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記念小話
2022年 お正月記念小話
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新年あけましておめでとうございます!
昨年は書籍化という夢を実現させた年でもありましたが
今年も初心忘れるべからずで、変わらず更新を頑張って参りますので、何卒よろしくお願いいたします!
此方の話は、お正月が終わったタイミングで記念小話項目へ移動させていただく予定です。
それまでは、わかりやすいように第十章に掲載させていただきたいと思います。
では、新年初の本編――記念小話をお楽しみください。
(2022/1/2 現時点での設定ですので、今後違和感を覚える部分も出てくるかもしれませんが、ご理解いただけたら幸いです)
・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・
空に太陽と月が昇り、この世界の新年を迎えた。
日本に居た頃には考えられない光景ではあるが、この世界ではコレが無いと新年を迎えられない。
太陽と月が空にある間は、理に縛られた神族も、つかの間の休息を与えられる。
理に縛られてなかなか会えない家族と一緒に過ごす貴重な時間で――人間の尺度で考えたらあり得ないことだが、彼らにとっての一年は俺たちにとっての一週間……いや、それよりも短く感じる物なのかも知れない。
そんなことを考えながら賑わう店内を見渡した俺は、探し人の姿が見えないことに気づいた。
「あれ? ルナがいない?」
みんなが店内にある料理や酒に舌鼓を打ち賑わっている中、忙しそうに働いていた彼女の姿が見当たらない。
かくいう俺も、先ほどまでは色々な打ち合わせや今後の方針について、挨拶に来た工房主や商会のトップと話をしていて、ようやく落ち着いたばかりだ。
俺が手を離せない場合は、キュステや弟子達を筆頭にルナのサポートをしてくれる人は山ほど居る。
だが、みんな落ち着いた様子で会話を楽しんでいた。
声をかけてルナの居場所を聞いてみるが、誰も姿を見ていないというのだ。
どうしたのだろうと探して彷徨い歩いていたら、店の裏にある荷物の搬入口になっている勝手口の方から、何やら声が聞こえてくる。
この声はルナ……か?
声に導かれるように足を運ぶと、勝手口を出た先にある三姉妹が育てているハーブ畑の先に設置してある、白い木製のベンチに座る、天色の髪をなびかせたルナの姿を見つけた。
どうやら海を眺めながら新年の風物詩でもある、太陽と月が並ぶ空を楽しんでいるようだ。
こんな人気の無いところへやって来たのは一人になりたかったのかもしれないと考え、声をかけられずにいたのだが、彼女は誰かと言葉を交わしているようで、珍しく声を荒らげる。
「もうっ! また私のワインを取り上げるおつもりですかっ!? 折角、邪魔されずに飲めると思ったのに!」
ルナの抗議する声とともに、彼女の左手がワインが入ったグラスを天高く突き上げる。
彼女は取り戻そうと必死に右手を伸ばすのだが、彼女の動きとは思えない素早さで、左腕が動き、それを阻止していた。
「もしかして……ベオルフか?」
唯一考えられる相手は彼だろう。
呪いの影響で両親や周囲から迫害されてきたルナが、素直な感情を何の抵抗もなくぶつける相手は彼しかいない。
俺が相手であっても、彼女は躊躇いを見せるのだから、そう考えても彼は異例だ。
そんな彼と新年の挨拶でもして会話を楽しんでいたのだろうが……何故、ワインを取り上げられているのだろう。
ベオルフは基本、ルナの為にならない行動は取らない――ということは……もしかして、ルナはワインが体質的に合わないのか?
