悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第十四章 大地母神マーテル

14-16 利益よりも安全第一

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 あわわわという声が聞こえ、もう何度目か判らない『野菜にまかれ隊』の隊長である真白を救出していた私は、チラリとオーディナル様を見る。
 真白が体を張って、せっせと巻いてくれる肉や野菜を頬張り、とても幸せそうに笑っていた。
 しかし、時々何か考えている様子も窺えた。
 おそらく、私にどうやって話すのがベストなのか考え、頭の中でシミュレーションしているのだろう。
 そんなオーディナル様にツッコミを入れること無く、私は各テーブルの様子を眺める。
 一番人気は、赤身と脂身のバランスが良い肉類だ。
 次いで、蛍が捕ってきてくれた新鮮な魚介類。
 その次に、牛タンやシロコロといった具合だ。
 やはり、日本でも好き嫌いが大きく分かれるレバーは残りがちである。

「レバーが残りそうですね」
「あー……テオ兄もダメっぽいし、独特のニオイが気になるんだろうな」
「そうですね。じゃあ……残ったレバーは、レバーパテにしましょうか。パンに付けても良いですし」
「それは酒が欲しくなるヤツだな」

 リュート様は上機嫌で私の話に食いつく。
 そんな彼は、よほど牛タンが気に入ったのか追加で焼いて食べている。
 大量に食べるため、味に飽きるのかも知れないと心配していたが、蛍の捕ってきてくれた魚介類などがいい仕事をしてくれているようだ。
 
 牛タン、シロコロ、牛タン、魚介類、牛タン……と、牛タンを挟んで、違う物を食べている感じだ。
 薄切りと厚切りを焼き、パクパク食べている姿は見ていて清々しい。
 勿論、野菜も沢山食べている。
 焼いて甘くなったキャベツを一玉食べたと思いきや、大玉の玉ねぎも平らげていく。
 合間に真白が興味を持ったタマネギを奪い取っていた。
 輪切りにしたタマネギの一番外の輪っかを嘴でくわえ、ヨタヨタしている真白の体。
 その体がリングオニオンの輪にすっぽりとはまってしまうほどの大きさがある、とても立派なタマネギだ。
 食べ応えも十分だろう。
 こうして見るとリュート様の食べる量は凄まじいのだな……と、改めて感じてしまった。
 
「毎回、食事量に驚かされますが……この量を平然と作る召喚獣様も凄いですね……」

 ブーノさんが呆れた表情でリュート様と私を交互に見る。
 私はその言葉を聞いて、とんでもないと首を横へ振った。
 
「リュート様が作ってくださった調理道具のおかげで、そこまで苦労はしておりません」
「最近、魔石オーブンだけではなく、他の調理器具も売れ行きが順調だとか。それよりも注文が殺到しているのは、新型の洗浄石だと聞きました。入手困難で偽物も出回っているという話でしたが……」

 どこの世界でも、そういう輩がいるのか……と、私は溜め息をついてしまう。
 似せた商品の取り締まりは大変だ。
 遠征中のリュート様に、対策をさせるのは難しいだろうと思っていたら、彼はケロッとした顔をして事もなげに語り出す。
 
「ん? ああ……キュステから連絡が入っていたけど、パッケージに俺たちの商会のロゴを入れた。あとは、親父にも許可を貰ってラングレイ家の家紋も入れて対処させてもらった」
「家紋を……ですかっ!? 偽装すれば上位称号持ちの家に喧嘩を売ることになるわけですし、ラングレイ家が出れば王家も動く……と?」
「そういうこと」
「しかし、その許可を取るのに莫大な費用がかかったはず……。自ずと利益率は下がりますよね?」
「馬鹿言え。利益よりも安全第一だ。まがい物で万が一が起きてみろ、正体不明の業者ではなく俺たちにヘイトが向く。それなら、マージンを払ってでも安全を買うよ」

 リュート様はまがい物の危険性を熟知している。
 それは、私たちが日本に居た記憶がそうさせるのだろうか。
 いや、長年社会人としての経験が活かされているのだ。
 部下がいたという立場から考えて、常日頃からリスクヘッジを心がけていたに違いない。
 リュート様らしい判断である。

