悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第十章 森の泉に住まう者

10-35 杞憂であって欲しい魔物の影

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「すごいにゃ~! あの量を食べきってしまったにゃ~! さすがは、召喚術師様ですにゃ~!」

 リュート様が最後の真白もどきのクリームをパクリと食べたのを見届けたモカから賞賛の言葉が贈られると同時に、他のキャットシー族たちからは驚愕の声が漏れた。
 そんな状況でもリュート様は気にすること無く、空になった皿を片付けて、周囲の皿もついでとばかりに洗浄石で綺麗にしてしまう。

「リュート様、魔力の補給が追いついていないのですか?」
「いや、それは無いな。ルナが食事を作ってくれるようになってから魔力のやりくりを深刻に考えなくても良くなったし、高度な魔法を惜しみなく使えるようになって効率が上がったからな……むしろ、無駄な魔力消費が減った気がする」
「そういえば、あの三人から聞きましたが……ノーマル詠唱の魔法を使ったんですよね? よほどの事が無ければやらなかった魔法を使えたと考えたら、それだけ定期的に魔力が回復出来ている……ということでしょうか」
「そういうこと。ただ、腹が減るのは同じだから困るけどな」

 まだ食べられるかもしれないというリュート様の言葉に、全員が驚愕したのは言うまでも無い。
 とんでもない量を平らげる人である。
 しかし、これだけ美味しそうに食べてくれたら、料理人冥利に尽きるというもの。
 初めてこの世界に来た頃のリュート様は、憮然とした表情で料理を口に詰め込んでいるというイメージであったが、今はそんな様子を微塵も見せない。
 口に合う料理を作れていることが嬉しくなってしまう。

「今回食べる量が多くなったのは、他の料理に比べて魔力の回復量が少なかったのかもしれませんね。フルーツが多かったので、そのせいかも……?」

 いくら私が【神々の晩餐】というスキルを持っていても、フルーツをカットしただけでは、回復量が少ないのだろう。
 今回はラエラエの卵があったから、普通の卵に比べて回復したというだけの話かもしれない。
 リュート様の魔力消費量に合わせた献立を考えた方が良さそうだと感じた。

「やはり、ガッツリ食べられる料理の方が回復しますか? 今まで作った料理で一番回復したと感じたものを教えてくださると助かるのですが……」
「あー、全般的に魔物関連の料理は回復するな。その中でも、カレーはヤバかった! 類を見ない回復量で、さすがはカレーって感じだ」

 まだ完璧とは言えないカレーであるというのに、大絶賛してくれるリュート様に感謝をしつつ、そういえば……と思い出す。

「今晩はチキンカレーにしようと思っていたのですが、この状況では難しいですよね」
「一応、悪先にも現状を報告がてら、今後の話し合いをしたんだけどさ、黒の騎士団と特殊クラスのメンバーは近くまで来て野営をしてくれるみたいだ」
「全員、近くで野営した方がいいかもネ。流石に結界の中へは入れられないケド、魔物の襲撃を受けたら駆けつけられる範囲にいたほうがイイ」

 時空神様の言葉を聞いてリュート様は深く頷いた。
 この集落が襲撃を受けているのだから、確実にタチの悪い魔物が出現するのだし、油断ならない。

「外の調査がてら、その旨を伝えておく。まあ、ここまで来るのに時間がかかるだろうからな……この付近でキャンプが出来る場所を探しておこう」
「それがイイかもネ……ところで、この周辺は詳しいのカイ?」
「ああ、スペランカスパイダーの生息地へ向かう道の途中だし、親父達から貰った地図がある」
「スペランカスパイダーは、毎年春先に黒の騎士団が討伐をしていたネ」

 聞き覚えのある魔物の名前に反応して記憶の糸をたぐり寄せると、イーダ様とトリス様に案内されたショップで衣類や日用品を購入した店の店長が、そんな話をしていたことを思い出す。
 素材が格安で沢山手に入ったと話していたし、あの時はあまり理解していなかったが、お父様とテオ兄様が、スペランカスパイダーを討伐したのだという話をしていたのだ。
 当時は右も左もわからず、自分のことで精一杯だったのだと改めて感じてしまった。

「まあ、スペランカスパイダーが生息している洞窟からは距離があるし、刺激されることはないと思う。それに、今は数が減ったから、洞窟の奥の方へ引っ込んでいるはずだ。問題は、この村を襲っていた魔物だな」
「ディードリンテは、魔物の姿を見たカイ?」
「いいえ……姿を消して襲いかかってくる魔物です。ただ、這いずるような音が時々するので、それなりに大きな魔物かと……」

 聖泉の女神ディードリンテ様の話を聞いていたリュート様から、一瞬だけピリッとした空気が流れる。
 何か思い当たる魔物でもいたのだろうか。
 彼にしては物騒な気配を感じた気がして、ジッと端正な横顔を見つめた。

