悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第十章 森の泉に住まう者

10-36 探索開始

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 全員が食べ終えたのを見届けて開始した片付けを終えた頃、リュート様とヤンさんの準備も終わったようで、二人は完全に戦闘態勢である。
 鎧は元々着用していたが、リュート様は全身をアイギスで覆い、物々しい雰囲気を放っていた。
 兜も着用しているリュート様の表情は隠れてしまって見えないが、彼からはいつもよりも見えているようだ。
 もしかして、その鎧は身体能力向上の効果でもあるのではないだろうか。

「ヤンの方も、準備はいいか?」
「はい、道具は一式揃えました」
「一応、アイツらにも連絡を……」
「既に連絡済みです。懸念点も伝えてありますので、参謀に許可を得て、うるさい三人組が先行して此方へ向かってます」
「合流地点は?」
「マップを共有しておきましたので、ご確認ください」
「仕事が速くて助かる」

 すぐさま操作を開始してマップを確認したリュート様は一つ頷くと、ふぅと息をつく。

「あ、リュートくんと……ヤンだっけ? 君もちょっと待ちなサイ」

 時空神様は二人を呼び止めると懐から腕輪のような物を取り出して、彼らの左腕に装着した。

「それがあれば結界の中へ何の手順も無く入ってこられるヨ」

 時空神様の言葉に二人は無言で頷く。
 二人の放つ雰囲気に、周囲の人々も心配そうだ。
 外へ出るのは危険だとわかっているがゆえに、彼らの身を案じてくれていた。
 口々に「無理はしないでくださいにゃ」「危なかったら帰ってくるにゃぁ」という言葉に見送られ、結界の出入り口まで移動する。

「じゃあ、周囲を探索してくる。魔物の姿を見つけられたら良いが、姿を消す事が得意な魔物であれば、発見も難しいだろう。この結界の中にいれば襲われないし、食料は山ほど蓄えがあるから、心配いらない。――というワケで、抜け出すなよ? モカ」

 前科があるだけに名指しで注意されたモカは、えへへっと笑ってから控えめにリュート様へ笑いかけた。

「召喚術師様の言う通りにするにゃ~! でも、その……あの……ヌル……は、もういない……にゃ?」
「あ……そうだな。ヌルを起動させておこう」

 アイテムボックスから取り出されたヌルは、リュート様に魔力を大量に補給して貰って起動したからか、目を覚ますと同時に元気いっぱいに動き出す。
 そして、物々しい雰囲気を放つリュート様を見て首を傾げた。

≪お出かけですか?≫
「ああ、俺たちは周囲の探索に出かける。俺がいない間はルナの言うことを聞いて、ここにいる人々の力になってやってくれ」
≪了解しました!≫

 ゴーレムを初めて見たキャットシー族は、みんなヌルから慌てて離れるのだが、モカだけは親しげに話をして、ヌルと良い関係を築いているようだ。
 ヌル自身も驚いた人々に少しだけ困ったな……というような表情を作って見せたものの、モカのマイペースに救われて、すぐに笑顔になった。
 まあ、全て液晶に映っている表情でそう見えているだけなのだが、細かな感情を表現してくれるから非常に人間味がある。

「じゃあ、俺たちは行ってくる。時空神、此方は頼んだ」
「任せてヨ。魔物の襲撃を受けても平気だから、此方は気にしなくてイイ」
「地上で魔物からの攻撃を無効化できる結界を広域展開できるのは時空神ゼルディアスくらいですから、本当に助かります。ありがとう」
「俺にも守らなきゃならない理由があるカラ、気にしなくてイイヨ」

 時空神様と聖泉の女神ディードリンテ様がそんな会話をしている間、リュート様はヌルに何かを渡しているようであった。
 興味深げにモカも見ているが、それが何なのかわからないまま、ヌルはお腹を開いてそれを収納してしまう。
 ……え? お、お腹が……開くのですか?
 此方からは中身は見えなかったが、どういう構造になっているのかとても気になる。
 ゴーレムとは言うが、コレではまるでロボットだ。
 もしかしたら、この世界で初めてのロボットっぽい物が意図せず完成したのかも知れない。

「ゴーレムとは懐かしいですね」
「知っているゴーレムとは違って可愛いデショ? リュートくんが改良しているから高性能ダヨ」
「それは楽しみです」

 うふふっと笑う聖泉の女神ディードリンテ様の頬に、少しだけ赤味が戻っているのが嬉しい。
 即座に効果は無いだろうが、より良い食事を摂取していれば、少しずつ元気になってくれるのではないだろうか。
 昼はフレンチトーストサンドを食べていただいて、夜はカレーを振る舞おう。
 リュート様が手に入れたチキンで作るチキンカレーは、きっと美味しく仕上がるはず!

