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第六章 いつか絡み合う不穏な影たち
しっぱいしっぱいなのは、作りたいを刺激したようです
しおりを挟む「リュートお待たせ、みんな準備ができたよ」
ロン兄様の声が聞こえてそちらを見ると、リュート様が言っていた広場に黒い鎧の方々が集っておりました。
皆様そろって鎧を着用して、準備完了のようです。
朝からハードな訓練をするのでしょうか、全員が鎧着用ってすごく迫力がありますね。
「それじゃあ、やるかーっ!」
リュート様は久しぶりにクラスメイトたちと朝の鍛錬が出来るので嬉しいのか、口元に嬉しそうな笑みを浮かべております。
「何かあったら声をかけてくれな」
「あ、リュート様! 時間があったらパスタも作りたいのでパスタマシーンも出しておいてください」
そんなに朝から作って大丈夫か? と確認を取ったリュート様は、私が無理はしないと約束したら、渋々といった様子で出してくださいました。
最後の「チェリシュが見張っておくの!」が決め手となったのでしょう。
お母様も頷いていたので、無茶をしないと判断したみたいですが……わ、私は、リュート様ほど無茶をしませんよ?
「無自覚というのは、自分で理解していないが傍から見ればそう見えるから言われるのだ」
何故か不意にベオルフ様の言葉を思い出し、こ、これは無自覚の部類でしょうかと首を傾げました。
いけませんね、リュート様にお説教するつもりなのに、私も同じことをしていたら示しが付きません。
気をつけなくては!
「師匠ー、全部細かくカッティング出来たぜー」
4人がかりで沢山の具材を細かくしてくれたようで、人参や玉ねぎだけではなく水にさらしていたナスも同じくらいの大きさになっていました。
しかし、考えていたよりも大量です。
茹でているジャガイモはまだ時間がかかりそうなので、そちらは暫く放置ですね。
「さて、朝食ということもありますから、お野菜とお肉を沢山食べられる料理にしようと思います。お肉を大量消費するのには『ハンバーグ』や『ミートソース』などを考えておりますので、それはまた別の機会にしましょう」
はんばーぐ? みーとそーす? と弟子たちだけではなく、チェリシュとお母様も首を傾げていたので、この世界にはない料理なのでしょう。
お肉をミンチにするという技法が無かったので、仕方がないですよね。
「しかし、師匠の世界は変わっているよな。肉をこんなに細かくしたら歯ごたえがなくなるだろうに」
カカオが不思議そうにミンチ肉を見ながら首を捻っておりましたが、これはこれで美味しいのですよ?
ハンバーグや餃子なんて肉汁がじゅわぁっと……い、いけません。
今は違います、そっちではありません。
リュート様ではありませんが、食べたくなっちゃいますもの。
「これは私の国ではなく、他国の家庭料理なのです。だから、冷蔵庫に余っている野菜などを使うことが多いんですよ。冷蔵庫の掃除をするのに良い料理は沢山ありますが、これもその一つですね」
冷蔵庫の掃除=古くなりそうな食材の消費という構図が浮かばなかった彼らに、そこから説明すると、お母様が「合理的な料理なのね」と驚いておりました。
そういう時の料理で一般的でお手軽なのはカレーですが、それは明日です。
カウボアの肉の塊がまだ残っているようですし、それを煮込んで贅沢なビーフカレー風にしよう。
「それは大助かりですにゃぁ、いつも困ってしまいますにゃぁ」
「そうなんだよなー。んで、リュート様に相談すると、全部言い値で引き取っちまうから……リュート様の食料庫ってどうなってんだろうな」
今回も相談しようと思っていたんだよなーと、カカオとミルクが揃って苦笑を浮かべていました。
まあ……そうなりますよね。
お店で消費できるから……ってみんなは考えているでしょうが、あの方のアイテムボックスは特殊だから出来る芸当です。
時間凍結なんてついていたら、いつまでも保管できちゃいますもの。
「リュート様にゃら大丈夫だにゃ」
「沢山食材を抱えても、師匠がいるにゃっ!」
「それもそうだな」
「私達も師匠のように、食材でお料理を沢山思い浮かべられるように頑張りますにゃぁ」
「チェリシュのジャガイモいっぱい使ってほしいの! うまうまなのっ」
また「ジャガイモごろごろーっ」て言って出しそうなチェリシュにストップをかけます。
リュート様がいらっしゃらない時にアレをされたら、とっても危ないですもの!
