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言っただろうが、聞いてなかったな?
しおりを挟む「お前が1人かってな行動をすれば、PT全員が危なくなる。特に、3人の場合は盾役がいないんだから無茶はよくないだろう?お前がダメージを喰らえば、ルナが回復してしまう。そうすれば、一番危うくなるのはルナだぞ。親友をそんな危険な目に合わせたいのか?」
「それは嫌だ!」
「だったら、わかるな?」
「うぅ……わかった。自重するよ。私の天使が傷つくのは見たくないもん」
「アーヤちゃん……」
ごめんねぇぇっと言って抱きついているアーヤをよしよしとあやしているルナを見て、ヤレヤレとため息がこぼれ落ちた。
お前、それだけで理解するなら暴走すんなよ。
まあ……楽しかったんだろうな。
恋人と親友が一緒に遊んでくれるのが嬉しくて、つい……って感じなんだろうが、今後もこの調子では困る。
一応、釘を差しておけば何とかなるだろう。
「でも、AGI極にしてたのに、ダメージを食らうなんて不覚」
うん?
いま、すげー聞き捨てならねー言葉が聞こえたぞ。
「おい」
「なーに?」
「お前……まさか、初期設定でステータスをAGI全振りにしたのか?」
「そーだよ?」
当たり前じゃーんと笑われて、俺だけではなくハルヴァートも目眩を覚えたように「あぁ……」と呟く。
俺、このゲームのことを綾音に聞かれたときに、一番やっちゃいけねーことで説明しなかったか?
全振りの極だけはやめろと言ったはずだがっ!?
「このバカタレ!それだけはやるなって言っただろうが!」
「へ……?そうだっけ?」
ああ……駄目だ、このバカ。
ちゃんと人の説明を聞いていなかったな?
そりゃ、ずっと攻撃していてもルナからタゲを奪えねーわけだ!
この、ロード・オブ・ファンタジアは、かなり癖があるゲームとしても名が知られつつある。
先程ルナである結月ちゃんには説明したのだが、キャラメイク画面の他にもステータス画面というものがあり、最初に貰える10ポイントをステータスへ自由に振ることが出来るのだ。
この初期ポイントが大事で、Lvアップすると加算しておいたポイントしか、ステータスが上がらないから、職業に合わせて何に振るか前もって考えておく必要がある。
STR=近距離物理ダメージ+クリティカルダメージ
CON=防御力+HP
AGI=回避率+攻撃速度
DEX=遠距離物理ダメージ+命中率
INT=魔法攻撃力+魔法成功率
WIS=魔法抵抗率+MP
この6つのステータスに、それぞれポイントを振っていくわけだが、全部にポイント加算すればいいという話ではないし、アーヤのように1つだけに集中しても困ったことになるのだ。
まさか、最初に振ったポイントが後々響いてくるとは考えていなかった者も多く、一応救済措置はあるが、それまでが長い。
このゲームに癖があると言われる理由は、Lvアップによる全ステータスアップの真逆を行く、初期ポイント重視制Lvアップ方式であることに付け加え、ダンジョンやフィールドボスの攻撃に厄介なスキルが存在するからであった。
「俺は言ったよな。このゲームのボスの中には、防御力や回避率関係なくダメージを与えてくるスキルを持つヤツがいるって……」
「うそっ!」
「言っただろうが、聞いてなかったな?」
「あちゃー……ちょ、ちょっと他のことに気を取られていたかも?」
えへへと笑うアーヤをジトリと見やり、この妹は本当に困ったものだと体から力が抜けていくようである。
「お前は弓を使うんだからAGIよりもDEX必須だろうが……あと、CONにも最低1ポイントは振っておけって言っただろうに。ポイントを振ったステータス以外はLvアップしても上昇しないって説明もしておいたはずだが?」
「ど、どうしよう。全部AGI振りしちゃった……てことは、私はAGI以外上がらないの?」
「そうなる。Lv20になったらステータスリセットが一回出来るから、それまでは装備オプションと職業パッシブで上がる数値でDEXをカバーしつつ、体力はアクセで上げるしかねーな。……ったく、手のかかる妹だ」
俺が少し前まで使っていたCONを上げるオプションがついた耳飾りをアーヤに渡すと、シンプル過ぎると文句を言っているが、どこか嬉しそうに身に着けてハルヴァートに見せ感想を求めていた。
「ハルヴァートは、ステータスのポイントをどう振った?」
