悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第五章 意外な真実と助っ人

疑念が確信に変わるとき

 
 
「ちょっと!話を聞いているの!?」

 ミュリア様の金切り声に驚き、思わずベオルフ様の腕にしがみついたのは不可抗力でしたが、険しい顔付きで私に向かって指を突きつけてきます。
 あの……お行儀が悪いですよ?

「だいたい!アンタがちゃんと仕事しないのが悪いんでしょ!加護も私の物なのに奪っていくし!」

 仕事?加護?いったいなんのお話でしょう。
 心当たりがなくて彼女の言い分を聞いていたらとんでもない言葉が飛び出しました。

「アンタの仕事は、私をいじめ抜くことじゃない!婚約破棄されて、国外追放か死罪になるのが決まっていたはずなのに、何なのよあの光は!それに、私の加護を盗るなんて酷くない!?この盗人!引きこもりブス!」

 うわぁ……酷い言われようです。
 隣のベオルフ様から冷気が漂いはじめましたが、お、怒っていらっしゃるのでしょうか。
 リュート様もそうですが、私の周囲はこういう怒り方をする方が多くないですかっ!?
 こちらのほうが悪いことをしてしまったような気になってドキドキしてしまい、心臓に悪いので穏便にお願いしたいです。
 そんな願いもむなしく、チリッとした熱のようなものを感じ、慌ててベオルフ様の袖口を引っ張りました。
 ダメですよ。
 情報が欲しいのですよね。
 ベオルフ様がここで私のために怒ってはいけません。
 だって、彼女が持っている情報は私も必要だと感じました。
 何せ、私の行く末がわかっていたような発言をしただけではなく、私がミュリア様をいじめ抜くことが仕事だとおっしゃったのです。
 つまり、彼女は私と同じなのかも───
 だったら、どこまで知っているのか探り、何を求めているのか把握しておかなければなりません。

「加護?……なんのことでしょうか」
「とぼけるんじゃないわ!浄化と癒しの力を私から奪ったでしょう!」
「そのような力を持っていらっしゃったのですか」
「オーディナル様から貰うはずだったのよ!私が聖女なんだから!さあ、返しなさいよ!陰険根暗グズ!」

 言いたい放題ですね……
 しかし、私はイーダ様のような浄化の力や、ガルムのような癒やしの力を持っておりません。
 それに、何ですか?その返せと言って差し出された手は……加護やスキルは物ではないのですよ?

「わたくしにはどちらの力もございませんが……何か勘違いされているのでは?」
「嘘つき!アンタには不思議な力があるって聞いているわ!浄化と癒しじゃなかったら何があるのよっ」
「祈りと料理です」
「……は?」

 そんな間の抜けた問いかけをしないでください。
 これ以上どうしたものか……加護を奪ったと言われても覚えはありませんし、何より、私は聖女でもありません。
 説明を重ねても彼女は納得するどころか、私を嘘つきだと思っているのでしょう、「ふざけている」と一蹴されてしまいました。
 だいたい、癒やしと浄化の力なんてあったら、もっとリュート様のお役に立てたのですよっ!?
 でも、今あるスキルと交換しようかと問われたら、それはそれで困ります。
 最初はリュート様のためでした。
 しかし、今は……弟子を4人も抱えているのですもの。
 あれもこれも欲しいなんてワガママは申しません。
 自分にあるスキルで、今後もリュート様のお役に立てるように努力していこうと思います。
 リュート様の「すげー旨い!ルナの料理は最高だなっ」と言って見せてくれる、少年のようなキラキラした笑顔のためなら、いくらでも頑張れますよっ!
 それに、私の料理はベオルフ様の魔力維持にも一役買っておりますから、手放すわけにはいきません。
 癒やしと浄化なんて、ものすごく惹かれる力ですけど……ないものねだりはいけませんよね。

「なにこれ……バグなの?主神オーディナルの設定や世界設定もズレてるし、ベオルフ様だけではなくアルバーノも言うこと聞かなくなってきたし……王太子殿下やスレイブだって、顔だけの冷たい男だし!」

 え?
 ベオルフ様とアルバーノ様はわかります。
 二人はヒロインに深く関わる存在でしたから……でも、どうしてそこで王太子殿下と……えっと、す、スレイブ?……聞き覚えのない名前ですけど、その方々が関係してくるのでしょう。
 私が知る物語に、そんな話は無かったはずですが……
 つまり、彼女が持っている情報は、私と完全に違う。
 そうだ……ミュリア様は『バグ』と言いませんでしたか?
 バグって……つまり、ゲーム?
 私が生きている時に無かったけれども、死んだ後に発売されたということがあるのでしょうか。
 それか、似て非なる世界の転生者?
 どちらか……ですよね。
 なおさら彼女が持つ情報が重要です。
 どうやって聞きだしたら良いでしょう……そう考えを巡らせていた私の耳に、信じられない言葉が飛び込んできました。

「だいたい、召喚ってなによ!召喚された?違うでしょ、召喚されて来るのは、リュート様であってアンタが行くんじゃないわよ!」

 ……リュート様?
 いま、リュート様とおっしゃいましたか?
 私の脳裏に、優しく微笑む彼の姿が鮮やかに蘇ります。
 呆然としている私を睨みつけるミュリア様の瞳には、怒りの炎が燃え盛っておりました。

