悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第二章 外堀はこうして埋められる

お料理を食べませんか?

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 不機嫌さを滲ませる表情すら、いつもと少し違う格好良さを感じてしまうリュート様の横顔に、少しだけドキドキしつつ袖を遠慮がちに引っ張ると、彼はピクリと反応してコチラに視線を合わせてくれます。
 つい先程まで不機嫌そうな表情をしていたのがウソのように、柔らかい笑みを浮かべて「どうした?」と優しい口調で問いかけました。
 こういうところで大事にされているなと感じてしまい、ちょっぴり照れてしまいますが、今は赤くなっている場合ではありません。

「リュート様、お料理を出していただきたいですが、その前に……私はまだ自己紹介をしておりません」
「あー、そうだったな。すまない、ちょっと色々あったから遅れちまった。えっと……じゃあ、既に報告を受けているとは思うが、隣にいるのが俺の召喚獣であるルナ……ルナティエラだ。発現スキルは【料理】と【祈り】となっている」

 リュート様の言葉に、前竜帝陛下とリュート様のお父様の表情が引き締まります。
 何だかいつもは『ルナ』と呼ばれておりますから、『ルナティエラ』と言われるだけで何だかドキリとしてしまうのは耐性がないからでしょうか。
 ちょっぴり照れてしまいましたが、チェリシュを抱いたまま席を立ち、改めて自己紹介をすることにしました。

「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。グレンドルグ王国クロイツェル侯爵の娘、ルナティエラと申します」

 いつものようにカーテシーを披露するわけにもいかず、頭だけペコリと下げると、慌てたようにリュート様のお父様が口を開きます。

「こちらこそ、色々と申し訳ない。フォルディア王国、黒の騎士団の団長を務めるハロルド・ラングレイと申します。息子に召喚された召喚獣については、既に報告が上がっていて目を通しましたが、にわかには信じられず馳せ参じた次第ですが……真であったことに驚きを隠せません。それと同時に、深く感謝します」

 丁寧な挨拶のあとにペコリと頭を下げられて、私のほうが驚いてしまいました。
 やはり詳しく報告がいっていたようですが、感謝……とは……

「召喚術師としての適性が発現してから、息子は思いつめた様子でした。しかし、今はそれを全く感じられない。どうやら、貴女のおかげのようだ。それほどに穏やかな表情は久しく見なかった。だから、心からの感謝を……」

 深々と頭を下げたままのリュート様のお父様に、慌てて顔をあげてくれるように頼み込み、ようやく礼の体勢から戻ってくれたのは良いけれども、隣のリュート様が複雑な顔をして父親を見ているのに気づき、なんとも言えない気持ちになった。
 ほら、やっぱり親子なんですよ。
 そばに居なくても、ちゃんと見ているところなんて同じじゃないですか。

「ルナちゃんと呼んでも良いかな」
「は、はいっ」

 先程の挨拶より少しだけ砕けた言葉遣いとリュート様に似た微笑み……同じくらいの歳になったら、こんな表情で微笑んでくださるのでしょうか。
 渋さも増して、絶対にドキドキしちゃいますよね。
 なんて考えていたら、次いで出た言葉を思わずスルーするところでした。

「私のことは、出来ればパパと呼んでほしいな」

 は、はい?
 えっと……パパ……ですか?

「誰がパパだ、アホか」
「娘にそう呼ばれるのが夢だったんだから良いだろう」
「ルナ、呼ばなくていいからな」
「お前な!」

 何だかいい雰囲気になってきたというのに、何故それを台無しにしてしまう発言をなさるのでしょう。
 先程の雰囲気だけなら、リュート様は何もおっしゃいませんでしたのに。
 むしろ、心配かけて悪かったな……と考えて、態度を軟化させてくださるところを……タイミングが悪いと言うかなんというか。

「では、お父様とお呼びしますね」
「それでもいいけど、できればパパ……」
「しつこい」
「邪魔をするなっ」

 親子でにらみ合いをしている状況を横目に、どうしてこうなってしまうのかとため息が出てしまいそうですね。
 少しばかり頭痛を覚えて頭を押さえたいのを堪えていると、前竜帝陛下が何かを思いついたようにニカッと笑います。