どうしても飲みたいルナと、飲ませたくないベオルフの攻防戦は続く。
このままでは、バランスを崩してワインをこぼして頭からかぶりかねないと、背後から近寄った俺は、彼女――いや、ベオルフの手からワイングラスを受け取った。
どうやら、俺に託したかったようである。
「ベオルフ……だよな?」
「そうなのです! 意地悪なんですよっ!? 此方に来て、やっと邪魔をされることなくワインを飲めると思ったのに……」
「毎回取り上げられていたのか?」
「成人して、ワインを飲む機会があったのですが、そのたびにワイングラスを取り上げられて空にされたのです。酷すぎます」
唇を尖らせて抗議をするルナと、そのワイングラスを早く遠くへ持って行けといわんばかりにひらひら動く左手――本当に仲が良いよな、この二人は。
この二人が血の繋がった兄妹だと言われた方が、しっくり来るくらいの仲睦まじさだ。
まあ、俺もそう思って接しているのだが……
「私がワインを楽しんでいると、いつもこうなのです」
そう言ったルナの頬はほんのりと赤く、外が寒いからというわけではない赤味に「もしや……」と感じてワイングラスを改めて見る。
半分ほど減ってしまったワイン……ということは、こんな少量で酔ったのか?
ほろ酔い……だな。
「あー、えーと、ルナ。ワインじゃなくて焼酎のサングリアを飲まないか? 軽くつまめるものも持ってくるから、ちょっと待っていてくれ」
「でも……ワイン……」
「ほら、ベオルフとこの景色を見て楽しくおしゃべりしていたらすぐだから」
「うー……では、ここでお待ちしておりますぅ」
よしよし、良い子だな……と、頭を撫でると嬉しそうに目を細めて喜んでくれた。
くっ……か、可愛い……酔ったルナ……か、可愛すぎるだろっ!?
そりゃ、ボディーガードのベオルフが動くわけだ……こんな状態のルナを一人にしていたら、何が起こるかわかったもんじゃない。
此方でそんな馬鹿なことを考える命知らずはいないが、あちらにはセルフィスという馬鹿王子がいるのだ。
全くもって油断ならない。
勝手口から店内に戻り、キュステに声をかける。
「キュステ、すまねーが……サングリアの酒精をかなーり……殆ど感じられないくらいに薄くした物を作ってくれ」
「は? どないしはったん? だんさんはお酒強いやろうに……」
「ルナがベオルフにワインを取り上げられていたし、たったこれくらいで酔ってた……」
「あー……あのお兄はんが動いたんやったら大事やねぇ。他のお酒を飲まはったときは普通やったから、体質的なもんなんかもしれへんねぇ……まあ、任せときぃ」
とりあえず、納得したキュステがほぼジュースのサングリアを作っている間に、俺は手に持っていたワインを飲み干す。
これを持って帰るわけにもいかないし、ルナが思い出して駄々をこねたらマズイ。
今のほろ酔い加減で可愛らしいルナに勝てる気などしないからだ。
いや……もともと……勝てる気などしない……か。
「ほら、だんさん。これやったら大丈夫やと思うわ。ほぼジュースやし、酔っ払ってはったらわからへんやろ」
「サンキュ」
「あと、外で飲まはるんやったら、あったこうしておいたほうがええよ」
「そうだな。あ、体があたたまる料理ってなんだっけ」
「生姜をたっぷり使った具だくさんのスープと、野菜を鶏ガラスープで煮込んだ後、あんかけにした唐揚げはどうでしょう」
にっこり笑ってトレイを差し出してきたのはマリアベルだった。
どうやら、色々と察して気を遣ってくれたらしい。
「ありがとう、助かった」
「どういたしまして! お師匠様は胃の中が空っぽだと思いますので、リュートお兄様にお願いしますね」
「了解」
「真白ちゃんもいくー!」
「まっしろちゃん、こういう時はダメなの。ルーにも甘える時間が必要なの」
「そっかー、じゃあ、チェリシュと一緒にご飯を食べよー!」
「一緒に食べるの! キューちゃんが美味しいの選んでくれるのっ」
「キューちゃん、何か美味しいのちょーだーい!」
「はいはい、大人気のアップルパイが焼けたみたいやから切り分けようなぁ」
「焼きたてなのっ」
「やったー! 真白ちゃんとチェリシュが一番ね!」
元気の良い子供組に苦笑しつつ、あとは任せてというキュステに頷き踵を返す。
もう少ししたらオヤジ達も合流するだろう。
それまでは、ルナを独占しても良いのではないだろうか。
料理や飲み物を一旦アイテムボックスへ収納してベンチに戻ると、ルナはふにゃりと笑って俺に抱きついてくるが、先ほどまで感じていたベオルフの気配がない。
どうやら……気を利かせてくれたようだ。
こういうところが出来る男なんだよなぁ……見習わねーと。
「ルナ? 寒く無かったか?」
「だいじょーぶですぅ……体がポカポカして、あったかーくてぇ……とっても愉快な気分なのですー」
うん、酔っ払いだな。
ほらと、アイテムボックスから取り出したサングリアのグラスを渡すと、それを嬉しそうに受け取って口を付ける。
どうやら、酒が少し入っているだけで満足してくれたようだ。
いや、もしかしたらジュースでも気づかれなかったのでは……?
