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第九章 遠征討伐訓練
9-38 追加ミッション発生!
しおりを挟む色々あったが、とりあえず私はキャンピングカーを召喚して設置し、後から来るであろう人たちの為にスムージーを作ることにした。
結界の中であるということと、オーディナル様の力で色々と防御力がアップしていたらしいキャンピングカーの内部であることもあり、一人でも大丈夫だろうという判断から、リュート様と真白も問題児トリオたちと一緒に周辺探索へ参加する。
一応、目の届く距離にいるリュート様たちを眺めつつ、スムージーを作っていたのだが、モンドさんが森の入り口付近を探索していることに気づいて、そちらへ視線を移す。
山裾に広がる森は、鬱蒼と生い茂っていて少し不気味だと感じたが、湿地帯と浜辺の境目にあたる森の入り口は、地面に日差しが降り注いでいるようなので、問題は無い――と思いたい。
奥はどうなっているのか気になるが、キャンプ地を確保出来るほどのスペースがあれば良いな……と、考えつつも手だけは動かす。
オーディナル様がご迷惑をかけてしまった、せめてものお詫びになれば良いと考えて作っているスムージーは簡単だが、全員に行き渡るほどの分量を一人で作るとなれば大変である。
スムージーでの回復は思いのほか良いようで、リュート様も気に入っているし、ダイナスさんには「ちょっとした、ポーション代わりですね」と言われた。
ポーションや薬草には並々ならぬ執着を覚えている様子のロヴィーサ様が聞いたら、拗ねるのではないだろうか。
さすがはアクセン先生の血縁者だと、その時ばかりは思ってしまった。
「うわぁ……すごーくいっぱい作ったねー!」
突然飛び込んできた声に驚いて視線を上げると、作業台に見事な着地をして見せた真白が私を見上げていた。
「真白? リュート様のそばにいなくて良いのですか?」
「聞いてよー! リュートったら、また真白のことをムニムニしたの! ちょ、ちょっと言い方を間違えただけなのにー」
「……あなたは、モンドさんよりも失言が多いですね」
「え? あの人も失言するの? ……って、違うよ! 真白は失言なんてしてないもん!」
作業台の上で「ちがうもーん!」と、ゴロゴロ転がる真白を拾い上げ、私の頭の上にのせる。
折角作ったスムージーをこぼされては大変だ。
「……んー、ルナの頭の上は、すべすべでー、つるつるでー、上質!」
それは褒められているのだろうかと首を傾げたくなったが、一応お礼を言って最後のスムージーを仕込んだあとは、リュート様から預かっていたシュヴァイン・スースと湿地帯の主の肉を冷蔵庫に入れた。
その際、味見をするために少しだけ切って取り出す。
シュヴァイン・スースと湿地帯の主の肉を、【新米時空神のルーペ】で確認してみると『上質な豚肉のように肉質はきめ細かくしっとりとしており、脂身は甘く臭みやしつこさがない』と『ナマズに似た味で、肉質はよく引き締まっており、淡泊でクセがない』という説明文が出てきた。
日本のナマズは寄生虫などの危険性があるが、この性能が向上した洗浄石があれば、その辺りの心配も無い。
「……魔物の肉に寄生虫って存在するのでしょうか」
「基本的には存在しないよー? 反対に食われちゃうもん」
「な……なるほど?」
魔物はもともと寄生できないほど強いというわけですね……と、呟いていたらリュート様が此方へやってくるのが見えた。
「こら、真白。ルナの邪魔をするんじゃない」
「チェリシュにはそんなこと言わないくせにー」
「チェリシュはお手伝いをしているだけだし、お前は何をするかわかんねーからな……」
その辺りの信頼が全くない真白は、ぶーぶー文句を言っていたが、やはりリュート様と一緒がいいのか、ポンッと跳ねて彼の頭の上に飛び乗った。
「真白ちゃんがいなくて、寂しいなら寂しいと……」
「ほほう?」
「あ、ちがっ、今のはナシ!」