 この方は何を言っているのでしょう……
 まさか、リュート様狙いだとか言うのではないでしょうね。
 セルフィス殿下はどうするのです?
 全ては、リュート様のためだとかおっしゃる気ですか?
 しかも、貴女……リュート様を何だと思っているのですか?
 ゲームの中にいる見目麗しい攻略対象で、自分のものにならないはずがないと思っていらっしゃるのでしょうか。
 疑問が頭の中で浮かんでは消えていき、そのたびに言い知れぬ怒りに頭が熱くなったような気がしました。

 ふざけないでください!と言おうとした私の口を、大きな手が覆い、それは言葉になることなく、彼女の耳にも届くこと無く封じ込められてしまいます。
 何をするのかとベオルフ様を睨みつければ、彼はまっすぐミュリア様を見ていて低く感情のこもらない声で問いかけました。

「そのリュート様とは誰のことだ」
「ベオルフ様が知らなくても当然だわ。異世界からやってくる勇者様のことよ」
「異世界から?……何故勇者と呼ばれる者がこの世界にやってくる必要がある」
「それは……そこの根暗に聞けば?どうせ知っているのでしょう?」

 リュート様のことは知っていますが、『異世界の勇者』と言われるリュート様と同一人物であるかどうか定かではありません。
 私の知らない情報ですから、首を左右に振ると、彼女の嘲りを含んだ高笑いが響きます。

「なぁんだ。アンタも転生者かと思っていたけど、違うんだ?心配して損した!バグの一種だったのね。だったら、アンタもリュート様を知らなくて当然か……あーんなにカッコイイ人を知らないなんて、人生損しているわぁ」

 はあ?
 貴女に言われなくても、リュート様がすごく素敵な方だなんて承知しておりますがっ!?
 とってもいい香りがして、笑顔が素敵で、とーっても優しいこともですっ!
 抱きしめてくれるぬくもりも、とろけるような甘い声も、責任感が強いところも、みんなを助けるためだったら自分が傷つくことをいとわないところも、すぐに仕事を入れて無自覚に無茶をしてしまうような困ったところも、貴女は知らないでしょう!?
 この先、一生知ってほしくもないですけどねっ!
 彼女に文句を言いたくて仕方がない私が暴れないように……いえ、ちょっと暴れてますが、それを押さえ込むように後ろから抱きしめたベオルフ様は、「暴れるな」と耳元に低い声で囁きました。
 だって!
 そう言い募ろうとしたら、口元を更に強く押さえつけられました。

 わ、わかっています……冷静に……なれ……ですよね?
 冷静に……冷静に……

「すごくカッコイイの。俺様系でとんでもないカリスマ性がある人で……元の世界では、理不尽な仕打ちを受けて孤独に育った可哀想な人。だから、私が慰めてあげるの。聖女たる私の愛が彼を救うのよ!」

 その言葉に奇妙な違和感を覚えました。
 リュート様は確かにカリスマ性があるかもしれませんが、俺様系というには程遠い、とんでもなく優しい人ですよ?
 理不尽な仕打ちとはジュストの件でしょう。
 孤独に育ったという言葉はそうかもしれませんが、周囲の方々はずっと見守っておりましたし、彼が本当につらいときは手を差し伸べていたはずです。
 お優しいご家族やキュステさんたち商会の方々、レオ様たちや元クラスメイトの黒騎士様たち……私が知らないだけで、他にもたくさんそういう方がいらっしゃるでしょう。
 それに、リュート様が抱える孤独は、聖女だから癒せるというものではありません。
 あ、でも、彼女も日本の記憶を持っている可能性があるから、それは可能なのでしょうか……望郷の念に対する飢えや乾きは、ミュリア様でも癒せた?

 もしかして……私じゃなくても良かったのですか───

 その事実に気づいたとき、私の胸が痛みを覚えた気がしました。
 心が冷えていくような感覚を覚える中、私を包み込む力強い腕に少しばかり力が籠もったように感じ、反射的に見上げます。
 ベオルフ様の視線は変わらずミュリア様に向けられていたので、心を見透かされて慰められたというわけではないことにホッとしました。
 今はそこに重きを置いて考えるべきではないと、自らを叱咤します。
 ベオルフ様がいなかったら、私は震えだして立っていられなかったかもしれません。
 そういう意味でも支えられているのだと改めて実感しました。

「異世界から召喚されるというが、この世界にそんな事ができる者など存在しない」
「そうよね。そんな力を持つ者は居ない。でもね、大神殿に伝わる聖杯の力を使えばどうかしら」
「……聖杯?」

 ベオルフ様の声が、少しだけ低くなります。
 私の口を押さえている彼を横目で見ると、その視線が先程より幾分鋭くなったように感じました。
 聖杯……その言葉に私もドキリとしたので、気持ちはよくわかります。

「そう。世界が破滅へ向かうとき、大神殿に代々伝わる聖物である聖杯を使って勇者を召喚するのよ。この世界を守るためにね」
「世界の……破滅?」

 ミュリア様とベオルフ様の会話を聞きながら、私は自分が知る未来がこの先、役に立たないかも知れないという可能性に気づきました。
 だって、私は『聖杯』や『勇者を召喚する』なんて知りません。
 厳密に言うなら、前世の私が知る物語の中に『聖杯』や『勇者召喚』なんて文字は出てこなかったのです。
 ミュリア様は、私の知らないグレンドルグ王国の未来に関わる情報を握っている───
 それが、疑念から確信に変わった瞬間でもありました。

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