そんなことを考えていると、彼女にしては珍しく恥じらうことなく俺にもたれかかり、無防備な笑みを浮かべる。
嬉しいし可愛いし……これはこれで……俺がピンチなのか?
そんな馬鹿げたことを考えていたら、ルナが俺の胸に額をこすりつけた。
額が赤くなるのではないかと心配になるが、これがルナの甘え方なのだと知っているので言葉には出さずに後頭部を優しく撫でる。
「リュートさまぁ……来年も……こうして一緒にいましょうねぇ」
「ああ、もちろんだ」
「その次の年も、その次もー」
「絶対な」
「はい、ぜったーいなのですー」
酔ったせいで舌っ足らずになっているルナが可愛らしくて仕方ない。
もう少ししたら、ルナがいないと探しにやってくる人がいるかもしれないが……今だけは俺に独占させて欲しいし、こんな可愛らしいルナを他の連中には見せたくなかった。
俺にくっついて安心しきっているルナを抱えながら、久しぶりに俺だけの愛らしいルナを堪能する。
昨年は大変だったが、今年は更に大変なことが起きるような予感がしていた。
しかし、ルナと一緒なら大丈夫だと思えるから不思議だ。
愛しい気持ちが溢れそうになって右頬に口づけを落とすと、彼女は驚いたように目を丸くしてから、はにかんだ笑みを見せる。
そして、「左頬もあいてますよー」なんて言い出すから、本当に困ってしまう。
可愛らしいルナの小悪魔のような提案に乗るか乗らないのか思案しながら、もう驚くことも無くなった神秘的な空を見上げた。
「リュート様……左も……なのですぅ」
「え、えっと……あの……ルナ? 酔ってるから……」
「酔ってませんー」
「酔っ払いは、総じてそういうんだよな」
酔っていないですもんっと言って、俺にしがみ付くルナの愛らしさといったら……筆舌に尽くしがたいものがある。
もしかしたら、ベオルフも経験済みか?
だから、ルナから頑なにワイングラスを取り上げていた……とか?
ありえそうだ……と、考えている俺の左頬にふわっと柔らかいものが触れる。
「リュート様がしてくれないのならぁ、私がするのですぅ」
そう言ってふにゃりと笑うルナに、俺は心で悲鳴を上げた。
マズイマズイマズイマズイ!
これは……これは確かにワイングラスを必死に取り上げたくもなるわっ!
舌っ足らずな口調が可愛い上に、小悪魔的な愛らしさと心をかき乱してくるようなことを平然とやってのけるのだからタチが悪い。
キュステに準備して貰うのは水の方が良かった!
そう考えるが後の祭りだ。
よいしょっと言いながら俺の膝の間に座り、愛らしく……まるで天使のように可憐な微笑みを浮かべ、甘えてもたれかかる彼女の無自覚な誘惑に耐えながら、地獄のような天国の時間を堪能するのであった。
昨年は書籍化という夢を実現させた年でもありましたが
今年も初心忘れるべからずで、変わらず更新を頑張って参りますので、何卒よろしくお願いいたします!