「なるほど……では、足をすくわれる心配は無いのですね」
「まーな。術式関係の代物はコピーできねーのか紛い物は出てねーけど、今回のコレは想定済みだ。始めから、こうなった場合の対策は練っていたから問題ねーよ」
「それだけ頭を使っていれば、食べる量が増えるのも頷けますね……。普通ではありませんよ。リスク管理も……その、食欲も……」
「考える事が多いと腹が空くのは当然だろ? まあ、今はコーヒーという強い味方がいるから、効率が上がったけどさ」
「コーヒー……ですか?」
「食後に飲むから楽しみにしてろ。あと、心配しているだろう在庫も何とかなるらしい。提携を結んでいる商会が頑張ってくれたんだ」

 リスク管理だけではなく、在庫の心配もしていたのかと呆れていたブーノさんは、少しだけ真剣な目をしてリュート様を見つめた。
 
「――普通、自分の商会で独占しませんか?」
「そんなことしたら、俺たちの商会がパンクしちまう。今でも手一杯なんだよ。委託先を探すのに必死なんだっての。それに、まだまだ仕事が増えるから人員を増やさないといけねーし、新商品開発も部品を発注したくてギムレット経由で職人を探しているところだ」
「規模を大きくするという考えはないのですか?」
「技術を独占しても良いことはねーよ。ルナじゃねーけどさ……やっぱり、みんなに良い物を知ってもらいたい。俺たちが作った物に刺激を受けて、新たなる何かを創り出して貰いたいんだ」
「だから……全てレシピ化しているのですね」
「秘匿して金を稼ぐより、公にして、他の技術を躍進させる事の方が大事だ。開発する意欲や、夢と希望を忘れた職人に未来はねーよ。刺激し合って新たなものを創り出す世界はきっと、豊かな生活を約束してくれる」

 リュート様の真っ直ぐな言葉にブーノさんは大きく目を見開いた。
 そして、見ていてわかるほど破顔し、シロコロを頬張る。

「これ、美味しいですね」
「だろ? 脂身が甘いんだよなぁ。あと、蛍が捕ってきてくれた魚が旨いのなんのって! 貝も良い味だしさ!」
 
 モグモグと肉や魚介類、沢山の野菜を食べる合間にリュート様とブーノさんの話――。
 その話を聞いていただろう、お父様や黒の騎士団。メロウヘザー様たちは何を思っただろうか。
 チラリと見てみると、蛍が嬉しそうにお父様に戯れ付き、お父様はそれをあやしながらも、どこか誇らしげだ。
 息子の成長が嬉しいのだろうと察しはつく。
 メロウヘザー様はと言うと、どこかホッとしているような……それでいて複雑そうな様子を見せていた。
 それが少し気がかりであったが、これ以上に無いほどニコニコしているロン兄様とテオ兄様を見ていたら、そんな考えも吹き飛んだ。
 やはり、可愛い弟の考えが嬉しいようである。
 黎明ラスヴェート騎士団の面々は、いつもと変わらない。
 彼らほどリュート様を理解している人たちはいないのかもしれないな……と考えながらも、少しだけ不安になる。
 
 いつ、そんなに仕事をしているのだろうか――。

 おそらく、彼らも手助けをしてくれていたとは思うが、遠征中に行える仕事量では無い。
 この遠征で責任者としての仕事も請け負っていたはずである。
 それと同時進行していたとなれば、リュート様の頭の中は人知を超える性能を秘めているとしか思えなかった。

「リュート様って、サラッと化け物っすよね……」
「失礼な」
「リュート様。いくら俺たちの手助けがあったとしても、ソレは同時進行で出来る仕事じゃないです」
「あん? ダイナス、お前まで言うか」
「だいたい、他にも同時進行させているお仕事……まだありますよね?」
「お、察しが良いなジーニアス。前にもチラッと話したことがあるけど、サンプルを作ろうと動いているんだ。蝋細工を得意としている職人の息子が遠征組にいたからさ、工程をリサーチして全体的な流れを作った資料をキュステに持たせて交渉を任せた」
「サンプル?」

