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第十二章 ラミア迎撃戦
12-20 今更気づいた事
しおりを挟む「しかし……この砦の扱いはどうしたものか……神々が建造したものを、我々が使用しても良いのだろうか」
お父様が食後のコーヒーを楽しみながら、砦を見渡す。
ラミアたちの激しい攻撃から皆を守った砦は、目立った損傷も無く問題が無いように見える。
これだけ堅牢な造りの建物だ。この森へ迷いこんだ人の助けにもなるだろう。
それだけで終わらず、時空神様いわく「自分的には強く無い結界」を常時発動するように時空の水晶なる物を、この砦の中へ設置してくれたらしい。
あくまで、時空神様基準のお話なので……その言葉を鵜呑みにするのは危険な気がした。
「この建物の所有権はルナにあると思うから、ルナの好きにしたらいいんじゃねーかな」
「え? そうなんですか?」
「呑兵衛神達は何もいわねーし、時空神もそのつもりで強化してくれたんだと思うぞ。時空神はルナに関わる事となれば甘くなる傾向にあるからな」
それは完全に兄のおかげだろうと苦笑した私は、砦の一番高い塔を見上げる。
青銀色の月が神々しく輝き、「好きにしたら良い」と言われているような気がして微笑む。
「それでしたら、ここは……ここを必要とする方々に使っていただきたいです。魔物の多い場所ですもの。この砦が、ここを必要とする人たちの助けになるなら、それが一番良いと思います」
「だと思った。ルナなら、そう言うよな」
「さすがは、ルーなの!」
「オーディナルが創った足湯も良い感じだもんねー! 名物になるかも?」
「お前にとっちゃ、足湯じゃなくて温泉だな」
「真白ちゃんは全身つかれるからお得だよねー! あ、クリスタルスライムたちもお得かー! ……あ! そうだ、ねーねー、この子に名前つけないの?」
「あ……すっかり忘れてた」
私の側でプルプル揺れていたクリスタルスライムは、主であるリュート様を見上げて、一際大きく揺れる。
「名前、もらえる? 嬉しい!」
「あー、そうだった! 後回しになってゴメンな」
「いい。主、大変。理解」
片言でも必死に自分の考えを伝えるクリスタルスライムの頭を撫でていたリュート様は、何がいいかと真剣に悩み出したようだ。
これがベオルフ様であれば、とんでもない名前がついてしまうのだろうが、彼は間違っても変な名前をつけないので安心出来る。
おそらく、ベオルフ様であったらクリスタルスライムからとって「クー」とか「クリス」など言い出しそうだ。
「あ、そうだー! オーディナルがね、神魔の種族名も考えておいてーって! クリスタルスライムは魔物の名前だから、別名が必要なんだってー」
「まあ……言っている事は判る。必要なのも判る。でも、完全に丸投げしてんだろ!」
「リュートのセンスに任せるーって言ってたよー」
おもむろに頬を引きつらせたリュート様が何かを言いかけた瞬間、察したらしいテオ兄様とロン兄様の手が、見事に彼の口を塞いだ。
やはり、弟の事をよく知っている兄たちである。
暫くモガモガと不平不満を口にしていたようだけれども、兄たちの手に塞がれていても文句を一通り言ったら落ち着いたのか、今度は「うーん」と唸り出す。
本格的に、種族名と自分の従魔の名前を考え始めたようだ。
「……この子達、かすかに色が違って……並ぶと虹みたいですね」
リュート様の子は透明度が高いので色がないように見えるが、ここまで透明なのは反対に珍しいのでは無いだろうか。
ただ、この子には核に小さな模様のような物が入っている。
「雪の結晶に似た模様ですね。皆さんも名前をつけたのですか?」
「はい、みんな色にちなんだ名前を付けました。ルナ様が言われたように、コイツらの核がほんのりと色づいていたので……」
ダイナスさんの言葉に、彼の横にいたクリスタルスライムが控えめに跳ねた。
ダイナスさんの子は青っぽいし、ジーニアスさんの子は黄色っぽいし、モンドさんの子は赤っぽい。
リュート様のところにいる子は、無色透明だけれども核に花びらのような模様が刻まれている。
「んー……種族名はアルコ・イリスだな。どこかの国の言葉で『虹』の意味を持っていたはずだ」
「スライム……つかない?」
「付けた方が良いか?」
「無い。嬉しい!」
「ん。じゃあ、お前達はこれからアルコ・イリス族だ。そして、お前の名前は六花な」
「私の国で、雪の意味を持つ言葉ですね。雪の結晶が六角形の花のような形をしているところから付けられた名称です」
「そ、そう、それっ!」
日本語にちなんだ名前だ。
さすがにこの世界の……というには無理があっては困ると、前もって『私の国』ということにしておいた。
この事実を否定する人はいないし、万が一にベオルフ様の耳に入って誰かから質問されても、彼ならうまく誤魔化してくれるはずだ。
私たちの様子から色々と察したらしいラングレイ一家とチェリシュが、驚いたように私を見てから優しく微笑んでくれる。ただ、それだけで嬉しい。
