貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

皇 翼

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10.

怪我が完治した後。いつも通りイルハルトに付きまとわれながら、今日も売れそうな鉱石やら野草やらを探してきた帰り道。既にこの奇妙な関係性の同行者にも慣れていた頃。何気なく見上げた空を陰で覆う巨大な竜達の群れを見た。

「えっ――あの、魔物って!!?」
「サラマンダーの群れですね。あんなにこの時期にあんなに集まって移動しているなんて珍しい」
「ええ。今は産卵期。普通だったらメスを中心に卵を護って、巣にいるはずです。一体なぜ……?しかも街の方に向かっているような――」

そこまで声に出したところで、数日前にこの街のハンターを名乗る男が、サラマンダーの卵を手に入れた!と私にまるで自慢をするように言いに来ていたのを思い出した。
以前その男が売る物を見たことがあるが、基本的に粗悪品だったり、偽物だったりと、大したものではなかった故に今回の発言もどうせ嘘だろうと気にしていなかったが、もしそれが本物だったのなら?

咄嗟に自分のせいだ、と思った。私がこの街に来て、彼の仕事を奪ったからだ、と――。

「街に向かいます」
「え?何故ですか?そもそも君、戦闘要員じゃないですし、あの街の一部の人に素材を売っていただけなんですから、住人ってわけでもないです。ハッキリ言って、彼らが死のうと関係ないじゃないんじゃないですか??」
「放置したら寝覚めが悪いので。それに、原因である人間の話を聞かずに放置してしまったのは私です」
「あー、もしかして数日前に君に宣戦布告してきた男の事を気にしているのですか?こんな商売、基本的に実力のある人間が上に上がっていくっていうのは当然の摂理というもの。あの男に実力がなかっただけでしょう。見るからに学のない雑魚でしたし。君があの男の事で自分を責める必要はないと思いますが?」
「……意外と優しいんですね。でもそれでも、ですよ。私、少し前に決めたんです。これからは後悔のない選択をするって」

それだけをポツリと呟いて、イルハルトを置き去る。そう、アレンと決別したあの日。あの妙な看板に潰されそうになり、過去に飛ばされる直前。私はこれからは後悔のない人生を送ると決意していた。その決意は今も変わらない。

彼に見せたくないと思っていた私の魔法――少し前に購入した身体強化系の魔道具を身体の筋肉リミッターを外す目的で使う。これをすると後から身体に重い負荷がかかることを知っているが、今はそんなこと言っていられない。
サラマンダーの群れを追い越し、風の様な速さで街に戻ると同時に、感知系の魔道具で男の位置を特定する。

「サラマンダーの卵を出してください。至急です」
「ってめえ、いきなり人の家に入ってきて、なん――」
「口答えをしないでください。今、貴方が盗んだ卵のせいでサラマンダーの群れがこの街に向かっています。この意味、分かりますよね?」
「!?本当、なのか?」
「ここで嘘を吐く意味はありません。私は貴方の様なくだらない虚栄心も無駄に高いプライドもありませんから」
「……もう、アイツらの目的とする卵はない」
「は?そんなわけないでしょう?サラマンダー達は卵の臭いを追って――」
「っ知らなかったんだ、サラマンダーの卵の中身が高温地帯じゃないと、保存できないなんてこと」

男が私を部屋の奥に通し、見せた複数の巨大な卵は、ひとつ残らず生命の息吹を失い、本来であれば宝石のように美しい赤い光を放つ外殻はひび割れてその色も失っていた。

「知らないわけがないでしょう!?だってこの卵をサラマンダー達から奪ったのは貴方じゃない!あんな火山地帯にあるものなんだから、そこ以外で育成出来ないなんてこと、よっぽどの馬鹿じゃない限り分かりきっているわ!!?」
「違う!俺じゃないんだ、この卵を盗ってきたのは俺じゃない」
「は?どういうことですか?」
「俺は、とある男に依頼しただけなんだ。お前を見返してやりたくて、飛竜に挑んだ時のことだ――」

男曰く。私を見返してやりたくて、自分でもこの魔物を狩れるんだということを証明したくて、数日前に一人でワイバーンに挑んだそうだ。しかし、結果は惨敗。命からがら死にそうになりながらなんとか逃げ出してきた。
そして森の中で倒れ込む。そんな男を笑う声があった。
むかついた男はその声に怒り、じゃあお前は狩れるのか!?と喧嘩を売ったそうだ。ここでも馬鹿だと思ったが、狩れると一蹴され、さらに激昂した男は、相手を煽るように言ったそうだ。「じゃあ、サラマンダーの卵を取ってきて、俺に見せてみろ」と。自身が狩ろうとしていたものよりもより上位種の名称を出した。

サラマンダーの卵は基本的に火山地帯にある。火山地帯で、サラマンダーの雌が卵を産み、育てるのだ。そして雄は餌を取りに行く。だから一番楽な時に盗りに行ったとしても、雌は殺さなければならない。産卵後でかつ子供を護るために狂暴になっている雌のサラマンダーを――。
話を聞いていると、この男はサラマンダーという生き物が物凄く強く、その卵が国宝並に貴重な素材だという情報しか知らなかったらしい。

「その男は取って来たぜ。それで俺にニヤニヤしながら渡してきたんだ。あとは自由にしろ、と」
「……はあ。とんでもない事をやらかしてくれましたね」
「っ知らない、俺は関係ない!!お前、お前がこの街に来たことが悪いんだ!!!」
「…………」
「この街が滅びるのはお前のせいだ!!この悪魔!!不幸の塊が!!」
「――っ!!」

不幸の塊。その聞き覚えしかない言葉に身がすくむ。
何年経っても、この言葉は私の奥底を揺さぶる。身に染み付いたソレは、いくら実力や自信をつけても、消えることはなかった。

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