悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第十一章 命を背負う覚悟

11-39 コーヒーブレイク

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「見てー! 真白ちゃん、上手に型抜きできたよー!」
「チェリシュも出来たのー!」

 お子様組が目をキラキラさせて自分の成果を発表してくれたので、頭を撫でる。

「凄いですね、二人とも凄く上手です」
「えへへー」
「えへへーなの」

 褒められて嬉しかったのか、真白とチェリシュは顔を見合わせて照れくさそうに笑う。
 二人が綺麗に型を抜いてくれたので、チェリシュが型抜きをしたシートを元クラスメイトたちへ渡して、見本の通りに作ってくれるようお願いした。
 深皿に生地をセットして、その上に煮詰めたリンゴを詰めてセットしていた彼らは、受け取った生地を私が作った見本を参考に頑張ってくれているようだ。
 私は二人が型抜きしてくれた大小の花々を縁に飾り付けていく。
 時空神様はスーッと綺麗にカットして編んでくれているのだが、職人のようなスピードでこなしてくれている。

「チェリシュと真白も、私と同じように飾り付けてみますか?」
「あい!」
「やるやるー!」

 自分が作ったパイ生地の花を縁に飾り付けるために、「そーっと……そーっと……」と呟いて息を潜める姿は可愛らしい。
 気づけば、リュート様がいつの間にかカメラを手にして此方を撮影していた。
 リュート様……いいのですか?

「ソレは何だ?」
「ああ、これはうちで開発した通称カメラってやつで……風景を保存して再生できるみたいな感じかな?」
「ほう……それは永遠に?」
「ああ、このクリスタルが壊れない限り大丈夫」
「凄い物だな」
「既に、黒の騎士団で購入確定の逸品ですよ」
「魔物の資料作りに最適だろうからな……」

 戻ってきたロン兄様の言葉を聞いたオルソ先生は、何に使うのか即座に判断したようで納得だと頷く。
 リュート様もギムレットさんの技術が認められたことが嬉しいのか、どことなく誇らしげだ。
 自分の工房の仲間が褒められるのは、やはり嬉しい。

「リュートの周りは、暫くしたら新しい物に溢れていて驚かされるな」
「俺だけが作っているわけじゃねーから」
「お前の工房は質の良い物を作ると有名だから、ソレもすぐに人気商品となるだろうな」
「俺もそう思う。コレはいいよ。ついつい撮影しちまうから」
「リュートの撮った物を見たら、ルナちゃんたちばかりになりそうだね」

 ロン兄様が楽しげに笑うのだが、オルソ先生は何かもの言いたげにロン兄様を見てから溜め息をつく。
 おそらく、ロン兄様だったらリュート様の映像ばかりになりそうだと思ったのだろう。
 その考えには、私も賛同しますが言葉にはしないでくださいねっ!?
 リュート様が出してくれたプレートの冷気だけで、周囲の空気は十分冷えていますから……

「ねーねー、真白ちゃんが型を抜いた生地はどうするのー?」
「それは、アップルパイが焼けたら使います。ベリリジャムを使ったパイを作ろうとおもいまして……」
「はっ! ベリリを使ったパイ……なのっ!」

 期待に目を輝かせるチェリシュを失望させないように、美味しく作らなければと微笑んだ。
 アップルパイとは違い、此方はクリーミー路線で行こうと決めていた。
 本当はミルフィーユが見栄えも良くて良いかと考えていたのだが、とても食べづらいのだ。

「真白はいいとして……チェリシュは食べづらいかもしれませんし……」

 真白の高速啄みは何でも食べられそうだが、チェリシュは人間のお子様と変わらないと考えて良い。
 それでなくてもミルフィーユは食べづらい。
 成人した人でも綺麗に食べるのは困難だ。
 しかし、あのサクサクしたパイ生地と濃厚なクリームと苺の爽やかな甘みと酸味のバランスは、食べづらさを度外視しても食べたくなる。
 さすがにココで作るのは難しいかと考えて、今回はカスタードクリームとベリリジャムのパイにしようと決断した。
 パイ生地を崩してナポレオンという手もあるが、折角綺麗に型抜きをしてくれたので、コレを使わない手は無い。
 花の形に切り抜かれた場所に赤いベリリジャムが見えたら綺麗なはず……
 おそらく、チェリシュは可愛いと大はしゃぎしてくれるだろうという期待も込めて、アップルパイを仕上げながら、次のご褒美メニューも決定した。