 全員が首を傾げる中、彼は私に向かって意味深に微笑む。
 サンプル……つまり――

「もしかして、食品サンプルですか? 着色して、どういう料理があるか店頭に並べる……と?」
「その通り! 一応、試作品は出来たらしい。ソレを見たカフェたちが言うには、ルナの料理を見せて食べて貰った方が、もっと良い物が出来るってさ」
「まあ、見本となる料理って大事だよネ」

 これには時空神様も納得だと頷くけれども、さほど変わらないような気がするのは私だけなのだろうか。

「自分たちの作るサンプルが元ネタになる料理を知らないってのはマズイからさ。とりあえず、帰ったら食事に招待しようと思う。ルナの体調を考えてスケジュールを組みたいんだけど……いいかな?」
「も、勿論です! 帰ってすぐでも……」
「それは却下。帰ってすぐは休みたい。それに、相手の家族も今回心配だっただろうからさ。家族の時間を邪魔しないほうが良いかな……って思ってな」

 さすがはリュート様!
 そういう気遣いの出来るリュート様の優しさが、とても大好きです!

 私が感激していると、モンドさんたち問題児トリオが三人揃って唸り出す。
 何か問題でもあるのだろうか……。

「ソレなんっすけど……多分、遠征組は全員解散しても、すぐに会うことになると思うっすよ?」
「俺も同意見だ」
「そうですよね……」
「へ? なんで?」
「ソレをリュート様が言うんですか? 食事で一番苦労してきたリュート様が……」
「………………あ、そっか。そういうことか……!」

 クククッとリュート様が悪い笑みを浮かべ、それに反応した真白も一緒になって悪い笑みを浮かべて笑っている。
 チェリシュはそんなリュート様と真白を見て真似をしようとしていたが、オーディナル様に止められ、どこからともなく出してきた大きなベリリに目を輝かせていた。

「全く……真白のヤンチャに拍車をかけているのはお前ではないか……」
「え?」
「一緒になって悪い顔をして笑いおって……」

 呆れたオーディナル様の言葉に、リュート様と真白は顔を見合わせて首を傾げているけれども、最近はシンクロ率が上がってきたように思える。
 懐いているのは良い事だが、紫黒から怒られない程度にしておいて欲しい。
 むしろ、ベオルフ様に叱られるのでは無いだろうか。

「ところでオーディナル様。ベオルフ様のお話ですが……」
「あー……うむ。ソレだな……いや、もう少し後でも……」
「それほど言いづらいことなのですか?」
「いや、やっていることは……僕の愛し子にしてきた修行内容と同じだ。お前達は互いに弱い部分を修行してカバーしていかなくてはならないからな」
「ん? ベオルフもルナと一緒で魔力系の修行をしているのか」
「うむ。あちらに魔法の知識は存在しない。だからこそ、使い方などは自ら覚えて貰わなくてはならんのだ」

 魔法が無い世界――しかし、だからといって使えないわけではない。
 現に、ベオルフ様が持つ特殊な力は魔力を介して発現している。
 特殊能力であるが、魔法の一種だと考えている力だ。
 その彼が、魔力の流れを知るために修行するのは理解出来た。

 だが――。

「だからといって、倒れるまでやるのは行きすぎです」
「それは……何と言えば良いのか……」

 しどろもどろになっているオーディナル様に代わり、時空神様が口を開く。

「仕方ないヨ。ベオルフがルナちゃんの為に頑張っちゃった結果なんだカラ……」
「私の為?」
「そう。ルナちゃんの為。ルナちゃんを喜ばせたい一心で、ちょっと……いや、かなり無茶しちゃったんダヨ」

 時空神様はそういってオーディナル様を促すように頷いて見せた。
 一瞬だけ迷ったようだったけれども、オーディナル様は黄金に輝く果実を取り出し、私の目の前へ置く。
 それは、パンの実ロナ・ポウンに似た果実であったが、色は全く違っていた。

