その物語の人神は恐らく私ですが、誰も呪ってなんかいません!!

きさらぎ月夜

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婚約破棄について父からお言葉をもらいました!

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「ハンナ、エリックがお前に婚約解消を申し込みたいそうだ」
「存じ上げております」

一通り脳内で暴れ回った夜、お父様から部屋に呼び出された。そういえばそんなこともあったわね、そんなことどうでも良すぎて忘れていたわ。

「全くお前は…なんてことをしてくれたんだ」
「わたくしは何もしておりませんわよ」
「何もしてないってことはないだろう。先方からも苦情が何回か来ているし、私もお前に何度か態度を直せと言ったはずだが」
「直さなければならないような態度をとった覚えはございませんもの」
「お前なぁ…」

私のつっけんどんな態度を見てお父様は深いため息をついた。
そんなふうにため息をついたって何も変わりませんわよ。
わたくし、あの方に近づく女に「婚約者がいる男にそのようにベタベタするのはどうかと思う」とお伝えしたくらいで、手は出してない…ってあら?これ、前世と同じ状況じゃなくて?あら、あらあらあらあら。どうしましょう。




うーーんと頬に手を当てて考え込んだわたくしを見て何を思ったのか、口を開く。


「どうやらやっと心あたる節があるようだな。しばらく謹慎していなさい。婚約の話はこちらでまとめておく。解消にはならないようにするから安心しなさい」
「あら、どうして解消してしまいませんの?」
「どうしてって…お前、エリックのことが好きなんじゃなかったのか」
「好きじゃありませんわよ」


お父様が呆気に取られた顔でわたくしを見ている。
本当だ。本当に好きではないのだ。嫌いでもないけれど。前世のように愛していたとかでもない。
じゃあなんでエリックの浮気相手の女にあんなことを言っていたのかというと、普通に常識的に考えて良くないと思ったのだ。わたくしや婚約者、果てはあの女の世間体にも関わるから、ただ常識を説いていただけだ。
それが何故かエリックにも誤解され、お父様にも曲解されて、わたくしがエリックを好いているということになっている。


誰が浮気男など好きになるものですか。わたくし、これでも見る目はあるのよ。


「そういうことで、エリックとの婚約解消を進めてくださいませ。よろしくお願いいたしますわ」
「……」
「婚約が取り消しになった娘がいてはこのおうちも外聞が悪いでしょうから、わたくし、このおうちを出てきいますわ!」
「……?!ちょっとまて、どういうことだ、?!まて!!おい!!!ハンナ!!!」



お父様の声に耳もくれずそのまま部屋の扉を閉めると、声は少しくぐもってもう何を言っているかはっきりと聞こえない。
ドタドタッドカッと大きな音がして、その後は何も聞こえなくなる。

騒々しいこと。いつもわたくしにはお淑やかにすごしなさいと言うくせに。まあ、もうそんなことはどうでもいいわね。このおうちから出ていくのですもの!お父様に止められる前に荷物をまとめて家を出ないと!!


「エミリア!カバンの準備をして頂戴!なるべく大きいものを!」
「お嬢様、何に使われるのですか?」
「家を出るの!だから最低限必要なものを持って行けるくらいの大きさのものをお願い」
「……?家を、出る?」
「ええ!早く持ってきて!お父様が来ちゃう!」
「待ってください、家を出るってどういうことですか?!お嬢様!」
「ほら、早く!!」

そう言って無理やり何か言っているエレノアを部屋から追い出して、鍵をかける。
鍵をかけただけじゃ外から無理やり開けられる可能性もあるわね。ここは…この術式かな!

「施錠」

これでドアはビクともしないでしょう。わたくしが出ていくまでの時間稼ぎくらいはしてくれるはず。


本当はわたくし、家出を一度はしてみたかったんですの。だから、エミリアに頼まなくたって、家出の準備くらいはもう整えてある。
服の中にしまっておいた細いチェーンを取り出して、その先に付けられた宝石を撫でる。この宝石は収納の魔術を内蔵している。魔力を流し込めば、わたくしの部屋ひとつ分くらいは簡単に収納出来る。
これは16の誕生日にお母様がくれたものだ。わたくしがおねだりしたんですけどね。


もう持っていくものはほとんどここに入っている。後はこれだけだ。

先程まで読んでいたあの童話が書かれた本を掴んで、私は青く輝く宝石に魔力を流し込む。何を収納するかを意識すると、するりと手から本が消えた。


「これでよし。じゃあ行きますか」


これまた予めいつかの為にと描いておいた大型の魔術式を取り出し、その上に乗る。先程と同じようにその魔術式に魔力を注いで…


「転移」


そうしてわたくしは生まれ育った家から姿を消した。



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