「さて、次は……」

 仕上げに必要となる卵液を作る
 卵黄と牛乳を混ぜて刷毛で塗っていく。

「ルナ様……それは?」
「焼き色が綺麗になるので、全部に塗ってくださいね」
「裏もっすか?」
「あ、卵液は表面だけで大丈夫ですよ」
「了解っす!」

 すぐさま私に聞いて実行してくれるのは本当に有り難い。
 飲み込みが早いというか、考え方が柔軟というか……
 これも、リュート様の影響なのだろうか。
 彼らの順応力というか、対応力というか……そういう物が、とても優れているように感じた。
 そうこうしている内にアップルパイの仕込みを終えた私は、簡単にカスタードクリームを作り、ベリリジャムを準備する。
 それを何も加工していないパイ生地に塗って、真白が型抜きをしてくれた長方形の生地をかぶせた。

「ベリリジャムが見える……なの!」

 案の定、これ以上と無いほど目をキラキラさせてくれたチェリシュに此方も嬉しくなる。
 真白と一緒にきゃーきゃー言っているので、焼き上がったときはもっとテンションが上がりそうだ。

「俺たちがこんな可愛らしい物を作っているとか信じられるか?」
「うちの妹たちが好きそうだなぁ」
「可愛いっていうだけで飛びつきそうだよな」
「俺の姉ちゃんも好きだろうな……母ちゃんも年甲斐も無くはしゃぐかも?」
「でもさ、俺たちが作ったって言ったら、絶対に信用しねーぞ」
「それな!」

 ケタケタ笑いながらも次々に仕上げて焼いていく彼らの様子に、私も笑いがこみ上げてくる。
 確かに、体つきが大きく手もゴツゴツしている彼らが、小さな花をちりばめたアップルパイを焼いたと誰が考えるだろう。
 でも……きっと、この場で彼ら以上に上手なパイを焼ける人は居ないはずだ。
 その事実を知ったら、彼らはもっと忙しくなるのではないだろうか……
 そんな彼らを取り仕切っているリュート様はというと、忙しそうに各方面の報告を聞きながら地図を広げ、オルソ先生やロン兄様と話し合いをしている。
 魔物との戦闘経験が物を言うのか、リュート様の意見に耳を傾けているのは、何もオルソ先生やロン兄様だけではない。
 各担当者や教師陣も集まってきている。
 情報を出し合い、目撃情報があったらしい箇所に印を付けて、今後の動きについて意見を出し合う。
 おそらく、誰もがリュート様の決断力と頭の回転の速さに驚いているのだろう。
 彼らは意見を出してはリュート様の言葉を待っているようであった。

「リュートくん、忙しそうダネ」
「そうですね……リュート様が総司令官みたいな感じになっていますが……」
「まあ、彼ほど魔物と戦ってきた人は居ないからネ。オルソやロンバウドだって、リュートくんの討伐数には敵わない。圧倒的な場数の違いが現れているよネ」
「そんなに……ですか?」
「当たり前ダヨ。しかも、そこら辺の雑魚ではなく、十神が直々に依頼するような厄介な魔物が多いんダ。アレンでも手こずる相手を余裕で倒せるのは彼以外に居ないヨ」
「……消耗も激しかったのでしょうね」
「ソウダネ。彼の消耗した魔力は、なかなか取り戻せなかった。そんな中でもやり遂げられた……現在は、その辺りを考える事無く全力を尽くせるのに、大怪我をしたんダ」

 時空神様の言葉に私はハッとする。
 そうだ、リュート様は魔力の補給を懸念しなくて良くなった。
 つまり、全力で戦える状況が揃っているのに、大きな怪我をしたのだとしたら……

「普通のラミアじゃないということダヨ」
「そうですね。俺たちもラミアとは戦ったことがありますが、いつもと違う感じがしました」
「なんつーか……統率が取れているだけじゃなくて……作戦を実行している感じっていうか……嫌な予感を覚えるんですよね」
「此方の情報を持っている感じもするし……弱いところを突かれた感じで、リュート様がいなかったら、おそらく壊滅していたと……」
「そうそう。あの時は誰も口にしなかったけど、アレは壊滅コースだったよな」
「わかってねー奴等が多いのはしゃくに障るけどさ、ヘタに言うと萎縮してヤバイ事になるし。動けなくなったヤツほど面倒だからなぁ」

 元クラスメイトたちが作業をしながら世間話のように聞かせてくれる話は、迎えに行ったリュート様や皆がここへ来るまでの道のりが、どれほど厳しかったか理解するには十分な物であった。

