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12.
過去の幻影から目が醒めて、自身の手が赤く染まっていることに気が付く。
忘れかけていた呼び名と、あまりの勝手な言い分にかつての兄の姿が重なり、私は男を素手で殴り倒していたらしい。周囲には血が飛び散り、小さくて白い――男の歯であろう物体も地面に落ちていた。
既に男は虫の息だったので、一応この前イルハルトから怪我をした時のためにと押し付けられていた『自然治癒強化』の魔道具を強化して仮治療をしておく。これでも殺そうとは思っていなかったのだ。理不尽に責められると過去を思い出し、感情的になってしまう。私の悪い所だった。
呻き声を上げながらも、男の傷が段々と塞がっていく。命に別条がない――くらいまで回復したところで、丁度外へと繋がる扉が開いた。急に差し込んだ光に目を細めながらその方向を向くと、意外なことにイルハルトが立っていた。
「はあ、やっと追い付けました――って、なんですか、この惨状は」
「元凶を見つけたから、狩っておいただけです。手加減しましたし、一応生きてはいます」
「なるほど。この卵たちが今回の原因ですか。中身は……もう死んでますね。大した知識もないくせに手を出してこの状態とは。この人、本物のおバカさんですね」
私が特に多くを語ることをしなくても事情を全て察したらしいイルハルトは床に転がる男を鼻で笑って、軽く蹴り飛ばした。
「さて、逃げましょうか。サラマンダー達の群れは、もう街のかなり近くまで迫ってきています」
イルハルトが男を足蹴にするのに飽きたのか、立ちすくんでいた私に声を掛ける。そして私の肩に手を掛けようとしたところで、その手を振り払った。
「逃げたいなら貴方だけで勝手に逃げてください。私は逃げるつもりはありません。私、割とこの街が好きなので」
「は?」
「それに善い人間が目の前で死ぬのって、あまり好きではないんです」
逆を言うと、悪い人間や嫌いな人間が目の前で死ぬ分には一切手出しをしない。
それが過去からの経験で私が決めたことだった。むしろ『全てを救う』などと息巻いて、人にもそれを押し付けてくる偽善者は嫌いだ。自分が救いたいものだけ救う。それが私の信条。
「それにそこで転がってる、実力もないのに無駄吠えばかりのクズと同類になりたくないので」
「何を言って――」
「イルハルト。これ以上時間を無駄にしないために、教えてあげます。貴方が探していたハンターの正体はこの私です。ハンターの正体がわかってよかったですね。私は貴方のお仲間になるつもりはありません。ということでこれ以上、付きまとわないでください」
ブワリ、とずっと隠していたはずの魔力が自然と溢れ出す。これから子供を盗られたサラマンダーなんていう厄介極まりない化け物の相手をするのだ。これからかなりの荒業を踏むことを考えると、魔力を抑えているなんて場合ではない。
「……なるほど。君が纏っていた不思議な雰囲気の正体がわかりました。今漏れ出している魔力こそが君の本来のもの。騙されましたよ」
「それじゃあ、さっさと逃げてください。正直言って、邪魔です」
今回起こったこの事象に巻き込まれる必要のない、関係のない彼を追い払うためにそう言い放ち、背を向けて立ち去ろうとしたところで後ろから腕を強い力で掴まれる。
「っなにを――」
「一つ言っておきます。僕は君を逃がしに来ただけで、この街を見捨てるだなんて一言も言っていません。君の事が気にいっているから、確実に、優先的に逃がそうとしていただけです。流石に罪のない人間に死なれると、寝覚めが悪いですし」
「え?」
「分かっているかとは思いますが、僕は足手まといにはなりませんし、そもそも君一人でもギリギリあのサラマンダー達を追い払えるか、賭けの部分が大きいのでしょう?いくら君が強者だと言っても、何かを守りながらだなんて無理がある……僕も手伝いますよ」
事実だった。私が今現在所持している魔道具では、街全てを護り切りながらサラマンダー達全てを撃ち落とすというのは、組み合わせを考えてもかなり難しい。
現在所持しているモノ、ライター型の魔道具にレイピアに炎と光魔法を放出できるモノ、身体強化系のピアス型の魔道具に、農作用の穴を掘るというものだけだ。戦う時は、近距離戦ではレイピア、遠距離で街に被害が出ない範囲のものはライター型の魔道具という風に使い分けるつもりだった。しかしレイピアは戦闘用ということもあって、消費する魔力が大きく、ライターの魔道具に関しては街を護る目的なのであまり広範囲では使えない、結局のところ魔力が保つか否か賭けの部分があった。
思わず言葉に詰まる。そんな私を見て、イルハルトはニヤリと笑い、そして続けた。
「正直僕も一人では街の住人を逃がしきれる自信がなかったんです。自分で言うのもなんですが、二人強者がいるのであれば、避難ではなく戦闘で敵を全て沈黙させるという選択肢が取れる。いかがでしょうか」
「……分かりました。それならば、力を借ります」
彼はそもそも私を連れて逃げようとしていたし、何よりも関係がないことだからとそのまま逃げろと言ったのだ。しかしながら、協力してもらえるのであれば、確実に楽に処理できると断言できる。ここ数日一緒にいて、彼の実力に関しては既に私も認めていた。