「儂のことはアレンと呼ぶと良い。リュートもそうしておるしな」
「そうしろって言ったのは、アレンの爺さんだろ?」
「気に入った者にしか呼ばせんかっただけじゃ。今はもう竜帝でもないのじゃから、アレンと呼ばれる方が良かろう」

 こ、これは……お名前を呼ぶ流れ……ですよね?
 人好きする笑顔を浮かべる前竜帝陛下───アレン様は、私の次の言葉を待っているようでした。

「で、では、アレン様……と……」
「ふむ、見るからに育ちが良さそうじゃから、敬称抜きは厳しいか。ワガママは言うまい。なあ、ハロルド」
「しかし……」
「ワガママはいかんぞ」
「……はい」

 アレン様がどうやらお父様を止めてくださったようです。
 さすがは竜帝という立場にいらっしゃった方ですよね。
 隣のリュート様も「さすが」といった様子で苦笑を浮かべていらっしゃいました。
 仕事モードの時は冷静でキリッとした感じなのに、普段はそこからかけ離れた性格というのか、リュート様よりも子供っぽいところがあるようです。
 仕事モードだけだったら、尊敬できる人なんだけどね……と、ロン兄様がしみじみつぶやく声に、苦労の色が滲んでいました。

「ありゃ、軽く二重人格じゃねーか?」
「どちらかというと、変なスイッチがはいるんでしょ?ほら、娘を欲しがってたから」
「確かに」
「今回は特に、可愛らしい理想の娘が来たからテンションがあがったって感じかな」
「それでも、ねーよな」
「そうだね……」

 お二人とも呆れ顔でアレン様からお小言を貰っているお父様を見つめ、肩の力を落とします。
 仕事モードの時は尊敬できる人というところを否定しないということは、リュート様もそう感じていらっしゃるのですね。

「まあ、自己紹介は済んだし、腹も減ってきた頃合いだろうから、飯でも食うか」

 リュート様はそう言うと、アイテムボックスから取り出した料理をテーブルに並べていきます。
 それを、興味津々といった様子で眺めていたアレン様は驚いたような顔をしました。

「ほう、見たことのない料理があるな。貝の炒めた物は以前にも見たことがあるが、他の皿の料理は何じゃ……どうやって作ったのかもわからん」

 そういって、ジャガイモのニョッキのビスクソース和えと天ぷらと鯛のカルパッチョを順々に眺めているようです。

「ジャガイモのニョッキのビスクソース和えと、天ぷらと、鯛のカルパッチョです」
「ん?テンプラ……?」

 何か思い当たったことがあったのか、アレン様は驚いたような顔をしてから私をマジマジ見つめ、暫く思案している様子でしたが、納得したように頷きました。
 な、何か……あったのでしょうか。

「そうか、聞いたことも見たこともない料理ばかりじゃな」

 アレン様の言葉に頷いたお父様も、ビックリした顔をして皿を眺めたあとリュート様と私を交互に見つめてから、何と言って良いのかわからないように口元をモゴモゴさせています。
 気持ちは理解できるかも……と、ロン兄様がボソリと呟きましたが、どうやら聞こえていらっしゃらないようですね。

 ここからは仕事を気にせず食事といこうかとアレン様が言い、お父様も席につくように促します。
 全員が席につき、チェリシュは私の膝の上で食べることを決めたようで、目をキラキラ輝かせて並んだ料理を見つめていました。
 チェリシュの面倒を見ている私にかわって、セッティングを全てしてくれたリュート様は、私の左隣に座るとこれで大丈夫かな?とテーブルを見渡し口を開きます。

「んじゃ、食べるか。天ぷら……衣のついた揚げ物は抹茶塩……緑色の小皿のやつな、それにつけて食べてくれ。アツアツだから旨いけど、火傷しねーように注意な」

 そういって、リュート様は早速ナスの天ぷらに手を伸ばしました。

「天つゆが欲しいところだけど、我慢だな。野菜の天ぷらではナスが一番好きなんだよなぁ」
「そうだったのですか?他には?」
「んー、かき揚げも好き」
「じゃあ、今度作りましょうね」
「楽しみだっ」

