4 / 31
3.
あてもなく森の中を進んでいると、水の音を微かに聞き、川を見つけた。
水のあるところには基本、人間がいる。その考えで川に沿って歩みを進めていく。
そうして休み休み半日近く歩いていると、遠目に家々が立ち並ぶ――少し大きな街が見えて来た。
やっと人の住んでいそうな場所に辿り着き、テンションが一気に上がって一気に駆け出し、数分のうちに街まで到着した。
正直なところ、ここは人間がいない世界なのではないか?などと少し弱気になっていたこともある。なにせ森の中ということもあったのか、本当に人間の気配一つ感じなかったのだ。
しかしそんな不安などなかったかのように街に近づく度に濃くなる自分以外の人間の気配に、街に着く頃には顔に笑みすら浮かんでいた。なにせ私はまだ20歳で年若い。当然、心細さもあった。
街に着いて最初に思ったことは、『天国じゃなかった』である。
人を危険に晒す存在である魔物がいる時点で気づけ!と自分でも思いたいところではあるが、予想外の事態に遭い、冷静ではなかったのだ。
丁度、街に住んでいる人間向けの案内――『最新!これで完璧、モルドガイド』という謳い文句が書かれている――情報冊子が門近くの店先に置かれていた。門番が楽しそうに、「旅人さん、運がいい!それ、一昨日更新されたばかりの最新号です!モルド観光を楽しんで!」とニカッと微笑んだ。
それに軽く笑みを返しながら、冊子を読み進めると、この街は『エンフィード地方』という王都に住んでいた私でも知っている地域に属するごくごく普通の街だった。一度も訪れたことはないが、織物やガラス工芸が有名な街だったはずだ。
そんな普通の光景が広がる街に、さらに自身に起きたことを疑問に思いながら、冊子をめくっているととある疑問が頭を掠めた。それはこの国の国王陛下の名前が記載された記事の欄。先月、モルドの名産品であるグラスを誕生日のお祝いとして領主が贈ったという内容のものだった。その名前が私の知っているモノと違った。確か、これは先代の――。
そこまで考えたところで嫌な予感に襲われ、この冊子が発行された日付を見てみると、そこに書かれていたのは翼賜歴1505年。約11年前の暦だった。
さっき門番が言っていた。これは一昨日更新されたばかりの最新号だ、と。いや、もしかしたら古いのが混ざってしまっていたのかもしれない……と考え、別の冊子の表紙と刊行日もチェックするが、変わらずの時間がそこには存在しているだけだった。
今自分がいるのは、11年前なんていう普通ならあり得ない絶望に支配されながらも、頭がこの事態の原因をなんとなく察していた。
きっとあの最後の瞬間。自身を呼んだあの愛おしい声は、幻聴などではなかったのだ。
彼の――アレンの能力は、『時空収縮』。それは時空間を操作し、停止させるというとんでもないものであり、実際、理論上では出力さえ上げられれば時間を遡る事も可能なのである。
私の立てた推論はこうだ。彼の能力を火事場のバカ力ならぬバカ能力――本当に阿呆みたいに発揮された能力によって、アレンの力を今迄にない程に強化し、私の身体だけが過去に戻った。
そう予測を立てるのは簡単なことだった。なにせこれはずっとアレンが職場である研究所には隠しながらも、研究していたことだったから。見つけたのは偶然ではあったが、その理論に関する研究書類を見たことがあったのだ。所狭しと書かれた理論の渦にその本気は一度目を通しただけでも痛いくらいに伝わって来た。熱心に自身の能力の研究に勤しんでいたのは、私が誰よりも知っている。
実際に体験してみて分かる。きっと彼は私に求め、縋った過去に戻りたかったのだ。人間誰しも、結局のところ代用品などでは我慢できない。似ているものと共に過ごせば過ごすほどに、類似点を見つける度に『本物』が欲しくなるのは人として当然の感情だろう。
しかしながらその渇望していたものに唯一成功したのが、一番研究の成功を望んでいた彼ではなく、彼に自分自身を見てももらえなかった存在であり、彼の感情の全てに絶望していた私であったなんてとんだ皮肉だった。
「はあ……これからどうしましょう」
この青天の霹靂とも言える予想外の出来事に頭を抱えた――。
水のあるところには基本、人間がいる。その考えで川に沿って歩みを進めていく。
そうして休み休み半日近く歩いていると、遠目に家々が立ち並ぶ――少し大きな街が見えて来た。
やっと人の住んでいそうな場所に辿り着き、テンションが一気に上がって一気に駆け出し、数分のうちに街まで到着した。
正直なところ、ここは人間がいない世界なのではないか?などと少し弱気になっていたこともある。なにせ森の中ということもあったのか、本当に人間の気配一つ感じなかったのだ。