「えっと、INT5、WIS3、CON2にしました」
「魔法使いに一番多い型だな。魔力枯渇もしないしボスの攻撃でも一撃死しないから無難で良いんじゃないか?スキル構成も、サポートスキル重視なのは読みが良かったな」
「まあ、アーヤちゃんですからね」
あ、やっぱりアーヤのせいでそうなったのか……本当に申し訳ない。
しかし、うちの妹の性格をよくわかっているな。
頼もしい限りだ。
「ルナはー?」
ルナに再びゴロゴロ懐くように戯れ付き始めた妹を慣れたようにあやしながら、彼女は俺とのキャラメイクを思い出すように少し考えてから答える。
「私は、リュートさんに教えてもらいながら作ったから、INT4、WIN4,CON2だったかな」
「へぇ……珍しい。ほとんどがINT6振りだと書いてあったのに……」
「回復魔法はMPを食うから、このステータスのほうが使いやすいだろうと思ってね」
「お兄ちゃんのステータスは?」
「CON6,WIN3、INT1」
「へ?なんで?」
「CONは言わずもがな、防御力とHPだろ?WINを上げるのは、魔法抵抗力上げ目的と、エンチャント用だな。INTは、回復魔法の効果UPと遠距離魔法でターゲットを取るから」
「タゲ取りは遠距離魔法なの?」
「エンチャンターは、射程の長い無属性魔法を1つ持ってるんだよ。大抵の盾職は弓を使うからDEXを上げてるけど、俺の場合は命中率より魔法でタゲ取りするし、自分を強化したり回復してヘイトを維持するからな」
このポイント制と数多く存在する職業のおかげで、メインとサブを何にするかでプレイスタイルがガラリと変わってくるのが、このゲームの面白いところだ。
盾職でいうなら、サブ職に聖職者を入れてくるスタイルがスタンダードだが、物理系遠距離職や魔法攻撃系職を入れてくるタイプだっている。
剣と盾にこだわらなくても、弓をずっとペチペチ打っている盾職がいれば、詠唱がほぼ無い魔法を撃ち続ける盾職だっているのだ。
「合理的ですね。遠距離物理攻撃は、ある程度DEXを上げておかないとLvの高いモンスターには当たらないって言いますし、その分ポイントが削られてしまいますから、リュートさんよりはHPと防御力が低めになりますね」
「そのタイプの盾職は回復魔法を選択しているヤツが多いだろ?CONとDEXは確定だけど、INTかWINのどちらにするんだろうな」
「4つ上げるとなるとポイントが全体的に不足するから厳しいですね。3つに絞れば、INTかWINのどちらか……でしょうか。INTだとMPが切れますし、WINだと回復量が……一番多いタイプは、INT振りでMP回復POTがぶ飲みですか?」
「現状、そのタイプが多いみたいだな」
うーんと悩んでいたハルヴァートは、見事に正解を導き出す。
よくわかってるな……っていうか、本当にゲーム慣れしている感じだ。
ポイントを振るのも、いろいろ吟味した結果なのだろう。
アーヤとは正反対のタイプだが、こういう相手だからこそ助かる。
俺がいなくても、ある程度ストッパーとして活躍してくれそうだ。
「盾職のステ振りが一番難しいって話が出ていたのは、その辺りなんですね」
「ヘイトを何で維持するかだな。このゲームは回復系のヘイトが高いから、入れておいたほうが無難だけど、そうなると他のステータスはどうするかという問題が出てくるわけだ」
「本当に難しいですね……リュートさんの職業が一番安定しそうな気がします。けど、それって知っている盾職を比べてですから、最初から思いつくかと言われたら難しいです」
そういうものか?
俺以外にもこのタイプをやっている人はいたから、そこまで珍しい盾職でもないと思うが……
「お兄ちゃんって、そういうこと考えるの得意だもんね」
「お前は考え無しで突っ走りすぎだ」
「は、反省するってばぁ」
「どうだかな。そう言っていて突っ走るのがお前だからな……」
「大丈夫だって!私の天使たちを危険な目に合わせたくないもん」
「そうかよ。なら、もっと注意することだ」
「はーい」
ったく、返事だけはいいんだからな、こいつは。
呆れた様子で見つめると、アーヤはルナの後ろへひょいっと隠れてしまい、俺とアーヤに挟まれる形になったルナが、オロオロしている姿がなんだか可愛らしいと感じてしまった。
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