悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第十章 森の泉に住まう者

10-37 作業しやすい環境

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「さて……どうしましょうか」

 フレンチトースト――実は奥が深かったりする。
 今回はフレンチトーストサンドも作ろうとしているから、そう感じるのかも知れない。
 味は、しょっぱい系、甘い系、甘塩っぱい系の3系統からなり、具材もバリエーションが豊富だ。
 フレンチトーストと聞いてまず頭に思い浮かべるのは、卵液につけてバターをひいたフライパンで焼いて中まで火を通し、粉砂糖かメープルシロップか蜂蜜をかけていただくタイプが一般的だ。
 そこへオプションとして、アイスを乗せたり、ジャムや果物をトッピングしたりするものもある。
 甘い系だけでも途方もないアレンジができるというのに、しょっぱい系では肉系か魚系か、野菜やチーズは……と、悩んでしまうほどだ。
 さらに、甘塩っぱい系が追加されてしまえば――

「うぅ……リュート様の好みを聞いておけば良かった……」

 いつもは彼が食べたいものを具体的に提案してくれているから助かっているが、今回はそれが無い。

「ああ……コレが『何でもいいよは困る!』という世間の奥様方の悩みなのですね……」
「ルナちゃん……あー、まあ、リュートくんは食べたい物をしっかり伝えてくるからネ」
「とても有り難いのです。今回は、種類が多すぎて困っております」
「オーソドックスなフレンチトーストで良いんじゃナイ?」
「ずっと甘い系が続くのはどうかと……」
「それもそうカ……」

 普段はリュート様が「こういうものが食べたい」と示唆してくれるし、何気ない会話からイメージを膨らませてくれるので、作る事に迷いは無かった。
 しかし、本人は隠していたようだが集落を襲ってくる魔物へ意識がむいていたため、そういう話を一緒にする時間が取れなかったのだ。
 魔物だけでは無く、集落のことも考えて動いていた彼に、そんな時間があるはずがない。
 よく考えてみたら、学業だけでは無く各種方面からの相談事に案件、商会を運営していくために必要な手続きや付き合いもあったはず……
 それなのに、かなり私の事を優先して動いてくれていた事実を改めて実感して頭が下がる思いだ。

「うぅ……私が至らないばかりに、リュート様に多大なるご迷惑を……」
「ルナちゃん、考えがそれてるヨ」

 時空神様のツッコミで我に返り、お昼のメニューで悩んでいると、目の前にあるカウンター席に座っていたお子様組が顔を寄せ合い、何やらごにょごにょ話しはじめた。
 どうしたのだろうかと思い見ていると、「決定なの!」というチェリシュの言葉でお子様組会議は終了したのか、まん丸で大きな瞳をキラキラ輝かせて此方を見つめ返してきた。

「ど、どうしたのですか?」
「今回はチェリシュたちからリクエストなの!」
「食べてみたいのがあるから、作ってー!」

 意外な言葉に驚きつつも「何が食べたいですか?」と問いかけてみる。
 すると、チェリシュと真白は顔を見合わせてにぱーっと笑って同時に言った。

「チェリシュのキャベツさんなの!」

 なるほど。
 チェリシュが折角たくさんくれたキャベツを使おうということかと納得し、私は冷蔵庫からキャベツを取り出してカウンターに置いた。
 見事なキャベツにモカとヌルが「すごーい!」と大はしゃぎをして、チェリシュと……何故か真白まで得意げだ。

「サンドイッチにするなら、千切りが良いかもしれませんね……鶏の胸肉を低温でしっとりと仕上げて、彩りにニンジンも千切りにして挟んでみましょうか」
「わーいなの!」
「しっとりした鶏肉だよー!」

 共食にならないのかと毎回心配になるのだが、神獣は別格だと言うし……人間の固定概念が違和感を抱かせるのだろうと無理矢理に納得させて手早くリュート様お手製の調理器具でキャベツとニンジンの千切りを作りながら、鶏の胸肉の処理を開始した。
 叩いて厚みを整えた胸肉に塩コショウをしてからフライフィッシュの浮き袋へ入れて空気を抜き、スープクッカーの中に並べて入れて熱湯を注ぐ。
 あとは保温調理で料理が終盤にさしかかるころには完成するだろう。
 放っておけば勝手に完成しているのが本当にありがたい。

「定番のハムチーズも作るカイ?」
「勿論作ります! リュート様は、チーズが好きそうなので」
「あー、わかるカモ」
「普通のフレンチトーストは、ひたひたに浸す方が好きなので、パンにフォークで穴を空けて……というのを、チェリシュと真白にお願いできますか?」
「頑張りますなの!」
「お任せー!」

 両手にフォークを持って気合いたっぷりな様子を見せるチェリシュの横で、翼をばさーっと広げて高らかにくちばしを見せてくる真白――

「真白……貴女まさか……くちばしで穴を空ける気じゃ……」
「任せて!」
「え……えぇぇぇと……ダメですよ? 人様が食べる物に口をつけるのはいけません」
「くちばしだって!」
「貴女にとっては、お口ですよね?」
「えー……高速で空けられるのにー」
「ダメです。いけません」

 えーっ!? とブーブー文句を言う真白を指でエイッと突いて転がすと、遊んで貰っていると思ったのか、キャッキャ笑い出す。
 ベオルフ様のマネをしたのだが、効果覿面だ。
 さすがはベオルフ様……真白の扱いをよく知っている。