此方の話は、お正月が終わったタイミングで記念小話項目へ移動させていただく予定です。
それまでは、わかりやすいように第十章に掲載させていただきたいと思います。
では、新年初の本編――記念小話をお楽しみください。
(2022/1/2 現時点での設定ですので、今後違和感を覚える部分も出てくるかもしれませんが、ご理解いただけたら幸いです)
・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・・・✿・❀・✿・・
空に太陽と月が昇り、この世界の新年を迎えた。
日本に居た頃には考えられない光景ではあるが、この世界ではコレが無いと新年を迎えられない。
太陽と月が空にある間は、理に縛られた神族も、つかの間の休息を与えられる。
理に縛られてなかなか会えない家族と一緒に過ごす貴重な時間で――人間の尺度で考えたらあり得ないことだが、彼らにとっての一年は俺たちにとっての一週間……いや、それよりも短く感じる物なのかも知れない。
そんなことを考えながら賑わう店内を見渡した俺は、探し人の姿が見えないことに気づいた。
「あれ? ルナがいない?」
みんなが店内にある料理や酒に舌鼓を打ち賑わっている中、忙しそうに働いていた彼女の姿が見当たらない。
かくいう俺も、先ほどまでは色々な打ち合わせや今後の方針について、挨拶に来た工房主や商会のトップと話をしていて、ようやく落ち着いたばかりだ。
俺が手を離せない場合は、キュステや弟子達を筆頭にルナのサポートをしてくれる人は山ほど居る。
だが、みんな落ち着いた様子で会話を楽しんでいた。
声をかけてルナの居場所を聞いてみるが、誰も姿を見ていないというのだ。
どうしたのだろうと探して彷徨い歩いていたら、店の裏にある荷物の搬入口になっている勝手口の方から、何やら声が聞こえてくる。
この声はルナ……か?
声に導かれるように足を運ぶと、勝手口を出た先にある三姉妹が育てているハーブ畑の先に設置してある、白い木製のベンチに座る、天色の髪をなびかせたルナの姿を見つけた。
どうやら海を眺めながら新年の風物詩でもある、太陽と月が並ぶ空を楽しんでいるようだ。
こんな人気の無いところへやって来たのは一人になりたかったのかもしれないと考え、声をかけられずにいたのだが、彼女は誰かと言葉を交わしているようで、珍しく声を荒らげる。
「もうっ! また私のワインを取り上げるおつもりですかっ!? 折角、邪魔されずに飲めると思ったのに!」
ルナの抗議する声とともに、彼女の左手がワインが入ったグラスを天高く突き上げる。
彼女は取り戻そうと必死に右手を伸ばすのだが、彼女の動きとは思えない素早さで、左腕が動き、それを阻止していた。
「もしかして……ベオルフか?」
唯一考えられる相手は彼だろう。
呪いの影響で両親や周囲から迫害されてきたルナが、素直な感情を何の抵抗もなくぶつける相手は彼しかいない。
俺が相手であっても、彼女は躊躇いを見せるのだから、そう考えても彼は異例だ。
そんな彼と新年の挨拶でもして会話を楽しんでいたのだろうが……何故、ワインを取り上げられているのだろう。
ベオルフは基本、ルナの為にならない行動は取らない――ということは……もしかして、ルナはワインが体質的に合わないのか?
