悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第四章 心を満たす魔法の手

レシピがいっぱい!

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 賑やかな昼食が終わり、お父様は一度城へ戻ることになりました。
 ギムレットさんが創り出したカルレン・メイトル・ラングレイの報告をして、今後の対策を練らなければならないからです。
 あとは、私が作るパンについてと、大地母神様の件、それにティエラ・ナタールの動向。
 報告することは多岐にわたり、その補足とばかりに、リュート様がカメラの詳しい説明を、アレン様がティエラ・ナタールと南の村々についての現状を、紙面に書いてお父様に渡しておりました。
 ロン兄様と黒騎士様たちは引き続き、お屋敷の方で訓練および打ち合わせが必要だろうという話でまとまり、お父様は私に「愛娘のためになら頑張れそうだ」と優しく微笑んでくださいましたが「普段からも頑張れよ」という麗しの三兄弟のツッコミにぐうの音も出なかったようです。
 
 お父様を見送った私は、カフェたちが食事や片付けをして、ベリリの酵母に手を加えるのを見る前に、やらなければならないことを思い出し、気合を入れてテーブルにつきました。
 アイテムボックスから取り出したのは、真っ白なレシピ用紙。
 
「あ……そうか、今までのレシピがまだ……」
「はい、まだ作成途中の物もありますが、いろいろ作りましたし、今が良いような気がします……特にうどんとピザが危ないと思いますし」
「ソレな……アーゼンラーナ。すまねーが、一緒にいてくれ」
「なんじゃ?レシピを起こすだけであろう?」
 
 お母様とお茶をするために移動しようとしていた愛の女神様は、リュート様の声でこちらへやってきてくださいます。
 愛の女神様は、本当にリュート様に甘いですよね。
 嬉しそうにやってくる姿を見て、そんなことを考えてしまいました。
 
「バーローがまた……」
「あぁ……またアヤツか……」
 
 りゅ、リュート様?
 バーローって……それは、こちらの世界で問題にならない言葉かもしれませんが、日本では人に向かって言うと失礼にあたる言葉ですよ?
 だ、大丈夫なのでしょうか。
 
「全く、バーロッサーナには困ったものじゃ。またレシピの文章で問題を起こしたのじゃな」
「そのとおり。テンション高すぎてマズイことになっているんだけど……さすがに、アーゼンラーナがそばにいれば、変なことを書けねーだろ」
「散々説教されているリュートがそばにいても書いておるのに?……ふむ、チェリシュ、父と母に繋げて『監視』を頼めるか」
「任せてなのっ」
 
 リュート様の背中によじ登っていたチェリシュが天を見上げて、なにやら小さな声で会話を行っているみたいです。
 ずり落ちそうなチェリシュを、テオ兄様が無言で後ろから支えておりました。
 さすがは長兄、フォローが完璧ですね。
 いつもならすかさずフォローに来るロン兄様は、現在、黒騎士様たちに午後の予定を伝えに行ったのでいらっしゃいません。
 なんでも、明日からの行う情報収集のために派遣される担当エリアを決めるそうで、情報収集関連のお勉強会も開くようです。
 テオ兄様が「ロンの得意分野だから、専門的になりすぎて新人たちが悲鳴を上げなければいいが……」と呟いたのは聞かなかったことにしたほうが良いでしょうか。
 
 そうこうしている内に、準備が整ったようで、私は周囲の人々の顔を順々に見てから、ゆっくりと真っ白なレシピに手を伸ばしました。
 随分とレシピを起こしていないですよね……どこからでしたっけ?
 最初に現れたのは『鯛のカルパッチョ』ですね。
 
「そこからかー……」
 
 リュート様が低く呟き、目元を手で覆いました。
 そ、そうですね……そうなりますよね……私も……同じ心境です。
 
「そんなに数があるのかい?」
 
 リュート様の様子から何かを察したのか、サラ様が訝しげに私たちを見てきますが、私たちは何と答えていいのかわかりません。
 今から目の当たりにするレシピの数々に、どういう反応をされてしまうのか気になります。
 
 次から次に出てくるレシピたちの紹介文は、至って普通でした。
 現在、知識の女神様のそばには太陽と月の女神様だけではなく、時間があった学問の神様も同席しているようで、完全に針のむしろ状態でお仕事をなさっているようです。
 下手なことが書けない知識の女神様は、泣く泣く書きたいことを抑えて表現されているのでしょう。
 いつもとテンションが全く違います。
 なんというか……はっちゃけたところがなく、料理レシピに出てくる解説文そのもので……知識の女神様のテンションに慣れていた私は、反対に違和感を覚えるほどでした。
 
 鯛のカルパッチョからはじまったレシピは、料理や調味料や果ては食材の捌き方など、多岐にわたり記載されていきます。
 それを一枚一枚確認していたサラ様は、途中から頭を抱えはじめ、「まだ……あるのか……」と低く呟きました。
 す、すみません。
 一気に出しすぎましたね。
 
「まだ作成途中の物が数点ありますし、何故か、うどんとピザだけ出てこないのですが……」
 
 そうなのです。
 ベリリ酵母やなまり節、イカの塩辛など、なんとなく引っかかりそうなものがすんなり出たというのに……
 まあ、わかっていますよ?
 私も作っている中で、一番ヤバイだろうなぁって感じていた料理が2つ出てきていないのですもの。
 つまり……
 