「多分、リュート様がそれを誰よりも理解してるから、ああやって中心になっているんだろうな」
「普段だったらやんねーよな」
「参謀もいるし、オルソ先生もいるときにしゃしゃり出ていく性格じゃねーし」
「おそらく、この状況に危機感を覚えているんだろうさ。リュート様はそういうときほど顔に出さねぇから」
「あの感じは、十中八九ソレだろ。俺たちが判っていたら良いって考えてそうだよな」
「まあ、俺たちは判ってるんだけどな!」
「俺たちって優秀だと思いませんか? だから、ルナ様は心配しなくて大丈夫ですからね!」

 全員が揃って最高の笑みを見せてくれるが、内容が内容だけに心配だ。
 しかし……

「皆さんがリュート様の側にいてくれることが嬉しいです。ちゃんと理解してくれていると知れただけで、ちょっと安心です」
「ちょっとかー!」
「やっぱりさ、ルナ様も知りたいと思ったから言ったけど……リュート様に怒られるかな?」
「まあ、怒られたときは怒られた時だろ? 俺たちは必要だと思ったから言ったんだしさ」

 あんなに追いかけ回されてもケロリとして、自分たちの考えで行動できる彼らは凄い。
 いや……根底にある絆の強さだろうか。
 私も、彼らのようになりたい。
 そう強く想う。

「ルナ様はルナ様にしか出来ないサポートをしてくれているから、リュート様サポート隊は完璧っすね!」
「リュート様サポート隊の隊長はルナ様ですね」
「本当に困った方なので、いざって言うときは叱ってでも止めていただけると助かります」
「判りました。その時は全力で頑張りますね」

 握りこぶしを作って気合いを入れていると、私の足元ではチェリシュが、頭上では真白が同じポーズを取るので、皆がぶはっと吹き出した。
 茶化すつもりは無かったと思うし、可愛いから許して上げてくださいね?
 そんなことを考えていたら、何故かコーヒーの良い香りがしてきた。
 あれ? とニオイの元へ視線を向けると、リュート様がキャットシー族の人々に囲まれて、一緒にコーヒーを淹れていた。
 えっと……何故そうなったのでしょう。
 淹れたてのコーヒーをテーブルに座っている各責任者に配っているところを見ると、会議が長引きそうだからコーヒーブレイクを入れようと考えたようだ。
 頭がスッキリするから良いですよね!
 ただし、廃棄する予定の粉をいただこうとラエラエたちがリュート様の足にまとわりついているのは危うく感じる。

「まあ、ルナちゃんじゃ無いから、アレでは転けないヨ」
「わ、私は転け……ますか、やっぱり」

 認めざるを得ないくらい足にまとわりつくラエラエたちに苦笑が漏れた。
 コーヒーのニオイに誘われたのか、外で遊んでいた生徒たちも中に入ってくるので、キャットシー族の人たちがコーヒーを振る舞うようにしたようである。

「あ、俺が牛乳と砂糖を持って行ってくるっす!」
「僕も付き合いますよ」

 モンドさんとジーニアスさんがトレイに牛乳とお砂糖が入ったピッチャーや器を用意して、各テーブルを回っていく。

「さて、此方はパイを焼きながらスープも仕込みましょう。鶏のスープは習得していますか?」
「あ、それは習得済みです」
「では、お手伝いをお願いしますね」
「俺は野菜のカットをしますから、何でも言ってください」
「野菜もたっぷり使いますので、先ずはキャベツを千切りにしてください」
「了解です!」

 鶏出汁で作るスープと塩、あとは柑橘系……レモンが良いかも?
 そう考えながら材料を揃えて行く。
 もう少しで昼ご飯の準備も終わりが見えてきそうだと、少しだけホッと息をついた。

「ルナ様、少し休憩してください。俺たちは交代で休憩しているのですが、ルナ様は働きづめですから……」

 ダイナスさんにそう言われてしまったが、リュート様も働いているのに、私が休むのは気が引ける。
 そう考えていた私の目の前に現れたのはリュート様で……

「ルナ、俺の淹れたコーヒーで少し休憩しないか?」
「リュート様……」
「ナイスタイミングです、リュート様」

 ダイナスさんがそう言って、私の背中を押してリュート様に押しつける。

「ルナ様を休憩させてください。ずっと動いていて疲れているはずなので……」
「判った。お前が見ていてくれて助かるよ」
「チェリシュと真白は俺と一緒に休憩しようカ」
「あい!」
「えー」
「よし、コーヒーの上に真白もどきを乗せて上げようカナ」
「一緒に行くー!」
「チェリシュにも、まっしろちゃんもどきが欲しいの!」
「はいはい、じゃああっちで休憩しようネ」

