悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第九章 遠征討伐訓練

9-30 力ある者に捧げし言葉

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 モスキトの処理をしてから移動を開始した私たちは、暫く無言で足場の悪い湿地帯を走り抜ける。
 リュート様の速度は落ちてはいないが、問題児トリオが遅れ始めたのを感じたのか、彼は周囲を見渡して水気の無い地面を見つけ、そちらへ進路を変えた。
 真白が周囲を警戒していたが、何事も無かったのだろう。リュート様の頭の上でうとうとし始めて、見ている此方が不安定な場所なので落ちないかハラハラしてしまう。
 休めるときに休むのが真白のスタイルだと理解したが、色々な意味で心配になった私はポケットから抜け出し、安全で快適な寝床として提供した。
 リュート様の胸ポケットですやすや眠る真白を確認していると、遅れていた問題児トリオが到着し、道中で出くわす魔物が多くなってきたことから疲れが目立つ彼らのために、元の姿へ戻ってストックしてあったスムージーを手渡す。
 リュート様にも補給してもらっている間、他愛ない会話をしながらもマップで位置を確認しているようであった。

「そういえば、リュート様……先ほどの詠唱……今までとは少し違いましたね」
「ん? あー、それか。実はさ、実家に帰って母の魔法書を読み込んでいたんだが、人によってかなり解釈が変わるんだと気づいたんだ。詠唱の最初は、それぞれの力の源たる者の名を述べるだろう? それが神でも精霊でも同じだ」

 先ほどの風魔法で言うなら、【空を自由に舞い 何者にも縛られること無く駆け抜けし者】というのが風魔法の源となる者の名前らしい。
 魔法の詠唱にもルールがあって、直接的な名前を呼ぶことはしないのだという。
 その存在に対する力のある言葉というものがあるのだが、それを誰も教える事は無いので、自らで考えて詠唱を組み立て、力を引き出さないといけないのだ。
 だからこそ、人によって解釈が違い、詠唱も違ってくるのだというから面白い。
 しかし、ある程度テンプレートみたいなものが存在するらしく、この言葉が入っているとこの属性の魔法だということは理解出来るというのだが、モンドさんは無言で首を左右へ振っているし、ダイナスさんは苦笑いを浮かべていた。

「リュート様は、詠唱だけでなく術式で理解してしまうから恐ろしいのですよ……」

 ジーニアスさんが力なく遠くを見て呟くのだが、それがどれだけ非常識なことであるか、私にはイマイチ実感がもてなかった。

「まあ、主に変更したのは力を借りる相手の呼び方だ」

 以前のリュート様は、風魔法の源たる者の名を【空を自由に舞い 駆け抜けし者】と詠唱していたらしいのだが、お母様に借りた魔法書では、より詳しくそれぞれの魔法の源について独自の解釈が書き記されており、それを参考にしたという話であった。

「ということは、リュート様の詠唱は【力ある者】の箇所を全て変更されたのですか? 俺たちもリュート様の詠唱を参考にしているところがあるので、出来れば近いうちに教えていただけると助かります」
「あー、わかった。強化魔法の威力を上げるのは良いことだし、これからの事を考えたら必要だよな」
「しかし、そうなると……リュート様の時空間魔法は、更なる進化を遂げたということでしょうか」
「ん? あー……そこだけ少し違うんだよな。時空神に会ったせいか、オーディナルと話をしたせいなのかわからないが、ふっと頭に浮かんだ言葉があったんだ。そのおかげで、威力が爆発的に上がったな」
「え……リュート様? 今までのレベルでも他の追随を許さないレベルだったのでは……」

 ジーニアスさんの隣で、ダイナスさんの顔から血の気が引いていく。
 そ、そんなに大事なのですか?
 ジーニアスはカラ笑いをしているし、イマイチわかっていないモンドさんだけが「凄いっすね!」と元気な様子で目を輝かせている。

「これ、また……宮廷魔術師たちに目を付けられるやつじゃ……」
「しかも、リュート様が時空間魔法の源にしているのは、時空神様かオーディナル様ということになりませんか? 十神の力を源にしたら、普通……制御出来ずに魔力が逆流して大惨事ですよね」
「そんな、畏れ多いことは自殺願望者しかやらないだろ。それを防ぐために神殿勤めを希望する者が多いっていうのに、相変わらず型破りっていうか……伊達に、十神に好かれていないよな」

 ボソボソと話すダイナスさんとジーニアスさんの言葉に、今度は私のほうが驚いてしまう。
 魔法の源たる力は本人の魔力消費が前提条件であるが、発動させるのに必要なのは術式のみだと考えていたから仕方は無い。
 元々、リュート様が詠唱をしなかったこともあるので、その認識が薄かったのだ。
 つまり、魔法を発動させるには、本人の魔力+術式+力の源となる存在が必要になるという事なのだろう。
 あまり詳しく聞いていなかったが、リュート様は平然とやってのけるので気づけなかったが、本来その源となる力を持つ者は、自分の力に見合った神や精霊であり、十神や精霊王と呼ばれる類いではないのだということがわかったし、力を借りようとすれば神殿に勤める必要があるということも理解した。
 伊達に十神の面倒ごとを聞いているワケではありませんね……リュート様。

