悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第八章 海の覇者

8-59 諦めなかったから得られた幸せ

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「ルー……これは、お出汁につけて食べる……なの?」
「そうですよ。たっぷりお出汁に浸して食べるのです」
「父上のリクエストなんですよね? それほど好きな料理なのですか?」
「とっても美味しいからネ。出汁の旨味を感じる料理の一つダヨ」

 海神様に質問されて答えていた時空神様は、出汁にネギを散らしてある器の中へ明石焼きをつけて口へ運び、ふにゃりと笑います。

「ルナちゃんは凄いネ。限られた材料で、ここまでやるんだカラ」
「いつか、満足していただけるレベルまで持って行けるように努力しますね」
「ルナちゃんだったら、簡単にできそうで怖いナ」
「皆の協力があるからこそ出来たことですし、そんなに簡単にはいかないと思います」
「そう? まあ、ルナちゃんのためだったら、たとえ火の中、水の中の人がいるし、それどころか森の中や土の中まで大丈夫デショ……あ、スカートの中はダメだからネ」
「っ! ごほっ……くっ……てめっ……」

 いきなり隣でむせたリュート様に驚き、私とチェリシュで丸まった背中を撫でていると、涙目のリュート様が咳き込みながらジロリと時空神様を睨み付けました。
 しかし、それもどこ吹く風というように、時空神様は明石焼きを頬張っています。

「リュー……」
「ちがっ! 誤解だっ! 我関せずみたいな感じで明石焼き食ってんじゃねーよ。テメーのせいで変な誤解を与えちまってるだろうがっ!」
「んー? 誤解ー?」

 いけません。
 リュート様をからかって遊び出しましたよっ!?
 ベオルフ様を相手にしているときは、そんなことをしませんが、リュート様は別なのでしょうか。
 とりあえず、チェリシュの誤解は解いておきましょう。

「チェリシュ。これは歌詞の一部ですから、リュート様がするというお話ではありませんよ」
「びっくりしたの……変わったお歌なの」

 愛娘に変態扱いされかけたリュート様は必死になりますよね。
 それも見越しての発言だったのかニヤニヤしていた時空神様は、隣のアーゼンラーナ様に小突かれておりました。

「全く、そなたはすぐにリュートで遊ぶクセをやめぬか」
「反応が良いカラ、つい……ゴメンネ」

 楽しげに笑っているのは、きっと、日本のネタが通じることが楽しくて仕方が無いのでしょう。
 まあ……気持ちはわからなくはないのですが、飲み物を飲んでいるタイミングで仕掛けるのは危ないですよ?
 あと、チェリシュがいらない心配をしますので、ヘタなことは言わないでください。

「誰のスカートの中を想像したのか、お兄ちゃんは気にしないよ」
「ロン兄っ!?」
「まあ……リュートも……大人だしな……」
「テオ兄、遠い目をするのはやめてくれ! 妙に真実味が出るだろっ!?」

 兄二人にかわかわれて必死に抗議をしていたリュート様は、「全く……」と言いながら、落ち着くことを促すように私が差し出したお茶を手に取り口へ運びます。
 その際、私と目が合った瞬間に狼狽して赤くなったのはどうしてでしょう。

「リューがベリリなのっ!」
「チェーリーシュ」

 私の膝からリュート様のところへダイブし、顔を近づけてリュート様に抱きつくチェリシュと、抱き留めながらも顔だけは背けるリュート様。
 そんな可愛らしいジャレ合いを見せる二人に、「明石焼きを食べないのですか?」と問いかけると、ハッとした表情をしてからテーブルの上にある明石焼きを父娘揃って食べ、ふわふわでトロトロの口溶けを口の中で感じたのか、似たような表情で顔を輝かせます。

「どうですか?」
「出汁がきいてて旨い……やば……これは、出汁がいいなぁ」
「お出汁が美味しいの! おうどんで食べたい……けど……明石焼きも……うまうまーなのっ!」

 二人がとても美味しそうに食べてくれることが嬉しくて、思わず口元が緩みました。
 私も一つ……と、明石焼きを口に運び、出汁と一緒に柔らかくてふわとろな生地を楽しみます。
 上品な出汁の味を邪魔しない、とても優しい生地に仕上がっておりました。
 このふわとろ感がたまりません。
 醤油が加われば、もっと味に深みが出ますし、今後に期待ですよね。

「さて、次は酒のあての唐揚げだな」
「お酒……チェリシュは飲めないの」
「ああ、そうでした!」

 私はチェリシュとの約束を思い出し、慌ててグラスと水を用意します。
 それから、生姜をすりおろした物と蜂蜜をお湯で溶かした物を混ぜて、水の中へ加えました。
 ちゃんと水と混ざり合ったのを確認してから、白丸石と月晶石の粉末を少量加えると───なんと、自家製ジンジャーエールの完成ですっ!
 炭酸水と生姜と砂糖などの甘味料があれば作ることができるという、お手軽ドリンクですね。
 日本に居た頃は、チューブに入ったすりおろし生姜を使っていたりしましたが、食感が気になるという方には、生姜パウダーや生姜の蜂蜜漬けをオススメしておりました。
 辛みも甘みも自分の好みで変えられるので、夏場に氷を入れて甘さ控えめに作り、よく飲んでいた記憶があります。

