その物語の人神は恐らく私ですが、誰も呪ってなんかいません!!

きさらぎ月夜

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気付いたら500年後でした!

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「……───、!!」


あの人をただ愛していただけなのに。
だから、あの女に取られたくなくて、意地悪をした。
でもこんなことになるほど悪い事をした覚えはない。

こんなことに巻き込んでしまったあの子には悪いけど、きっとあの子は大丈夫。私よりしっかりした子だから。
ああ、頭が痛い、体が動かない、意識が薄れて──


「───レイラ様!!」













「君とは結婚できない。この婚約は破棄させてくれ」
「!!!!!!」

目の前にいるこの男は…婚約者のエリック、
わたくしの名前は…ハンナ。
ハンナ、のはずよ。17年間生きて記憶は確かにあるもの。

でも、だったら、今の記憶は、何…?


「????????????」
「おい、ハンナ嬢、きいているのか?」
「??????!!!!!!」
「おい、!ハンナ嬢!!」
「はっっっっっ!!!!何事ですの?!」
「いや、だから、君との婚約を破棄したいと、」
「ごめんあそばせ!!!!わたくし帰らせていただきますわ!!!!」


こんな男に構っている暇なんてなくてよ!早く家に帰らなきゃ!!

急に猛ダッシュしたわたくしに、エリックは驚いてついてこない。それもそうだわ。今婚約破棄を言い渡されたばかりなのだし、ついてくるわけもないわね。


馬車を走らせて帰り着くなり部屋に籠って、1冊の本を取り出す。
パラりと開いて中身を確認する。何度も、何度も確認する。


「…………」
「……………………………」
「…………………………………………」
「!!!!!!どう考えてもやっぱりこれ、私じゃない!!!!」


思わず大声が出た。








わたくしがペラペラとめくっていたのは、この国に纏わる童話、神話といってもいいだろうか、そういう内容の本だ。

今からちょうど500年前、王子と聖女が出会い、恋に落ちた。そんなことはありふれた話だ。
ただし、その時王子に想いを寄せていた女魔導士の呪いがなければ。恋に敗れた女魔導士は自ら命を断ち、この国に呪いをかけた。彼女が死んでから魔物の出現が多発し、疫病も流行した。飢饉も起こり、人口が減少した。聖女は言った。これは呪いだと。呪いを恐れた民衆は魔導士を丁重に祀り、神として崇めた。すると数々の厄災は途端に止み、国に平和が訪れた。これらの厄災を止めることに貢献した聖女と王子も崇められ、終いは夫婦神となってこの国を見守っているという内容だ。





その、女魔道士の見た目も名前も、そして生い立ちも送ってきた人生も、同じなのだ。“レイラ”と。





家に帰るまでに混乱していた頭はある程度まとまっていた。
わたくしの前世は、国でも有数の魔導士だった。
婚約者もいて、レイラはその婚約者のことを愛していた。でも、婚約者はそうではなかったのだ。珍しい癒しの力を持つ少女が神殿にやってきた。彼女は心優しく、貴賤なく人々の傷や病を癒した。
そんな心優しい少女に、レイラの婚約者は惚れてしまったのだ。


愛していて、自分の婚約者でもあった男が他の女に惚れるなど、誰が許せようか。レイラは何度も婚約者に話をしたし、聖女にも「ひとの婚約者に会うのはやめてくれる?」と言うなど、ちょっとした嫌がらせはした。でも決して手は出していない。というのに、いつの間にか手を出したことになり、婚約を破棄された。
それからレイラは王都を出て、実家の領地にて静かに魔導士としての勤めを果たしていたのだ。
その中でたまたま隣国から声がかかって、移住を決め、馬車を走らせている時。
私は不幸にも崖崩れという事故に遭い、死んでしまった。




婚約者も、それを奪った女も恨まなかったと言ったら嘘になる。けど、私の人生もそれだけではなかったし、そんな国全体を呪うほどの思いも魔力もない。そんなことに費やす時間も惜しい。そう考えるくらいの大事なものが、他にもあったのだ。





だから…だから、こんなのおかしい!!!

私、誰のことも呪ってないわよ!!!なんでこんな話になってるの!!!
しかも私が失恋したことまでみんなに知られてるし!!!恥ずかしいいいい!!!!

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