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第六章 いつか絡み合う不穏な影たち
もしも……のお話でも真剣でした
しおりを挟む先程の不可思議な感覚が落ち着きを取り戻し、「あと一箇所!」と食い下がるリュート様の意見を却下し続けた結果、ようやく諦めてくださったようです。
残念……と肩を落としていたリュート様は、本気で落胆しましたという様子で……な、なんだか罪悪感を覚えてしまいました。
気を取り直して「頼まれていた伝言をベオルフ様へ伝えたら良いお返事をいただけましたよ」と、こっそり教えるように耳元で呟いたら彼はパッと顔を上げて嬉しそうに目を輝かせます。
「マジで?」
「はい、とっても良い笑顔つきでした」
「なら期待して待っていようかな」
ベオルフ様と同じような黒い笑みを浮かべて、リュート様はご満悦のご様子ですね。
全く……会ったこともないのに、どうしてこのお二人はこうも気が合うのでしょう。
一緒にいたら、絶対に親友と呼ばれるポジションにいたはずです。
あちらの世界であったら、リュート様は王族かベオルフ様と同じ騎士だったのでしょうか。
そ、それは……見てみたいかもしれません。
線の細い人が持て囃されるあちらの世界の価値観を、リュート様とベオルフ様の存在が変えてしまったかも知れませんよね。
二人が並び立てば凄まじい存在感とイケメンの煌めきに、あちらで麗しい男性No.1のセルフィス殿下も霞むことでしょう。
私が考えるイケメンは、容姿だけでは成り立たないのです。
やはり、中身が重要でしょう。
リュート様やベオルフ様のようにお優しくて困っている人に対し、さり気なく手を差し伸べられる人間こそが真のイケメン!
ですから、あちらの世界の貴族女性たちに「ベオルフ様のイケメン度に気づかないなんてあなた達の目は節穴ですかっ!?」と問いたくなります。
でも……あちらの世界でリュート様と出会っていたら、今のように私を認識して大切な存在だとおっしゃってくださったでしょうか。
呪いの影響を受け、私を遠ざけたりしたなんてことも有りえますよね。
そう考えたら、少しだけ……ほ、ほんの少しだけ、寂しい気持ちになってしまいました。
あちらでは魔法はありませんから仕方のないこと……ですよね。
「んー?また考え事か?」
私の頭を引き寄せ問答無用で腕枕をしたリュート様は、おでこにちゅっと音を立てて触れてからそうおっしゃいました。
…………あれ?
いま、ちゅって……されましたよね?
さりげなく……されませんでしたか?
「リュート様っ!?」
「ん?」
「え、あの、いま……」
「それよりも、深刻そうな顔をしていたルナのほうが気になるんだけど?」
あ……あれ?
まさかの無意識ですかっ!?
そういえば、カーバンクルの姿のときも意識せずに唇を寄せていたようですし……今はカーバンクルの姿ではありませんが、そ、そういう感じ……?
「何を悩んでいたって感じだよな。ベオルフに何か言われたのか?」
「いえ、そうではなくて……く、くだらないことを……考えていただけです」
「それは俺が判断するから、一人で考え込まずに話せるなら話してくれ」
「えっと……」
とりあえず、おでこにちゅーの件は置いておいて、私は先程考えていたとりとめもないことをリュート様に語って聞かせました。
すると、彼はキョトンとした表情を見せてから、深く考え込み始めます。
「そうだな……王族の可能性もあるし、ベオルフと同じ騎士の可能性もある。だが、どんな状況であっても、1つだけ……いや、2つだけ確かなことがあるな」
「確かなこと?」
「1つは、絶対にベオルフとは親友になっている。そして、これが一番大事だ」
なんだろうと耳を傾けていると、彼はとてもいい笑顔で自信満々に告げてくださいました。
「俺がルナの婚約者になっている」
え?
ど、どうしてそうなるのでしょう?
しかも、自信満々に言えること……なのですか?
「ルナを幸せに出来るのは、他の誰でもなく俺だ。ベオルフにだって負けやしねーし、そもそもアイツは兄的ポジションだから、争うのもバカバカしい。この場合、敵となりうるのはセルフィスだが、生憎とバカに負けるつもりはねーからな」
それに、きっとルナのことは、何があろうともわかるはずだ。
わからないはずがない。
自信満々にリュート様はそうおっしゃいますが、セルフィス殿下は王族です。
貴族や平民であれば、太刀打ちできるはずもありません。
「その場合は、他の誰もが認めるような功績を上げればいいんだろ? ルナを得るためだったら、俺はなんだって出来る。前世の記憶だろうが何だろうがフル活用して己に有利な状況を作り出し、ルナと一緒に居ることが出来る場所を作る」
キッパリ言い切るリュート様に、じわりと胸が熱くなると同時に涙が滲みます。
そんな私の様子に気づかず、リュート様は「ベオルフも味方につけたら心強いし、黒狼の野郎をぶっ飛ばすまたとないチャンスだな」と笑いました。
「どうだ?あっちの世界でも、俺がいればルナは絶対に幸せになれるだろ?」
私の想像をここまで真剣に考えて、嬉しい答えを出してきてくださるリュート様は優し過ぎます。
これくらいで泣くことか? と、私の目尻に浮かんだ涙を指で拭ってくださったあと、悪戯を思いついたような顔をして、顔を近づけたかと思うと目尻の涙を舐め取ってしまいました。
……あれ?