 パクリとナスの天ぷらを食べて、あつっと言いながらも美味しそうに頬張っている姿を見ると、やっぱり作ってよかったって思います。
 チェリシュもリュート様と同じくナスの天ぷらをパクリと食べて、幸せそうにしていました。
 ロン兄様はアスパラを、アレン様は玉ねぎを……と、食べているのに、お父様は恐る恐るといった様子です。
 大丈夫でしょうか。

「さっさと食わんか。こんなに熱くて旨い料理は中々ないぞ。このカリカリした表面の奥にある野菜がなんとも甘みがあって旨い。野菜がここまで旨いと感じるとは……」
「カリカリしているものは、天ぷらの衣ですね。卵と冷水と薄力粉で作っております」
「それだけでこれを?」
「あとは、油で揚げました」
「ほう……油で揚げてあるからカリカリとした食感になるのか……しかも、この塩がいい。サッパリとしていて、風味もある」

 どうやら抹茶塩も気に入っていただけたようです。
 普通にお塩でもいいですが、抹茶はサッパリとして油っぽさを抑えてくれますから、天ぷらと特に相性が良いですものね。

「しかし、この衣が上手だよな。花が咲いたみたいに綺麗にできてる」

 マールの天ぷらをフォークで刺して言うと、リュート様は小さく「箸が良かったよな」と呟いていますが、こればかりは仕方ありません。

「大きいね。これ、昼間のマールの爪かな?」

 ロン兄様がリュート様と同じくマールをフォークで刺して眺めているので頷いてみせると、「はっ!?」というアレン様とお父様の驚きの声が上がり、爪の部分を改めて見て、確かに見たことがある形状ではあると唸りました。

「これが報告にあった、マール料理……」

 お父様はそういうと大きな口でかぶりつき、暫く咀嚼して飲み込んだ後、難しい表情で考え込んでいる様子ですが……お口に合わなかったのでしょうか。
 まさかのエビアレルギー……あ、ここだとマールアレルギーとか?
 アレルギーとまでいかなくとも、甲殻類が苦手な方も、多いですものね。

「そうか、あのマールがこれだけの料理になるということは、きっと聖都の人々に受け入れられるようになるだろう。漁師たちがこぞって捕獲し始めたら、毎年春になると起こる大量発生問題も緩和するはず……」
「毎年……なのですか?」

 今回ばかりかと思っていたのに、毎年だったのですか!?
 驚きたずねると、お父様は神妙な顔をして頷きます。

「毎年大量発生し、大型の魔物を引き寄せる傾向にあってね。そのおかげでマールの数は落ち着くのだけど、大型の魔物が暴れるせいで海は荒れるし、鳥型の魔物が海岸沿いに巣を作って大変だったんだ」
「そうだね、この時期になると海岸沿いの鳥類系魔物の討伐が多発していたよね」

 休む間がないくらい……と、思い出して苦笑しているロン兄様の表情は疲れが滲んでいますから、よっぽど大変だったのでしょう。

「岸壁に巣を作るロックバードか。あれはすぐ繁殖するから大変じゃな」
「でも、ロックバードの肉は焼いてもパサパサせず、ジューシーで旨いぞ」

 そこで美味しいか美味しくないかという判断をされるリュート様がすごいです。
 でも、鳥類ということは鶏の肉みたいに扱いやすいでしょうか。
 つまり、からあげに困りませんね。

「ま、まあ……それでだ」

 リュート様の「旨い」発言に若干呆れ気味のお父様は、ひとつ咳払いをしてからお話を続けます。

「今年は特に多くて、マール避けが効かなかったことが問題視されていたんだ。でも、新たな対策として提示された『マール食料化計画』に城の連中が度肝を抜かれてね」

 あれは見ものだったとお父様がくくっと笑い、どうやら同席していたらしいアレン様も同じように笑っていらっしゃいました。
 テオ兄様とロン兄様の報告を受けた方々は、天地がひっくり返るほどの衝撃を受けたようです。

「リュートの検証結果を見た宰相は、すぐさま専門チームを組んでいたし、設計図を見た王家お抱えの工房の連中は、早速制作に取り掛かっていたよ。数日の内にはまとまった個数が出来て漁師たちに配布され、捕獲手順なども説明される予定になっている」
「なんか……早くねーか?」

