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第四章 心を満たす魔法の手
ふわふわパンに必要なもの
しおりを挟む私の反応を見て楽しんでいたリュート様は、ボリス様に呼ばれ、ゴーレム作成の相談に入ったようです。
もう、隙を見てすぐにからかうのですから!
あちらはあちらで忙しいのか、サラ様やアレン様だけではなく、興味を持ったテオ兄様やロン兄様やお母様を交え、術式関連の難しい話を始めたようです。
私が聞いても、全く理解できません。
様子から見ても、リュート様の術式の技術が理解を超えているようで、ボリス様とサラ様がストップをかけて詳しい説明を求めていました。
さすがはリュート様です!
さて、私もちゃんとやるべきことをしましょうか。
私の弟子になった4人に加え、チェリシュと共にベリリ酵母に手を加えていきましょう。
キュステさんがサポートに回ってくれるようで、「何か必要なもんあったら遠慮のう言ってや」と笑いかけてくれます。
……やっぱり、キュステさんって有能ですよね。
「今度は何を作るのだ」
「ルナのことですから、私たちには理解できそうにもありませんわね」
レオ様とイーダ様は、こちらの作業に興味を持ったようで、テーブルの上に並べられていく物を見ては首を傾げます。
まあ……ベリリ酵母だって、見ただけでは用途がわかりませんものね。
準備してもらったのは、ヨーグルトと湯冷ましの水、砂糖、大きなガラス瓶、強力粉です。
キュステさんとセバスさんが全てを用意してくれている間に、先程作っておいたレシピを4人に渡しました。
「新しいレシピだにゃ!」
「いっぱいだにゃっ!」
「マジかよ……この数」
「す、すごいですにゃぁ」
カフェとラテは私が料理を作るスピードを知っていたので、この数のレシピにも驚いたりはしていませんが、さすがにカカオとミルクは呆然としています。
「奥様……違ったにゃ!師匠は、いっぱーい作るにゃ」
「とってもたくさんだにゃっ!」
ねーっと顔を傾けて得意満面の笑みを浮かべるカフェとラテを見て、これが普通なのだと理解したのか、カカオの頬が少し引きつっていました。
「本当に常識が通用しねぇ師匠だ……」
「いっぱい覚えて、いっぱい作れますにゃぁ、嬉しいですにゃっ」
ミルクがぴょんぴょん跳ねて喜ぶと、チェリシュが一緒になって「嬉しいの!」と跳ねはじめ、嫌がるカカオを巻き込み、5人で輪になって踊りだします。
か、可愛いっ!
これは撮影チャンス!
記憶の水晶───いえ、もうカメラという愛称がついたのでしたね。
カメラを取り出し、撮影を開始します。
弟子の喜ぶ姿を後世に残すのは師匠の役目ですもの。
カカオは嫌がってやりませんでしたが、4人がお尻ふりふりダンスまで見せてくれたので、大満足!
今度はカカオも交えてやってほしいところですよね。
「そ、そんな目で見てもやらねぇからな!」
「残念です……」
「う、うぅ……だって、恥ずかしいもんよ……」
ジーッと見つめていた私の視線に気づいたカカオが狼狽えて視線をそらしながら言いますが、これはこれで可愛い反応です!
そんなやり取りをしている間に、全ての準備を終えてくれたキュステさんとセバスさんが声をかけてくれました。
テーブルの隅っこでぷるぷる震えているイーダ様の背中を「はいはい」と言いながらさすっているレオ様がいらっしゃいましたけど……ま、まあ、気持ちはわかります。
可愛らしかったですものね。
そうなっても仕方がありません。
「では、ふわふわパンに必要な、クイックヨーグルト酵母と元種を作りましょう」
ガラス瓶を洗浄石で綺麗にしてから、ヨーグルトとベリリ酵母液と砂糖と湯冷ましの水を入れます。
スプーンでかき混ぜたりしなくても、振って混ぜ合わせるくらいで大丈夫。
というか、クイックヨーグルト酵母はこれだけでいいのです。
明日か明後日くらいにはブクブクしてくるでしょうから、それで完成ですね。
この酵母で食事パン系を作れば良いでしょう。
冷蔵室に入れて保存すれば一ヶ月ちょっとくらい持ちますが、酵母が元気な内に使い切るほうが良いと思います。
続いて、元種作りに入りましょう。
先ほどと同じようにガラス瓶を洗浄石で綺麗にしてから、ベリリ酵母の液と強力粉を混ぜます。
さすがにこれは振っても混ざらないので、洗浄石で綺麗にしたスプーンか棒でかき混ぜましょう。
ふふ、私には菜箸という最強アイテムがあるのです!
