悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

文字の大きさ
379 / 558
第九章 遠征討伐訓練

9-42 ブラッシングは最高の癒やし

しおりを挟む
 
 
 ベッドに寝かせられ、一緒になってチェリシュと真白も横になる。
 心配そうに私を見下ろすリュート様は、前髪を払って私の額を撫でてから、ジッと瞳を見つめた。

「……青銀色から戻ったな」
「ベオにーにみたいな色だったの!」
「あー、アレは間違いなくベオルフの色だね~、リンクしたのかなぁ」
「そういうこともあるのか? でも髪色は違うだろ……」
「あ、確かに!」

 私の目の色が変わっていた……今までに無い変化だったのでリュート様は驚いたようだが、真白は暢気なものである。
 チェリシュは、似てたのーとニコニコ笑っていて上機嫌に抱きついてきた。
 ベッドの上でよしよしとチェリシュをあやし、真白を撫でていると、リュート様は大きく溜め息をついてベッドに腰をかける。

「まあ、しんどいとか辛いとか、そういう感覚が無いのなら問題はないか……」
「そういう症状は、今のところございませんが……心配をおかけして申し訳ございませんでした」
「いや……それより、何があったんだ?」

 私は先ほどの事を思い出し、リュート様に語って聞かせることにした。
 ベオルフ様のこと、私と同様の呪いをかけられていた青年のこと、周囲にいた人々のこと――
 全てを聞き終えたリュート様は、何かを考えるように難しい顔をしている。

「……なんか、黒狼の主が好き勝手に暗躍しているみたいだな」
「やはり、そう思いますよね……」
「まあ、もっと詳しい話はベオルフから今晩聞けるだろうし、また明日の朝に報告を頼んだ」
「はい、わかりました」
「言えない事があるなら別にいいが……ただ、その男が気になる。使い捨ての駒にされたのかもしれないが……呪いをかけていたとなれば、何らかの理由があるはずだからな」

 アレは陰湿で面倒だが無駄なことはしない……と、リュート様も警戒の色を強めているようだ。
 おそらく、ベオルフ様が情報をしっかり掴んでいることだろう。
 その点は、私とリュート様の見解が一致している。

「紫黒はいなかったのー?」
「あちらには戻っていないようでしたよ? まだ、真白の後片付けをしているのではありませんか?」
「……うー……そ、そんなに酷かったのかなぁ……」
「お前は、ちゃんと謝っておけよ?」
「は、はーい」

 リュート様にツンツン突かれながら言われた真白は、転がりながら頷く。
 この子……リュート様に何をされても文句を言いませんね……むしろ、楽しんでいるような?

「まっしろちゃんも、一緒におねんねなの」
「一緒に寝るー! リュートはあっちでいいよー」
「あーのーなー、俺とルナは離れちゃ駄目なの」
「女子会なのにー!」
「どこで覚えてくるんだ、そういう言葉……それに、誰が女子だ」
「真白ほど、可愛らしいレディーはいないもんねー!」
「コロコロしやがって」
「コロコロさせているのは、リュートでしょー!」

 リュート様と真白のやり取りに、私とチェリシュが笑っていると、真白が何かを思い出したように此方を見た。

「そうだ! ルナ、今だったら大丈夫だと思うからノエルの姿になってみてー」

 今だったら大丈夫とは、どういう意味なのだろうと首を傾げてしまったが、チェリシュが目をキラキラさせているので断りづらい。
 リュート様を見ると、此方もどこからともなく取り出したブラシを持ってスタンバイしている。
 そ、そんなに心待ちにしていたのだろうか。
 変化の指輪を使い、いつものように『ヘン・シィン』と心の中で唱え、ノエルと同じカーバンクル姿になった。
 この姿は久しぶりだったが、やはり、エナガ姿より大型であるためか、妙に力が抜けていく。