二人だけの秘密では無いのだ。
置いてけぼりだった真白も、ようやく察したようで、「いいなー、いいなー! その名前いいなー!」と羨ましそうに六花の回りをウロチョロしていた。
「りっか……六花……うれしい。六花!」
「真白ちゃん……リュート、真白ちゃんにも名前ー!」
「いや、お前はあるだろ」
いつも通りのやり取りをしているリュート様と真白の目の前で、嬉しそうにプルプル震えている六花。
その様子を見ながら、そういえば……と、私もクラーケンへ視線を移す。
「貴女も名前が必要ですか?」
私の問いかけにクラーケンは驚いたのか、ぴょんっと跳ねる。
考えてもみなかったのだろう。
「名前があるのなら教えて貰えると嬉しいのですが……」
必死に体を左右に振る様子から、名前は無いのだと知った。
「うーん……海……クラーケン……くらげ……」
「る、ルナ? なんか……思考がヤバイ方へ向かっている気がするがっ!?」
きくらげのサラダは美味しい――というところまで行っていた私の思考は、リュート様の言葉で軌道修正される。
あ、あぶないあぶない。
変な名前をつけるところであったと反省する。
これでは、ベオルフ様の事を言っていられない。
「えっと……んーと……くらげ……みずくらげ……」
「ルナ……クラーケンはくらげじゃない。そこから離れて差し上げろ」
「はっ! そうでした!」
これは失敗だと考え直したのは良いが、今度は何にちなんだ名前が良いのか思い悩んでしまう。
「あれ? ルナって……もしかして、ベオルフのこと言えない?」
「真白。うるさいですよ」
「えー? だってー……ぴょおおぉっ?!」
いきなり奇声をあげた真白に驚いて視線を戻すと、そこにはキャットシー族の子供と戯れていたはずのグレンタールがいた。
真白をくわえて、ひょいっと勢いよく投げたかと思ったら、真白は見事にグレンタールの頭上へ着地する。
一連のグレンタールの動きは、まるで「そこで暫く大人しくしておいてね」とでも言っているようだ。
これだったら暫く邪魔されること無くジックリと考えられると気を取り直し、私の側で浮いているクラーケンを見る。
元々は海の覇者だが、今は小さなタコ……いや、ぬいぐるみのように可愛らしくデフォルメされたタコにしか見えない。
タコ……だけれど、イカの名前っぽいものをつけるのはアリだろうか。
わんこにタマと名付けるような感覚なので、そこまでおかしくは無いだろうと考え、私は一つの答えを導き出す。
「ホタルイ……」
「なるほど! 蛍な!」
あ、あれ?
なんだか私……急いでリュート様に口を塞がれた気がしますが?
「蛍って、綺麗な水に住まう昆虫だけど、すげー綺麗なんだ。俺たちの国でいうところの、光の精霊みたいな感じだな」
「へぇ……それは綺麗っすね!」
「水繋がりで連想されたのですね。さすがはルナ様」
「……そういうことにしておこう」
素直に称賛してくれるモンドさんとジーニアスさんの手前、まさか「ホタルイカ」と言いかけたなんて言えないし、リュート様とダイナスさんの圧が強すぎる。
あれ? これは……名付けを失敗したパターンですか?
何回かに一回は、こういう感じの視線をノエルから向けられていた記憶がある。
もしかしたら、ベオルフ様ほど高確率では無くても……やらかして……?
「ほら、コイツもふわふわ浮かんで、ほんのり発光していて綺麗だしな」
「なるほど、確かにそうですね」
リュート様とダイナスさんが話をまとめてくれようとしているので、それに乗っかる方が良いと理解した私も、無言でコクコク頷く。
その反応を見た二人は、コッソリと深い溜め息をついて手を離してくれた。
「す……すみません……」
「いや、ルナの思考が変な方向へいったときから、ヤバイってわかってた……ルナは時々、変なところで天然っぷりを発揮するからな」
「同感です」
もしかして、リュート様とダイナスさんって……凄いのではっ!?
二人の行動に感心していた私に、クラーケンは「本当にソレでいいの?」と尋ねるように覗き込んでくる。
察しが良い子なのだろう。
他に名前があったのではないかと考えての行動のようだ。
こんな可愛らしい子には、『蛍』という名が相応しい。
「これからも、よろしくお願いしますね。蛍」
喜びの波動とでもいうのだろうか。そういう物が大量に流れ込んでくる。
それから、いつの間にかグレンタールの背中に乗って遊んでいるチェリシュと、頭上でふんぞり返っている真白に名前を報告しに行ったようだ。
ふわふわ浮いて、淡く輝き、チェリシュと真白から祝福の言葉を貰っていた。
その様子を見て、名付けの理由はリュート様が言っていた物に徹底しようと固く誓う。
どうやら私も、名付けに関してはヤバイ時があるらしい。
そのことに、この時初めて気づき――今後の名付け関連はリュート様に一度お伺いを立てようと涙するのであった。
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