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『水くさい』ってやつです
しおりを挟む「やっぱりそう思う?似てるよね、頑張り屋さんなところと、言わなくても行動して誰かを助けちゃうところ」
「はいっ」
ルナとロンバウドが楽しそうに話をしているけれども、それは……どうなんだ?
俺とヴォルフが似ているねぇ……
互いにそう考えたのか、図らずしも顔を見合わせる形となり、自然と苦笑が浮かんだ。
あれ?
いま……コイツの右唇の端がすこーし上がったような?
「あー、でも、流石に全くお咎めなしというのは問題があるというか、今後に関わると思うんですよ」
「自分から罰則を求める相手なんて初めてみた……けどねぇ」
俺の発言に驚いた顔をしたロンバウドは、俺の発言を聞いても罰則を与えることを回避する方法を考えているようだった。
ありがたいんだけど、それでは黒や白の騎士団の今後に関わる。
「そこまで考えてくださって、本当にありがとうございます。しかし、いくらあちらのせいだと言っても、スキルを使用してはいけないエリアで使ったことに変わりはありません。それに、これを見逃せば黒や白の騎士団の威信にも関わるでしょう。バカな連中はどこにでもいますから……」
こういう罰則をおろそかにすると、舐めてかかるやつが出てくる。
アイツは良かったのに、どうして俺はダメなんだとかいう持論を展開して、自分の行いを正当化しようとする輩が必ず現れるだろう。
それは、この世界に住む人々にとって良くないことだ。
「そうだね。君の言う通りだ。じゃあ、そうだね……うーん、何が良いだろう」
再び考え込んでしまったロンバウドに、ヴォルフが抑揚の乏しい声で話しかける。
「ロンバウド様。この件は私が預かってもよろしいでしょうか」
「何か案があるのかな」
「レト湖の周囲に、カウボアが大量発生しているようです。冒険者に依頼を出すつもりでしたが、ネームドと呼ばれるような強力な魔物を初心者でも倒せるこのメンバーならば問題ないかと……」
レト湖といえば、初心者エリアにある少し大きめな湖だ。
周囲に出没する魔物はそれほど強くないが……ルナたちだけで戦うには荷が重い。
俺や拳星たちが初心者支援システムを使って掃討というのが、一番確実で手っ取り早いだろう。
「オイ、ヴォルフ。ルナたちにも罰を受けろっていうのか?」
「いや、どちらかといえば戦闘訓練を兼ねて行けばいいのではないかと考えている。勿論、いい出した私も同行しよう」
「……は?」
え?
この世界の人間を、狩りに連れて行ってもいいのか?
白騎士だし次期団長になる予定なんだから、強いんだろうけど……
「言っておくが、さすがにあの一帯で怪我を負うような実力では白騎士にはなれんぞ」
「そうだね。ヴォルフくんは強いから大丈夫だよ。で、どうする?彼の提案を受け入れるかい?」
ハッキリ言って、この提案は俺たちにとってかなり良いと言える。
しかし、本当にいいのだろうか。
ヴォルフだけではなく、ギルドメンバー全員を巻き込むことになるのだ。
「俺たち夫婦がこの件で付き合うのは当然だけどさ。いいの?初心者の3人も巻き込んじゃってさ……」
「それだけじゃなく、ヴォルフも巻き込んでいいのか迷うところだ」
「私が良いというのだから、そこは考慮しないでもらいたい」
拳星の言葉に返答していると、しれっと自分のことは気にするなと言ってくるヴォルフに感謝したらいいのか呆れたらいいのか判断がつかない。
本当にいいのですか?とルナが確認すると、ルナをジーッと見て「心配だからついていく」とため息混じりに呟いた。
ああ、そういうことか。
ルナたち初心者が自分の提案で危ない目にあうのは、ヴォルフの本意ではない。
しかし、このままだと黒の騎士団の規則に則り、俺が拘束される恐れがある。
それを回避しようとしての策だったのだろう。
「なんかすまねーな」
「気にするな。私が勝手に提案したのだ。それに、先程の件で住民が困っているというのは嘘ではない」
俺だけを拘束するなら問題が大きくならず皆にも迷惑がかからないから、そちらのほうが良いかと考えていたのだが、住民が困っているという言葉は聞き捨てならない。
冒険者に依頼を出すつもりだったといっていたけれども、クエストが発生しても、受注するパーティーがあるかどうかが問題だ。
先程の話であれば、大量発生しているカウボアのメイン素材は料理に用いられる肉である。
多少の革と骨と牙も採れるが、レベル帯が同じくらいのモンスターでもっと素材が入手できるウルフやフォックス系のほうが人気であった。
それに、カウボアは意外と硬い。
大量討伐となれば、それなりの装備が必要である。
初心者でも、大量発生クエストを受けられるほど経験を積んだ者なら、カウボアは避けて通るだろう。
つまり、同じレベル帯のモンスターの中では硬くて厄介な上に、メインドロップが肉なので全てのアイテムを換金したとしても、肉そのものの換金率が低いために、全体的な稼ぎが低すぎるモンスターなんて狩ってられるか!