「うーん……やっぱり安定しないかー。でも、少しずつならしていかないと、いざっていうときに困るもんね」
「いざというとき?」
「ノエルなのー!」

 むぎゅーっとチェリシュに抱きしめられ、質問の答えは返ってくること無くもみくちゃにされてしまうのだが、チェリシュの「ノエルに会いたい!」という気持ちの大きさは理解出来た気がした。

「ほら、チェリシュ。そんなにぎゅーぎゅー抱きしめたら、ルナが苦しいだろ?」
「あ……ごめんなさいなのっ」
「それよりも、ルナの疲れを癒やしてやろうな」

 そう言って、リュート様はチェリシュから解放された私を膝の上に乗せると、優しくブラッシングを開始したのである。
 ブラシも良いブラシを使っているのか、とても心地良く、リュート様の良い香りも相まって、トロトロ溶けてしまいそうだ。
 ベオルフ様のナデナデやブラッシングもとろけてしまいますが、リュート様も凄い……甲乙付けがたいです!
 くたーと、リュート様の膝上でとろけていると、真白が「真白もー!」と飛び込んできたので、リュート様は仕方ないとばかりに数回ブラッシングをしている。
 それを見たチェリシュも黙っているはずがなく、「チェリシュも、チェリシュもなの!」と催促しはじめ、リュート様は困ったようにチェリシュと真白の相手をしながら、私のブラッシングを続けてくれた。

「ふわぁ……ブラッシング後のさらさら感と艶が段違いです!」
「ルナはもともと綺麗だからな」

 優しく撫でられて毛並みも全く引っかかること無い。
 マッサージするように額から首元を撫でていく。これがまた気持ち良くてクセになりそうである。

「チェリシュの髪も、ふわふわなの!」
「真白もー!」

 全員大満足と言った様子ですが、彼は苦笑を浮かべて歪んでしまった真白とチェリシュのリボンを外して、寝る準備に取りかかる。
 パジャマに着替えたチェリシュは、いつものようにもーちゃんを取り出し、何故か汚れていたもーちゃんに驚いたのだが、どうやら魔物が襲ってきたときに取り出したようだ。
 ウコンの虫除け効果が効いたのか、モスキトがもーちゃんから必死に逃げていったらしい。
 意外なもーちゃんの武勇伝に感心して、洗浄石で綺麗になったもーちゃんに、真白が何故か突撃する。

「ぷにゅんってするー! でも、真白のほうが手触り抜群!」
「さすがはまっしろちゃんなの……あなどれないの」
「なんの戦いだよ……」

 リュート様が呆れたようにチェリシュが抱っこしているもーちゃんに戯れ付く真白をつまみ上げた。
 チェリシュと真白を見ているだけでも、退屈している暇が無い。
 くすくす笑いながら壁際に設置されている姿見に映った自分の姿を見て、一際輝く額の宝石へ目をやり、あることを思い出す。

「……そういえば、ノエルの額……この宝石が角みたいに伸びていたんですよねぇ」
「は? カーバンクルって、そんなことできんの?」

 これにはリュート様も驚いたように、私の額にある宝石をジッと見つめる。

「ノエルは全属性使えるし、角状態にするとパワーアップするからねー。カーバンクルでもソレが出来るのは、ノエルだけだよー?」
「そうなのか……すげーな。さすがは、オーディナルの御使いをやってるだけあるってことか」

 感心していたリュート様に、何故か真白が知っている情報を伝えているのだが、この子はどこから私たちを見ていたのだろうか。
 普段の様子を見ていたら失念してしまいそうになるが、本当に知識が豊富である。

「ねーねー、明日もリボンつけてくれるー?」
「わかったわかった。チェリシュと一緒のリボンにしような」
「やったー!」
「チェリシュとまっしろちゃんはお揃いなの!」

