悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第十二章 ラミア迎撃戦

12-9 盤面をひっくり返す奇跡(リュート視点)

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 全身の血が凍り付くかと思った。
 崖の下に落ちていくルナを見て、言葉に出来ない衝撃が走り、頭の中で何かが爆発したように思考が吹っ飛び、細かいことなど考える事無く動き出す。
 目の前のウルトルを放置するのは危険だが、キュステの血で造った龍血玉は絶大な力を発揮しているし、問題児トリオとヤンもいるのだ。
 エキドナとウルトルが、どれほど力を持っていても足止めくらい出来るだろう。
 それに、俺のアイギスの核になっているスケルスが「行け!」と叫んでいるように感じた。

 そんなこと、お前に言われなくても行くに決まってんだろ!

 躊躇うこと無く崖下にダイブして小さな獣の姿になっているルナへ腕を伸ばす。
 カーバンクルのルナは此方を確認して、すぐさまエナガの姿へ変じた。
 さすがはルナ!
 小さな体を腕の中に確保し、怪我は無かったか確認するが、体に麻痺があるようで動きはぎこちない。
 小刻みに震える体は、恐怖を感じているわけではないだろう。
 それは、彼女の黄金の瞳を見れば判る。
 強い光――まるで、この戦いの行く末を確信した人間が見せる輝きだ。
 無茶をした彼女に対して怒りを感じているが、彼女にそうさせる何かがあったのだろう。

 ユグドラシルの介入か? それとも別の神か――

 神々しい輝きを放つ彼女は、『オーディナルの愛し子』と呼ばれるに相応しい神々しさがあった。

「リュート様、このまま海面へ降りてください。その際、何があっても攻撃をしないようにしてくださいね?」
「へ? いや……え? このまま海面?」
「はい!」

 ルナには何が見えているのだろう。
 海にダイブする覚悟で海面を見ていると背後から多数の魔物の気配を感じた。
 どうやら、何がなんでも俺を始末したいらしい。
 さすがに、エキドナとウルトル相手は、あの三人とヤンでも厳しかったか――そう考え体を反転させる。
 魔法で迎撃しようとした俺をルナがすかさず止めた。

「ダメです、リュート様! そのままです!」
「いや、でも……」
「もう、来ましたから任せましょう」
「任せる?」

 またもや背後から気配がした。
 先ほどとは比べものにならないプレッシャーである。
 ゾワリとした感覚に慌てて後方を確認しようとした俺の横を、何かが勢いよくすり抜けていった。
 それと同時に、ルナが笑う。

「リュート様、着地です」
「えっと……?」

 次の瞬間、海の上だというのに俺は着地していた。
 シッカリと俺たちを受けとめる何か――振り返り見て息を呑む。
 海面からぬぼっと頭……いや、顔を出している巨大生物に顔が引きつった。

「はあぁっ!? 何でクラーケンっ!?」
「助けに来てくれたみたいです」
「はい……?」

 ちょっと待って……意味がわからない。
 復讐しようと襲いかかる瞬間を虎視眈々と狙っていたのでは無く、守ろうとしていたというのか?
 クラーケンの熱い視線は、ルナへ注がれている。
 まるで、王の前にひれ伏す臣下のようだ。

 もしかして……食物連鎖の頂点に立つルナを主として、服従したのか?
 
 いや、確かに魔物社会にそういう事もあるとは聞いているが、クラーケンのような力を持つ魔物ではあり得ない。
 だが、実際に、クラーケンはルナを守ろうとしているようだ。
 まあ……俺はついでに助けたって感じか……

「クラーケンさん、ありがとうございます。おかげで助かりました」

 ルナの言葉を聞いて嬉しそうに体をくねらせるクラーケンには全く敵意が無いと知り、俺は深く溜め息をつく。
 うん……知ってた。
 ルナは、こういう……俺の想像を遙かに超えたことをしでかしてくれる相手だって、知っていたよ。
 きゅるんっとした無邪気な瞳で見上げてくるルナに、力なく微笑みかける。
 俺……一生ルナに敵わない気がするんだが?

「リュート様、上へ戻りましょう!」
「そうだな。問題児トリオとヤンがいるから平気だろうが、早く戻ろう」
 
 ここからは彼女の独壇場だ。
 俺の理解も、考えも追いつかない事態に、目を白黒させているのに対し、彼女は余裕の笑みを浮かべている。
 神に愛されし彼女の、人の常識を越えた戦い方を思うと溜め息が出そうだが――クラーケンの気持ちはわかる気がした。
 彼女を守りたい。
 ただ、それだけなのだ。

 落ちていった俺たちを追撃するだけだと思い、飛び降りてくる魔物達を迎撃すべく術式を展開する。
 しかし、それより早く俺の横をすり抜けたのは、クラーケンの太い腕――
 襲いかかる魔物達を物ともせずに岸壁へ叩きつけて一蹴する姿は圧巻だ。
 そのまま難なく俺たちを崖上へ押し上げ、自らもその場へ降臨した。
 巨大なクラーケンの出現に、激戦区と化していたらしい戦場は、一気に静まり返る。
 
