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どっちも本気だから、なおさらヤバイ
しおりを挟む「ちーちゃん、それだったらギルド作っちゃえば良くない?」
智哉……いや、拳星の言葉で、先日そんな話をしていたことを思い出す。
ギルドとは、パーティーのように一時的に組むのではなく、長期的に共に活動する集団……というイメージがわかりやすいだろうか。
気の合う仲間を集めたり、1つの目的のために集まったりと、様々な理由から一人のプレイヤーが代表となり設立する団体のことである。
この、ロード・オブ・ファンタジアにおいて、俺たちプレイヤーがギルドに所属すれば得られる恩恵は、意外と大きい。
まず、ギルドメンバーは所属しているギルドが所有するギルドハウスを利用できる。
かなり高額なので、入手するのに時間がかかるだろう。
しかし、それだけの金額を出してでも購入する理由があった。
1つは、プレイヤーに常時効果がかかるステータスアップ関係のバフだ。
ギルドハウスを購入した際、中央に設置されるコアクリスタルというものがあるのだが、これのレベルによってバフの効果は変化する。
コアクリスタルを成長させるには、町や村にいるNPCから受けた依頼を達成することにより得られる幸福ポイントというものを使い、植物に水をまくようにコアクリスタルを育てていく。
そうして、Lvアップさせたコアクリスタルは、段階に応じたステータス強化効果を習得していくシステムである。
移動速度や攻撃速度は勿論のこと、体力アップや防御力アップ。
それだけではない。
生産系の人たちが喜ぶ効果もあり、生産効率UPや必要素材軽減など、生産型専門のギルドがそれを目当てに設立されるくらいである。
もう1つは、領地である。
ギルドハウスとは違い、各フィールドに1つ存在する城や砦を得たギルドは、その場所を領地として税収を得ることが出来るのだ。
これがまた馬鹿にならない。
一定の金額が定期的に入ってくるのだから、美味しいのだが……いまはまだ実装されていない。
集団戦闘コンテンツとなる攻城戦や砦戦を楽しみにしているプレイヤーも多く、それを目的として作られているギルドも存在する。
そして、最後の1つは、ギルド専用のダンジョンだ。
フィールドにあるダンジョンとは少し違い、専用のドロップアイテムが存在する。
しかも、それが高性能となれば、それだけでギルドに入りたいという人もいるだろう。
そういう事情もあり、それぞれの目的にあったギルドが設立され、数多くのギルドが存在している。
ギルドマスターが登録できる、ギルド掲示板というものが各村や街の中央広場に設置されているから、そこから確認もできるのだが、個性豊かなギルド名や紹介文を見ているだけでも飽きないだろう。
戦争メインのギルドや、ダンジョンメインのギルド、生産メインのギルドなどが主流であり、少数派だがリアル知り合いのみで作ったギルドや、種族縛りのギルドが存在したりもする。
俺としては、ガッツリ何かをやると言うより、仲間内で集まって作る気楽なギルドがいいだろうと考えているのだが……その辺りはどうなんだろうな。
「ログイン確認や連絡を取るのに、フレ登録から辿るの面倒だからギルドがいいと思うんだけど、ちーちゃんとリュートはどう?」
「別にいいと思う」
「俺も」
「よし!だったら、リュートがギルマスで作ってね」
「……は?」
言い出しっぺの法則ってものがあるだろ?
お前がやれ、なんで俺がやらなきゃなんねーんだよ!
そういう意思を込め容赦なく睨みつけるのだが、俺に睨まれ慣れている拳星は、ケロリとした顔をして「だってさ」と言葉を紡ぐ。
「俺がギルマスだと、絶対に『頼りない』とか『ちゃらんぽらん』とか言われるからなっ!」
おい、そこは胸を張っていいところなのか?
どうだ、恐れ入ったか!というように自信満々に、ドヤ顔して言うことじゃないよな。
「その点、リュートは面倒見も良いし、新人には大人気間違いなし!特に女の子に……」
女の子?
そこで言葉を切った拳星は、顔を引きつらせてチルルの後ろへ隠れてしまった。
ん?何を怯えて……まさか、綾音か?
チラリと見ると、射殺さんばかりの視線を向けている綾音がいて……何がお前をそうさせた。
女の子が、そんな顔をするもんじゃありません。
今すぐやめなさい。
視線だけでそう注意すると、唇を尖らせて「だってー!」と言っているけど、駄目だぞ。
さっきの顔は、可愛くないし凶悪すぎる。
隣の陽輝くん……ハルヴァートが泣くからやめなさい。
愛想つかされたらどうするんだ?
