悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第八章 海の覇者

鉄板から思い出す料理

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 とりあえず、浜辺で繰り広げられていた追いかけっこは、最終的に元クラスメイトたちが「店長っ! お助けーっ!」と言いながら盾にするように後ろへ隠れてしまい、意図せず庇う形になってしまったキュステさんが、魔王化しているリュート様に蹴られたことで終了しました。
 ここまで来ると、様式美というか何というか……相変わらず不憫ですね、キュステさん。
 本人はのほほんと笑いながら、「堪忍したって」と言っている様子から見ても、ノーダメージ。
 素直に凄いなと感じながらも、戦闘をしているときは、とても頼りになる様子だったこともあり、ギャップが凄まじくて苦笑しか浮かびません。

 そんな彼らは、現在、手分けをしてクラーケンの腕を収納しておりました。
 何故、急にそんな動きになったかというと、王太子殿下であるシグ様が瓦礫の撤去のために召喚した何でも吸い込んで処理してしまうモルルが、クラーケンの腕も片っ端から飲み込もうとしたからです。
 これには流石のリュート様も驚き、慌てて作った空間の中へ閉じ込め、その間に作業を終えてしまおうと一致団結をした結果でした。
 さすがは、元クラスメイトたちです。
 見事なコンビネーションで、クラーケンの腕を運搬してリュート様の元へ集めておりますね。

 クラーケンの腕は分量があったので収納場所に困ることは目に見えていたからか、リュート様がひとまずアイテムボックスへ収納する事になりました。
 ヒョイヒョイと大量のクラーケンの腕を難なく収納して行く様子に一同は唖然としておりましたが、「時空間魔法の使い手だから出来る芸当ダヨ」という時空神様の言葉で、謎の多い時空間魔法について、また一つの謎が解けたと納得している様子です。

「時空間魔法は使い手が少ないから謎が多いの。私や父よりも使えるから、うらやましいわ」

 お父様を伴って私たちのところまでやってきたお母様は、そう説明してくださいました。 なるほど……
 確かに、使い手が少ない魔法の詳細はわかりませんよね。
 特に、時空間魔法を時空神様が使う力の一端と考えれば、扱い方も難しいはず。
 ヘタをすれば、他の世界にも影響を与えかねない物───そう考えると、召喚魔法は、時空間魔法から派生したものなのでしょうか。
 他の世界に干渉していて、実際に自らの世界へ呼ぶことができるのですもの。
 ヤマト・イノユエも、類い稀なる時空間魔法の使い手だった可能性は高いですよね。

 そんなことを考えながら元の姿へ戻った私は、クラーケンの腕を調理に使う分だけ確保しようと、近くにあったクラーケンの腕を確認しました。
 私のマネをするように見ていたチェリシュが「ぷにぷになのっ」と言い、クラーケンの腕を突いている姿を見ると、なんだか和んでしまいます。

「コラ、チェリシュ。食材で遊ぶんじゃありません」
「ごめんしゃいなの」

 チェリシュを抱き上げて注意するリュート様は、いつでもどこでも発動するパパモードですね!
 アイギスを纏っている姿でもパパになってしまうリュート様に、ちょっぴりキュンッとしてしまいます。
 これが、ギャップ萌えというヤツでしょうか。

「はい、チェリちゃん、これをだんさんに渡してー」
「あいっ」
「いや、直接渡せよ……」
「リュー、あいっ! なの」
「おう。ありがとうな」

 キュステさんに文句を言いながらも、渡されたら柔らかな笑顔で対応してしまうリュート様と、役に立てたと嬉しそうに頬を染めて喜ぶチェリシュ。
 も、もうっ!
 本当に、この父娘は可愛らしいのですからっ!

「よし、収納完了! ルナ、今現在使う分量は確保したか?」
「はい。此方に置いてあります」
「足りなくなったら声をかけてくれ」
「ありがとうございます」
「よし、今から此方は鉄板の改良に入ろうか。ギムレット、ヨウコ、助手を頼む」
「やりますかのぅ」
「オイラの出番? わかったー!」

 はしゃぐヨウコくんをたしなめながらも、リュート様が作ろうとしている物を理解しているギムレットさんは、様々な工具を取り出して作業に入りました。
 リュート様は、術式を刻むための道具を取り出していて、ヨウコくんは2人の間を行ったり来たりしてサポートをしているようです。
 その工程に興味を持ったらしいアレン様とナナトが張り付き、様子を見守っておりました。
 ナナトのお金儲けに関する嗅覚は、本当に鋭いですね。
 たこ焼きだったら、レシピがあれば屋台でも作ることが出来ますもの。
 屋台の定番といえば、焼きそばやお好み焼きですが……
 焼きそばは麺の加工があるから時間がかかりますけれども、お好み焼きならできますよね。

「リュート様、普通の加工していない鉄板もお願いできますか?」
「ん? 何か思いついたのか?」
「チェリシュから沢山貰ったキャベツもありますから、お好み焼きを作ろうと思いまして……」
「……え?」
「お好み焼きです。焼きそばも作ろうと考えたのですが、麺の加工に時間がかかりますから、今回は見送ろうかと……屋台と言えば、お好み焼きもあったら良いですよね」
「マジか……作る、ノーマルな鉄板も作る!」

 うわぁ、楽しみだなぁと満面の笑みを浮かべて作業を開始するリュート様に、ナナトが「屋台ですにゃ? 屋台でできますにゃっ!?」と質問攻めを開始し、アレン様に回収されておりました。

「全く……楽しそうに作りおる」
「リュートは、食べることに貪欲ですから」
「食いしん坊め……」
「あら、そのおかげで、ルナちゃんという素敵な娘が出来て、美味しい物を食べる事が出来るようになったのですよ?」
「うっ……確かに……」

