悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第二章 外堀はこうして埋められる

海産物がいっぱいです!

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 海岸沿いの市場は、海産物が豊富でとても賑わう場所のようで、さすがに天馬の中でも大きなトワイライトホースであるグレンタールは入ることが出来ず、買い物が終わったら合流することになりました。
 しかし、チェリシュと同じく、私もリュート様に抱っこしていただいてグレンタールから降りるのですが……
 もしかして、幼子と同じ扱いで恥ずかしいことをしているのでしょうか。
 街の方々が、ジーッと見てくるのですもの。
 ちょっぴり恥ずかしかったので、今度からは自分で乗り降り出来るよう頑張りましょう。
 グレンタールに付き合ってもらったら、訓練できるでしょうか。
 リュート様に内緒で……は、無理ですよね。
 
 天馬専用通路から歩行者専用の道へ出ると、通路を仕切っている腰くらいまである白い壁の向こうは、真っ青な大海原!
 うわぁ……色の表現が難しいほど綺麗な青と所々がエメラルドグリーンの海は、マール問題を抱えているとは思えないくらい静かでした。

 遠くに白くて美しい帆船が見えますが、どこからやってきたのでしょう。

「へぇ、珍しい。アレはエルフ領のシルフィードだな」
「シルフィード?」
「ああ、アレは海の上を渡る船で、風の精霊の力だけで浮かんでいるんだ。だから、海がどれだけ荒れても問題ない」
「海の上を滑っているわけですね」

 遠くてわかりませんが、白くて大きな帆だけではなく、船体の横に輝く物が見えます。
 リュート様が言うには、あのキラキラ輝く妖精の羽のような物がシルフィードの命で、ゆっくりと風をはらんで羽ばたくことで船体を持ち上げているようでした。

「シルフィードがこっちまで来ることは稀だから、良いものが見れたな」

 運が良いとリュート様がおっしゃってくださったので、チェリシュと一緒に「良かったねー」「ねー」とやっていたら、対面通路に居た同じくらいの年頃の女性たちが「ヤダ、イケメン!わぁ、奥さんとお子さん可愛いー!」なんて言って通り過ぎて行きましたが……ち、違いますよ!
 私達、夫婦じゃありませんからっ!

「じゃあ、そろそろ行きますかね。奥さん」
「もう!リュート様!」

 ペチペチとリュート様の背中を叩きますが、全く効果ありません。
 こうやって私をからかうんですから!

「リュー、ルー、おててなのー!」
「あ!はいっ」
「お?今日は手つなぎか?肩車じゃなくて良いのか?」
「おててがいいのっ」

 目をキラキラさせて私達に手を伸ばしてくるチェリシュの小さな手を取ると、ぱあぁっと顔を輝かせ、ぷっくりした頬をバラ色に染めます。
 可愛いすぎて、ぎゅーっ!ってしたくなっちゃいますね。
 白い石畳の道を、リュート様と二人でチェリシュの手を握り歩きながら、色々なお店を物色してお買い物開始です!

 大小様々なお店が軒を連ね、活気のある風景にドキドキしますが、行き交う人々や、店主と買い物客の会話に「マール」という単語が飛び交っています。
 どうやら、今日はマールのせいであまり良い魚が確保できなかったから、小物が多いのだと嘆いているようでした。
 チラリと見ても、それほど小さい魚という雰囲気ではありません。
 真いわしも見たこともない魚だって、日本の食卓に上がるくらいの大きさがあります。
 つまり……アレですか?
 また、日本の物と比べてサイズが大きいということでしょうか。

 色々見ながら移動していますが、リュート様は目指している場所があるのか、脇目を振らずにまっすぐ歩いていきますね。
 どこに向かっているのでしょう。

 私とリュート様に両手を繋がれたチェリシュは上機嫌で歩いていますが、疲れていないか心配です。
 それは、リュート様も同じで……貧血は大丈夫なのでしょうか。

「さて、ルナ。この辺りの店からならいいぞ」
「え?」
「出入り口付近の店は、鮮度がイマイチなんだ」

 コッソリと耳打ちされた言葉に、私は呆れ返ってしまいました。
 なるほど、そういうこともあるのですね。
 さすがはリュート様、よくご存知で……
 確かに、先程まではお魚を見ても「へー」と思うだけで買おうと思えなかった私ですが、今はとても惹かれるものがあります。
 神々の晩餐スキルの効果に、食材の目利きなんてものもあるのでしょうか。
 心惹かれる物たちは、全て鮮度が良いと一見してわかるものばかりでした。

 それにしても……大きな魚がいっぱいですね。
 一度は調理してみたいですが、いま私が探しているのはソレではなくて、もっと見慣れた……あ!ありましたよ!

「リュート様!カツオです!良かった、見慣れた大きさですよっ」
「あー、あの大きさだと小さいくらいだな」
「……やっぱりこの世界の普通サイズは、私の考えているサイズより大きいのですか」

 でも、小さくても良いのです!扱いやすいですし、何よりも……アレを作るには最適ですから!