「パパとママが怒っているの。バーちゃん、だだっこなの」
「あのバカは……!」
 
 チェリシュの言葉で全てを察した愛の女神様のこめかみがヒクリと引きつります。
 こ、これは……色々とマズイでしょうか。
 
「アーゼンラーナ、バーローは説教確定だから、今度引っ張ってきてくれ」
「わかっておる。その前に妾も言うべきことがある」
 
 ピリッとした空気を醸し出すリュート様と愛の女神様の様子を見て、こちらへ黒騎士様たちを連れて戻ってきたロン兄様が驚き、何があったのと私の方を見ますが、素早く移動したテオ兄様が耳打ちしてことと次第を伝えているようです。
 ロン兄様の表情が、だんだん「ああ……なるほど」というようなものに変化した頃、私の山のようなレシピを見ていたサラ様がテーブルに突っ伏しました。
 
「はー……一応、厄介なランクじゃないが、どれも高レベル過ぎる。一般人でもレシピさえ習得できれば、そこそこの物ができるだろうさ。しかし……これは凄い数だね」
「すみません。ちょ、ちょっと頑張って作りすぎたもので……」
「リュートのためにかい?」
「はいっ!」
 
 それはそうですよ!と私が満面の笑みで返したら、ガタッと音を立てリュート様がテーブルにぶつかったようで、愛の女神様が笑いを噛み殺して視線をそらし、肩を震わせていらっしゃいます。
 先程のピリピリした空気が霧散していて良かった。
 とっても怖かったですもの。
 黒騎士様たちなんて、ほら、怯えてひとかたまりになって遠くから伺っているじゃないですか。
 
「しかし……なんて数だい。鯛のカルパッチョ、アサリのワイン蒸し、ビスクソース、ジャガイモのニョッキのビスクソース和え、天ぷら衣液、天ぷら、マールの捌き方、抹茶塩、ベリリ酵母、なまり節、乾燥昆布、イカの塩辛、鳥だし、タバスコ、ピザ生地、ジェノヴェーゼソース……か」
「そこに、たぶんですが……うどん、鶏塩うどん、ピザ……は、作成した具材別の名称がつくかもしれません。マルゲリータやシーフードなど……」
 
 まだ沢山増えるんだね……と、サラ様が低く呟いたあと、リュート様を睨みつけます。
 
「お前は作らせ過ぎだ。レシピギルドで大騒ぎになるじゃないか」
「だから、いっぱいになるって言ったろ」
「今までのことを考えたら、こんな数になると誰が予測できる。前代未聞だよ、この数は」
 
 や、やりすぎ……ましたか。
 リュート様に美味しいものを食べていただきたい一心で作ったのですが……
 この世界の常識を崩しかねない……って、あ、私は先ほどそれをカフェたちとぶち壊す宣言していましたね。
 
「それに、まだ仕込み段階のものもあるんだって?」
「は、はい……調味料とベリリの酵母にもう1つ手を加える感じの物が……あ、あと、スパイスも作りたいですし、パスタマシーンが出来たということで、パスタも……」
「わかった。これは駄目だ。週一という日数が甘かった。できれば2日か3日に一回はレシピギルドに提出したほうがいい。この数を一気に持ってこられたら、レシピギルドでパニックになる可能性がある」
 
 料理レシピの申請は、正直にいうと今までそれほど多くなかったそうで、カフェやラテやカカオが時々持ってくる程度だったらしく、ほぼ動きがない状態だった為に、レシピギルドには専門の担当者がいない状態である。
 そんな中で、鉱石や鉱物加工担当でありながらも、リュート様が来るということもあり、料理も兼任していてくれたサラ様がいなくなり、私という存在を知ったサラ様は、これから数が増える可能性があると専門の人を準備し、新人に引き継ぎを終えたばかりだとか。
 そんなところへ、私の訳ありな感じがするレシピを大量に持ち込めばどうなるでしょう。
 答えは簡単ですよね……大騒動になること間違いなしです!
 新人さんが軽くノイローゼにならないか心配になってしまいました。
 すみません……私のレシピが大量すぎました、ごめんなさいっ!
 
 この大量のレシピはどうしましょうと涙目でオロオロしていると、サラ様がじっくり考えたあと、ニヤリと笑いました。
 うわっ……す、すごく黒い笑みですよっ!?
 
「いや……もしかしたら、意外とアイツはやれるかもしれないし、全部持っていこう」
 
 アイツ?
 話の流れ的に、新しい担当の方でしょうか。
 
「まあ、引き継ぎの時だけしか接していないからわからないが、アイツ、意外と出来るのかもしれないし、今後の為にも一度大量に持っていってさばけるのか見てみたい。出来ないなら、申請する日数の間隔を短くすればいいだろうさ」
 
 サラ様にそこまで言われる料理レシピの新担当の方……リュート様は興味を覚えたようで「やってみるか」と悪戯っ子みたいな顔をして笑っています。
 サラ様とリュート様は姉弟ですか?
 似たような笑みを浮かべて……もう、本当に困った方々ですね。
 その担当の方が胃痛で倒れないことと、知識の女神様が駄々をこねずに真っ当なレシピを作ってくださることを願い、心からオーディナル様に祈りました。
 

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