貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

皇 翼

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4.

あれから。
何日か街で過ごして元の時代に戻れる――なんて甘いことなどなく、現在もこの『過去』に取り残されていた。
しかし、ずっと悲観してもいられないと考えなおすことにして、ショックを抱えながらも、生きるために既に金策の方法を得ることに成功していた。
元々無駄に生存本能が高いなんて言われることが多かったが、今一番それを私自身が自覚している。こんな追い詰められた状況でも必要なものを本能的に察し、きちんと手に入れていたからだ。

「おはようございます。頼まれていた素材をお届けに来ました」
「おはよう、ハンターさん!待っていたわ~」
「これが光妖精の鱗粉、それでこっちが赤色結晶の蝶。どちらも採れたてほやほやです」

金策の方法――それは、薬屋や鍛冶屋、特殊な材料を使用する高級志向のレストランと言った店に、希少な素材を提供することだった。
私はこれでも、『Sランク』と呼ばれる最高位の魔物も一人で討伐することが出来るほどに高い水準の能力、そして実力を持っていると自負している。それだけではなく、研究のフィールドワークで培った希少な植物・生物・鉱物の知識も豊富だという自覚がある。
それ故に簡単に希少な素材を手に入れることが出来た。
その後は、見る目が確かな人間に流浪のハンターだと言って最初は安い値段で、そして信用を得てからは通常の値段で取引してもらうということが出来た。
研究員として生きてきて、自身で研究の材料を入手しに行くこともそれなりの頻度であったため、何度かアレンの紹介で腕の良いハンター――珍しいモノを狩って、それを売っている人間――について行ったことがあったのだ。だから、彼らの語っていた実生活や仕事の話を真似れば、簡単にハンターの真似事が出来た。

過去で何かを狩って、利益を得ることで暮らしていく。
正直、そのことに抵抗がなかったわけではない。バタフライエフェクト……この時代の人と接する度にその言葉が浮かんでいたが、自身の生死と多少変わるか分からない未来の事象、どちらの方が重要かと考えれば、答えは分かりきっていた。

しかし、そんな束の間の平穏もとある人物の登場によって影が差す。

「君が噂のハンターさんですか!探しました」
「噂……?」
「この辺りで暴れていたワイバーン。それを狩って、翼膜と音袋を3日前にタシュトンさんの鍛冶屋に提供したのは君なのでしょう?」

歳は私と同じか上くらいに見える。20歳前後だろう。燃えるように赤い長髪を後ろで柔らかにまとめた、激しい髪の色とは真逆の顔立ちの優男風の美形。
背丈はアレンと同じくらいだろうか、しかし彼よりも多く筋肉がついており、近接戦もかなり得意であることが伺える。ひしひしと皮膚を刺すように伝わってくる魔力の威圧感からしても、この男が魔法の面でもかなり強いということは察することが出来た。いつでも魔道具を使えるように、少し前に手に入れた造氷の魔道具の先端に触れながら、観察を続ける。

『探した』などとは言っているが、この男は口元は笑顔を浮かべながらもサーシャに向ける瞳は鋭い。
最初は依頼者か?となどと思ったが、この男の魔力からしてその可能性は低いだろう。だったら同業者か?と考える。そうだったらそうだったとして厄介だ。わざわざ会いに来て終わりだなんてことはない。きっと良くて商売の協力を持ちかけてくる、悪くて妨害からの戦闘というところだろう。
あともう一つ。みかじめ料などといったものを要求してくるパターン。ここら辺を誰かが取り仕切ってるなどという話は聞いたことがないが、これだったとしてもどちらにしろ厄介だ。正直、そういう目で見てみれば見てみる程に疑わしい。

話しかけて一瞬で私が警戒したのをすぐに察したのだろう。周囲に魔力が張り巡らされる。観察して数秒経たない内に、彼にとって有利なフィールドが築かれてしまった。
ここは何かしら答えるしかない。

「ああ。そういう。提供したのは私ですが、それを狩ったのは私ではありません。戦闘の方は、協力者の方が担当しました」

こちらが不利にならない程度の情報を――そう、思考を巡らせ絞り出した解答。
取引の場面を見られたのだ。とりあえず提供者であることは認める。しかし、彼の目的であろう、ワイバーンを狩ったのは自分ではない、と嘘を吐いた。初対面のそれも信用できない相手に対しては正当な対処だろう。

「そうですか。それでは、その協力者の戦闘担当の人に会わせてくれませんか?」
「何故でしょうか」
「欲しいから、ですね」

背筋がゾワッとした。
先程よりも更に一段と鋭い、まるで獲物を見るような瞳だ。咄嗟にコレに捕まってはいけない――と私の中の勘が告げたソレに従い、嘘を重ねていく。

「……残念ですが、戦闘担当の方は今朝方、別の場所に旅立ちました」

当然、嘘だ。内心私自身が戦闘も全て行っているのに、口から出て来た『戦闘担当』って誰だと自分自身で自問自答したが、そんなことはどうでもいいとすぐに思考を振り払った。しかしながら男には、彼女を焦らせる程の『何か 』があるのだ

「何処にですか?何日くらいで帰ってくるなどはわかりますか?」
「さあ。知りません。協力者と言っても、所詮は他人なので私達はお互いそういう部分で縛り合っていないんですよ。明日かもしれないし、一週間後かもしれない。もしかしたら一生帰ってこないかもしれないですね」

私自身が答えておいて、全体的に無茶苦茶な答えだとは思ったが、実際男に危機感を感じており、一度隠すと決めてしまったこの苦しい嘘を今から訂正するなど更々する気がなかった。

「……連絡手段などは?」
「ありませんね。ここに居た時には利害の一致のみで動いていたので」
「そうですか。わかりました」
「分かっていただけましたか。それでは」

それだけ言って、会話は終わりとパタパタと手を振って、逆方向に歩き出す。
そう。別れた筈だった――。

「…………なんでついてくるんですか?」
「ん?君に張り付いていれば、その強い協力者とやらに会えるからですね。当然でしょう」
「いつ会えるかもわからないのに?もしかしたら一生帰ってこない可能性もあるのですよ?」
「ええ。それだけの対価を払うだけあるほどに、その人には価値がある。それに、君も中々面白そうだ」

この後どれだけ巻こうとしても結局、巻けなかった。厄介な男に目を付けられたものだ、と陰でそっと溜息を吐いた。

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