「えっと……コレは? ベオルフ様の魔力が詰まっている果実……みたいな感じがしますが……?」
「ちょっと待ってネ。えーと……お皿、大きなお皿……コレにしようカ」

 時空神様が大皿を取り出し、その上にジャガ粉をまんべんなく敷いていく。
 何が始まるのかと全員の視線が集まるのだが、その中心に居るはずの私もイマイチ判っていない。

「その実の中身を皿の上に出してミテ」

 言われるがままに果実へ手をかけると、面白いほど綺麗に真っ二つに割れた。
 そして、中からポテッと何かが零れ落ちる。

「白いりっちゃんなの?」
「確かに、六花りっかに似てるかもー?」

 私は、そんなチェリシュと真白の言葉に反応することが出来なかった。
 いつもなら何かしらのアクションを起こすのだが、私は目の前のぽってりとした食材を目にして、信じられない気持ちでいっぱいになっていたのだ。

「え……うそ……ですよね。だって……コレって……」
「マジかよ……そりゃ、ベオルフも必死になるわけだ……」

 リュート様も呆然として呟く。
 私が喜ぶから……きっと、喜ぶと判っていたから、倒れるまで頑張ってしまったのだと言われたら――何も言えないではないか。
 一気に鼻の奥がツンッとして涙が滲む。
 ユラユラする視界の中でも、ソレを必死に凝視する私は唇を噛みしめて泣くのを必死に耐えた。

「ズルイのです……コレでは……怒れないではありませんか……」

 涙声の私に気づいたチェリシュと真白が驚いて私の近くへ寄ってくる。
 二人に心配させないように微笑むが、その拍子に涙がこぼれ落ちた。
 それを皮切りに、次から次へと涙がこぼれていく。

「ルナ……」

 リュート様が私を宥めるように抱きしめてポンポンと背中を叩いてくれるのだが、それが余計に涙を誘う。

「喜ぶに……決まっているのです……」
「そうだな」
「小豆の次はコレだなんて……狙っているとしか思えないのです」
「だよな」

 これを見せたくて……届けたくてムリをしたベオルフ様の気持ち。
 この場で言い出しづらそうにしていたオーディナル様の気遣い。
 全て判った上で、教えてくれた時空神様。
 みんなの優しさが嬉しく――懐かしさに胸がいっぱいになって続く言葉が見つからない。

「へぇ……まだ、あったけーのな」
「魔力をため込んだ状態だったからな」

 リュート様の言葉に、オーディナル様が返答する。
 その声は、とても穏やかで優しいものだ。

「コレって……餅だよな?」
「うむ。パンの実ロナ・ポウンの亜種で餅の実ポワ・ポウンという。僕の愛し子がいた世界にあるジャンポーネという国では縁起物でな。新年に祈りを込めた餅の実ポワ・ポウンを食べる習慣があるのだ」
「なんだか……似たような風習を持つところがあるんだな」

 リュート様はどことは言っていないが、すぐに日本だと判る。
 オーディナル様も否定はしなかったようだ。
 いつまでも泣いていられないと涙を拭い、皿の上にポテリと乗っかっている餅へ手を伸ばす。
 もっちりとした懐かしい感触……。

「モチモチですね」
「そうだな」
「あんころ餅か、ぜんざいが良いでしょうか」
「確かに、それがいいかも?」
「うー……もう! やっぱり、怒ります! ベオルフ様に怒りのお手紙をしたためます! 感謝もありますが……でも、心配したんですもの!」

 うううぅっ! と唸っていたら、リュート様が吹き出すように笑い出した。
 それに釣られるように、オーディナル様や時空神様も笑い出す。

 私……なにか変なこと言いました?

「それでこそルナだよな。思う存分、書き綴れば良い。それくらい、ベオルフも覚悟の上だろうさ」
「それはどうカナ」
「ショックを受けるかもしれんが……仕方あるまい」
 
 どこか遠くを見ながら答えるオーディナル様と同意見なのか、黎明ラスヴェート騎士団の面々も頷く。

「スゲー落ち込むと思う」
「ショック過ぎて、意識どころか魂を飛ばすんじゃねーかな……」
「かなーり溺愛している感じだしなぁ」

 とりあえず、落ち込むかもしれないけれども、二度と同じような無茶をして欲しくないから、少しはダメージを受けてもらわなければ困るのだ。
 もう、もうっ! と怒りながらリュート様からいただいた便せんに思いの丈を書き綴る。
 これを貰った彼は、何を思うのだろうか。

 今度会ったら、絶対に怒って……抱きついて感謝を述べよう。
 その時には、笑ってくれたら良いな――などと考えながら、私はペンを走らせるのであった。

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