「チェリシュ、お約束のジンジャーエールですよ」
「チェリシュもしゅわしゅわなの!」
「お、それも旨そうだな」
「リューになら、一口あげるのっ」
「サンキューな」

 分け合う二人の姿にほっこりしながらも、次はピッチャーに仕込んでいきましょう。
 お酒を飲めない人たちも、これで楽しんで貰えたら嬉しいですものね。
 シロたちがお酒を飲まないのは知っていたので、まずは其方のテーブルへ持って行ってから、ナナトが用意してくれている屋台へ持って行こうと立ち上がります。

「俺が運ぶ」
「いえ、私も……」
「足元が危ないから一つだけな。また転けたら怖いし……」
「は、はい。それでは、お願いいたします」
「おう」
「チェリシュも───」
「チェリシュはジンジャーエールがどれだけ美味しいか堪能し、このテーブルにいるみんなに伝える役目を任命する」
「はっ! 任命されちゃったの。頑張るのっ!」

 チェリシュは顔を輝かせてコクコク頷き、ジンジャーエールを口に運んで目を丸くしてから、どれだけ美味しいか語り始めました。
 その様子をリュート様と顔を見合わせて笑い合ってから、ジンジャーエールが入ったピッチャーを運びます。
 屋台の空いているスペースに置き、簡単な説明を書いてから席へ戻ろうとしたのですが、リュート様の元クラスメイトたちが慌てて水を取りに来たようで、どうしたのかしらと見ていると、私が作ったばかりのジンジャーエールを持って席へ戻っていきました。

「いだだだだっ! いだいっすうぅぅぅ! ふつーの、ふつーの水ううぅぅ」
「たこ焼きを勢いよく食べるからだ馬鹿!」
「リュート様に注意されていたでしょうに!」

 あー……たこ焼きを一気に頬張って火傷してしまったのですね。
 そこに、ジンジャーエールとか……どういう拷問ですか?
 ジンジャーエールが入ったピッチャーを沢山持って後ろをついてきていたリュート様も、これには呆れ顔です。

「やると思った……ある意味、期待を裏切らねーヤツ」
「楽しい方々ですよね」
「そうだな」

 騒動を聞きつけてやってきたマリアベルは、モンドさんに癒やしの魔法を使ってあげていて、彼女の優しい性格がよく表れていると感じました。
 マリアベルは、本当に良い子ですよね。
 その光景を横目で見ていたリュート様は、残りのピッチャーを屋台へ置いてから、一つだけ持ってマリアベルの元へ行き、ジンジャーエールを渡して「世話をかけたな」とお礼を言っております。
 マリアベルはリュート様の言葉が嬉しかったのか、ニコニコ笑ってピッチャーを軽々と持ちながら、足取りも軽く席へ戻っていきました。
 意外と、マリアベルは力持ちですよね。
 騒ぎを起こしたモンドさんは、リュート様にゲンコツを貰って、ぶーぶー文句を言っていましたが、なんだか楽しそうです。

 周囲を見渡して改めて様子を見てみると、そこかしこに笑顔が溢れ、お酒も料理も進んでいる様子でした。
 少し前では考えられなかった光景です。
 沢山の人に囲まれ、名前を呼ばれ、みんなが私を居なかった者にすることなく見てくれる……
 幸せだな───

 そんな私の頭に、ぽんっと自らの左手が乗せられました。
 ベオルフ様?
 泣いているのではありませんよ?
 幸せに浸っているだけです。
 私は今、とても幸せだと思いませんか?
 ただ……ベオルフ様とオーディナル様とノエルがいないのは寂しいですが、こんなにも沢山の人々に囲まれて、私の料理を食べて貰えるのです。

 本当に、あのとき諦めなくて良かった───

 そう心から思っていた私の元へ、リュート様が駆けてきます。

「ルナ、待っていてくれたのか? 席に戻って、チェリシュと一緒に食べていたら良かったのに」
「ここから、みんなの様子を見ていたのです」
「んー? ああ……みんなすげー楽しそうだな」
「はい。とっても……」
「浴衣と花火があれば完璧だったな」
「リュート様の浴衣姿……とても似合うと思いますっ!」
「お、おう……そ、そうか?」
「はいっ!」

 力強く言うと、若干勢いに押され気味だったリュート様は、何かを思いついたように悪戯っぽい色を瞳に宿しました。
 な、何でしょう……

「その姿で、眼鏡もかけてみる? ルナが希望するなら考えてみるけど?」
「うぅ……ぜ、是非ぃ……」
「りょーかい」

 私を弄って遊ぶのが楽しかったのか、とても良い顔でニヤリと笑い、私の手を握って席まで戻るリュート様と一緒に歩くのが何故か恥ずかしく……なんだか胸の内側がくすぐったい感じがしますよっ!?
 思わず一連の会話で照れてしまいましたが、席へ着くまでにはこの赤い顔を何とかしないと!
 リュート様に眼鏡に弱いことを知られたのは失敗でした。
 でも、見てみたいですし、仕方がありませんよね?
 きっと、とーってもカッコイイ姿を披露してくれることでしょう。
 ふわふわな帯を着けたチェリシュも可愛らしくなるでしょうし、オーディナル様も喜んでくださるはず。
 いつか、浴衣を着て日本式のお祭りをしてみたいですよね。
 今回も雰囲気は出ていますが……

 リュート様に手を引かれて席に戻るまでの間、そんなことを考えながらも、明かりに照らされる彼の横顔を見ながら、なんだか幸せな気持ちに浸るのでした。

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