「じゃあ、その穴開けはボクがやるにゃ~」

 そう言って、今度はモカがにょきっと伸びた爪を見せてきた。
 た、確かに……キャットシー族は包丁と爪を両方使って調理するとカカオから聞いていたので、意外にも鋭い爪に驚いてしまう。
 やはり、子供とはいえどキャットシー族……恐ろしく鋭い。

「この爪で厚さ2ミリの鉄板を切り裂けるくらいになったら、お料理ができるようになるにゃ~! ボクたちはまだ子供だから、無理ですにゃ~」
「……え? て、鉄板を切り裂くのですか?」
「鋭さが命なのにゃ~」

 お料理に物理的な攻撃力は必要無いはずだが、魔物が多い世界である。
 包丁では加工できない食材があるのかもしれない。
 私はリュート様お手製の調理器具を使っている事が多いから気づいていないだけで、本来は金属製の包丁で加工できない食材が存在した可能性も……

「キャットシー族は、爪が鋭くないと良い料理ができないっていう価値観があるからネ。ルナちゃんがこの世界では異質なんダヨ」
「そうなのですね……」
「その世界での常識が他の世界にとっての非常識って、良くあることダネ」

 様々な世界を見てきた時空神様が言うのだから間違いは無いだろう。
 国が違えば文化も変わる。
 日本で当たり前に食べている物でも、他国では「信じられない」と言われる物も存在するので、それと同じようなものだと納得した。

「とりあえず、スタンダードタイプ、映えのチキンと生野菜のサンド、定番のハムチーズにお好みで蜂蜜をつけられる甘塩っぱい系を追加して……3種類で良いでしょうか」
「うんうん、美味しそうダネ」

 方向性が決まり、次々に必要な食材を出し、先ほどの食事の際、コーヒーの粉を沢山食べて産んでくれたラエラエの卵を洗浄石で綺麗にしてからボウルに割り入れる。
 私と時空神様が卵液の準備をしている間も、お子様組は楽しそうにパンにフォークや爪を使って穴を空けている。
 みんなが頑張って穴を空けて卵液がしみこみやすくなったパンを平たいトレイに並べて、卵液を流し込む。
 フレンチサンドに使うパンは、スライスして卵液に潜らせるだけで良いのだが、フレンチトーストはひたひたにして、外はカリッ! 中はトロッとした食感を味わって欲しい。

「今は下ごしらえの段階ですから、ある程度できたらカレースパイスも準備しましょうか」
「カレーなのー!」
「カレーもいっぱーい作ろー!」

 カレーが初見であるモカとヌルは、チェリシュ達の大はしゃぎを見て絶対に美味しい物だと確信したのか、目を輝かせている。

「あっ」

 声がした方を見れば、チェリシュが手に持っていたフォークを落としてしまったようで、拾おうとジタバタしていた。
 危ないのでフォローに回ろうとしたのだが、それよりも早くヌルが新たなフォークをチェリシュに差し出し、落ちているフォークを回収して洗浄石で綺麗にし、元々あった場所へ収納している。
 流れるような動きに感心していたのだが、ヌルは本当によく気がつく。
 持ち前の観察眼を活かして、縁の下の力持ちのような立ち位置で何かを運んだり、周囲を綺麗にしたりして、常に作業しやすい環境をキープし続けている。
 時空神様のフォローとはまた違うところの手助けをしてくれているので、作業スピードが倍ほど違う。

「私……この状況に慣れたら、とても大変な事になりそうです……」

 私の呟きが聞こえたのか、時空神様がぷっと吹き出し、それをお子様組が不思議そうに眺める。
 ナンデモナイデスヨと、何故か片言になりつつもお子様組の気を逸らしていると、遠くで何かの音がしたような気がした。
 ――リュート様?
 不安に思っている私のイルカムに、珍しく通信が入る。
 かけてきたのはリュート様であった。

『馬鹿三人と合流した。あと……魔物の痕跡を見つけたので早急に戻る。時空神様とディードリンテ様に話があるから、伝えておいてくれないか?』
「わ、わかりました……あの……今、音が……」
『ああ、モンドが派手に転けただけだから心配ない』

 そういうのだが、リュート様の声にいつもの柔らかさは無い。
 どうやら、とんでもないことになったらしいということだけは理解出来た。

『杞憂であって欲しかったんだがな……』

 最後の呟きは誰に向けられた物だったのだろうか。
 リュート様の暗い声に少しだけ不安になったのだが、近くに居るのかモンドさんたちの賑やかな声が聞こえてきてリュート様は大丈夫だと感じた。
 そうだ、彼らがいるなら大丈夫。

「リュート様、無事に戻ってきてくださいね。お昼のフレンチトーストは、甘い系、しょっぱい系、甘塩っぱい系の三種盛りですよ」
『うわっ! マジでっ!? それは楽しみだ! あと、ぐるっと周囲を探索してから急いで戻る! またあとで!』

 一転して明るい声を出す彼にホッとしながら通話を終えた私は、気合いを入れて腕まくりをした。

「アイスクリームも作らないとネ」
「はい! 時空神様、よろしくお願いいたします!」
「ウンウン、ルナちゃんは元気が一番ダヨ」

 帰ってきたリュート様が終始暗い顔をしなくても良いように、せめて食事の時くらいは幸せだと感じられるように、私は私のできる全力を料理にぶつけようと、時空神様と一緒にアイスクリーム作りを開始するのであった。

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