 お父様とお母様の会話を聞きながら、私はクラーケンの腕を洗浄石で綺麗にしてから、用途にあわせて適度な大きさへカットしていきます。
 リュート様が斬った場所とアレン様たちの斬った場所では、断面が全く違いますから、この辺りも考えて切り分けていかないといけません。
 タコの唐揚げやアヒージョを作るのなら、断面が多少潰れていても問題は無いでしょう。

「今回は、タコのカルパッチョ、唐揚げ、たこ焼き、明石焼き、お好み焼きを作りましょうか」

 アヒージョは配るときに器に困りますし、酢の物はカルパッチョと系統が同じだったこともあり、今回は見送りです。
 どちらも作りたかったのですが、次回のお楽しみに取っておきましょう。

「師匠……前から思っていたんだけど……品数が多くねーか?」
「これだけ人が多いのですもの。品数も必要になりますし、大量に作らなければなりません。それに、一品を大量に食べるのは大変ですもの。味に飽きてしまいます」
「フードファイターは、味に飽きるから必ず味変をスル……みたいなことを聞いたことがあるヨ」

 時空神様の言葉に、「食べ物で戦う……なの?」とチェリシュだけではなく、周囲の人々も驚いた様子でしたが、何故か最終的に全員がリュート様を見ておりました。
 い、いえ、リュート様はフードファイターではありませんよ?
 ただ、沢山食べられるだけです。

「奥様……お、お手伝い……する……わぁ……」
「何故、今にも死にそうな声を出しているのですか、キュステさん」

 フラフラと此方へやってきた彼は口元を押さえ、若干ですが顔色が優れません。

「キューちゃん、コレをあげるなの」
「チェリちゃん、おおきに……ホンマに助かるわぁ」

 チェリシュから差し出されたベリリラッシーを飲み干し、人心地着いたような顔をしたキュステさんは、手で両頬を叩いて気合いを入れ直します。
 そういえば、収納が終わった際に、追加でシロから手渡されたポーションを飲み干していましたね。
 リュート様と同じように、ポーションの味が苦手だったのでしょうか。

「あの濃度は、常人では飲めないレベルです。もう少し改良が必要です」
「やっぱりー? だから効果を追い求めすぎて、味が変になっちゃうよって言ったのにー」
「言ったのにー」

 も、もしかして、貴女たち……キュステさんで人体実験をしておりませんか?
 でも、まあ……効果を求めすぎたということは、早く治したかったという解釈もできますし、深く考えないようにしましょう。

「とりあえず、カルパッチョと唐揚げはわかるけど、他のはわかんねーな」
「唐揚げは任せて欲しいですにゃ!」
「カルパッチョも慣れたものですにゃっ!」

 腕を組み首を傾げるカカオの横で、ぽんっと胸を叩き頼りになる返答をしてくれたのは、カフェとラテです。
 お店でも人気の商品だと聞いておりますから、任せても大丈夫でしょう。
 ただ、作り方は一度見せないといけないと思ったので、まずはキッチンカー……もとい、キャンピングカーへ移動してクラーケンの腕をボイルしていきましょう。
 カルパッチョは生でも良いのですが……念のために、新米時空神のルーペを使って、生食が可能なのか確認をします。

【クラーケンの腕】
 海の覇者クラーケンの腕。
 斬り落としても、個体の力により差はあるが、数分から数日で復活する。
 生命力が強く知能も高いため、とても厄介な相手であり、危険を察知して逃げる際には墨を吐いたり自らの腕を切り落としたりすることもある。
 腕を斬り落とす際に痛みは無く、通常時は痛覚を持っているので、重点的に攻撃すると多少は動きが鈍くなるが、やり過ぎると凶暴化して手がつけられないので要注意。

 日本のマダコよりも、若干、旨味が濃くシッカリとしており、生食も出来る。
 本体が魔物なだけに、寄生虫の心配は無い。
 ただ、大きいので加工には工夫が必要になる。

 ───とのことでした。
 なるほど、マダコよりも味がシッカリとしている上に、生食が可能なのですね。
 でしたら、カルパッチョは生とボイルした物の二種類を作りましょう。
 生食が苦手だという方でも美味しく食べられるでしょうし、リュート様とロン兄様は、確実に生の方が好きですものね。

 味の確認をするためにボイルしたクラーケンの腕を薄く切り、軽く塩を振って食べてみる。
 思わず「なるほど……」という呟きがこぼれ落ちるくらい、説明文をそのままにしたような感想を抱くことが出来ました。
 水っぽく無く、独特なタコのうまみが感じられますし、ぷりぷりの食感も申し分ありません。

「極上のタコですね」
「コレは陽輝がうらやましがるヤツ……」

 横でパクリとボイルしたクラーケンを食べた時空神様は、口元に穏やかな笑みを浮かべておりますが、良い土産話が出来たと言わんばかりの様子です。
 本当に兄と仲が良いですよね。

「初めて食べましたにゃ……」
「ぷりっぷりですにゃっ」
「へぇ……興味深い味と食感だな」
「独特の美味しさですにゃぁ」
「この食感、私は好きですっ」

 弟子たち全員も食べて、それぞれに感想を述べておりますが……あの、マリアベル? 貴女、休憩をしなくても大丈夫なのですか?
 以外とタフなのか、元気いっぱいカフェたちとタコについて話をしている彼女を見つめながら、「ルー、ぷりぷりなの!」と笑うチェリシュの頭を撫で、それぞれが現状復帰に忙しくしている中、私に出来る最高の料理をもって疲れた彼らを労おうと心に決めた。

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