な……舐め……?
今回は……ちょ、直接きましたよっ!?
指で拭ってから舐めたではなく、ちょ、直接っ!
「んー? こっちのほうが少し甘く感じるか?」
そんなことあるはずが……と言いたいのに、口はぱくぱく動いても言葉が出てきません。
心臓が激しく音を立て、顔に上がってくる途方も無い熱量に驚きを覚えてしまいます。
これこそ、顔が真っ赤!という状態ですよね。
必死に隠そうと両手で顔を覆いますが、耳でバレバレなのでしょう。
上機嫌なリュート様の笑い声が聞こえてきました。
「断罪されて牢へ入れられる前にベオルフと一緒に連れ去ってやるから安心しろ」
勿論、闇雲に連れ去るわけじゃなく、下準備を全て済ませ逃亡先や安全なルートも確保してから行動するから問題ねーよと言うリュート様に、なんて顔をすれば良いかなんてわかりません。
今は、この真っ赤な顔を見ないでほしいです。
そして、さり気なく『連れ去ってしまう』なんて乙女の願望を叶えてくださるようなことは言わないでくださいね。
心臓が更に負担を覚えて、叫んでしまいそうですから……
指の隙間から見えたイケメンスマイルつきで連れ去る宣言なんて……も、もう……どうしたらいいかっ!
「ほら、怖いことも不安なこともねーだろ?俺がいれば、ルナは大丈夫だ」
ルナの良さがわからないバカに任せておくほど、俺はお人好しじゃねーよと言い切ったリュート様は、私を包み込むように抱きしめて甘い声で囁きます。
「俺はどこかのバカ女なんてしらねーし、ルナの敵になるっていうなら徹底排除の上に容赦しねーから安心しろ。何度も言うが、俺にはルナが必要なんだ。他の誰でもねーんだよ」
わかっているのか? と苦笑を交えて抱きしめる腕に力を込められ、必死に首を上下に振り意思表示をしているのに「俺の言っていることの半分でも伝わってくれたらいいなぁ」と半ば諦め口調です。
それはちょっぴり心外ですよ?
ちゃんと伝わっておりますから、ご安心ください。
指の隙間からチラリと彼の顔を見れば、シッカリと視線があってしまい、慌てて目をぎゅっと閉じました。
なんだか……と、とっても恥ずかしいのです……今は……顔をまともに見ることが出来ません。
麗しい表情を見ることができないのは残念ですが、そろそろ私の意識が飛んでしまうかもしれない状況では酷な話でしょう。
お、落ち着いてください、私の心臓……そろそろ鎮まってください。
「真っ赤な耳が可愛いな……もう一度触れていい?」
「だ、だ、だめ、駄目ですっ!」
「こんなに美味しそうなのに?」
食べる気満々ですかっ!?
駄目に決まっております!
いま、先程のように耳朶を喰まれたら……私の心臓はそれこそ止まってしまいかねません。
「ルナ……本当に駄目?」
耳朶にかかる甘い吐息にぞわぞわしたものが背筋を駆け上がってきて、変な声が漏れそうになります。
必死にそれを飲み込んで身を竦めていると、トントンと音が聞こえてきました。
遠慮がちなその音は、とても小さく……迷いを含んでいるように聞こえます。
私たちは動きを止めたあと、今までのやり取りを忘れたかのように顔を見合わせて、音の発生源へと視線を向けました。
どうやらその音は、部屋の扉を叩く音のようです。
ベッドが設置されている位置から部屋の扉は死角になっていて見えませんが、確かにそちらから音がしました。
リュート様は私にベッドの中にいるように告げると、寝間着の上から薄手の黒い上着を羽織って扉の方へ歩いていきます。
まだ薄暗い時間帯……朝も早くにどちら様でしょう。
リュート様の姿はすぐに見えなくなってしまいましたが、扉を叩く小さな音がとても気になってしまい、私はカーバンクルの姿に変じるとリュート様のあとを追うことにしました。
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