どうしても飲みたいルナと、飲ませたくないベオルフの攻防戦は続く。
このままでは、バランスを崩してワインをこぼして頭からかぶりかねないと、背後から近寄った俺は、彼女――いや、ベオルフの手からワイングラスを受け取った。
どうやら、俺に託したかったようである。
「ベオルフ……だよな?」
「そうなのです! 意地悪なんですよっ!? 此方に来て、やっと邪魔をされることなくワインを飲めると思ったのに……」
「毎回取り上げられていたのか?」
「成人して、ワインを飲む機会があったのですが、そのたびにワイングラスを取り上げられて空にされたのです。酷すぎます」
唇を尖らせて抗議をするルナと、そのワイングラスを早く遠くへ持って行けといわんばかりにひらひら動く左手――本当に仲が良いよな、この二人は。
この二人が血の繋がった兄妹だと言われた方が、しっくり来るくらいの仲睦まじさだ。
まあ、俺もそう思って接しているのだが……
「私がワインを楽しんでいると、いつもこうなのです」
そう言ったルナの頬はほんのりと赤く、外が寒いからというわけではない赤味に「もしや……」と感じてワイングラスを改めて見る。
半分ほど減ってしまったワイン……ということは、こんな少量で酔ったのか?
ほろ酔い……だな。
「あー、えーと、ルナ。ワインじゃなくて焼酎のサングリアを飲まないか? 軽くつまめるものも持ってくるから、ちょっと待っていてくれ」
「でも……ワイン……」
「ほら、ベオルフとこの景色を見て楽しくおしゃべりしていたらすぐだから」
「うー……では、ここでお待ちしておりますぅ」
よしよし、良い子だな……と、頭を撫でると嬉しそうに目を細めて喜んでくれた。
くっ……か、可愛い……酔ったルナ……か、可愛すぎるだろっ!?
そりゃ、ボディーガードのベオルフが動くわけだ……こんな状態のルナを一人にしていたら、何が起こるかわかったもんじゃない。
此方でそんな馬鹿なことを考える命知らずはいないが、あちらにはセルフィスという馬鹿王子がいるのだ。
全くもって油断ならない。
勝手口から店内に戻り、キュステに声をかける。
「キュステ、すまねーが……サングリアの酒精をかなーり……殆ど感じられないくらいに薄くした物を作ってくれ」
「は? どないしはったん? だんさんはお酒強いやろうに……」
「ルナがベオルフにワインを取り上げられていたし、たったこれくらいで酔ってた……」
「あー……あのお兄はんが動いたんやったら大事やねぇ。他のお酒を飲まはったときは普通やったから、体質的なもんなんかもしれへんねぇ……まあ、任せときぃ」
とりあえず、納得したキュステがほぼジュースのサングリアを作っている間に、俺は手に持っていたワインを飲み干す。
これを持って帰るわけにもいかないし、ルナが思い出して駄々をこねたらマズイ。
今のほろ酔い加減で可愛らしいルナに勝てる気などしないからだ。
いや……もともと……勝てる気などしない……か。
「ほら、だんさん。これやったら大丈夫やと思うわ。ほぼジュースやし、酔っ払ってはったらわからへんやろ」
「サンキュ」
「あと、外で飲まはるんやったら、あったこうしておいたほうがええよ」
「そうだな。あ、体があたたまる料理ってなんだっけ」
「生姜をたっぷり使った具だくさんのスープと、野菜を鶏ガラスープで煮込んだ後、あんかけにした唐揚げはどうでしょう」
にっこり笑ってトレイを差し出してきたのはマリアベルだった。
どうやら、色々と察して気を遣ってくれたらしい。
「ありがとう、助かった」
「どういたしまして! お師匠様は胃の中が空っぽだと思いますので、リュートお兄様にお願いしますね」
「了解」
「真白ちゃんもいくー!」
「まっしろちゃん、こういう時はダメなの。ルーにも甘える時間が必要なの」
「そっかー、じゃあ、チェリシュと一緒にご飯を食べよー!」
「一緒に食べるの! キューちゃんが美味しいの選んでくれるのっ」
「キューちゃん、何か美味しいのちょーだーい!」
「はいはい、大人気のアップルパイが焼けたみたいやから切り分けようなぁ」
「焼きたてなのっ」
「やったー! 真白ちゃんとチェリシュが一番ね!」
元気の良い子供組に苦笑しつつ、あとは任せてというキュステに頷き踵を返す。
もう少ししたらオヤジ達も合流するだろう。
それまでは、ルナを独占しても良いのではないだろうか。
料理や飲み物を一旦アイテムボックスへ収納してベンチに戻ると、ルナはふにゃりと笑って俺に抱きついてくるが、先ほどまで感じていたベオルフの気配がない。
どうやら……気を利かせてくれたようだ。
こういうところが出来る男なんだよなぁ……見習わねーと。
「ルナ? 寒く無かったか?」
「だいじょーぶですぅ……体がポカポカして、あったかーくてぇ……とっても愉快な気分なのですー」
うん、酔っ払いだな。
ほらと、アイテムボックスから取り出したサングリアのグラスを渡すと、それを嬉しそうに受け取って口を付ける。
どうやら、酒が少し入っているだけで満足してくれたようだ。
いや、もしかしたらジュースでも気づかれなかったのでは……?
