れんしう 短編

手井 或治

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4回目 冒頭一文:あの日の天気が晴れだったなら、僕はきっとこの街にはいなかった。

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あの日の天気が晴れだったなら、僕はきっとこの街にはいなかった。
否、きっとじゃない――確実に、いなかった。
吹雪に、襲われさえしなければ。
そうすれば、行商人である僕は次の街へ着いていたし――なにより、相方を失うこともなかった。
移動の途中で吹雪に見舞われた僕達は、すぐに安全な場所を探した。けれど、雷まで落ちてきて、その衝撃で滑り落ちてきた雪の奔流に僕達は飲み込まれた。
視界は白く染まり、身体は感覚を失った。このまま死ぬのか、なんて考えていると、少し経ってから誰かに助けられた。
それから、この街にやってきて、相方の死を知り、壊死した右脚を斬り落として。
全てを失った僕は、この街で慎ましやかに生きている。
気立てのいい娘と結婚し、子を儲けて、慎ましくとも幸福な生活は、次第に心の傷を埋めてくれたけれど。
今日もまた、空が荒れる。暗雲が垂れ込め、雷鳴が響く。風は轟々と音を立て、氷雪が叩きつけるように落ちてくる。吹雪が、来る。
こんな夜には、あの時のことを思い起こす。
そして、その度に僕は一つだけ、夢想する。
あぁ、もしも。
あの日、吹雪さえ起こらなければ。
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