というのが、冒険者たちの意見なのである。
だがしかし、それは冒険者たちの意見であり、現地の人達にとっては違う意味でカウボアは厄介な存在なのだ。
この魔物は、周辺にある草や花、時には木の皮まで引っ剥がしたり、土を掘り起こして木の根っこに至るまで、手当たりしだいに食べてしまう。
数体なら問題ないレベルではあるが、大量発生となれば話は別だ。
レト湖周辺の恵みが消え失せてしまわないうちに、討伐しなければならない。
冒険者で、カウボアが現地の人々にとって厄介な魔物であると知る者は少ないだろう。
俺だって聖都の東にある雑貨屋のおじさんに教えてもらって初めて知ったのだ。
それからは、カウボアの大量発生クエストを見かけたら受けようと決めていたが……今ココで来るのかよ。
それに問題はそれだけではないのだ。
これが『白騎士案件』だということにも大きな問題があったのである。
冒険者の間では有名な話なのだが、適正レベルで受けるにしては難易度が高い上に報酬が少ないため、好んで依頼を受ける冒険者が少なかった。
つまり……ここで俺たちがこの依頼を受けなければ、かなりマズイことになりかねないということだよな。
「リュート様、私達はまだまだ未熟者で足手まといかもしれませんが、一緒にやりませんか?」
「ルナ……」
「いろいろ考えてないでさ、これは単なる依頼だって思えばいいじゃん。お兄ちゃんは深く考えすぎなんだってー」
「お前は考えなさすぎなんだよ」
「でも、今のリュート様の考えを一言でいえば『水くさい』ってやつです。丁度よい経験値稼ぎと考えたら楽ですよ」
アーヤのおでこを指で突いていたら、ハルくんにやんわりとそう言われてしまい、言葉に詰まってしまった。
水くさい……か。
「ほら、いずれ俺たち全員で連携とらないとだろ?ダンジョン攻略するためにも、実力は知っておいたほうが良いしさ」
「拳くんが、珍しくまともなこと言ってる……」
「ひどくないっ!?」
みんなの笑い声を聞きながら、この仲間たちに救われているような気がした。
本当に気のいいやつばかりが集まったものだ。
ヴォルフがどうする?と問いかけるように俺を見る。
そうだな、一緒に行くか。
そういう意味合いをこめて見つめ返すと、奴はどことなく嬉しそうに目を細めて依頼書を俺の前に出す。
「みんな、この依頼を受けようと思うから、協力してくれると嬉しい」
「初心者ですが、できる限り頑張りますっ!」
「任せてー!アルベニーリ騎士団の初陣よね、腕が鳴るわーっ」
「そうだね、みんなで頑張りましょう」
「拳くん、ポーション忘れちゃ駄目よ?あと初心者支援システムにチェック入れてパーティーに入るのよ?」
「えっと、ポーションと……初心者支援システムの項目どこだっけ……」
一気に騒がしくなった俺たち6人に、ロンバウドが笑いながら箱を指差した。
「じゃあ、依頼から帰ってきたら、コレを開けようね」
「うわっ!楽しみ倍増!」
アーヤがテンション上げてそう言うと、席を離れてハルくんに戯れるように背後から抱きついているが……もう、依頼達成した気分かよ。
お前のさっきの暴走を、俺は忘れてねーからな。
「楽しみですね」
俺の袖をツンツンつついて、えへへと笑い見上げてくるルナの笑顔にやられながら、とりあえずはギルド全員で初クエスト挑戦ってのも良いかと、ルナに柔らかく微笑み返した。
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