 きゃーっとはしゃぐチェリシュと真白を見て苦笑を浮かべていたリュート様は、私の頭をよしよし撫でてから、前脚をむにむにもみほぐす。

「今日もお疲れさん。みんなのスムージーを作って疲れたろ」
「リュート様のほうがお疲れでしょう? いっぱい戦って……」
「ん? いや、あれくらいは普通というか、問題無いレベルだ」

 とは言っても、問題児トリオたちでさえ息も絶え絶えだった様子なのに……リュート様の身体能力と戦闘力がずば抜けているのだと改めて感じた。
 私も、もう少し体力を付けないといけませんね。

「この姿で問題無く活動できるようになれば、ノエルのような全属性魔法を使えたりするのでしょうか」
「どうだろう……そうなったら心強いが、変に力を消費してぶっ倒れそうだな」
「そうですよね……そこが心配です」
「慎重に考えているようで安心した。以前だったら、試してみよう! って言い出しかねなかったが……」

 確かに試してみたいという気持ちもあるが、それで倒れたときにリュート様がどれほど心配するか、チェリシュや真白がどうなるのか考えると二の足を踏んでしまう。
 それがどうしても必要なことであれば別だが、今ココでやることではない。
 しかも、万全ではないとわかっていて決行するのは違うだろう。
 ノエルの姿になるだけで、かなり力を消費している感覚があるのだから、やるならそれが解消されてからでも遅くはないと感じた。

「まー、いまのルナにノエルの力は使えないよー。アレでもノエルは神獣の中でトップクラスだよー? さすがは、オーディナルが創造しただけあるなーって感じ!」
「やはり、違うのですね……」
「まだまだお子様だけど、ベオルフがそばにいるから大丈夫だと思うよー?」
「……それをお前が言うのか」

 ジトリと真白を見つめるリュート様に、羽毛を膨らませて「なによー!」と文句を言っている真白を見つめ、この子もベオルフ様やリュート様、他の人たちと関わることで沢山を学び変わっていくのだろうと感じる。
 両親を真似るのでは無く、自分らしさというものに気づいたのが、大きく成長する第一歩であったように……

「ほら、みんなでそろそろ寝るぞ」
「リュートは見張りにいかないのー?」
「行くけど、俺は朝方だから早めに寝て備える」
「じゃあ、その時に真白も行くー!」
「チェリシュもなのー!」
「はいはい、だったら、ちゃーんと寝て起きてくれよ?」

 リュート様はエナガの姿になった私と真白をふかふかのクッションが敷き詰められた、とても寝心地の良い籠へ入れ、チェリシュとともにベッドへ横になる。
 もそもそと私に寄り添い、既に目を閉じかけている真白は、やはり疲れているのだろう。
 甘えるように体を寄せて、隣にいる誰かを確認しながら眠りに落ちていく。

「紫黒を探しているのでしょうか……」
「だろうな。寂しいんだろうが、それはどうすることもできねーし。夢の中では会えるんだろ?」
「おそらく……」
「だったら、しっかり甘えてくるだろ。とりあえず、オーディナルの件はベオルフにシッカリと伝えておいてくれ」
「あ……はい」

 オーディナル様が一番恐れるベオルフ様からのお説教をご所望のようだと察し、私は笑いながら頷いた。
 頼んだと私の頭を撫でた彼は、枕の位置を整えて布団の中へ潜り込んだ。
 チェリシュも暫くはもぞもぞしていたが、部屋の明かりが消えたことと、リュート様に抱っこされている安心感からか、すぐに眠ってしまったようである。
 今日は色々あったな……そう考えている私も、疲れが出たようで真白と寄り添い目を閉じた。

「おやすみ、ルナ」
「おやすみなさい……リュート……さま……」

 優しいリュート様の声を聞きながら一日を終えて眠りに就く。
 なんて素敵な日々なのだろうと幸せに浸りながら、抵抗すること無く意識を手放した。

しおりを挟む
感想 4,347

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました

山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。 王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。 レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。 3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。 将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ! 「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」 ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている? 婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。