しかしそんな不安などなかったかのように街に近づく度に濃くなる自分以外の人間の気配に、街に着く頃には顔に笑みすら浮かんでいた。なにせ私はまだ20歳で年若い。当然、心細さもあった。
街に着いて最初に思ったことは、『天国じゃなかった』である。
人を危険に晒す存在である魔物がいる時点で気づけ!と自分でも思いたいところではあるが、予想外の事態に遭い、冷静ではなかったのだ。
丁度、街に住んでいる人間向けの案内――『最新!これで完璧、モルドガイド』という謳い文句が書かれている――情報冊子が門近くの店先に置かれていた。門番が楽しそうに、「旅人さん、運がいい!それ、一昨日更新されたばかりの最新号です!モルド観光を楽しんで!」とニカッと微笑んだ。
それに軽く笑みを返しながら、冊子を読み進めると、この街は『エンフィード地方』という王都に住んでいた私でも知っている地域に属するごくごく普通の街だった。一度も訪れたことはないが、織物やガラス工芸が有名な街だったはずだ。
そんな普通の光景が広がる街に、さらに自身に起きたことを疑問に思いながら、冊子をめくっているととある疑問が頭を掠めた。それはこの国の国王陛下の名前が記載された記事の欄。先月、モルドの名産品であるグラスを誕生日のお祝いとして領主が贈ったという内容のものだった。その名前が私の知っているモノと違った。確か、これは先代の――。
そこまで考えたところで嫌な予感に襲われ、この冊子が発行された日付を見てみると、そこに書かれていたのは翼賜歴1505年。約11年前の暦だった。
さっき門番が言っていた。これは一昨日更新されたばかりの最新号だ、と。いや、もしかしたら古いのが混ざってしまっていたのかもしれない……と考え、別の冊子の表紙と刊行日もチェックするが、変わらずの時間がそこには存在しているだけだった。
今自分がいるのは、11年前なんていう普通ならあり得ない絶望に支配されながらも、頭がこの事態の原因をなんとなく察していた。
きっとあの最後の瞬間。自身を呼んだあの愛おしい声は、幻聴などではなかったのだ。
彼の――アレンの能力は、『時空収縮』。それは時空間を操作し、停止させるというとんでもないものであり、実際、理論上では出力さえ上げられれば時間を遡る事も可能なのである。
私の立てた推論はこうだ。彼の能力を火事場のバカ力ならぬバカ能力――本当に阿呆みたいに発揮された能力によって、アレンの力を今迄にない程に強化し、私の身体だけが過去に戻った。
そう予測を立てるのは簡単なことだった。なにせこれはずっとアレンが職場である研究所には隠しながらも、研究していたことだったから。見つけたのは偶然ではあったが、その理論に関する研究書類を見たことがあったのだ。所狭しと書かれた理論の渦にその本気は一度目を通しただけでも痛いくらいに伝わって来た。熱心に自身の能力の研究に勤しんでいたのは、私が誰よりも知っている。
実際に体験してみて分かる。きっと彼は私に求め、縋った過去に戻りたかったのだ。人間誰しも、結局のところ代用品などでは我慢できない。似ているものと共に過ごせば過ごすほどに、類似点を見つける度に『本物』が欲しくなるのは人として当然の感情だろう。
しかしながらその渇望していたものに唯一成功したのが、一番研究の成功を望んでいた彼ではなく、彼に自分自身を見てももらえなかった存在であり、彼の感情の全てに絶望していた私であったなんてとんだ皮肉だった。
「はあ……これからどうしましょう」
この青天の霹靂とも言える予想外の出来事に頭を抱えた――。
あなたにおすすめの小説
真実の愛の裏側
藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。
男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――?
※ 他サイトにも投稿しています。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました
Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。
「彼から恋文をもらっていますの」。
二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに?
真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。
そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。
※小説家になろう様にも投稿しています
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。