悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第九章 遠征討伐訓練

9-34 私にとって最強で最高のパン

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「失礼なー! 真白だってやれるよー!」

 ぷんぷん! と、怒りをあらわにリュート様のところへポーンッと弾けて飛んでいった真白は、見事にキャッチされただけではなく、慣れた手つきでムニムニされて悲鳴を上げる。

「あああぁぁぁ、悲しみでいっぱいだった真白ちゃんにムニムニしないでえぇぇっ!」
「うるせーわ。それだけ騒げたら十分だろ」
「十分じゃないもーんっ!」
「はいはい、ほら、よしよし」

 ムニムニしていた手が優しく包み込むように撫でると、満足そうに真白は目を細めて「もっと撫でてー」と甘え出す。
 呆気にとられたオーディナル様と紫黒に、此方へ来てからはこんな感じなのだと説明すると、意外と打ち解けている様子に安堵したようであった。

「しかし、お前もすげーな」

 よしよしと片腕を伸ばしてオーディナル様の腕にとまっている紫黒を撫でているリュート様と、それを大人しく受け入れている紫黒を見つめる。
 気難しい子だと思っていたのだが、どうやらリュート様は大丈夫のようだ。

「本来なら真白もこれくらい出来るが……移動の際に色々とやらかして、思うように力が出せないのだ。本来の3割程度しか力が使えないだろう」
「うー、そこまでじゃ……ないよ?」
「お前は、どちらかというと活動的だからあまり感じないのかも知れないな。しかし、いつものように魔物を滅する力は無い。大人しくしておくことだ」
「うー……」
「いいか? バグを取り除いても、力が戻るのには時間がかかる。むしろ、どうしてこんな無茶をして移動したんだ」
「だ、だって……ベオルフが大変そうだったから……」
「方向を間違えていたがな」
「うぅぅぅぅ……ベオルフは無事? ノエルは大丈夫?」
「大丈夫だ。特に、ベオルフは問題無い。ああ……そういえば、良い物を渡された。一緒に食べよう」

 そういった紫黒は、テーブルの上に移動して大量のパンを取り出したのだ。

「ベオルフお手製だから、元気が出るぞ」

 何故か紫黒が自信満々にそう言ってくれるのだが、声の響きから揶揄ではなく実際にその効果があると言っているようにも感じられた。

「僕たちの朝食用だと、急いで持たされた。本来は、朝の食事用に取っておいたのだろうが……一緒に食べて、少し回復したほうが良い」

 付け加えられたオーディナル様の言葉を聞き、「あ、これは間違いなく効果があるのですね……」と確信してチラリとリュート様の方を見る。
 バッチリ視線が合った彼も、何と言っていいのかわからず、曖昧に笑って誤魔化していた。
 まあ、そうなりますよね……

「まあ、今日のルールっていうものもあるケド、まさか父上の誘いを断るなんてことしないよネ? 創造神に逆らったなんて知れたら不味いよネ? むしろ、文句を言う奴らは何があるかわからないよネ?」

 そんな私たちに追い打ちをかけるようにニッコリと時空神様が微笑むので、私とリュート様に拒否権は無くなった……というか、むしろ拒否をしたくなかった。
 だ、だって……ベオルフ様のお手製パンですよっ!? 食べたいに決まっています!
 それに、この件で文句を言う人がいるなら容赦しないと、時空神様が言葉にしたのだ。
 これで難癖を付けてくる人がいるのなら、反対に見て見たい。

「ホラ、君たちも食べて回復しなサイ」

 時空神様が問題児トリオにもパンを分け与えてくれたので、パンに合うようにアイスココアを取り出して各テーブルにセッティングする。
 問題児トリオは必死にお礼を口にしようとしているのだけれども、未だ回復をしていない体はうまく動かないようだ。
 それを察したオーディナル様が席を立って彼らへ近づき、よしよしと頭を撫でる。

「無理をせずとも良い。僕の不手際だからな。自慢の息子であるベオルフのパンには、本人は気づいていないが回復させる効果が含まれる。ちゃんと食べて二人のサポートをしつつ、今日を乗り切って欲しい」

 穏やかな柔らかいオーディナル様の声に、三人は思い通りにならない体を必死に動かして頷いて見せた。
 それを見たオーディナル様は、「根性のある子らだ」と微笑む。
 リュート様は心配そうにそれを見ていたのだが、私は見逃さなかった。
 わずかに……少量ではあるが、オーディナル様の力が一瞬だけ輝きを見せたのである。
 問いかける私の視線を受けたオーディナル様は、片目をつむって見せ、唇に人差し指を押し当てた。
 内緒ではありませんよ……何をしたのですか?
 問いかけに対しての返事はないが、おそらく彼らにとって良い効果をもたらすものなのだろうということだけは理解出来た。
 チラリと時空神様へ視線を走らせると、彼は苦笑して肩をすくめるのみだ。
 その仕草だけで別段問題は無いのだと知り、この件については黙っておくことにした。

「ルナちゃん、ベオルフのパンを食べて回復しないと、後が辛いヨ?」
「え? あ、はい……でも、夜には補給が……」
「んー……追いつかないレベルで消費したカモ?」

 それなのに、このパンでそれが回復するって……おかしくないですか?
 ベオルフ様のパンには、どれほどの効果があるというのだろうか……いや、もしかしたら、パンの実であるロナ・ポウンに、凄まじい効果がある可能性も捨てきれない。