本当に仲の良いリュート様と真白のやり取りに笑っていると、まな板の上にあるシュヴァイン・スースと湿地帯の主の肉に気づいたのか、彼は「それ、どーすんの?」と尋ねてきた。
「一度味見をして、メニューを考えておこうと思いまして」
「なるほど」
「リュート様も食べますか? むしろ、何か作らなくて良いのですか?」
「アクセンから許可を得たとはいえ、消耗した分はベオルフのパンとルナのオープンサンドのおかげで随分回復したしな。消耗していないのに食べるのは、違うだろうと思ってさ」
なるべく、アクセンには迷惑をかけたくないし――と、呟くリュート様に笑みが浮かぶ。
こういうところがリュート様だなぁと感じつつ、薄切りにして塩を振って焼いただけのシュヴァイン・スースと湿地帯の主の肉を皿に盛り付けて差し出す。
「味見は別ですよね?」
「あー、まーな」
「別だよ、別ー!」
「あー! リュート様、ズルイっす!」
目ざとく味見をしているリュート様を見つけたモンドさんが声を張り上げ、何事かとジーニアスさんとダイナスさんまで集まってきてしまった。
もとより、みんなで味見をするために作っていたから問題は無い。
塩だけで味付けをされたにも関わらず、どちらも次が食べたくなってしまうほどに美味で、リュート様は「やっぱり、旨いんだよなぁ……」と、しみじみ呟く。
「魔物の肉は、マナが少なくて魔力が多いから、リュートだったら数を食べないと回復しないでしょー?」
「それだけがネックなんだよなぁ……でもさ、ルナが来てからは旨い物を沢山食べられるから嬉しいっていう考えにシフトした」
「それってもう、魔力回復を考えていないんじゃ……」
「ただ、食いたいだけっすよね」
「うるせーわ」
ガスッという音が響き、モンドさんが久しぶりに蹴られたすねを押さえて蹲る。
「考えナシに喋るからだよー」
ケタケタ笑いながらモンドさんの頭の上で転がる真白を見ながら、「あなたが言うのですか……」と呟いたら、その場にいた全員が同意したように頷いた。
それを不満に思った真白が文句を言い始め、リュート様が軽くあしらいながらも、味見用のシュヴァイン・スースの肉を頬張る。
説明にあったように、シュヴァイン・スースの肉質はとてもきめ細かくて弾力があるのに柔らかい。脂身も甘くて肉汁もたっぷりだ。それなのに、しつこくない。
湿地帯の主の身は、歯を使わなくてもほろっとほどけるだけではなく、ふんわりとしていてとても淡泊だ。濃い味付けが合いそうで、蒲焼きにしたらとても美味しいだろう。醤油が手に入ったら是非とも試してみたいところである。
「シュヴァイン・スースは、何にでも合いそうですね。ちょっとよい案が浮かんだので、楽しみにしておいてください」
「お、それは期待が膨らむなぁ……ルナがそういう表情をするときは、絶対に俺が驚くヤツだろ」
カレーのときも驚かされたもんな――と笑うリュート様を見つめて、私は悪戯っぽく笑う。
それは、リュート様がとても良い反応をしてくれるからである。
「主の身は、何か良い案があったか?」
「ムニエルや天ぷらを作ったら美味しいと思います。もっと作ってみたい物がありましたが、材料がなくて……」
「ん?」
「蒲焼きを作りたいなぁ……と」
「うっ……そ、それは……俺も食いたい……絶対に旨いんだろうなぁ……脂ものってるし、すげー旨いヤツだ……」
リュート様が「醤油とか米とか……入手難易度が高すぎるんだよ!」と、文句を言っている隣で、問題児トリオたちが首を傾げているので、私は苦笑しながら「私の世界にある調味料です」と説明した。
以前なら曖昧に誤魔化すところだが、実際にベオルフ様からそれらの調味料が、あちらの世界には存在することを確認しているので、嘘ではない。
「でも、リュート! 塩コショウだけでも美味しいよー?」
「だよなー……マジで旨い」
リュート様と真白や、問題児トリオの幸せそうな表情を見ているだけで、此方も幸せになれるなんて……とても素敵なことだなぁと考えていた私の耳に、小さな呟きが聞こえた。
『すごいにゃぁ……』
はい? 今の声は……?