そんなことを考えていると、彼女にしては珍しく恥じらうことなく俺にもたれかかり、無防備な笑みを浮かべる。
嬉しいし可愛いし……これはこれで……俺がピンチなのか?
そんな馬鹿げたことを考えていたら、ルナが俺の胸に額をこすりつけた。
額が赤くなるのではないかと心配になるが、これがルナの甘え方なのだと知っているので言葉には出さずに後頭部を優しく撫でる。
「リュートさまぁ……来年も……こうして一緒にいましょうねぇ」
「ああ、もちろんだ」
「その次の年も、その次もー」
「絶対な」
「はい、ぜったーいなのですー」
酔ったせいで舌っ足らずになっているルナが可愛らしくて仕方ない。
もう少ししたら、ルナがいないと探しにやってくる人がいるかもしれないが……今だけは俺に独占させて欲しいし、こんな可愛らしいルナを他の連中には見せたくなかった。
俺にくっついて安心しきっているルナを抱えながら、久しぶりに俺だけの愛らしいルナを堪能する。
昨年は大変だったが、今年は更に大変なことが起きるような予感がしていた。
しかし、ルナと一緒なら大丈夫だと思えるから不思議だ。
愛しい気持ちが溢れそうになって右頬に口づけを落とすと、彼女は驚いたように目を丸くしてから、はにかんだ笑みを見せる。
そして、「左頬もあいてますよー」なんて言い出すから、本当に困ってしまう。
可愛らしいルナの小悪魔のような提案に乗るか乗らないのか思案しながら、もう驚くことも無くなった神秘的な空を見上げた。
「リュート様……左も……なのですぅ」
「え、えっと……あの……ルナ? 酔ってるから……」
「酔ってませんー」
「酔っ払いは、総じてそういうんだよな」
酔っていないですもんっと言って、俺にしがみ付くルナの愛らしさといったら……筆舌に尽くしがたいものがある。
もしかしたら、ベオルフも経験済みか?
だから、ルナから頑なにワイングラスを取り上げていた……とか?
ありえそうだ……と、考えている俺の左頬にふわっと柔らかいものが触れる。
「リュート様がしてくれないのならぁ、私がするのですぅ」
そう言ってふにゃりと笑うルナに、俺は心で悲鳴を上げた。
マズイマズイマズイマズイ!
これは……これは確かにワイングラスを必死に取り上げたくもなるわっ!
舌っ足らずな口調が可愛い上に、小悪魔的な愛らしさと心をかき乱してくるようなことを平然とやってのけるのだからタチが悪い。
キュステに準備して貰うのは水の方が良かった!
そう考えるが後の祭りだ。
よいしょっと言いながら俺の膝の間に座り、愛らしく……まるで天使のように可憐な微笑みを浮かべ、甘えてもたれかかる彼女の無自覚な誘惑に耐えながら、地獄のような天国の時間を堪能するのであった。
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