「あちらではそれほど効果は無いケド、此方では絶大な効果を持つなんて、さすがはベオルフだよネ」

 アハハッと軽やかに笑う時空神様と、席に戻ってきて嬉しそうにパンを頬張るオーディナル様を見て溜め息をつく。
 しかし、時空神様の『此方では絶大な効果を持つ』という言葉は気になる。
 それが事実であれば、彼は此方の世界の方が性に合っていることにならないだろうか。
 言葉にはしなかったが、頭の片隅に浮かんだ疑問をとりあえずは見なかったことにして、自分の分のアイスココアを準備してから席につく。
 テーブルの上では、真白と紫黒が可愛らしくパンをついばんでいて、その姿に和んでいると、リュート様が私に「ほら」とパンを手渡してくれた。
 戦闘の後に、こんな和やかで良いのだろうか……いやでも、問題児トリオが動けないのだし、ヘタに動けない状態ではあると考え、今は消費した力の回復を図るのが急務だと、ベオルフ様のパンを口に運ぶ。
 外はパリッと、中はふわふわもっちり――って、ベオルフ様は料理初心者ですよねっ!?
 思わず何度でも確認したくなるほど、彼の料理はクオリティが高い。
 どうして、こう……兄の作る料理に味が似ているのだろうと不思議に感じながらも、シッカリと味わう。
 懐かしい味、あたたかい味と共に、体の内側を満たすような何かが溢れてくる。
 物足りなかったわけではないのだが、そうすることが自然だというように体が動きだす。
 無言で立ち上がった私は、そのままキャンピングカーへ向かう。
 そして、キャンピングカーのキッチンにある冷蔵庫からマヨネーズとハムとレタスとチーズを取り出して、カッティングボードとともにテーブルまで持ってくると、何をしようとしているのか察したのだろう。全員の瞳が、期待でキラキラ輝き出す。
 みんなが無言で見つめる中、ベオルフ様のパンで簡単なオープンサンドを作り、それをみんなに振る舞ったのだ。

「ベオルフのパンがパリッとしてもちっとして旨い上に、ルナが手を加えたことによって、更に旨く……くぅー! このオープンサンド、最高っ! 二人で店出したら、俺は絶対に常連になるわ!」
「んーっ! イイヨネー! 外がパリっとして、中がもちっとしているパンに、シャキシャキのレタスと濃厚チーズ、それに肉厚なハムって贅沢だネ」
「このマヨネーズというものか? マイルドで少し酸味のあるソースが良いな」

 リュート様と時空神様が絶賛してくれる中、オーディナル様はマヨネーズが気に入ったのか終始ニコニコしてオープンサンドを頬張っている。
 真白と紫黒も「新鮮な野菜が一緒だと美味しいね」と言いながら仲良くついばんでいて、とても可愛らしい。
 力尽きていた問題児トリオの方は、何とか口に運び、頑張って咀嚼していた。
 そして、だんだんと回復して勢いがついてきたのか、今ではがっつくように食べているから一安心である。

「やはり、オーディナル様が創造したロナ・ポウンは素晴らしいですね」
「いや、これはベオルフの腕もある。リュートではないが、二人が店をしていたら、毎食通って食べたいくらいだ」
「オーディナル様が毎日通う店があったら、聖地になってしまいます」

 くすくす笑いながら談笑し、現実ではありえないが、そうなったら楽しいかも知れないと考える。
 リュート様のお店で、いつかベオルフ様と一緒に料理をしてオーディナル様たちに振る舞う未来が来るのだろうか。
 ベオルフ様と二人で沢山意見し合って、一つの料理を作り上げていくのは楽しいだろう。
 一緒にリュート様やオーディナル様に料理を振る舞って感想を聞き、また改良をする。
 そんな未来を想像するだけで楽しくなってしまった。

「ベオルフのパンはハード系だけど、本当に美味しいなぁ……」

 リュート様が絶賛するように、パンの実で作ったベオルフ様のパンは、とても芳醇で美味しい。
 初心者のベオルフ様でもこれくらいの数を準備することが出来るお手軽なパンの実は、天然酵母を作る手間を省けるので、初心者が多いこの世界にも沢山欲しいところだ。
 そんなことを考えていると、ほっぺたをふにっと軽くつままれた。

「またルナは考え事をして、ちゃんと食べてないだろ」
「あ、えっと、た、食べますっ」
「目の前にオーディナルや紫黒がいるんだから、報告されるぞ? 真白だけじゃなくて、ルナもお説教かもな」
「真白は確定なのっ!?」
「確定だろ」
「いやああぁぁぁぁぁっ! ベオルフ、ごめんなさああぁぁいぃぃっ!」
「暴れるな、食べ物を前にして許される行動は、食べることと賞賛することだ」
「食べ物に関してのリュートは目がマジだった……チェリシュの言った通りだ……こわこわなの」

 真白は危険を察知したようにサッと紫黒の後ろに回り込んで盾にしながら、チェリシュの口まねをしてぷるぷる震えて見せる。
 そんな真白をジトリと睨み付けているリュート様に、思わず苦笑が漏れる。
 可愛らしい攻防戦を眺めながら、オープンサンドを口に運ぶと、口いっぱいに広がる幸福感を伴う旨味に頬が緩む。
 食べる人のことを考えて作られたパンだ……そう感じた。
 舌と心を満たす料理に感謝しながら、丁寧に咀嚼して飲み込む。
 バグ取り作業で疲れていた紫黒とオーディナル様や、会議の下準備で走り回っている時空神様。ここへ来るために無茶をした真白と、真白の力を使うために消耗してしまったリュート様と私。そして、オーディナル様と時空神様というダブルパンチで再起不能に陥っている問題児トリオを回復させるベオルフ様のパンは、最強で最高の味を堪能させてくれたのである。

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