 そうですね。
 今日の昼間の出来事ですが、テオ兄様とロン兄様が報告を行ったあと行動したとしても、早すぎます。

「それだけ、お前の設計図という物に興味を持つ者が多いということだ。マールの件は、正直……我々、黒の騎士団でも手を焼いていた案件でね。海の中であれだけ素早いと手も足も出なかったんだよ」
「浜辺に打ち上げられたマールでも手こずったからね。海の中に入るなんて死にに行くようなものだから、本当に厄介だったよね」

 随分と困っていたのか、お父様もロン兄様も疲れた表情を見せました。
 王家のお抱え工房の方が自分の設計図に興味を持っているということに驚いたのか、リュート様はちょっぴり目を瞬かせてキョトンとしておりましたが、そっか……と、口元に笑みを滲ませます。

「助かったよ。お前のそういうところに、いつも助けられる。すまないな」

 ポツリと呟かれた言葉に驚いたリュート様は、体をピクリと反応させてお父様を見つめてから、狼狽えたように首を振りました。
 ビックリしすぎてマールの天ぷらを咀嚼途中で飲み込んでしまったのか、んぐっと妙な音が聞こえましたけど、今はそれどころではないようです。
 ソッとお茶を差し出せば、勢いよく飲んでからホッと息をつき、慎重に口を開きました。

「いや、別に……そんなすげーことはしてねーから……それに、これを食料にしようって考えたのはルナだから、ルナのおかげって感じかな。俺は、ルナがマールを食材として手に入れやすい方法を考えただけだし……」
「それを言ったら、私だってマールを食材として調理したとき、リュート様なら美味しそうに食べてくれるのではないかと思って作っただけですよ?私の原点は全てそこですもの」

 お互いに顔を見合わせてしまいますが、そんな私達を見て、お父様は苦笑なさいます。

「そうか、お互いがお互いのために考えた結果が、人々の最善につながったというわけだな……二人共、本当にありがとう」

 先程暴走した人と同一人物とは思えない落ち着いた様子に驚きますが、これが仕事モードのお父様なのでしょうか。
 リュート様もロン兄様も警戒している様子がないことから、多分……仕事モードなのでしょうね。
 マールの件が絡むお話ですから、自然とそうなったのでしょう。

「止せよ。そんなこと言われるほど大層なことはしてねーっての。それより、そのジャガイモのニョッキのビスク和え、それもマール料理だから食ったほうが良いぞ」
「これもか?」
「ああ。ルナが、マールの頭の部分を使って作ったんだ。殻とミソを使っている」
「殻?あの……殻をか」

 スプーンでニョッキとソースを掬って一口頬張ったお父様は、驚きで目が零れ落ちそうなくらい見開き、もぐもぐと口を動かしてから飲み込むと、驚いたように私を見ました。

「これが、マールの頭?」
「はい。頭の部分を砕いて、炒めてから煮込んでおります。裏ごししてありますから、口当たりは滑らかだと思います」
「ほう……こっちは濃厚じゃな。マールのミソがいい味を出しておるわい。ワインが合いそうじゃ」
「飲むか?キュステに何か運ばせるが……」
「いや、先程シローネに頼んでおいた。すぐに来るじゃろう」
「早いな」

 アレン様の言葉に呆れ顔のリュート様ですが、先程の耳打ちはそういうことだったのでしょうか。
 それにしては……何やら楽しげでしたけど?
 とてもお酒が好きだから楽しくなってしまった……もしかしたら、それはあるかもしれませんね。

「もちもちなの!」

 ジャガイモのニョッキを口に入れ、ほっぺをぷっくりさせてもぐもぐ食べていたチェリシュが、お気に入りのジャガイモ料理に目を輝かせて、嬉しそうに私の方を振り向きます。
 あ、また一口で頬張りましたね?
 お口の周りが汚れてますよ。
 口元を拭って綺麗にしてから、もちもちですねと言うと、首を縦にこくこく振ってにぱーっと笑ってくれました。

「美味しいですか?」
「あいっ!ルーの料理は、ぜーんぶ、おいしいの!」

 それは良かったとチェリシュの食べる姿に頬を緩ませていると、目の前にズイッとイカの天ぷらが……えっと?