だから正直、彼の申し出はありがたかったのだ。
忘れかけていた呼び名と、あまりの勝手な言い分にかつての兄の姿が重なり、私は男を素手で殴り倒していたらしい。周囲には血が飛び散り、小さくて白い――男の歯であろう物体も地面に落ちていた。
既に男は虫の息だったので、一応この前イルハルトから怪我をした時のためにと押し付けられていた『自然治癒強化』の魔道具を強化して仮治療をしておく。これでも殺そうとは思っていなかったのだ。理不尽に責められると過去を思い出し、感情的になってしまう。私の悪い所だった。
呻き声を上げながらも、男の傷が段々と塞がっていく。命に別条がない――くらいまで回復したところで、丁度外へと繋がる扉が開いた。急に差し込んだ光に目を細めながらその方向を向くと、意外なことにイルハルトが立っていた。
「はあ、やっと追い付けました――って、なんですか、この惨状は」
「元凶を見つけたから、狩っておいただけです。手加減しましたし、一応生きてはいます」
「なるほど。この卵たちが今回の原因ですか。中身は……もう死んでますね。大した知識もないくせに手を出してこの状態とは。この人、本物のおバカさんですね」
私が特に多くを語ることをしなくても事情を全て察したらしいイルハルトは床に転がる男を鼻で笑って、軽く蹴り飛ばした。
「さて、逃げましょうか。サラマンダー達の群れは、もう街のかなり近くまで迫ってきています」
イルハルトが男を足蹴にするのに飽きたのか、立ちすくんでいた私に声を掛ける。そして私の肩に手を掛けようとしたところで、その手を振り払った。
「逃げたいなら貴方だけで勝手に逃げてください。私は逃げるつもりはありません。私、割とこの街が好きなので」
「は?」
「それに善い人間が目の前で死ぬのって、あまり好きではないんです」
逆を言うと、悪い人間や嫌いな人間が目の前で死ぬ分には一切手出しをしない。
それが過去からの経験で私が決めたことだった。むしろ『全てを救う』などと息巻いて、人にもそれを押し付けてくる偽善者は嫌いだ。自分が救いたいものだけ救う。それが私の信条。
「それにそこで転がってる、実力もないのに無駄吠えばかりのクズと同類になりたくないので」
「何を言って――」
「イルハルト。これ以上時間を無駄にしないために、教えてあげます。貴方が探していたハンターの正体はこの私です。ハンターの正体がわかってよかったですね。私は貴方のお仲間になるつもりはありません。ということでこれ以上、付きまとわないでください」
ブワリ、とずっと隠していたはずの魔力が自然と溢れ出す。これから子供を盗られたサラマンダーなんていう厄介極まりない化け物の相手をするのだ。これからかなりの荒業を踏むことを考えると、魔力を抑えているなんて場合ではない。
「……なるほど。君が纏っていた不思議な雰囲気の正体がわかりました。今漏れ出している魔力こそが君の本来のもの。騙されましたよ」
「それじゃあ、さっさと逃げてください。正直言って、邪魔です」
今回起こったこの事象に巻き込まれる必要のない、関係のない彼を追い払うためにそう言い放ち、背を向けて立ち去ろうとしたところで後ろから腕を強い力で掴まれる。
「っなにを――」
「一つ言っておきます。僕は君を逃がしに来ただけで、この街を見捨てるだなんて一言も言っていません。君の事が気にいっているから、確実に、優先的に逃がそうとしていただけです。流石に罪のない人間に死なれると、寝覚めが悪いですし」
「え?」
「分かっているかとは思いますが、僕は足手まといにはなりませんし、そもそも君一人でもギリギリあのサラマンダー達を追い払えるか、賭けの部分が大きいのでしょう?いくら君が強者だと言っても、何かを守りながらだなんて無理がある……僕も手伝いますよ」
事実だった。私が今現在所持している魔道具では、街全てを護り切りながらサラマンダー達全てを撃ち落とすというのは、組み合わせを考えてもかなり難しい。
現在所持しているモノ、ライター型の魔道具にレイピアに炎と光魔法を放出できるモノ、身体強化系のピアス型の魔道具に、農作用の穴を掘るというものだけだ。戦う時は、近距離戦ではレイピア、遠距離で街に被害が出ない範囲のものはライター型の魔道具という風に使い分けるつもりだった。しかしレイピアは戦闘用ということもあって、消費する魔力が大きく、ライターの魔道具に関しては街を護る目的なのであまり広範囲では使えない、結局のところ魔力が保つか否か賭けの部分があった。
思わず言葉に詰まる。そんな私を見て、イルハルトはニヤリと笑い、そして続けた。
「正直僕も一人では街の住人を逃がしきれる自信がなかったんです。自分で言うのもなんですが、二人強者がいるのであれば、避難ではなく戦闘で敵を全て沈黙させるという選択肢が取れる。いかがでしょうか」
「……分かりました。それならば、力を借ります」
彼はそもそも私を連れて逃げようとしていたし、何よりも関係がないことだからとそのまま逃げろと言ったのだ。しかしながら、協力してもらえるのであれば、確実に楽に処理できると断言できる。ここ数日一緒にいて、彼の実力に関しては既に私も認めていた。
だから正直、彼の申し出はありがたかったのだ。
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