声の発生源はどこだろうと辺りをキョロキョロ見回していたら、モンドさんの背中からにゅっと顔を出したのはグレー色の毛並みが美しいキャットシー族であった。
カフェやラテから比べても体つきが小さく、痩せ細っているように見える。
大きな丸い目は深い青色で、キラキラと輝いていて宝石のようだ。
ロシアンブルーみたいですね……大きさから言うと、まだ子供でしょうか。
『聖都では、こんな物が流行っているにゃ~? すごいにゃ~……世界が違うにゃ~……』
辺りをキョロキョロと物珍しそうに見渡していたキャットシー族の子は、私を見てバッチリと合ってしまった視線に首を傾げる。
そして、体をずらしたり顔を動かしたりしてみるのだが、いつまで経っても視線が合ったままだという状態に目を瞬かせた。
『にゃ……にゃんか……目が……あってるにゃ~?』
「あなたは誰ですか? 迷子ですか? それとも、この地域にお住まいのキャットシー族ですか?」
疑問を口にしたのだが返答はなく、暫し沈黙が流れた。
そして、再び問いかけようとした瞬間、モンドさんの背中にいたキャットシー族の子は脱兎のごとく逃げ出して、一目散に森へと逃げていったのである。
それも、とんでもないスピードで……
「素早いですね……カフェとラテも、走ったらあれくらいの速度が出るのでしょうか」
「……ルナ? いったい、何が見えていたんだ?」
「え?」
その時になって初めて、あのキャットシー族の姿が誰にも見えていなかったのだと悟る。
確かに、見知らぬキャットシー族がいるのに、リュート様が何も反応しないのはおかしいし、連れてきたモンドさんだって何か一言はあるだろう。
むしろ……気づいていなかったというのなら、背中の異変に気づかなかった事実に驚きである。
「えっと……モンドさんの背中に、小さなグレーのキャットシー族の子供が張り付いていたのです」
「は?」
リュート様は目を丸くしたあと、全員に視線で問いかけるが、やはり誰にも見えていなかったようだ。
「真白にも見えていなかったのですか?」
「見えなかった……真白はバグの影響かなぁ……」
「それは十分にあり得るな。で、ルナ……そのキャットシー族の子はどこへ?」
「声をかけたら、一目散に森へ……」
「あの森にキャットシー族が住み着いたって話は聞いたことが無かったが……今回は、それも調査しながら魔物討伐をしないとな」
キャットシー族を探すのかと疑問を覚えた私に気づいたのだろうか、リュート様は丁寧に説明をしてくれた。
「本来、キャットシー族は人里から離れた場所に集落を作らない。仕事がなくなっちまうからな。なのに、ここは人が寄りつくような場所じゃないだろ? おそらく、何らかの問題を抱えていると考えられる。迫害されたのか、村が魔物に襲われたのか……理由は様々だが、保護してやんねーとな」
確かに……健康だとは言えない姿をしていた。
あれほど痩せ細っていたのだから、良い環境ではないのだろう。
一応、彼の姿から感じた物をリュート様に報告していると、問題児トリオたちの表情も険しい物となる。
「迫害されたか……」
「その可能性は高いでしょうね」
「日頃からお世話になっているのに、迫害をする人が後を絶たないのは納得いかないっす!」
ダイナスさんとジーニアスさんとモンドさんの言葉を聞きながら、私は不安になってくる。
ちゃんと話を聞けたら素早く保護が出来たのに……驚かせてしまって申し訳ないことをしてしまったと反省した。
「何の力かわからねーが、姿や声も消せるってことか……おそらくルナ頼みになるが、見つけたら報告してくれないか?」
「わかりました。今度はちゃんとお話も聞きたいですし……」
「そうしてくれると助かる。ルナに声をかけられて逃げるなんて、よほど臆病か警戒していると思うから……」
「今度は真白が声をかけてみるね!」
「絶対に逃げられるからヤメロ」
えー! なんでーっ!? と大きな声を上げる真白に笑みを浮かべながら、キャットシー族の子が無事であることを心から祈った。
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