呼び方が違っているが、日本では不用意に優劣感や劣等感を刺激しないように、冒険者という呼び方で統一されることになった。
　超越者とか祝福されし者とか言っちゃうと、持つものと持たざるものの間で軋轢が深くなっちゃうからね。公的機関やマスコミでは使っちゃいけない言葉になっている。

　協定の内容は、シンプルに自国民の祝福を管理しましょうという感じ。
　半年から1年の準備期間の後、協定に参加した国では、冒険者資格を持たない者がダンジョンに入るのも、入らせるのも違法となる。
　どのような人物に、どのような条件で冒険者資格を発行するのかは、各国の裁量に任されている。
　とはいえ、祝福の確認が協定参加国で義務付けられるのは、ほぼ間違いないだろうな。
　日本政府の会見では断言しなかったが否定もなく、その必要性を遠回しに説いていた。というかさ、絶対すでに確認しまくってるよな。祝福見れるなら。

　冒険者が協定に参加している国に移動する場合は、冒険者であることと、そのレアリティを相手国側に通告する義務も協定には含まれていた。なおかつ入国側が求めた場合は、鑑定を受ける義務も発生する。また、理由の公表なく入国を拒否することも許される。

　更にダンジョンがシーズン制であることも発表された。
　日本政府も八大ダンジョンの全てで最下層に到達済み。
　安定した攻略を行える態勢が整っているが、現時点では先に進むことは不可能で、ダンジョンを消す手段はない。セカンドシーズンで何が起こるかは不明。何時起こるかも不明。あらゆる状況を想定して、即応する体制を整えていると答弁。

　民間からの冒険者募集は、一旦停止となった。
　冒険者資格の制度を整えてから、改めて募集するそうだ。

　アメリカが協定不参加の理由は、アメリカに聞いてくださいと答弁。

　まあアメリカはヒーロー制度や保安官制度など、独自のルールを幾つも発令してるからね。
　その上で、細かなルールは連邦政府ではなく、州の裁量に任せられている。
　祝福を秘匿する権利なんかは、まさに州の裁量だ。
　自由と統制のバランスは、州ごとにすでにかなり違っている。
　冒険者を増やしまくっている影響で、テロと呼べる大事件が頻発してる中、気軽に連邦政府が強権を発動することは出来ないだろう。
　それ以前に、発動する意義がない。
　USAはUSAなのだから、USAな道を邁進している。
　他国の事情にあわせてやる必要はないのだ。

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　数日ネットをさまよった感じ、祝福を政府に見られて管理されることは、日本ではかなり好意的に受け入れられているようだ。
　犯罪を犯すつもりのない真っ当に生きている日本人には、そもそもデメリットないもんな。
　世界各地で勃発している祝福テロを未然に防げるなら、むしろ歓迎したいという声が大きい。
　俺もまあ、自分がまだ祝福を授かってなかったらそう思ってたわ。
　ヤバい祝福持ってる奴はちゃんと国が把握して管理して欲しいわ。

　……やだなぁ。
　冒険者法が設立したら、俺完全に犯罪者じゃん。
　ヤバい祝福持って好き勝手してる側としては、マジでこれは嫌ですよ。

　祝福を見られてもいいから、はやく冒険者法を成立させて、冒険者の募集を再開しろって声がネットでは多勢を占めている。
　政府やマスコミは慎重に議論する必要があると、与野党で熱い議論を戦わせているが、国民のハヨセイ圧が強すぎて、早期妥結も有り得そうな空気感。

　あと、英雄系、常道系、退廃系なんて分類も公に確立された。

　ネットでは結構前から似た表現はあったんだ。
　五大魔王みたいにヤバい奴らは、明らかに悪そうな祝福を授かっていたからね。その手の祝福は邪悪系とか宿敵系とか言われてて、見つけ次第排除しろとか過激な投稿もあった。

　でまあ、実際に悪そうな祝福授かってる人の凶悪犯罪率がすこぶる高いことと、犯罪者がその手の祝福を授かりやすいことも、鑑定によって明らかになったと、国際機関によって公表されたのである。

　そんな英雄系、常道系、退廃系の人口比、レアリティ配分だが。

　英雄系は人口の1％以下。
　聖女や大将軍、天剣のような良さそうな祝福を英雄系と呼ぶ。
　全員がR以上で、同じRでも常道系の人より強力な祝福を授かっている。

　常道系は人口の80％を占める。
　騎士とか戦士とか、大工とか跳躍とか、普通っぽい祝福の総称。
　レアリティはほぼR以下で、極々まれにSR戦士などが居るらしい。

　退廃系は人口の20％程度。
　CやUCも居るが、SR以上の人数は、英雄系と拮抗している。

　現状、URとLRは英雄か退廃しか居ない。

　日本では退廃系の比率は10％程度と国際社会の中では低く、LRは存在しないそうだ。まあここに居るのだが。もしかしたら怠惰が英雄系に分類される可能性も、……ないよなぁやっぱり。

　退廃系の人をどう扱っていくか、世界中で色んな肩書持った人たちが議論している。
　日本では人権重視。みな平等。
　年1回の祝福鑑定を受ければ、他の人と同列に扱うべきで、あらゆる権利は一切制限すべきではないとの論調が強い。ただしまだ犯罪を犯してない人限定で。
　また、退廃系だけ鑑定を義務付けるのは不平等なので、全員の祝福鑑定を義務付けるべし。そして他人の祝福をみだりに吹聴したり、祝福を理由とする人格攻撃には、罰則を設けるべきである。
　と政府やマスコミはそんな論調だが、ネットでは退廃煽りがブームとなっている。

　やだなぁ。
　ただ俺は健康に何一つ問題はないけど親の遺産で怠惰に働かず日々をエンジョイしてるだけの善良な日本国民なのに。
　犯罪者みたいに扱われるのは心外ですよ。
　まあよく考えたら現時点でも勝手にダンジョン入ってるから犯罪者か。
　じゃあ何の問題もないな。
　あっても気にしないし出頭なんてしないけどさ。

　一生遊んで暮らせる金を努力なく手に入れた俺にとって、人生は丸ごと余暇であり娯楽なのだ。リアルがゲーム化した今、すこぶる最強の祝福を授かった今、このゲームを堪能しないなんてありえない。
　そもそも俺には失って困る社会的地位なんて無いしな。
　後ろ指さされるのは慣れているし、俺には刺さらない。むしろそれを心地よく感じれるのがこの俺だ。

　もっともっと黒柴犬を増やして強化して、ああ楽しみだ。
　黒柴犬に気づいた世界がどう反応するのか。
　楽しみでしかたねーわ。

　なんだかんだで俺も退廃系なんだろうなって自覚はある。
　まあ、なんでLR？　とは思うけど。
　俺ぐらいだとRが妥当だと思うんだけどな。
　レアリティは完全にランダムなのかねぇ。