 二人でゆっくりしてね……と、時空神様が私の頭をポンポンとしてから、チェリシュと真白を連れて外へ行ってしまった。
 一応、大食堂内は人がそれなりにいるし……と考えていたのだが、リュート様に導かれて人の少ない一角に腰を下ろす。

「あの……リュート様は大丈夫なのですか?」
「ん?」
「会議中では……」
「あちらも休憩中。何か情報を整理する時間が欲しいと頼まれた」
「なるほど……」

 リュート様は頭の回転が速くてマルチタスクな人間だ。
 同時進行で、様々な事を考えられるけれども、他の人たちはそうもいかない。
 つまり、出てきた情報を整理して理解する時間が欲しかったのだろう。
 いつもなら、その辺りを配慮しているのに珍しい……
 時空神様が普通のラミアではないと言っていたので、それを他の人に説明するのが難しく、悪戦苦闘しているのかもしれない。
 リュート様の強さから、その辺りを推し量れる元クラスメイトたちが同行していることに、心から感謝した。

「そういえば、ヤンさんが帰ってきていないようですが……」
「ああ、まだ暫くかかりそうだ。ルナの料理は送ってやっているから心配しなくて大丈夫だよ」
「それは良かったです。……でも、何を調べているのですか?」
「んー……まだ確証も無いからな……俺の勘違いってこともある。だから、今は言えないし、それを裏付けるためにヤンには動いて貰っているって感じかな」
「そうですか……」
「何か頼みたい事でも?」
「いいえ、ただ姿が見えないと心配になりますから」
「ルナに心配されたと知ったら、ヤンのヤツも喜ぶだろうな」

 そうなのだろうか……少しだけ疑問を覚えつつもリュート様の淹れてくれたコーヒーを口に運ぶ。
 やはり、他の人が淹れたコーヒーより美味しい。
 甘みがあって、渋みが少ない。
 何よりも香りが良いのだ。
 ほぅ……と吐息をつくと同時に、意外と疲れが出ていることに気づいた。

「疲れが出ていたみたいだな」
「面目ありません」
「何言ってるんだ。ずっと働きづめなんだから当然だ。それでなくても、ルナは基礎体力が……まだまだ無理をさせたくは無いんだけど、今回はルナに頼りっぱなしだな」
「何をおっしゃるのですか? リュート様ほど頑張っている人は居ないと思います」
「いや、気づいているヤツは気づいているけど、ルナが一番頑張ってる。出来るだけ休める時は休んで欲しい」

 俺に何か出来ることとか、して欲しいことはあるか? と、優しく問いかけてくるリュート様にも疲れが見え隠れしている。
 やはり、頑張りすぎているのはお互い様のようだ。
 この状況を脱するには仕方が無いと判っていても、少しくらい休んで欲しいというのが本音である。
 お互いにそう考えているのなら……と、我が儘を承知で提案してみることにした。

「じゃあ……一つだけお願いしても良いですか?」
「何でもどうぞ」
「リュート様が、こうしてコーヒーに誘ってください。そして、一緒に休憩しませんか?」
「ルナ……」
「一緒が……いいです」
「判った。一緒に俺が淹れたコーヒーを飲んで、休憩しよう」
「はい!」

 リュート様の優しい返答と微笑みに、思わず大きな声が出た。
 でも、それくらい嬉しかったのだ。
 こうして二人で休みを取れたら言う事は無い。
 やはり、彼と話をしていると心が安まるし、とても楽しいのだ。

「あー……帰ったら、コーヒー用の道具を揃えてーなぁ」
「いいですね、きっとナナトが大騒ぎしますよ?」
「アイツ……遠征からの帰還を手ぐすね引いて待ってそうだよなぁ」
「間違い無くレシピ狙いですね」
「まあ、新しい屋台が出そうなメニューがチラホラあるし……」
「ハンバーガーも作ってみましょうか」
「いいな。ポテトとハンバーガーとサイドメニューでナナトが狂喜乱舞しそうだ」
「確かにそうですね」
「今頃キュステが大忙しで、それどころじゃ無いだろうが……」
「やっぱり、無理難題を押しつけていたのですね?」
「ちょっとな」

 悪戯っぽく笑うリュート様を見て、本当にちょっとなのだろうかと思ったが、そこは突っ込まずに心の中で合掌する。
 キュステさん、強くあれ……

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