悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第三章 見えなくても確かにある絆

魔力欠乏症は怖いのです

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 ため息をついている私を不思議そうに見つめたリュート様が口を開く前に、アクセン先生が手を叩き、みんなの注意を引きました。

「みなさん、ここからはちゃんと聞いておいてくださいねぇ!特に、レオ・バラーシュとボリス・ウォーロック。あなた方は、しっかりとですよ?」

 名指しされてしまった二人はビクリと体を震わせましたけど、何かやらかしてしまったのでしょうか……全員が感じた疑問は同じだったようで、誰もがアクセン先生に注目します。

「さて、皆さんは召喚獣を喚び出してから、ずっと魔力調整を行っていますが、深刻な『魔力欠乏症』を起こしている人はいませんかぁ?こちらから見て症状が出ている人はいないようですが、少しでもおかしいと思ったらすぐに相談してくださいねぇ」
「魔力欠乏症……ですか?」
「はい!そうなのですよっ!」

 きょ、距離をツメなくても聞こえていますから、大丈夫です!
 アクセン先生は、できるだけ教壇から離れないでくださいねっ!?

 リュート様の冷ややかな声で放たれた「悪先」という言葉で辛うじて止まり、照れ笑いを浮かべたあと全員にいま一度『魔力欠乏症』について説明しますと言い、教壇へ戻ったアクセン先生は、私や他の召喚獣たちのために説明して下さいました。
 召喚獣の魔力調整を行うには、大量の魔力が消費されます。
 そのため、魔力調整を行っている最中の召喚術師によく見られる症状なのだとか……
 主な自覚症状は、激しい頭痛からはじまり、体温の急激な低下に伴う意識の混濁と震え、最悪の場合は昏倒することもあるといいますから怖いですよね。

 でも、それとレオ様とボリス様の関係は……?

「魔力調整も約2名をのぞき、うまくいっているようですから、とても安心しました」

 約2名……つまり、レオ様とボリス様がうまくいっていない……ということなのでしょうか。
 レオ様は、魔力に関わることが苦手のようですが、ボリス様は魔法主体の方だったはずですから、調整がうまくいっていないと思えません。

「ボリス・ウォーロックの場合は、魔力調整の途中で寝てしまったのでしょうが、レオ・バラーシュは、特に魔力関係が不得意ですから補習が必要でしょうか……二人がその調子だと、リュート・ラングレイの負担が増えるだけなんですけどねぇ」

 え?
 意外な言葉にリュート様を見る。
 そういえば、ガルムとレイスがリュート様にへばりついたままでした。
 もしかして二人共……ただ甘えていたのではないのですか?

「このクラスの召喚獣は、だいたい半数くらいが自らも魔力を取り込める性質を持つようですねぇ。特に、レオ・バラーシュとボリス・ウォーロックの召喚獣は、強い個体の余剰魔力を取り込んで糧にする性質があるようですねぇ」

 強い個体……リュート様以上に強い人はそう居ないでしょう。
 え、でも、リュート様の余剰魔力ですか?

「朝からすっげー旨いもの食ったから、いま魔力が溢れまくってんだよな。つまり、ルナのおかげだ。ほら、ガルムもレイスも礼を言っとけ」
「がうっ」

 ガルムがおざなりの礼の声を出したかと思えば、レイスは丁寧に頭を下げて感謝の意を伝えてきました。
 なんだかガルムは反抗期……ではなく、もしかして、本当にぐったりしているのですか?
 ソッと手を伸ばしてガルムの背を撫でてみると、手のひらにひんやりした感覚が伝わってきます。

「体が冷てーだろ?昨日、レオを癒やすのに魔力を使いすぎたんだな。レイスのほうも途中で主が寝たら、十分に調整されていない。それはこの二人にとって死活問題だが、主に負担をかけず自分でなんとかしようとして、溢れすぎている魔力を拝借しにきたってわけだ」

 じゃあ、ガルムは満身創痍のレオ様を心配して、過剰に魔力が溢れているリュート様から魔力をおすそ分けしてもらっていて、その様子を観察していたレイスも同じくやってきたということですか?
 二人にとって、魔力の枯渇は現状命に関わります。
 甘えているように見えて、命を守るための行動であったというなら致し方ありませんよね。
 私だって、リュート様に何かあって、ガルムたちのように余剰魔力を糧にできるなら、そうしてしまいます。
 やっぱり、心配ですもの……出来るだけ主に負担をかけたくないと考えてしまうのは、私たち召喚獣の性なのでしょうか。

「彼女の魔力調整だけでも大量の魔力が必要でしょうに……さすがですねぇ」

 わ、私は大飯食らいだと言われているような気が……あ、でも、そうなのかもしれません。
 リュート様は私に魔力譲渡をしているとき、とてもつらそうな表情をしますもの。
 きっと、私が考えている以上の負担が、リュート様にかかっているのですね。
 どうしましょう……もっと、リュート様が楽になる方法はないのでしょうか。
 ガルムたちのような特性があればよかったのですが……ないものねだりは良くないとわかっていても、リュート様の負担をできるだけ減らしたいです。

「すまんな、ガルム」
「ごめんよ、レイス」

 さすがにマズかったと感じたのか、それぞれの主が謝罪しましたけど、ガルムもレイスもまだリュート様のもとを離れようとしません。
 補給が完了していないのでしょう。
 ずいぶんと魔力が必要なのですね……