「ルナはすぐ自分が食うのを忘れるんだよな。ほら、コレ食え」
「え、だ、大丈夫ですよ?」
「食え」
「あ……あの……そんなことは……」

 ジトリとリュート様に見られてしまい、そういえばさっきから何も口にしていなかったなと思いだして、そんなことないと否定できずに口ごもります。
 こ、これは食べないといけませんね。
 あむっとイカの天ぷらを一口かじり、咀嚼していると安心したのか残りをパクリと食べて、次の天ぷらに移ったようです。
 サクサクカリッとした衣に包まれたイカの、もっちりしっとりとした食感と甘みが最高ですね。
 新鮮なイカならではの味に、思わず頬が緩みます。

「作るのは好きそうじゃが、食べるのはイマイチか?」
「い、いえ……そんなことはないのですが……あまりお腹が空かないというか、元々少食なもので……」

 そういえば、あちらでまともに食事をしていなかったから、胃が小さくなっているのでしょうね。
 リュート様と比べたら、とんでもない差です。
 むしろ、小さなチェリシュのほうがよく食べているくらいでしょう。

「少しずつでも食うようにして、体を慣らしていかねーとな。どうせ、まともに食事もできなかったんだろう」

 うぐっ……返す言葉がございません。
 リュート様の言葉に、お父様やロン兄様だけではなく、アレン様も渋い顔をなされます。

「あちらではどういう待遇であったのじゃ……」
「え、えっと……その……」

 これは説明するしかないようだと観念して、私は軽く身の上話をしてみたのですが、お父様の目が若干潤み、多少は知っていたはずのロン兄様ですら目元を手で覆い、アレン様は唖然として居られました。

 父と母に無いものとして扱われ、使用人たちにないがしろにされ、寝食は最低限。
 婚約者は他の女性に心変わりし婚約破棄され、挙句の果てには身に覚えない罪を着せられ、投獄寸前だったところでの召喚でした……という説明をしましたが、どれがマズかったのでしょう。

 皆様の様子に戸惑い、助けを求めるようにリュート様を見ますが、ああなって当然だというような視線で見つめられてしまいます。

「しょ、食事中にする話ではありませんでした。申し訳ございません」

 ペコリと頭を下げて謝罪しましたが、「何故そうなる!?」と3人から一斉に同じ言葉をいただき戸惑ってしまいました。
 どうすればいいのか困惑している私を見かねて、リュート様がすぐさまフォローしてくださいます。

「ルナにとって、それが普通だったんだよ」
「普通だったから……か」

 なんとも言えない顔をしてお父様が呟きますけど、私って……異常なのですか?

「昨夜からの食事量を見ててわかったが、少食なんて範囲の話じゃない。少しずつでいいから食べる量を増やそうな?まあ、俺が差し出したものは全部一口でも食べてるから、なんとかなるだろ」

 それも考えて、リュート様は私にあーんしていたのですか?
 驚き見つめていると、彼はニッと笑います。
 あまりにも魅力的な笑顔だったもので、頬がほんのりと赤くなりましたが、今のチェリシュはジャガイモのニョッキに夢中で気づいておりません。
 セーフです!

「味は感じるだろ?」
「はい。あちらに居た時は何を食べても美味しくありませんでしたが、こちらに来てからは、とても美味しく感じられます」
「そっか。なら、色んな物を少しずつでも食べればいい。無理なら俺に言えば食うから」
「その時は、よろしくお願いします」

 私が考えている以上にリュート様は私のことを見ているのだと知り、少しだけ恥ずかしくなりますが、それよりも嬉しさが胸をいっぱいにして……食べるどころではありません。
 胸がいっぱいで苦しくて食べることができないなんて経験、はじめて……でしたでしょうか。
 遠く……以前にもそんな経験があったような?
 ハッキリとは思い出せませんが、こんなに胸を甘く苦しく締め付ける思いを再び感じられたことを嬉しく思います。
 これがどこからくる感情であるのか、それがわかるようになったとき、私は今よりもっと『異常』ではなくなっているのでしょうか。

 ただ、リュート様たちがいらっしゃれば、そうなる日も遠くはないと感じられました。

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