貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

皇 翼

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3.

あてもなく森の中を進んでいると、水の音を微かに聞き、川を見つけた。
水のあるところには基本、人間がいる。その考えで川に沿って歩みを進めていく。

そうして休み休み半日近く歩いていると、遠目に家々が立ち並ぶ――少し大きな街が見えて来た。
やっと人の住んでいそうな場所に辿り着き、テンションが一気に上がって一気に駆け出し、数分のうちに街まで到着した。
正直なところ、ここは人間がいない世界なのではないか?などと少し弱気になっていたこともある。なにせ森の中ということもあったのか、本当に人間の気配一つ感じなかったのだ。
しかしそんな不安などなかったかのように街に近づく度に濃くなる自分以外の人間の気配に、街に着く頃には顔に笑みすら浮かんでいた。なにせ私はまだ20歳で年若い。当然、心細さもあった。

街に着いて最初に思ったことは、『天国じゃなかった』である。
人を危険に晒す存在である魔物がいる時点で気づけ!と自分でも思いたいところではあるが、予想外の事態に遭い、冷静ではなかったのだ。
丁度、街に住んでいる人間向けの案内――『最新!これで完璧、モルドガイド』という謳い文句が書かれている――情報冊子が門近くの店先に置かれていた。門番が楽しそうに、「旅人さん、運がいい!それ、一昨日更新されたばかりの最新号です!モルド観光を楽しんで!」とニカッと微笑んだ。
それに軽く笑みを返しながら、冊子を読み進めると、この街は『エンフィード地方』という王都に住んでいた私でも知っている地域に属するごくごく普通の街だった。一度も訪れたことはないが、織物やガラス工芸が有名な街だったはずだ。

そんな普通の光景が広がる街に、さらに自身に起きたことを疑問に思いながら、冊子をめくっているととある疑問が頭を掠めた。それはこの国の国王陛下の名前が記載された記事の欄。先月、モルドの名産品であるグラスを誕生日のお祝いとして領主が贈ったという内容のものだった。その名前が私の知っているモノと違った。確か、これは先代の――。

そこまで考えたところで嫌な予感に襲われ、この冊子が発行された日付を見てみると、そこに書かれていたのは翼賜歴アクリプス1505年。約11年前の暦だった。
さっき門番が言っていた。これは一昨日更新されたばかりの最新号だ、と。いや、もしかしたら古いのが混ざってしまっていたのかもしれない……と考え、別の冊子の表紙と刊行日もチェックするが、変わらずの時間がそこには存在しているだけだった。

今自分がいるのは、11年前なんていう普通ならあり得ない絶望に支配されながらも、頭がこの事態の原因をなんとなく察していた。

きっとあの最後の瞬間。自身を呼んだあの愛おしい声は、幻聴などではなかったのだ。
彼の――アレンの能力は、『時空収縮』。それは時空間を操作し、停止させるというとんでもないものであり、実際、理論上では出力さえ上げられれば時間を遡る事も可能なのである。
私の立てた推論はこうだ。彼の能力を火事場のバカぢからならぬバカ能力――本当に阿呆みたいに発揮された能力によって、アレンの力を今迄にない程に強化し、私の身体だけが過去に戻った。

そう予測を立てるのは簡単なことだった。なにせこれはずっとアレンが職場である研究所には隠しながらも、研究していたことだったから。見つけたのは偶然ではあったが、その理論に関する研究書類を見たことがあったのだ。所狭しと書かれた理論の渦にその本気は一度目を通しただけでも痛いくらいに伝わって来た。熱心に自身の能力の研究に勤しんでいたのは、私が誰よりも知っている。

実際に体験してみて分かる。きっと彼は私に求め、縋った過去に戻りたかったのだ。人間誰しも、結局のところ代用品などでは我慢できない。似ているものと共に過ごせば過ごすほどに、類似点を見つける度に『本物』が欲しくなるのは人として当然の感情だろう。

しかしながらその渇望していたものに唯一成功したのが、一番研究の成功を望んでいた彼ではなく、彼に自分自身を見てももらえなかった存在であり、彼の感情の全てに絶望していた私であったなんてとんだ皮肉だった。

「はあ……これからどうしましょう」

この青天の霹靂とも言える予想外の出来事に頭を抱えた――。

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