「カツオが欲しいのか?」
「はい!」
「ん。おーい、バッシュのオッサン、カツオを……何匹いる?」
「えっと、5匹は欲しいです。失敗したら大変なので」
「5匹くれ」

 バッシュと呼ばれた丸太のように腕が太くて真っ黒に日に焼けた男性が、木箱の中から何かを取り出すのをやめて振り返り、リュート様を見てニッカリと白い歯を見せて笑った。
 黒い髪が、うにのようにツンツンしてますね。
 ねじり鉢巻がとても似合いそうです。

「リュートさんじゃねぇですか。今日は両手に花でお買い物ですかい?」
「俺の召喚獣のルナと、チェリシュは知ってるだろ?」
「ええ!春の女神様がいらっしゃると、嬉しくなっちまいますね。また、あの木箱の上で寝ちゃダメですぜ?」
「チェリシュ、ルーといっしょだからねないの!」
「そうですかい?しかし、人型の召喚獣って……リュートさんはいつも度肝を抜くようなことをしてくれやすねぇ」

 大きな体を揺らしながら眉を下げて困ったように笑うのに、発する声が陽気で明るく、とても親しみを感じてしまう特徴を持った人である。
 会話が聞こえたのだろう人々は、私をジロジロ見ているのに対し、この目の前のバッシュと呼ばれた方は、全くその気配がなく陽気に笑っていた。

「しかし、いいんですかい?このカツオは小せぇですぜ。もっと大きいものがありゃ良かったんですが、マール騒ぎでさっぱりでさぁ」

 やっぱりマールの影響は大きかったようです。
 お店のショーケースのような台に並べられている魚たちの数も、随分と少ないのか隙間が目立ちますが、お魚の目が澄んでいて鮮度がとても良いですね。

「この大きさが良いんだってさ」
「へぇ……このお嬢さんが料理するんですかい?」
「すげー旨いぞ」
「まさか、リュートさんに惚気けられる日が来ようとは!」
「惚気けじゃなくて、マジだっての!」

 リュート様が必死に誤解を解こうとしていらっしゃいますが、私はその間にも店のお魚を物色です。
 見たことのない魚もたくさんいますね。
 あっ、イカです!
 とっても新鮮なイカ!透明で、とっても綺麗ですよ!

「イカもください!うわぁ……すごい……綺麗!」
「今さっき水揚げされたばかりですから、新鮮ですぜ」
「それだけ新鮮だと、いかそうめん……醤油なぁ」

 がっくりと肩を落とすリュート様の足を、チェリシュが「よしよし」って言いながら撫でています。
 そのチェリシュをひょいっと抱き上げたリュート様は、無駄だとわかっているかのような力ない声で彼女に問いかけました。

「チェリシュ、醤油がどっかにねーかな」
「しょーゆ?聞いたことないのっ」
「……やっぱりかぁ」

 再びガックリと力を落としているリュート様。
 そうですよね、お刺身で食べたくなりますよね。
 生魚……ですか。

「カルパッチョ……作りましょうか?」
「え、作れんのっ!?マジか……久しぶりに生魚食いたい!」
「わかりました。では、カルパッチョ用のお魚は何が良いかしら」
「白身魚が食いたいかな」

 んーと悩んでいたら、リュート様からのリクエストです。
 それを聞いてバッシュさんが、だったらこれだと手を打ち、奥から大きな魚を取り出してきました。

「上物ですぜ、新鮮な鯛なんてどうですかいっ」
「わぁ、いいですね!リュート様、鯛ですよ、鯛!」

 大きくて立派で、とても新鮮な鯛です!
 私が思わずテンションが高くなってしまったのを眺めながら、リュート様はチェリシュと顔を見合わせて吹き出すように笑い出しました。
 な、なんですか?

「可愛い」
「かわいーの」

 な、なんですか。
 二人のほうが可愛いです!
 抱っこしたチェリシュと一緒に「ねー」とやっている姿なんて、父親と愛娘の雰囲気ですよっ!?
 見ているこちらが癒やされちゃいます。

「んじゃあ、バッシュのオッサン、鯛も3匹欲しい。ルナ、イカで何を作るんだ?」
「塩辛を作ろうかと考えておりますが……他に食べたいものが……」
「イカあるだけ」

 リュート様、素早いですよ。
 もしかして、塩辛好きなんですか?
 でも、これだけ新鮮なイカなら、イカでカルパッチョを作っても美味しいかもしれませんね。

「リュート様、アサリと……あー!昆布!!」
「お、本当だ」
「こんぶ……なの?」

 昆布ってなーに?とリュート様にこてんと首を傾げて問うているチェリシュが可愛いです!
 一瞬昆布を忘れて、ほわんっとなってしまいました。

「変なものに反応しやしたねぇ。これは海の雑草ですぜ?」
「雑草なんてとんでもない!干して乾燥させたら、いいお出汁が出るんですよっ!?それもください!」
「は……はぁ、本当にこんなもんが欲しいんですかい?まぁ、構いやしませんがね」

 私の勢いに驚いて引き気味になっているバッシュさんは、とりあえず……と、海産物を木箱のようなものに詰めていきます。
 中は氷でいっぱいになっていて、すごいですね。
 バッシュさんが手にしているアサリが、当然のように二回りほど大きいのですがスルーしておきましょう。
 本当に、この世界の食材は大きな物が多い気がします。
 このサイズに慣れたら、どうってことはないのでしょうが……元々大きな食材が、ソレよりも大きかったら驚いてしまいますよね。

 マグロなんてどれくらいの大きさになることやら……

 反対に、小さい食材もあったりするのかもしれませんね。
 今度、リュート様にお伺いしてみるのも良いかも知れません。
 それか、二人で……いえ、チェリシュもいれて三人で探しに行けたら、もっと楽しいかも知れないですよね?

 リュート様が新鮮な魚たちを横目に、哀愁漂う姿でため息混じりに「醤油……」と呟いているのを、チェリシュがよしよしと慰めています。
 そうですね、いつか必ず手に入れましょう。
 リュート様、一緒に頑張りましょうね!


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