「じゃあさー、炎は真白の名前を使っていいよー?」
「起きたのか。まだ寝てろ」
「んー……何か起きちゃった!」

 ぴょこっとポケットから顔を出した真白は、えへへと可愛らしく笑っているのだが、リュート様は盛大な溜め息をつく。

「せっかく静かだったのに……」
「何か言ったっ!?」

 何故あなた方は、すぐにそう険悪になるのですか?
 まあまあと間に割って入ると、二人はすぐに落ち着きを取り戻したようであった。

「炎は周辺を燃やすから使用回数も少ないし、今のままでいい」
「そんな炎と一緒にしてもらったら困っちゃうなー、真白の炎は邪なる者や魔物しか燃やさないよー?」
「……は?」
「だーかーらー、真白と紫黒が使う炎は、元々ユグドラシルを守っていた神獣から受け継いだものなの! 目標以外は燃やさないのー!」
「え……なに、そのチート……」
「やだなぁ、真白たちは神獣の王だよ? 簡単なことだもーん。で、真白の解釈はどうなるのー? ねーねー!」

 どうやらそれが気になっているらしい真白は、リュート様にまとわりついて「ねーねー」と戯れ付く。
 小さい毛玉にまとわりつかれながらも、うーんと唸って考え込むリュート様は律儀だと感じながらも、その姿が微笑ましい。

「絶対にコレしかねーな。【小さき白い毛玉 ウザがらみをする者】だな」
「酷いっ!」

 まあ、半分以上は自業自得のような気もするのだが、ぶーぶー文句を言う真白を面白がるように指で突いて転がした彼は、ふと優しく微笑み、穏やかな声で呟く。

「冗談はさておき。【受け継がれし魂 慈悲深き小さな翼 崇高なる使命を背負いし者】――かな」

 リュート様の言葉を聞いた真白は、抗議のためにパタパタさせていた翼を止めて、丸い瞳をさらに丸くしてリュート様を見上げる。

「……うん、いいね! 真白にぴったり!」
「じゃあ、使わせて貰うわ」
「うん! いいよ!」

 意外と人タラシなところは、ベオルフ様に通じるところがあるかも知れないと考えながらも、円陣を組んでボソボソ話す問題児トリオの会話に耳をそばだてる。

「また、リュート様がパワーアップっすよ」
「あの方は、人の領域をどこまで超えていく気なんだろうな……」
「考えても無駄ですよ。だいたい、魔法の源となるところが十神という時点で、一般人とは違います。でも、我々は恵まれている方だと思いますよ? 季節の女神様や他の神々が力を貸してくださっているのですから」
「そうだよな。ものによっては、魔法科を越えちまってるし……」

 彼らは諦めにも似た溜め息をつきながら、私よりも事の重大性を認識しているのだろう、今にも倒れそうなくらい顔色が悪い。
 そんな彼らの円陣にコッソリと参加して、質問をぶつけてみた。

「普通は、違うのですか?」
「一般的には精霊に力を借りますが、上位者になると季節の女神様やそれぞれに縁が深い神々か、慈悲深き精霊王に力を借ります」
「でも、精霊はまじないに力を貸すと聞きましたが?」
「それは、術式を介さない場合なのです。我々のように魔法を使う者は、全て術式を使用しますので……まあ、リュート様のような緻密さはありませんが……」

 ダイナスさんとジーニアスさんが説明してくれる中、わかっているのかいないのか、腕組みをしながらうんうん頷くモンドさんに苦笑をこぼしていると、ぬっと背後に忍び寄る影が二つ――

「ルナ? 俺に質問すれば良いだろう?」
「え、えっと……」
「真白も受け付けるよー?」
「は、はい。そ、そうです……ね」

 リュート様と一般人の違いをよく知っている彼らの声は重要だと思って質問をしていたのだが、なんだか圧を感じる。
 こういう時に気の合う二人が恨めしい。
 いや、今一番恐怖を感じているのは、背後の彼らかも知れないと考え、とりあえず話題を逸らすことにした。

「まだ眠り足りないようですが、どうして真白は起きてしまったのでしょう」
「それもそうだな。お前、無理して起きなくても良いんだぞ?」
「んー、こういう場合って、何かあることが多いんだよねぇ」

 何か?
 きょとりと目を瞬かせてリュート様と顔を見合わせた瞬間、どこかへ泣きの連絡を入れていたらしいモンドさんが顔を上げ、リュート様も同時に動き出す。

「マジかよ……ルートは大幅に外れていたはずだが……」
「この感じは湿地帯の主っす!」
「お前、気に入られたんじゃないのか?」
「ああ、モンドをくわえた時の味が忘れられなかったということですか?」
「俺の黒歴史を、爽やかな笑顔で掘り返さないで欲しいっす!」
「え? お前って旨いの? どこからどう見ても……」

 リュート様、反応するところはそこではない気がしますよっ!?
 すぐさまエナガの姿へ戻り、リュート様のポケットへ避難すると同時に大きな地響きがして、湿地帯を覆うように枝葉を伸ばしていた樹木が、簡単に倒れていく。
 木々がなぎ倒されて響き渡る音は、今まで聞いたことがないほど不気味で、不吉な色をまとっていた。
 這いずるような音、水しぶきの音、樹木が悲鳴をあげているかのようになぎ倒されていく音――
 そして、私は彼のポケットから此方へ近づく主の姿を確認する。
 泥を纏い、大きな口を開きながら這い寄る姿は脅威そのものであり、二本の太いひげを自在に操り辺りを蹴散らす。
 まさしく、主という名にふさわしい巨体を持つナマズのような魔物は、私たちへ襲いかかってきたのである。

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