「クラーケンさん! あの魔物の群れをやっつけちゃってください!」

 ルナの言葉に反応して、クラーケンが魔物の群れを問答無用でなぎ払う。
 互いのバランスを大きく崩す強大な力が降臨したことにより、今までとは全く違う状況となったウルトルとエキドナは、自陣の体制を立て直すのに必死だ。
 クラーケンの上から見て取れるほどの動揺を、全く隠し切れていない。
 未だに、どうしてこうなったと考えている事だろう。
 もし、彼らの敗因があったとするなら、ルナを敵に回したことだ。
 それさえなければ、ここまでの差は生まれなかったはずである。
 力は拮抗していたし、エキドナの魔物を寄せ付けて味方にする能力次第では、此方が不利な状況に追い込まれていた。
 その盤面を、奇跡とも思える圧倒的な力でひっくり返したのは、間違い無くルナだ。

「俺……ルナが敵じゃ無くて良かった……」
「え? 私がリュート様と敵対するなんてあり得ません。ねー?」

 ルナの問いかけに、何故かクラーケンと、いつの間にか戻ってきていたクリスタルスライムも首を傾げて「ねー」と言っているように見える。
 それがまた、可愛いと感じるから不思議だ。

 ルナにかかれば、全部可愛い系になるのか?
 ヤバイ……わけがわからねーよ……え? なに、この状況……
 ルナは俺をチートだと言うけど、ルナほどじゃねーぞっ!?
 もしかしてさ……ルナの従魔になったとか言わねーよな?
 クラーケンって海の魔物でも最強クラスだぞ?
 え? マジ? 嘘だろっ!?
 
 混乱する頭で、この状況を整理するのに必死だ。
 だから、俺に状況説明を求めるイルカムの通信には答えることが出来ない。
 ただ……

「ルナが……やらかしたらしい?」

 と――かろうじて返答した俺に、全員が何故か納得した。
 そう、納得したのだ。
 全くもって説明になっていないのにも関わらず、全員が納得する何かをルナは持っている。
 俺の従魔になったクリスタルスライムは、興奮して跳ねているし、クラーケンはルナを腕に乗せられて満足げだ。
 右往左往するラミアと森の魔物を見ながら、俺は理解の追いつかない状況に頭を抱えるしかない。
 これ、あとはクラーケン無双で終わるんじゃ……

「誰やあああぁぁぁっ! うちの奥様に無礼なマネをしたんわあああぁぁっ!」
「ルナちゃん、無事ーっ!?」

 この場に聞こえてはならない声が聞こえた。
 キュステは想定内だ。
 龍血玉が割れたのだから、何かしら仕込んでいたようだし、そのうち何らかの反応があるだろうと思っていた。
 しかし、母であるモアが――『惨禍さんかの魔術師』が来るのは想定外だ!
 笑顔の母は、俺たちを見て疲弊しきっていると判断したのだろう。
 更に笑みを深めて――問答無用の術式を展開し始めた。
 竜の姿になっているキュステの上で杖を掲げる母の勇ましさよ……頼もしくて涙が出そうだ――が、しかし!
 今ココで、ソレは求めてねーから!
 ここら一帯を焦土と化す気かっ!? 

「ヤメロ、マジヤメロ、そのコンビはマズイ! 母さん、その炎熱魔法はマジヤメテ!」

 冗談では無いと俺は慌てて魔法を展開して、何故か敵まで守る事になる結界を張るしか無い。
 ここで母が暴れたら、この森の消失が確定してしまう。
 ロン兄も気づいて慌てたように誰かへ連絡を取り、それに応じた形で、天空から黒い何かが飛来する。

「やめなさい、モア!」
「母上! どうどう!」

 ナイスタイミング親父! だけど、テオ兄……それは馬や動物相手に言う言葉だから。
 いくら獰猛でも違うから、全く違うからな?
 意外な形でラングレイ一家勢揃いなんてことになったが、本当に……マジで勘弁してくれよと泣きたくなる。

「全く……予期せん状態になっておるのぅ」
「アレンの爺さんまでっ!?」
「懐かしい力を感じてな……キュステに無理を言って、モア殿とついてきてしもうたわい。龍血玉の力で術者を転移させる門が発動したのはいいが、定員オーバーだったのか時間がかかってしもうた。どうやら、無事じゃな」
「あ……それで、キュステが竜の姿に……いや、そうじゃねーし、待って……俺の理解とツッコミが追いつかねーだろっ!」

 頭をフル回転させて状況を理解しようとしているのだが、次から次へと変化していく戦況に、匙を投げたい気分になってきた。
 むしろ、黒の騎士団の本隊が到着したのだ。
 指揮権を父へ譲渡するべきだろう。
 俺の苦悶の表情に何を思ったのか、ルナが心配して「大丈夫ですか?」と言いながら俺の頬にすり寄る。
 それだけが、唯一の救いであり、癒やしだ。

 さて……この状況は、吉と出るか凶と出るか――

 鋭い憎悪の視線を感じながら、俺は静かにウルトルを見る。
 混乱する戦況の中でも、奴の抱える闇は深くて大きい。
 その闇が、本当は己の行動が招いたものだと知ったら、アイツはどうするのだろうか……自分の身勝手な行動が、一族の破滅をもたらしたのだと知ったら?
 最後まで苦しみ、抗い、狂気に苛まれながら絶望して散っていったスケルスの事を思うと、俺はヤツを許せる気がしなかった。

 
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