「あのカゴの中にゴロゴロできますか?」
「が、頑張ってみるの!」
むー、むむぅーと目を閉じて唸っていたチェリシュが、パッと目を開くと同時に両手をあげて「ジャガイモごろごろなの!」と言うと、何故か上空からキャベツがゴロゴロ飛び出してきました。
大きなカゴに溢れんばかりの大玉のキャベツが……あ、2つほど転げ落ちましたね。
「はっ!しっぱいしっぱいなの……間違えちゃったの」
「これは立派なキャベツですね。しかも柔らかそうな新鮮なキャベツですね」
「そ……そう……なの?」
「ええ、とっても良いキャベツです。お好み焼きや……あ、夜はロールキャベツでも作りましょうか。でもそうなると、パスタ……いいえ、パスタは乾燥させておけば良いですね。こんな新鮮なキャベツを前に料理をしないなんて、食材への冒涜です!」
みずみずしい大玉のキャベツは、春キャベツですよね。
はぁ……こんなに立派で鮮やかな緑色のキャベツは見たことがありません。
そのまま刻んで食べても美味しそうです。
私がキャベツを一つ手に取りそう言っていると、チェリシュは褒められたことが嬉しかったのか、頬をほんのりピンク色に染めて照れ笑いを浮かべておりました。
やはり、自分が丹精を込めて作った作物を褒められるのは嬉しいですよね。
こんなに見事な野菜を作る事ができるチェリシュは凄いです。
私は前世の祖父母が都会から離れた場所に住んでいて、小さな畑と田んぼを持っていたので良くお手伝いにいきましたが……ベオルフ様に知られたらいじられるくらい、色々と失敗をしてきました。
兄を巻き込み泥まみれなんてこともありまし、せっかく収穫した野菜を持ったままコケて祖父母の家の横を流れる小川にダイブなんてこともありましたから、絶対に内緒なのです。
「でも……キャベツを千切りにしてトンカツという手も……」
頭の中を目まぐるしく様々なメニューが過ぎ去り、リュート様が一番喜んでくださるメニューはなんだろうと考えますが、やっぱりトンカツ……ですよね。
カウボアでカツを作るのはどうでしょう。
美味しいかもしれませんよね!
つまり、クイックヨーグルト酵母で作ったパンから、パン粉を作ることも視野に入れないといけません。
「師匠の頭の中はどうなってんのか覗いてみてーな……」
「いっぱい料理名が出てくるにゃ」
カカオとカフェが目をまんまるにして私を見ていますが、すぐに彼らも作れるようになるから驚くほどのものでもないような気がします。
チェリシュにキャベツをありがとうとお礼を言って、私は急ぎ玉ねぎをフライパンで炒めていくことにしました。
作りたい料理を考えていたら、時間はいくらあっても足りません。
「まずはフライパンでオリーブオイルを熱し、細かくした玉ねぎを炒めていきます」
私はチェリシュに炒めるのを任せながら、同じように料理を作り始めた4人の様子も見て、次の工程にうつるタイミングを伺います。
「そろそろいいですね。そこに先程作ったミンチを加えてください」
ミンチ肉を全員がフライパンに加えたのを見て、私はチェリシュと交代し、ミンチ肉をほぐしながらバラバラになるように火を通していきました。
これを見ていた弟子たちは、固めるのじゃなくバラバラにするのだと理解して、急ぎ細かくなるように手に持った木べらを動かしています。
手早いですね。
チェリシュが「やってみるの!」というので任せてみると、少したどたどしいけれども一生懸命に頑張っている様子が可愛らしくて、思わず口元がほころんでしまいます。
みんなが必死に炒めている間に、私はグラタン皿になるような深手の食器を見つけてきて、器にバターを塗りました。
「ルナちゃんは何をしているの?」
「風味を良くする上に、器へのこびりつきを予防するためなんです」
こちらには洗浄石がありませんでしたからと説明すれば、無いから発達する知恵よねとお母様は優しく微笑んでくださいます。
ついクセでこういう一連の動作が抜けないけれども、風味を良くするためでもあるので問題ないでしょう。
「火が通ってきたら次に細かくした野菜を加えます。多くなりますが、頑張って炒めてくださいね」
こういう炒めものが得意なのはカカオのようで、見事なフライパンさばきですね。
煮るのが得意なカフェ、焼くのが得意なラテ、炒めるのが得意なカカオ。
キャットシー族には、それぞれ得意な分野が存在するのでしょうか。
すると、ミルクにも何か隠れた才能がありそうです。
「全体的に火が通ったら、鶏ガラスープと赤ワインと先ほど作ったケチャップとソースを加えます」
「ケチャップとソースなの!」
瓶詰めしたためなのか愛着があるようで、チェリシュはケチャップとソースが入った瓶を抱えてご満悦ですね。
でも、抱えているだけではダメですよ?
熟成させたらもっと美味しくなりますが、今日は試しということで使っていきましょう。
そういえば、これを先程の発酵石の器に入れたら熟成が進むのでしょうか。
試してみるのもアリかしら。
ある程度水分が飛んだら炒めたミンチ肉と野菜の味を最後は塩コショウで整え、器に敷いていきます。
ちょうど茹だったジャガイモを今度は取り出し、皮をむこうとしたのですが、ミルクが「まってくださいにゃぁ」というので見ていると、大鍋からジャガイモを取り出し左右にスタンバイとばかりに位置取りをしたカフェとラテが「いいかにゃ」とカカオにたずねます。
え、えっと……何をするつもりなのでしょう。
「いいぜ! 俺様が全部片付けてやる!」
気合のこもった言葉とにょきっと伸びた爪が合図だというように、ポンポン投げられて宙を舞うジャガイモ。
そして、それを神業のような素早い爪さばきで、綺麗に皮をむいていくカカオ。
「すごいの!」
思わずチェリシュの言葉に頷きます。
なんという神業……!
でも、私……こういう光景を某狩りゲームで見たことがあるような気がしますよ?
あまりの光景に言葉が出ず、私がしたら絶対に全部落とす自信があるなぁ……なんてとりとめもないことを考えながら、チェリシュと一緒に皮が綺麗にむかれたジャガイモの山を見つめて拍手をしました。
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