嫁の貰い手がなくなるだろうが。
「いろいろ失言も多いし、リュートくんのほうが良いんじゃないかな」
「チルルは……」
「私はこれでも忙しい身の上だから」
まあ、拳星の面倒を見るというだけで大変そうではあるし、主婦業に休みはないのだから無理は言えないだろう。
「じゃあ、私がやる!」
はいはい!と手を挙げる我が妹に視線を向け、こういうときに頑張ろうとする姿勢はとても良いのだが、嫌な予感しかしない。
そして、何よりもアーヤにギルド設立は難しいだろう。
「ギルドを設立するには、キャラクターLv10と10M必要だが?」
「お金も取るのっ!?……そっかー、残念だけど、ここはお兄ちゃんがやればいいんじゃないかな!」
変わり身が早いな!
まあ、今さっき作ったばかりのキャラが、それだけの金額を持っていたら、なんのチートだと問いただしたくなる。
ちなみに、10Mとはゲーム用語で10,000,000ゴールドのことだ。
さっきアーヤが相手にしていたスライムを一体倒して得られる金額が50ゴールドだと考えれば、初心者には途方も無い金額である。
「お兄ちゃん、よくそんな金額持ってるね」
「リュートは取引所で安く出た品々を買い上げて高値で売りつけるという、あくどいことして儲けてんの」
「人聞きが悪いぞ。最低価格で出た品を購入して、適正価格で売っているだけだ」
「なるほど!それだったら、手数料を取られてもお金稼ぎができますね」
ハルヴァートがポンッと手を打って「MMOのお金稼ぎあるあるですね」と笑うのだけど、なんか……最初の時より対応が丁寧じゃないか?
兄妹揃って丁寧語とか、育ちが良いんだな。
口調が荒い俺達兄妹が見習うべきところではある。
何故か横で「お兄ちゃんめ……」というルナの声が聞こえたので、何かあったのかと問いかける視線を向けると、彼女に「なんでも無いです」と笑ってごまかされてしまった。
まあ、兄妹で何らかの攻防戦があったのだろう。
俺たちも良くやるしな……
結局のところ俺がギルドマスターとなり、全員の申請を受理するということで決定したのだが、新たな問題が浮上した。
そう、今後の活動を左右すると言っても過言ではない、ギルド名である。
アーヤと拳星が思いついた名前を同時に提案してくれたのだが……『天使を愛でる会』と『漆黒の翼に抱かれて眠れ』……おい、お前ら本気かっ!?
ヤバイ、両者ともに名前がヤバイだろうっ!?
てか、拳星!
お前中二病は卒業したんじゃ……
卒業しても、ネーミングセンスまで改善されなかったということか?
どっちも本気だから、なおさらヤバイ。
チルルを味方につけて優勢である『天使を愛でる会』である。
しかし、この名前に決定すれば当事者になるであろうルナとハルヴァートが心配で、視線だけ動かして様子を確認してみたが……兄妹揃って顔を引きつらせ、途方に暮れた様子であった。
うん、このままでは色んな意味でヤバイよな。
俺はこの窮地を救うべく、こっそりとバレないようにルナとハルヴァートを招集し、ギルド名を何にしようかと相談を持ちかけたのである。
このまま放っておいたら、とんでもない名前になってしまうと察した二人は、すぐに思考を巡らせて色々と意見を出し合い始めた。
そして、折角『君のためにバラの花束を』で名前を揃えたのだがから、それにちなんだギルド名にしようということになり、いくつか上がった候補の中から最終的に3人でこれにしようと決定し、あちらの3人に気づかれないうちに、ギルド掲示板へと歩み寄り、ギルド名と簡単な紹介文を入力して設立に必要な費用を支払い、手続きを全て滞りなく済ませてしまう。
これで、あの3人は文句も言えまい。
念のため、ルナたちに掲示板からギルド名を検索してもらって、問題なく登録されていることを確認した後、これで一安心だと3人で安堵の吐息をつく。
すまんな、3人共……さすがに、その名前はなかったわ。
一応無難なギルド名だと思うから、許せ。
そんな騒動から、俺たちのギルド『アルベニーリ騎士団』は発足したのであった───
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