「ん? どうした?」
「いいえ……そういうところまで似ているのかと、ちょっとだけ……不満です」
「えっ!? な、何がっ!?」

 何かショックを受けているリュート様に小さな声で語る。
 とても複雑であったため、彼の顔を見ないように視線を下げてしまったが、リュート様の抱えている物の大きさがわからないため、無理矢理に聞き出したいわけでは無い。

「確証が無いから言えない……ですよね?」

 私の言葉に、彼がかすかな反応を示した。
 どうやら悟られるとは思わなかったのだろう。
 甘く見ないで欲しい……リュート様が考えている以上に、私は貴方のことを見ているのだと言いたい。

「間違い無いと判断したら……出来る範囲で話して欲しいです」
「……似ているって……ベオルフ?」
「はい」
「……ったく、ルナの察しが良いわけだ。そうだな……間違い無いってわかったら、ちゃんと話す。それは約束する。ただし、ルナも覚悟しておいてくれ。おそらくだが……良い話じゃねーから」
「わかりました」

 のんびりとコーヒーを飲み、和んでいるキャットシー族を見つめながら、リュート様は「杞憂であってくれたらいいんだがな……」と、聞き取るのが大変だと感じるくらい小さな声で呟く。
 リュート様の考えを、この場で唯一理解しているのだろうヤンさんも、言葉無くコーヒーを飲み干した。
 二人の様子から察するに、相手にしたくは無い魔物だと考えられるが、どういった部類の物なのかはわからない。
 私が知る魔物は多くは無いが、湿地帯の主や空飛ぶ厄災と言われるシュヴァイン・スースを相手にしていたときでも、リュート様はこんな様子を見せなかった。
 つまり、あの二体よりも格上の可能性が高いのだ。
 そうだとすれば、確証が無いままにヘタなことは言えない。
 不安を煽り、パニックを起こしてしまえば収拾がつかなくなる。
 それでなくとも、この集落は色々な意味で限界であった。
 今食べたプリンも、「久しぶりのまともな食事だ」という声が聞こえてきたくらいだ。
 そんな限界の状況でも、聖泉の女神ディードリンテ様を助けようと一致団結していた集落の人々は、私たちに敵意が無いと知ると親切にしてくれたし優しかった。
 食料がもう殆ど無いというのに、せめて自分たちが食べる分は……と食材を提供しようとしてくれたのだ。
 食料は問題無いくらい確保してあるから、気にしなくて良いと言っても、なかなか信じて貰えなかったのだが、キャンピングカーのキッチンブースにある冷蔵庫から次々に出てくる食材を見て、ようやく信じてくれたようである。
 実際、この冷蔵庫にある……いや、食料保管庫にある食材や調味料を見たら、腰を抜かすほど驚くことだろう。
 店の保管庫にある食料と同等……いや、それ以上かもしれない。
 全ては、リュート様が今までアイテムボックスに収納していた食材である。
 もしかしたら、気になる食料を片っ端から保管していたのだろうか……と、疑いたくなる量だ。
 いや、きっとリュート様のアイテムボックスは、「緊急時用」「念のため」「こんなこともあろうかと」……という様々な理由をつけて物資をため込み、埋め尽くされているのかもしれない。
 食べることが好きだけれども、どう料理して良いかわからなかった食材も、そこには含まれている可能性がある。
 あとでリュート様が隠し持っている食材は無いか確認しておこうと心に誓った。
 おそらく、魔物との戦闘が始まれば、リュート様の食べる量はとんでもないことになるだろう。
 魔法を使えば使うほど魔力を消費し、補給をしなければならないと体が悲鳴を上げてお腹が減ってしまうのだ。

「ヤンさん……こういう討伐訓練のリュート様は……すごく食べますか?」
「相手によりますが……おそらく、普段の比では無いかと……」
「え? 俺って、そんなに食ってた?」

 無自覚ですか……と、ヤンさんが少し遠い目をしたのだが、おそらく、元クラスメイトたちは、その時の食事当番でもめたのだろう。
 しかも、普段は料理をしない人たちが、レシピの力を借りているとはいえ、慣れないことをするのだから、疲れ方も半端なかったはず……
 今回はお願いしますといわんばかりにヤンさんが頭を下げるので、今後は私が全て引き受けるから大丈夫だという意味をこめて微笑む。
 おそらく、彼らの戦いは血なまぐさいものになるだろうが、私はキッチンで大量の食材との戦いになるのだろうと覚悟した。
 まあ……リュート様のために作る料理だから、全く苦ではないのだが……とりあえず、今は――
 クリームで口の周りをベトベトにしているチェリシュを綺麗にして、丸くなったお腹を上に向けて転がり、「満腹ー! 真白ちゃんはまっしろちゃんをいっぱい食べちゃったんだー」と話す真白の相手をしながら、リュート様が淹れてくれたミルクたっぷりのコーヒーに口を付けるのであった。

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