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♯1 『御厨しずくの日常』
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東京都・端午町
都内に存在する五大異能都市のうち、ちょうど中央に位置するこの街は、『仕事の街』として有名だ。
その端午町の中央街にある『海連社』は、日本異能界で最も有名な出版社である。
業務内容は、新聞や雑誌、書籍の発行。つまり、非異能界――通称『〝N〟』の出版社とほとんど変わらない。
しかし、異能界の出版社である事から、当然取り扱う対象は〝N〟の出版社とは異なってくる。
「先輩、先輩!」
紙束でごみごみとした室内に、若い声が響く。
彼女の名は御厨しずく。入社二年目で、未だ見習いに近い立場にいる記者だ。
「先輩、先輩! 起きてください!」
「あ? ああ、」
現在午前九時。〝N〟と変わらず、異能界の出版社も朝は遅い。
会社に泊まっていなければ未だベッドの中の社員も少なくない。
「先輩! 先日取材してきたものを記事にしてきたので、見てください」
「は? もう書いてきたのか?」
取材から帰ってきたのは一昨日の夕方すぎだ。
彼らが担当するのは情報誌『週刊 小奇譚通信』。
扱う内容は、新聞とは違い、ホットで旬なニュースばかりとは限らない。
政治関係の大きな話題に乗る事もあるが、ほとんどは、過去の珍しい話や感動の話。事件・災害の振り返りや、それらについての専門家からの対策などが主だ。
――つまり、極端なことを言えば急ぐ必要はない。
しずくの上司・泰堂大輔は二十代後半。上背で女性受けのしそうなマスクなのだが、切るヒマがなく伸びた髪と無精ヒゲのせいで、実際にそういうことはほとんどないようだ。
大輔はさっと目を通す。
「……ああ、ちゃんと書けてるようだな」
「そんなテキトーにではなく、ちゃんと読んでください」
大輔はしずくの教育担当である。
しかし教育する全く気はないのか、しずくの書いた記事をなかなかまともに読んではくれなかった。
「お前のことだ、いつもちゃんと書いてんだろ? 上が通せばそれでいいじゃねえか」
「そんなこと言わず、お願いします」
しずくは〝N〟出身だ。
数年前まで異能の存在を知らず、〝N〟の高校――それも進学校に通っていた。
しかし高校二年のある日、突如、超能力が発現。
まもなく、『スカウト』を名乗る女性から異能・異能界の存在を知らされ、異能系高校に転校を余儀なくされた。
ただ、初めは戸惑ったものの、現在では至って前向きだ。
〝N〟出身の自分だから伝えられることがある。
――という信念のもとに海連社に就職、記者として日々、頑張っている。
「私の――『〝N〟出身者』の書いた記事が、先輩のような異能界出身の方々にどう映っているのか、知りたいんです」
「そんなの、読者アンケートでも見ろよ」
そう言って大輔は原稿を返そうとした。
しかし、しずくもこの程度で折れる気はない。
今一度「お願いします」と真剣な目を向け、しっかりと頭を下げた。
すると、溜息が聞こえてきた。
しずくが顔を上げると、大輔は仕方ないとばかりに、ページに目を落とすところだった。
都内に存在する五大異能都市のうち、ちょうど中央に位置するこの街は、『仕事の街』として有名だ。
その端午町の中央街にある『海連社』は、日本異能界で最も有名な出版社である。
業務内容は、新聞や雑誌、書籍の発行。つまり、非異能界――通称『〝N〟』の出版社とほとんど変わらない。
しかし、異能界の出版社である事から、当然取り扱う対象は〝N〟の出版社とは異なってくる。
「先輩、先輩!」
紙束でごみごみとした室内に、若い声が響く。
彼女の名は御厨しずく。入社二年目で、未だ見習いに近い立場にいる記者だ。
「先輩、先輩! 起きてください!」
「あ? ああ、」
現在午前九時。〝N〟と変わらず、異能界の出版社も朝は遅い。
会社に泊まっていなければ未だベッドの中の社員も少なくない。
「先輩! 先日取材してきたものを記事にしてきたので、見てください」
「は? もう書いてきたのか?」
取材から帰ってきたのは一昨日の夕方すぎだ。
彼らが担当するのは情報誌『週刊 小奇譚通信』。
扱う内容は、新聞とは違い、ホットで旬なニュースばかりとは限らない。
政治関係の大きな話題に乗る事もあるが、ほとんどは、過去の珍しい話や感動の話。事件・災害の振り返りや、それらについての専門家からの対策などが主だ。
――つまり、極端なことを言えば急ぐ必要はない。
しずくの上司・泰堂大輔は二十代後半。上背で女性受けのしそうなマスクなのだが、切るヒマがなく伸びた髪と無精ヒゲのせいで、実際にそういうことはほとんどないようだ。
大輔はさっと目を通す。
「……ああ、ちゃんと書けてるようだな」
「そんなテキトーにではなく、ちゃんと読んでください」
大輔はしずくの教育担当である。
しかし教育する全く気はないのか、しずくの書いた記事をなかなかまともに読んではくれなかった。
「お前のことだ、いつもちゃんと書いてんだろ? 上が通せばそれでいいじゃねえか」
「そんなこと言わず、お願いします」
しずくは〝N〟出身だ。
数年前まで異能の存在を知らず、〝N〟の高校――それも進学校に通っていた。
しかし高校二年のある日、突如、超能力が発現。
まもなく、『スカウト』を名乗る女性から異能・異能界の存在を知らされ、異能系高校に転校を余儀なくされた。
ただ、初めは戸惑ったものの、現在では至って前向きだ。
〝N〟出身の自分だから伝えられることがある。
――という信念のもとに海連社に就職、記者として日々、頑張っている。
「私の――『〝N〟出身者』の書いた記事が、先輩のような異能界出身の方々にどう映っているのか、知りたいんです」
「そんなの、読者アンケートでも見ろよ」
そう言って大輔は原稿を返そうとした。
しかし、しずくもこの程度で折れる気はない。
今一度「お願いします」と真剣な目を向け、しっかりと頭を下げた。
すると、溜息が聞こえてきた。
しずくが顔を上げると、大輔は仕方ないとばかりに、ページに目を落とすところだった。
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