菜箸でぐるぐる混ぜて、少し粉っぽさが残っている程度で大丈夫でしょう。
蓋をして待っていれば、そのうちだらりと緩んでから膨らみ始めますので、かさが二倍になるのが目安です。
二倍にならなくても、4,5時間したら冷蔵庫へ入れて休ませてあげたほうがいいですね。
そんな説明を交えながら、クイックヨーグルト酵母と元種を作っていると、目安となる場所につける印のことを考えていなかったことに気づきます。
あ……日本だったら輪ゴムで目安止めをしていたのですが、ここでは何かないでしょうか。
「はい、奥様。コレ使ったらええわ」
ん?
ぬっと目の前に差し出されたのは、何の変哲もない赤いペン。
え、えっと……
「ガラスにも書けるし、専用の消し剤を使ったら綺麗に消えるから、気にしんでも大丈夫」
「さすがはキュステ様。ルナ様の行動一つでそこまで読まれるとは……このセバス、とても感動しておりますっ!」
むううぅんっとポージングを決めて筋肉を見せつけてきますが、サラリとスルーしているキュステさんは慣れているのですね……
「ぴくぴくしてるにゃ」
「すごいにゃっ!」
「あ、バカ、やめろっ」
スゴイスゴイと手を叩くカフェとラテに気を良くしたのか、セバスさんが更に違うポーズをとって筋肉を披露……いえ、袖をまくらないでください。
大丈夫です、鍛えた筋肉はわかりましたから……カカオが止めた理由がわかった気がします。
「キュステさん、ありがとうございます」
「どういたしまして。僕は奥様のサポートもシッカリやるから安心してな」
「はいっ」
これは心強いですね。
まあ……シロが絡まなければ、とっても良い仕事をしてくれますし、この察しの良さや次の行動へスムーズに繋げてくれるフォローはありがたいです。
「えーっ!なんでだよーっ!」
「ほら、ここが違う。これはこっちに繋げねーと魔力供給が途絶えるんだって」
「あらあら、ボリス。基本がおろそかになっているのではないかしら」
「二人みたいに出来たら苦労しないんだって!……で、ここは?」
「あー、こっちが風だろ?だからこっちにだな……」
「え?なんでそーなるの?」
「お母様にも教えてちょうだい」
大きな声がしたからビックリしましたが、どうやらリュート様が術式の説明を始めてしまったようで、ボリス様の理解が追いつかず、お母様にまで駄目だしされているようでした。
しかも、お母様は術式の練度を上げてどうするのでしょうか。
今後のことを考えて……なんて言いませんよね?
お母様の探究心は麗しの三兄弟に引き継がれているようで、テオ兄様とロン兄様も興味深げに話を聞いては、質問している様子でした。
サラ様はテオ兄様が質問するたびに背後から前のめりに近づくので、声が近くなるからか、それとも体の一部が触れてしまうためか、体を強張らせて耳まで真っ赤になっています。
集中……できておりませんよね。
で、でも、わからなくはないですよ?
私だって、皆に教えている凛々しいお姿のリュート様があんなに接近してしまえば、胸がバクバクしてしょうがないでしょうし……
リュート様の声は、私にとって危険でもあり、とろけちゃうくらい甘美なものなのです。
「ほら、奥様も集中してや」
確かに!
だ、だって……真っ赤なサラ様と……
何よりもみんなに教えているリュート様の凛々しいお姿にきゅんきゅんしてしまったのですもの。
仕方ないじゃないですか。
「ホンマに奥様は、だんさんが絡むと……」
「うるさいですよ。キュステさんにだけは言われたくありません」
どっちもどっちで変わらんだろう……というレオ様の言葉は聞かなかったことにしましょう。
一緒じゃありませんからっ!
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