「ルナ、何かあったら連絡を頼む」
「はい、お任せください。くれぐれも気をつけて行ってきてくださいね」
「ああ、行ってくる」

 私の頭から頬を撫でてから、リュート様はかき消えるように姿を消し、移動してしまったのだと理解するのに一瞬の間が必要だった。
 それは本当にあっという間の出来事で、声をかけようとしていた真白とチェリシュが同時に「あー!」と声を上げる。

「リュー! いってらっしゃいのちゅーなのー!」
「真白ちゃんにも、ちゃんと挨拶ー!」

 チェリシュと真白が叫び、コレは困ったと私は助けを求めるように時空神様たちの方を見たのだが、意外なところから助け船は出された。
 マイペースなモカとヌルがチェリシュと真白に近づいて、モカが育てているらしいお花を見に行こうと誘いだしたのだ。
 結界の外にあるわけではなく、住んでいる家の裏手で育てているのだという。
 リュート様に文句を言っていたお子様組は、すぐにその誘いに乗ると、上機嫌で移動を開始しはじめた。
 全員手を繋ぎ、チェリシュの頭の上に鎮座した真白が「前進ー!」と号令を発す。
 キャットシー族でも、料理以外のスキル持ちが存在するのかと考えている私の目の前を横切って駆けていくチェリシュ達を見送る。
 なんとも平和な光景に苦笑が浮かんでしまった。
 この平和を守るために、結界の外へ調査に出かけた二人を思うと胸が少しだけ苦しくなったが、最悪な事態にならないことを密かに祈ることしかできない。
 これでは、学園でベオルフ様の帰りを待っていた時と同じだと思うのだが、その時と今は違う。
 あの時は、本当にただ待っているだけだった。
 しかし、今は……とキャンピングカーのキッチンブースを見て握りこぶしを作る。

「今の私には料理がありますからね」

 あの頃の私にもそれがあったら、ベオルフ様の苦労はもう少しマシであったのだろうか。
 いや、それよりも大変になっていた可能性もある。
 秘密裏に自分が持っている知識を彼に教えて改善していたからこそ、目立たなかったので必要以上に狙われることが無かったのだ。
 あの頃は、静かに目立たないように過ごし、できるだけ黒狼の主ハティを刺激しない生き方が最善であったと今ならわかる。
 それと同時に、ベオルフ様と敵対している黒狼の主ハティという者と私に解けない呪いをかけた人物は、一枚岩ではないのだろう。
 黒狼の主ハティの行動は最初から決まった行動を取っていたワケでは無く、どちらかというと自分の目的を達成するために、さっさと殺そうとしていたフシがある。
 それが途中から様子を見るようになり、ギリギリ死なないラインを探し出し、生かさず殺さずの状態を維持していた。
 しかし、ミュリア様が登場したことにより状況は一転する。
 黒狼の主ハティがある時期――そう、例の『断罪の日』まで私を殺すことをいったん中止したのだ。
 それには理由があるはず……彼らにとって重要なのは、『私を殺す方法』と『時期』なのかもしれない。
 ふぅと人知れず息をつく。
 このときばかりはリュート様がそばにいなくて良かったと思う。
 さすがに、こんなことをリュート様が居るときには考えられない。
 おそらく彼は、私の考えを些細なことから察してしまう。
 特に、セルフィス殿下やミュリア様のことを思い出している時には、恐ろしい確率で言い当ててくるのだ。
 私が再び傷つかないか――その事を心配してくれるのは嬉しい反面、頼りないのかな? と不安になる。
 いや、でも……頼りになるような状態でもないか……と、自らを省みた私から今度は深い溜め息がこぼれてしまった。

「ルナちゃん?」
「あ、いえ、何でもありません。この事は夜にでも情報のすりあわせをしながら考えます」
「あー、そっち系ネ。まあ、仕方が無いヨネ。リュートくんがいるとバレちゃうカラ」
「そうなんですよね……察しが良すぎるのです」
「それだけルナちゃんのことを見ているということデショ?」

 そう言われて、私は思わず言葉を失った。
 私が見ているのと同じように、リュート様も見ている……その事実がちょっぴり嬉しく、胸の内がこそばゆい感じがして走り出したくなってしまう。

「あ、走っちゃ駄目だからネ? ベオルフから再三注意されているカラ」
「……どういう意味で注意されたのでしょうか。私の運動神経に何か問題でも?」

 笑顔で問い返したはずなのに、何故か半歩引いてしまった時空神様は、慌てて声を張り上げた。

「え、あ、いや……あー、チェリシュ、真白ー! そろそろ、ルナちゃんが昼ご飯の支度をするって言ってるヨー!」
「まだやりませんよっ!?」
「ほらほら、カレー粉も作らないとネー! 人数が増えたんだからサ」
「あ……それもそうですね」

 この集落の方々の分と、おそらくオルソ先生の騎士科の分も欲しくなりそうですよね? と笑っていたら、時空神様がとても嬉しそうに「ウンウン!」と頷いた。
 やはり仲の良い友達であるようだ。

「クククッ……騎士科もカレーだったら魔法科はざまぁ……だ! リュートとルナの恐ろしさを、とくと味わうが良いー!」
「えーと……真白? その言い方ですと、私たちが悪役のようですよ?」

 ぽよんっと跳ねて私の頭上に着地した真白がそんなことを言うのだが、この子は本当にリュート様が好きだなぁと思いつつ、パタパタと駆けてきたチェリシュの手を取ってキッチンブースへ向かう。
 一緒になって戻ってきたモカとヌルも、お手伝いをする気満々のようで有り難い。

「意外とベオルフが使う技って……高等技術だったんダネ」
「時空神様?」
「い、いや、何でも無いデス!」

 何が高等技術なのだろうかと考えていたのだが、真白とチェリシュがモカの花がどれほど綺麗であったかと報告をしはじめたので、そちらへ耳を傾ける。
 帰ってきたらリュート様たちにも教えてあげようと笑い合い、昼食の準備を開始するのであった。

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