「リュート様、本当に大丈夫なのですか?」
「ああ、これくらいだったら問題ない。ルナが作ってくれる昼飯を食ったら、また回復するだろ」
「そうでした。彼女は料理スキルが発現していたのですねぇ。この世界ではキャットシー族だけ習得するスキルですが、召喚獣はその辺りのルールを全く無視してくるから面白いですねぇ」

 アクセン先生が興味深げに私を眺め、目を細めて頷きます。
 それぞれが持つ種族特有のスキルでも、召喚獣と言うだけで枠組みを越えていく。
 この世界の人達にとって、それは驚き以外の何物でもないでしょう。
 現に、その話を聞いて驚きの表情を浮かべ、こちらを見てくる方もいらっしゃいます。

「手料理……だ……と……」
「ずりぃ……」
「リュートだけええぇぇぇっ!」
「俺らはモフモフの料理食っとこうぜ……か、悲しくなんかないやい」
「アイツらだって……アイツらだって、愛らしいから……ちくしょう、涙で前が見えねぇ……」

 何故、そんなに打ちひしがれているのでしょう。
 机に突っ伏して泣いている方までいらっしゃいますが……だ、大丈夫ですか?
 もしかして、キャットシー族以外の料理が食べてみたいのでしょうか。
 前世でもあちらの世界でも当たり前だったことですが、こちらではあり得ない『同じ種族の作る料理』という物に興味があるのかもしれませんね。
 あ、でも、私は人間枠でいいのでしょうか、召喚獣枠なのでしょうか……悩みます。

「お昼は何にしましょうか。何も仕込んでいませんから、短時間で出来るものがいいですよね」
「そうだな……トルティーヤの皮を焼いて、好きな具材を巻いて食うか?」

 トルティーヤの皮……あ……あーっ!いいこと思いつきました!

「トルティーヤの生地を少し厚めにして、ピザ生地にしちゃいませんか?」
「へ……?」
「だ、駄目……でしょうか?」
「い、いや、待って……え?そんなことできんの?」
「ええ、ふんわりした生地ではなく、薄くてパリパリのクリスピー生地になりますけど、できま……ひゃあっ」
「クリスピーも好き!マジでルナ最高っ!」

 腕にチェリシュを抱いているから、バレないように配慮してなのでしょう。
 片腕で頭を包み込まれるように抱えられ、頭に頬ずりされる近い距離にドキドキです。
 ひゃ、ひゃあぁぁぁっ!
 ち、近い、すごく近いですーっ!
 とってもいい匂いがして、もっとくっついていたいって思うのですが、これって香水じゃないですよね。
 リュート様の匂いですか?
 召喚獣だから感じる好ましい匂いという物なのでしょうか。
 でも、そんなものは関係なく、リュート様の匂いは好きかもしれません。

「さすがだよな、いろいろ足りねー物が多いだろうに、そうやって工夫してくれる。ルナは本当にすげーよ」

 続けて褒めていただいただけではなく、頭を抱える腕がゆるんだと思った次の瞬間に見えた、何のご褒美かと硬直してしまうようなリュート様のキラキラした無邪気な笑顔!
 あわわわわっ!
 す、すごく貴重な笑顔を、こんなに間近で……ライフポイントが確実に削られていますが、目をそらす選択肢など私にはございません。

 どんどん上がっていく心拍数と、顔の熱。
 うるさいくらいの心音が、リュート様に伝わってしまいそうです。

 そして、ハッとしました。
 つ、強い視線を、そこかしこから感じますが、一番強い視線を下から……し、しまった!

「ルーがベリリなの!」
「ああぁぁっ!やっぱり言われてしまいましたーっ!リュート様!」
「へ?あ……あー……チェリシュ……見えてるぞ」

 リュート様のせいで、また言われたじゃないですか!と言いかけた私は、何が見えているのかと問いかけようとしたのですが、レオ様があんぐり口を開いて、こちらを見ているのが目に入り、まさか……と、チェリシュに視線を向けます。
 隠れているときに見える光が綺麗に消失しており、いつものチェリシュが私の膝の上でちょこんと座っている状態でした。
 それに気づいたチェリシュは「あっ」と声を出して、口元を両手で覆います。
 あ、それ……とっても愛らしい仕草ですね。
 記憶の水晶にとっておきたいくらいです!

「やっちゃったの、しっぱいなの」
「あーあ、隠れている意味なくなったじゃねーかよ」
「しっぱいしっぱいなの」

 えへへーと笑うチェリシュと、しょうがないなぁと笑うリュート様……なんでしょう、この父と娘は!
 可愛らしすぎて、胸がキュンキュンですよっ!?

 教室が奇妙な静けさに包み込まれ、誰もが「あ……」とか「う……」と声を出しているのですが、続く言葉が見当たらないようです。
 神が近い世界と言っても、日常的にお会いすることが少ない神族の1人であるチェリシュが当たり前のように教室にいたら、驚いて声も出せなくなってしまいますよね。

「なんということでしょう!」

 大仰に驚いて見せたのは、アクセン先生でした。
 やっぱり、アクセン先生も見えていなかったのですね。
 リュート様にも見えないのですから、当たり前でしょうか。

「それは、新しいスキルですかっ!?」


 …………………………はい?


 今度は私のほうが言葉を失ってしまい、アクセン先生の言葉を頭の中で繰り返すのですが、意味がわかりません。

「どうしてそうなった……」

 リュート様の低い呟きは教室にいる誰もが抱いた疑問であり、教室内にいる生徒全員が心の中で呟いた言葉であったことに間違いはないでしょう。
 奇妙な一体感を覚えながら、私たちは唖然としてアクセン先生を見つめるしかありませんでした。

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